第四十一回 さてチョウヒはカンウが水攻めをしたとみると軍勢を率いて下流に討って出て ソウジンの退路に立ちふさがった。そこでキョチョに出会い打ってかかった。し かし、キョチョは戦意なく囲みを切り開いて落ち延びた。チョウヒはリュウビ達 と合流し樊城に向かった。 ソウジンは新野に入り敗戦をソウソウに報告した。ソウソウは大いに怒って三 軍に下知して樊城に向かった。この時、リュウヨウがジョショを使者にしてリュ ウビに降伏を勧めるように言った。 ジョショは樊城に至るとリュウビとショカツリョウに迎えられた。ジョショは 「それがしが降伏の使者となったのは民心を買おうとするソウソウの策でござる。 彼の軍は寄せかかろうとしておりますが、この城では守りきれぬゆえ早々に計を 立てるがよろしかろう。」 リュウビはジョショを引き止めようとしたが、彼は 「戻らねば世の笑い者になります。たとえこの身がソウソウのもとにあっても策 は誓って立てませぬ。殿には臥竜がおりますれば案ずるに及びません。」 と言って立ち帰った。 ソウソウはジョショからリュウビに降伏の意志がないことを聞くと怒って即日 出兵した。一方、リュウビはショカツリョウの案で襄陽を取ろうとした。しかし、 襄陽のリュウソウはリュウビを恐れて門を閉ざしたままにしてしまう。しかも、 サイボウ、チョウインに攻撃され城外の領民は泣き叫ぶばかりであった。その時 一人の大将が 「サイボウ、チョウインは国を売る賊だ。仁徳のお方劉使君は今領民を救ってこ こに参られたのになにゆえ追い返そうとするか。」 と大喝した。一同見やればギエンである。そこにブンペイが現れ 「おのれ雑兵の分際で大それた事を。」 と大喝してギエンと打ち合った。 リュウビは 「領民を助けようとして苦しめることになった。」 と言って入城を諦め江陵に向かった。ギエンはリュウビの姿が見えないので長沙 太守カンゲンを頼って落ち延びた。 一方入城したソウソウは 「青州は都に近く朝廷におすすめしようと思う。それに、このような所におって は危ないからのう。」 と言って辞退するリュウソウを強引に青州太守に任じた。 リュウソウがやむなく蔡夫人とともに青州に赴いた。しかし、ソウソウの命で ウキンに途中で一行を殺された。 リュウビは領民を率いて江陵に向かい、チョウウンが家族を守り、チョウヒが 後詰めに当たった。そしてカンウは江夏のリュウキに加勢と船を求めに行った。 襄陽を手に入れたソウソウは軍勢を率いてついにリュウビに追いついた。大軍 にリュウビはただ敗走するのみだった。そこにチョウヒが駆けつけ血路を開いて リュウビを逃がした。そこにブンペイが立ちふさがるが、リュウビに 「主に背を向けた下郎。恥を知れ。」 と罵られ真っ赤になって立ち退いた。 チョウウンは乱戦の中に守っていたリュウビの家族を見失ってしまう。探しに 行った所をビホウに敵に寝返ったと誤報されてしまうが、リュウビはそれを信じ ずに帰りを待った。チョウウンは途中カンヨウに出会い家族を捜しに行く事を伝 えた。そして馬を走らせると甘夫人に出会った。そこにソウジン配下の部将ジュ ンウドウがビジクを捕らえて戻る所を見つけた。チョウウンは一突きでジュンウ ドウを倒してビジクを助け二人で甘夫人を送った。 長坂坡まで戻るとチョウヒが、チョウウンが裏切ったと思い待ちかまえていた。 誤解を解いてチョウウンは再び糜夫人を探しに敵陣に向かった。途中、行く手に 立ちふさがったカコウオンを一撃で刺し殺し青スの剣を奪った。ようやく糜夫人 と阿斗を見つけ連れ戻ろうとするが、糜夫人は左足に重傷を負っており共に戻る ことを拒んで 「この子を頼みます。」 と言って井戸に身を投げた。