てのひらから伝わる言葉



 「あのな、快斗」
一瞬だけためらって、そう声をかけた。
 「ん、なぁに?」
 無邪気ともいえる声はすぐ返って来て、同時にいつも何かを面白がっているような瞳がひょいと目前に落ちて来て、その持ち主が立ち止まり隣にしゃがんだと知れた。
 子供と話をする時に大人がよくする、見慣れたどうって事ない風景。
 「お前、俺が工藤新一だって分かってんだろ?」
 流石におおっぴらには言えず、囁くように問いかけたというのに、快斗はあっさり「なんだそんなこと」と切り返した。
 「あったり前だろ、何言ってんの、今更?」
 「じゃあいい加減ヤメロ、そういう扱いは」
 「どういう扱いかな?」
 分かっててとぼけているのがバレバレのニヤニヤ笑いにとりあえず睨みつける事で対応するしかないのが悔しい。
 いくら人通りがないとはいえ、小学生が高校生を蹴り倒すのはいかにもマズイ気がする。ちなみに決行するならキック力増強シューズの目盛りは最大で不意をつくぐらいしないと軽く避けられて更に悔しい目に合いそうだが。
 「だから、ガキにするみたいに一々しゃがんで視線合わせたりすんなってんだよ。普通に喋ったって別にお前が威嚇してるなんて思わねーから」
 この小さな体で足りない部分に手を伸ばしてもらうことは不本意だと言っても始まらない。それは仕方のない事。子供でいる姿を疑われない為に、子供として扱われるのも仕方のない事。
 けれど、それと知っている快斗に必要以上に子供扱いされるのは気に入らない。しゃがんで視線を合わせたり、視線を合わせる為に抱き上げられたり。
 そう告げたら、ニヤニヤ笑いのまま抱き上げられてしまう。
 「コラッ、言ってるそばからっ」
 「それ間違いだよ、名探偵」
 「………何が」
 視線の高さを合わせて、快斗はゆっくり歩き出す。
 「別に子供扱いなんてしてない。ずっと同じヒトに話してるよ」
 コナンと新一の区別なく。
 「オマエと話してる。それにこれはコナン君の為じゃなくオレの為だもん」
  コレ、というのは要するに今の状態を示すものだろうか、と瞳で問うと、そうそう、と2度ばかり頷きで返された。
 
 多分今、間抜けな顔をしているだろう。
 「オレが目ェ見て話したいから、オマエの横にしゃがむの。近くで声聞きたいから抱き上げるだけ」
 「じゃ、じゃあ手繋ぐのは何だよ」
 こんな風?と、快斗にひょいとおろされて、片手を取られる。いつものくすくす笑いでウインク1つ。
 「だって今くらいだろ? どこでだって手繋いで歩けるの。オマエ新一サイズに戻ったら絶対手繋いでくれなさそーだもん」
 「あたりめーだバカ」
 情けなさ気に訴える快斗にすかさず突っ込みを入れて。それでもこの手を振りきって走らない。
 そういう事か、と思う。
 子供扱いでもなくコナン扱いでもない。
 快斗はとても簡単に新一として扱って、そうして自分でも時折信じるのが難しい事を、あっさりと認めてしまう。
 自分が誰かってこと。
 工藤新一に、元の姿に戻るってこと。
 言い聞かせても言い聞かせても、独りじゃきっと信じられなくなってた。
 快斗の明るい笑顔、繋いだ手から伝わる暖かさが、こんなにもあっさりと肯定してくれる。
 「なぁ」
 「うん?」
 伝える言葉に迷って、えーっとえーっとと唸っていると、快斗のニヤニヤ笑いがくすくす笑いに発展し、最後には笑いのツボにはまったか、ゲラゲラ笑い出した。痺れを切らした探偵に手を振り解かれそうになって、どうにか笑いを収める。
 「はいゴメンゴメン、で、何?」
 「……………………………………」
 「?」
 「夕飯は?」
 迷って迷って、結局口から出たのはそんな単語。快斗はというと、ちらっと視線を寄越して「そうだねぇ」とか呟いて。
 「今夜はスキヤキって気分かな〜」
 「………二人で…?」
 「あ、じゃあ平次呼んじゃえ」
 「いくら服部でもすき焼きの為に大阪から飛んでは来なねーだろ」
 「いや、絶対平次、鍋奉行タイプだって。かけるだけでもかけてみれば? 来れなくってもすっごく悔しがる平次面白いし♪」
 「うわ、悪党〜」
 「そりゃ怪盗ですから」
 ためらった言葉もいつか伝わるように。
 繋いだてのひらを、そっと握り直した。

・END・

◆2/4の奇蹟掲載・快(K)×新(コ)◆


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