信じることだけ ...2
「…室井さん…。浮気…してんの…?」
長い沈黙の後、青島がようやく声を出した。
その瞳は複雑に揺れていて、室井には青島が何を考えているのかつかめなかった。
…自分の浮気を悲しんでいるのか、非難しているのか。
…それとも、別れる口実ができたと喜んでいるのか…。
「…私は、していない」
とにもかくにも、いらぬ誤解は解いておかねばならない。
室井はそう思って、はっきりと否定した。
まっすぐに、強い意志をたたえた目で青島を見る。
青島はその室井の瞳を見て、ようやく一息ついた。
彼は、室井の目が嘘をつけないことをよく知っていたので。
「…あ、よかった…」
ほっとした顔で、にっこりと青島が微笑む。
どこまでも室井を信じているような笑顔。
同時に室井を安心させてくれる笑顔。
(どうしてそんなに綺麗に笑えるんだ?)
心にやましいところは無いのか、お前は。
しかもなんでそんなにあっさりと信じるんだ、お前は。
自分の目が正直なことを知らない室井は少しむかっとして、ついに青島に訊くことにした。
「浮気してるのは、お前じゃないのか?」
今度は青島が目を見開く。
その反応にどのような意味があるのか読めなくて、室井は焦った。
「今日、新城に、お前が湾岸署の恩田くんと新宿にいたことを聞いた」
さらに青島が目を開く。
「新城は、デートだったと言っていたが?…青島お前、恩田くんと」
室井が続けて言おうとすると、青島が声を大きくしてそれをさえぎった。
「ちがいますよ!!」
顔に少し笑みさえ浮かべて、青島は弁解を始めた。
「あれはね、お店を教えてもらいに行ってたんです」
「店?」
「ええ、…この前、室井さんのお誕生日、ちゃんとお祝いできなかったでしょう?
だからせめて、ってことで、いいお店ないかなって、すみれさんに訊いたんですよ。
そしたら、教えるからおごれって言われて、連れて行かれたんです」
「…私の誕生日とどう繋がっているんだ?」
室井には、どうにも話が見えてこない。
なぜ誕生日に祝えなかったからといっていいお店を探すのかが分からないのだ。
すると青島が、少し照れたように頬を指でかきながら、
「誕生日祝いの変わりに、、室井さんと、食べに行こうと思って」
と言った。
「祝えなかったことなど、私は気にしていないぞ」
「俺が気にしてるんですよ」
…そうか、としか室井は言いようが無かった。
「室井さんも俺も、この時期なんか、特に忙しいでしょ?でも食べに行きたいから、
夜中までやってるとこ探してて。すみれさんが、新宿に、夜中までやってるいいお店
あるって教えてくれて」
それから青島はくすりと笑う。
「そういえば、新城さんに会ったなぁ」
とてもおもしろそうに、目を細める。
「真下と一緒でしたよ。あっちのがデートですね、俺が思うに」
すみれさんが頭かかえてたし、と声をあげて青島は笑った。
「誤解、解けました?」
青島が、横に座った室井の髪を優しく梳きながら尋ねる。
「一応な」
と、青島と目をあわさずに言う室井。
青島は、そんな室井をやわらかく見つめて。
「信じるのって、すごく難しいですよね。信じてる信じてるって言葉でいくら言ったって、
結局本当に信じてるのかどうかなんて、本人にしか分からないんだし…」
「…ああ、そうだな」
「相手になることなんか出来ない以上、相手の言葉や行動を信じるしか、相手を信じる
方法はないと思います」
「…」
「俺は、浮気なんかしてないしこれからもしないし。…信じてくれる?」
「…ああ」
「何があってもずっと室井さんのこと好きでいる。…信じてくれる?」
「ああ」
間をおかずに室井が答えてくれたので、青島は照れたように笑った。
「私も君のことが好きだ」
ちらっと上目遣いに青島のことを見ながら室井は言った。
すぐに目を、伏せて。
「多分ずっと好きだ」
「ええ、信じてます」
横から室井の顔を覗き込むようにしながら青島も即答する。
言われずとも信じている。
誰を信じなくてもあなただけは信じている。
その思いが伝わるように、即答する。
「…そうか」
俯いているけれど、室井が少しほほえむのが、青島には分かった気がした。
青島は急に室井が可愛くなって、ふふふ、と笑いながら彼の頭を撫でた。
「なんだ?」
笑われた室井が顔をあげる。いぶかしげに、眉を寄せて。
「室井さん、俺が浮気してると思って不安になっちゃったんですね〜〜」
「!!」
目尻をこれ以上ないぐらい下げて、青島が言う。
「かわいいなぁ、もう〜〜」
「!!!!」
ゴン!
「ったぁっっ!!」
室井に叩かれて、青島は悲鳴を上げた。
「何すんですか!」
「かわいくなんかないっっ!!」
顔を真っ赤にして怒る室井は可愛い以外の何でもないように思えたけれど。
「ハイハイ、可愛くないですよ、カッコイイっすよ」
「嘘だ、思ってないだろう!?」
「やだな〜、思ってますよ。ヨッ、男の鏡!」
「嘘だ!!」
「ほんとですって」
「嘘だ」
「信じてくれないんすか?」
青島が悲しげに眉を寄せると。
室井にはもうなすすべがなく。
黙ってしまった室井の頭をよしよしと撫でて、青島は室井に顔を近づけていった。
そうして、室井も肩の力を抜いて…………。
* * * * * * * *
後日。
警視庁で室井は新城とばったり会った。
気まずそうにする新城に対し、室井は少し余裕げだ。
新城「この間はすいませんでしたね」
室井「ああ、あれか。いいんだ、分かったから」
新城「よりによってあなたに八つ当たりするなんて」
室井「…真下くんと喧嘩してたんだってな」
新城「!?」
室井「青島が言っていた。『真下が、新城さんと喧嘩したらしくて、機嫌悪いん
ですよね』」
新城「…あんの…!!」
室井「新城、痴話げんかか?」
新城「!!!」
室井「仲直りしろよ」
すたすたと歩いてゆく室井を、新城は悔しげに睨んだのだった。
終わり。
…。なんか新城さんにかき回されただけ…?
新城さんもしかして悪者…??
でも二人の仲深まったし(多分)、よし!!!(自己完結)
…い、以上、200ヒットリクでしたっ!!!(赤面しつつ走り去る)