チョウウンは土塀で井戸をふさいで単騎で阿斗を抱 えてリュウビのもとに向かった。途中ソウコウの部将アンメイを討ち取り敵陣を けちらした。そしてチョウコウと十合いほど打ち合うが面倒になり馬を返してリ ュウビのもとに急いだ。そこに後ろからバエン、チョウガイが、前からはショウ ショク、チョウナンが立ちふさがった。しかし鬼神の如く進むチョウウンはこれ を突破した。 これを見ていたソウソウは生け捕りにせよと命じ全軍に矢を使うなと命じた。 これによってチョウウンは窮地を脱したがソウソウの名のある部将50人余りを 討ち取った。さらに先を急ぐと、カコウトンの部将で大斧の使い手ショウシンと その弟で画戟の使い手ショウシンが立ちふさがった。 さて、チョウウンはこの窮地をいかに脱するか。それは次回で。
第四十二回 チョウウンは大斧を振るうショウシンを槍で突き倒し、画戟をかわして弟のシ ョウシンを青スの剣で真っ二つに斬った。 長坂坡まで戻るとチョウヒが橋の上に馬を止めており、大声で 「助けてくれ。」 と言って駆け抜けた。そして、リュウビに糜夫人の最後を告げ罪を詫びて泣いた。 リュウビはチョウウンの胸当ての中で心地よく眠っている阿斗を地面にたたきつ けて 「お前のせいで大将を一人失うところであった。」 と言った。チョウウンはこの言葉に改めて忠誠を誓った。長坂坡に仁王立ちをし ているチョウヒの殺気のすごさとショカツリョウの策を恐れて魏の大将達は動け なかった。そこにチョウヒは 「戦うのか逃げるのかはっきりしろ。」 と声を張り上げるとカコウケツが肝を潰して落馬し、ソウソウも馬を返して逃げ 出した。チョウヒは後を追わずに橋を落としてリュウビのもとに戻った。しかし、 橋を落としたため伏兵のないことを知ったソウソウ軍が追撃を始め、漢津のあた りで追いつくがそこにカンウがリュウキと共に駆けつけた。ソウソウはカンウの 顔を見ると大軍を退くように下知した。 リュウビは夏口をカンウに守らせて江夏へ向かった。 ソウソウはリュウビに先回りされるのではと江陵に兵を進めると、江陵を治め るトウギとリュウセンは降伏した。さらにジュンユウの策で呉と協力してリュウ ビを倒そうという話を持ちかけた。 一方呉ではロシュクがリュウビと協力して魏を破る事を進言し、リュウヒョウ の弔問を名目にリュウビに協力を申し出た。ショカツリョウはロシュクと同行し てソンケンのいる柴桑郡に向かった。 さてどのような結果をもたらすか。それは次回で。
第四十三回 ショカツリョウはロシュクから 「魏に降伏をするよう勧める者がいるので魏の強い事は口にしないように。」 と言われた。 そして、ショカツリョウは、降伏派のチョウショウ、グホン、ホシツ、セッソ ウ、リクセキ、ゲンシュン、テイヘイを次々と論破した。そして、チョウオンと ラクトウがさらに難題を持ちかけようとしたときコウガイにさえぎられた。 コウガイは 「せっかくの話、我が殿にご言上されよ。」 と言って、ソンケンのもとに案内した。ショカツリョウはソンケンを 「魏は兵が多くても寄せ集めの軍。水上戦ともなれば呉が有利でございましょう。」 と説得し開戦を勧めた。ソンケンも開戦の方向に意志が固まりかけていた。ショ カツリョウが客舎に戻ると、チョウショウが 「殿、リュウビは魏に破れたため、呉の兵を借りて戦おうとしているにすぎませ ぬ。」 と降伏を勧めた。 ソンケンは居室に戻り開戦か降伏どちらか決めかねていた。そこへ呉夫人の一 言、 「姉上が臨終の際におっしゃった事をお忘れですか。」 これにソンケンははっとした。 さて、この言葉とは。それは次回で。
