まきづめ。〜その後〜
いつの間にやら親指が巻爪になっていたらしい。
しかもすみれさんによると結構深くなっちゃってるらしく、わざわざマキロンで
消毒した上に仰々しくもバンソウコウを巻いて帰ることになってしまった。
30にもなって、ちょっとマヌケだ。
情けない気持ちでうちに帰る。
今日は誕生日だっていうのに、室井さんは忙しいって言って遊びに来てくれる気配
無いし、誕生パーティーしようと言ってくれたすみれさんにおごらされそうになるし。
…なんか、散々だなぁ。
なんとなくむなしくなって、俺は深く溜息をついた。
部屋の電気をつけながら
「よーし、じゃ、クリスマスはきっと室井さんと二人でどこかに」
「あいにくクリスマスは仕事が入っている」
「うわおう!!!???」
ひとり言に返ってきた返事に、思わず手までつけて驚いてしまった。
部屋の中央にあるソファに、室井さんが部屋着で座ってウォークマンを聴いていた。
な、なんでここに!?
「なにしてるんですか!?こんなとこで」
「お前の帰りを待っていたんだが。迷惑だったか?」
「いえいえいえ、そんなことは!!…え、なんで部屋の電気つけなかったんです?」
「つけちゃったら、外から明かりが見えるじゃないか」
「そうですけど」
「そんなのおもしろくないだろう?」
にやりと上目遣いでいたずらぽく笑う室井さん。
……。
あ、あぶない。今ちょっと理性飛びそうになった…。
「…俺の、帰りを待っててくれたんですか」
「ああ。今日は、お前の誕生日だったろう」
なんで知ってるのかと思ったけれど、よく考えるとこの前家に行った時に、室井さんの
カレンダーに大きく赤い丸をつけたんだった。12月13日、青島誕生。って書いて。
あんまり驚いて嬉しくて俺が硬直していると、室井さんがピクリと片眉を動かした。
「青島、その手、どうした」
「へ?手??」
言われて手を見ると、右の親指にバンソウコウ。
ああ、あまりの嬉しさに痛みを忘れてたよ、今。
「ああ、これ、巻爪になっちゃって。すみれさんに消毒してもらったんです」
「見せてみろ」
妙に顔がきびしくなった室井さんに、俺は首をひねりつつも右手を差し出した。
「ああ、こんなにきつくバンソウコウを巻いちゃいけない」
言いながらバンソウコウをはがされる。あ、せっかく俺が巻いたのに…。
「何か、コットンのようなものあるか」
「…あ、ありますよ」
薬箱を持ってきて室井さんの前に置いた。
室井さんは薬箱からコットンやピンセットやはさみを取り出して、なにやら作業を
し始めた。
「俺も昔巻爪になったことがあるんだ。だから簡単な治療はできる」
「へぇ。手ですか?」
「いや、足の親指をな。しかも両足」
「うわ、イタ!いつです、それ」
「高知南署で、地域課にいた頃だな」
「ありゃ〜、それじゃあ、足が痛いのはキツかったでしょう」
「そりゃあな。でもそれなりに楽しかったから、無理してでも仕事してた」
「…あんたらしいよ」
そんな話をしているうちに、室井さんの作業が終わったらしく、また俺の右手を
掴まれた。
「何すんの?」
「切ったコットンを爪と皮膚の間にはさむ。そうすると、悪化しないし、そのうちに
治るんだ」
「えっ、そんな、それぐらいできるよ俺、俺やりますよ」
あわてて身を乗り出した俺を、室井さんは見事に目だけで制して。
「いい。座ってろ。今日は、誕生日だろう」
問答無用だ。
ハイ、とだけおとなしく答えて、そのまま俺は座っていた。
コットンを詰める作業をしている室井さんの顔がすぐ近くにあって、しかも伏せ目で、
前髪がちょっと顔に落ちてる感じが妙に色っぽくて。
(うわ、ヤバ…)
理性を保つ自信がなくなってきたぞ。
他人の指だからやりにくいのだろう、ちょっと頑張ってる室井さんがめちゃくちゃ
可愛かった。
「ほら、もういいぞ。しばらくはコットン詰めとけよ」
誇らしげな顔で薬箱を片付けている。
「…まさかと思うけど、今ので誕生日プレゼント終わりじゃないですよね…?」
俺の言葉に、室井さんはぐるぅりと顔を回して。
「…ダメ、か?」
「ダメです!!!」
「じゃ、俺がここで待ってたのとあわせて」
「そんなバカな!!」
もう俺は半泣き半笑い状態。
プレゼント無いのか!?と思うと悲しいんだけど、それが変に室井さんぽくて笑えた。
「え、本当に、プレゼントないんですか」
ちょっとマジ顔になって訊く。
室井さんも、ちょっとマジ顔になって答えた。
「本当は、きりたんぽを作ろうと思ってたんだ。冬だからな。でも、…その、材料買うのを
忘れてて」
そして俺から視線を外す。
「プレゼントを買いにいける余裕も無くてな。大体、何を買うかなんか決まってなかったし」
「それで、せめて俺に会おうと?」
「…驚かそうと」
「……」
あんたらしいような、あんたらしくないような行動だな、それ。
「それで?」
と先を促すと、室井さんはますます俺から視線を外して俯いていく。
「さっきまでずっと、どうしようか悩んだんだけどな」
心なしか、彼の耳が赤くなっていくような。
でも俺には、室井さんの言おうとしてることが全然見えない。
「…よくある話で悪いんだが…。俺からのプレゼント…」
そして、消え入りそうな声で。
「今夜、俺を好きにして、いいから…」
…。
どかん。
理性壊れました。修復不可能です。ピーピー。
その夜、室井さんが泣こうがわめこうが気絶しようがおかまいなしにやりたいように
したのは言うまでも無い。
…次の日怒られたけどね。
間に合ったか!!??
12月13日、青島お誕生日小説でした!!
なんとしてでも13日中にUPしてやる―――!!!うおおおっっ!!
(しかし13日はあと10分だ!)