夜が始まる。あらゆる熱を篭めた享楽の宴が。
ナイト・リリー。
華やかな容装は誰もが圧倒され、同時に内の箍を外し独特の熱に溶け込む。
そこに訪れる者達は、館の過ぎる程明るい雰囲気に呑まれて共鳴し、
熱の一部と化して夜を明かす
煌びやかな宝石を纏う上流階級の貴族。
煤に塗れた下層の労働夫
円やかに形作られた女性。
人生最後の楽しみと通う老人紳士。年端も行かぬ内から働く子供たち・・・
ここに、身分などは存在しない。老若男女お構いナシだ。
左右するのは持ちうる熱と交わされる金銭のみ。
ここは客の自由を掲げる場所――
冷えた月光を受ける、美しく華やかで、影が蠢く街を眺めていた目を離し、宣言する。
彼という流れは、静かに新たなるターゲットへと始動した。
「・・・行こうか」
ニヤリ、と笑う。彼は眼下の街を一瞥し、身を翻す彼の目には獣の輝きがあった。
執着。
憎悪。
策謀。
欲望。
独占欲。
溺れた者の中には、そんな感情が錯綜し、どす黒く蠢いていた。
「これは、命令なんですよ」
激しく醜く、負の感情を燃やす男は暴発する。
――彼等の話は。
小さな、ほんの小さなハプニングから始まる。
静まり返ったホール。集中する視線の先に倒れている、元凶の男。
「・・・君が歌うかい?」
悪戯っぽい目をした紳士が楽し気に聞く。
「失神する客が出るぜ?」
夜に生きる彼は艶やかに微笑む。
その彼に紳士は
「いいや」
――ニヤリ、と自信満々で笑った。
「陶酔するんだよ」
「 」
彼の登場に反応するように、楽隊が静かな伴奏を奏でる。
その音と甘く絡み合うように、彼の声がホールに流れる。
甘く、溶かすような旋律。夜の客達は、甘美な声に酔いしれた――
ナイト・リリー。
ここは、彼等の始まりの場所。
Brambly Hedge
―茨の境界―
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