第四十四回 呉夫人はソンケンの決断に迷いがあるのを見て、 「決めがたい国内の事はチョウショウに国外のことはシュウユに聞く事が良い。 と兄上が臨終の際に残したではありませぬか。」 ソンケンは大いに喜んでシュウユを呼び寄せた。シュウユは開戦派、降伏派の 両意見を聞き冷たい笑みを浮かべていた。 夜にロシュクがショカツリョウを連れてシュウユを訪れた。そこでショカツリ ョウは、 「ソウソウは二喬、亡きソンサクの妻大喬とシュウユの妻小喬が欲しいのだ。彼 女たちをくれてやればソウソウは満足しましょう。」 と言ってシュウユを激怒させ開戦の決意をさせた。 翌日、ソンケンに開戦の決意を伝えた。ソンケンは机の一角を剣で切り落とし、 「降伏を言う者があればこの机同然じゃ。」 と言い、その剣をシュウユに授けて大都督に封じ、テイフを副都督、ロシュクを 賛軍校尉に封じた。 しかしシュウユはショカツリョウが恐るべき存在であると考え、ロシュクを呼 んでショカツリョウを殺そうとの相談した。するとロシュクは 「魏を破らぬうちは我が身を傷つけるようなものでござろう。」 「だが、リュウビの片腕ともなれば江東の禍の種になるは必定じゃぞ。」 「しからば兄のショカツキンに我が国に仕えるように説得させればよろしかろう。」 シュウユもこれに同意した。 シュウユに説得を任されたショカツキンはショカツリョウのいる客舎を訪ねた。 二人は涙ながらに挨拶をして語り合った。そして、ショカツキンは、 「主人が異なるゆえ兄弟が思うように会えぬ。これでは兄弟が死ぬまで離れなか った古の賢者伯夷、叔斉に恥ずかしいとは思わぬか。」 と説得すると、ショカツリョウはシュウユの差し金だなと思い、 「兄者、それは人の情でございましょう。私が守っているのは義でございます。 私のお仕えするのは漢皇室のご一門にございますれば兄者の方がこちらで皇叔に お仕えいたせば漢の臣として恥ずることなく兄弟ともども暮らせます。」 と逆に言いくるめた。 ショカツキンが失敗して帰るとシュウユは、まだまだ策があると言う。 さてシュウユはどのような手を打つか。それは次回で。
第四十五回 さてシュウユはショカツキンの言葉を聞いてショカツリョウを憎み、生かして はおけぬと決意した。 魏軍の糧道をショカツリョウに襲わせることで敵に殺させようとしたが、逆に ショカツリョウは 「得意と言えば水の上の戦いしかないシュウユ殿とは違い、いずれの戦も意のま まである。」 と言った。怒ったシュウユは 「わしが1万の軍勢で糧道を絶ってみせる。」 と言った。 ロシュクは 「魏を破ってから彼の事は考えた方がよいではござらぬか。」 と言い、シュウユもこれに同意した。 さてリュウビはリュウキに江夏の守備を命じて夏口に移ろうとしたが、東呉が すでに出陣したのを知って樊口に陣を構えた。ビジクはショカツリョウの安否を 気にして東呉に向かった。シュウユは 「魏を破るには今彼は必要な人材故、手放せぬ。それよりリュウビ殿にお越し頂 き軍略を練りたいと思っております。」 と言ってビジクにリュウビを誘い出させた。 ロシュクはリュウビ暗殺を諌めたがシュウユは聞き入れずひそかに号令を出し た。ビジクの言葉を聞いてリュウビはカンウを連れてシュウユのもとに向かった。 シュウユは酒宴を開きもてなしたが、頃合いを見計らって盃を投げて合図を出そ うとした。しかし、カンウを見て慌てて名を聞いた。リュウビが答えて、 「弟のカンウでござる。」 「あの、ブンシュウ、ガンリョウを斬ったとかいう。」 と驚くと、冷や汗をたらして盃をカンウに与えた。 さて、シュウユがリュウビを送り出して本陣に戻ったところにロシュクが来て 何故暗殺しなかったのかを聞いた。カンウがいて果たせなかった事を言うとロシ ュクは愕然とした。そこにソウソウからの使者が来て書面を渡した。書面には、 「漢の大丞相より周都督へ致す」 とあった。怒ったシュウユは使者を斬って、カンネイを先鋒、カントウを左翼、 ショウキンを右翼に命じて自ら諸将を率いて出陣した。 ソウソウも使者が斬られて大いに怒ってサイボウ、チョウインらの荊州で降伏 した大将に先鋒を命じて自ら後詰めの大軍を率いて三江口に殺到した。ソウソウ の軍勢は水上戦にはなれていないため三江口ではシュウユが大勝した。 ソウソウはシュウユと親交のあったショウカンに呉の様子を探らせた。シュウ ユは久々の再会にショウカンをもてなした。そして、すっかり酔ってしまった振 りをしてショウカンにサイボウとチョウインの内通の手紙を見せた。それに驚い たショウカンは戻ってソウソウに伝えた。ソウソウは怒ってサイボウ、チョウイ ンを処刑した。後でシュウユの策略であった事に気付いたにだが、誤りを認めず 「あの者は軍律を乱したので斬って棄てたのじゃ。」 と言ってモウカイとウキンを水軍大都督に命じた。これを知ったシュウユは大い に喜んで 「皆の者はわしの計略には気付かなかったであろうが、ショカツリョウだけはわ しの上じゃ。おそらく彼の目は欺けまい。」 と言った。そして、ロシュクにショカツリョウの探りを入れさせた。 さてロシュクがショカツリョウを訪ねてどうなるか。それは次回で。
第四十六回 さてロシュクはシュウユに言われてショカツリョウの様子を探りに舟を訪ねた。 するとショカツリョウは、 「ショウカンを手玉に取った計略とモウカイとウキンが新たな水軍都督となった ことで江東ももはや磐石。お祝いいたそう。」 ロシュクはそれを聞いて開いた口がふさがらなかった。それを聞いたシュウユ は仰天して、ショカツリョウ抹殺を計画した。ロシュクは諌めたが、 「理由もなしに斬ったりはせぬ。殺されても文句の言えないようにしてやる。」 と言った。 翌日、シュウユはショカツリョウに10万本の矢を十日で集めて欲しいと軍議 の場で言った。ショカツリョウは、 「魏がいつ攻め入って来るやもしれませぬ。十日もかかっては物の役に立ちます まい。3日で集めましょう。」 と言った。シュウユは大いに喜んで書付を取らせて酒を出してもてなした。 ショカツリョウは、後でロシュクに足の速い舟を20隻借り、それぞれに兵を 30人ばかり乗せ藁束を積んだ。そして20隻の舟を綱でつなぎ合わせて北岸に 向けて漕ぎだした。 舟を見つけたソウソウは、伏兵を警戒して岸辺から舟を弓矢で雨のように射た。 そして、陸陣からも加勢させて1万人余りの兵から矢を浴びせた。 朝日が見え出すとショカツリョウコウメイは慌てて舟をひるがえして退却した。 そして、 「丞相矢を有り難く申し受ける」 と叫ばせた。声を聞いたソウソウは遠く追うこともできない舟を見て無念の牙を 噛んだ。 陣屋に戻ったショカツリョウは舟に刺さった10余万本の矢をシュウユに渡し た。シュウユは感服して 「それがしのおよぶところではない。」 と洩らした そして、2人は共に魏に対して火計で挑む事を決意した。 さて、10余万本の矢を無駄にしたソウソウは、ジュンユウの計でサイボウの 従兄弟サイチュウ、サイカを呉に投降させて動静を探らせようとした。 呉に投降したサイチュウ、サイカをシュウユは厚くもてなした。 その夜、コウガイが人目を忍んでシュウユに苦肉の計を持ちかけた。コウガイ は翌日軍議で降参すべきであると進言し、怒ったシュウユは 「降参を口にする者は斬るを殿が仰せになったのを忘れたか。士気を乱すような 事は許さぬ。」 と言って打ち首にしようとしたが、周りの者がとりなして罰棒をくらわせた。背 中を負傷して陣屋に伏せていたコウガイは、参謀のカンタクに魏に投降するため の書面を届けてもらおうとする。 さて、カンタクの返答はいかに。それは次回で。
第四十七回 カンタクはコウガイの書面を受け取ると、その夜にソウソウの陣屋に向けて船 を漕いだ。 ソウソウはコウガイの書面を受け取り苦肉の計を見抜いたが、カンタクの能弁 により偽りの投降ではない事を確信した。そこに、先に探りを入れていたサイチ ュウとサイカからのシュウユとコウガイの間に起こった出来事を知らせる書面が 届いた。コウガイの投降が本心からであると確信したソウソウはカンタクに 「先生、まことに大儀ではござろうが、再び江東に帰って打ち合わせの上内通し てくだされ。その上当方より加勢を繰り出したいのじゃが。」 と言った。 江東に戻ったカンタクはコウガイとカンネイに内通成功を話して大いに喜んだ。 そこにサイチュウとサイカが、 「実は我々も丞相の命で様子を探りに来ている。」 と打ち明け、協力を申し出た。そして、ソウソウにカンネイも内応する旨を伝え た。カンタクは、舳先に青い旗を付けた舟にコウガイが乗っているという密書を 送った。 一方、書面を受け取ったソウソウだが、心中なお疑念がはれなかった。ショウ カンが再び探りに行くことを申し出たので、大いに喜んで立つように命じた。 ショウカンが来たことを知ると、シュウユは 「貴様、また俺を口説き落としに来たのであろう。このまま陣屋においてはまた 何かするに決まっている。」 と言って西山の庵室に押し込めた。 ふと月夜に裏方から外に出ると書物を読む声が聞こえる。ショウカンは声のす る方に行くと、大きな岩陰に草葺きの家があり、中には鳳雛と呼ばれている男、 ホウトウがいた。 ホウトウはシュウユから隠れていることを語り、ショウカンはソウソウに仕え ることを勧めた。かくてホウトウとショウカンはその夜のうちに岸辺の舟に乗り 込んでソウソウのもとに帰った。ソウソウは鳳雛が我がもとに来たと喜んで厚く もてなした。 ホウトウは 「魏の兵は土地になれず、吐き気がする病にかかっておる様子。舟を鎖でつない で板を渡せば人馬が行き来できましょう。さすれば舟に揺られて病にかかる者も いなくなりましょう。」 と進言した。ソウソウは大いに喜んで命を下した。 さらにホウトウは、 「今、江東の英傑はシュウユを恨む者が多く、それがしが丞相のために皆を口説 いてお連れいたします。」 ソウソウは大いに喜んでホウトウを江東に行かせた。ホウトウが舟に乗り込も うとしたところに、袖をつかんで、 「コウガイの苦肉の計、カンタクの偽りの投降状、そして今度は貴様の連環の計 か。丞相は騙せてもこのわしの目はごまかせんぞ。」 と言われ、あっと仰天した。 さて、この男は誰か。それは次回で。
第四十八回 ホウトウが仰天して振り向くと、そこにはジョショがいた。ホウトウは知り合 いでもあったのでほっとして、 「まさかわしの計略をあばくつもりか。江南八十一州民草の命はすべて貴公にか かっておるのだぞ。」 ジョショも笑って、 「わしはソウソウに母を殺され、一生彼のためには尽くさぬことを誓った。貴公 の計略を知らせるつもりはない。ただ、魏の敗戦ともなればこの地にいては生き 延びるのは難しい。何か良い策はないものか。それさえ教えてくれれば何もする 気はない。」 と言うと、ホウトウも笑って、 「貴公ほどこの状況を把握しておれば何もわしが言わずとも解っておろうに。」 と言って、策を話した。 ジョショはその夜に西涼のバトウとカンスイが反乱を起こしたという噂を流し、 ソウソウにそれを鎮圧に向かうという名目でこの地を去った。 ソウソウは大船上で酒宴を開いた。そして、自作の詩を披露したが、そこにリ ュウフクが詩が不吉であると言ったのに怒って突き殺してしまった。翌日、リュ ウフクの子リュウキに涙ながらに三公の礼で手厚く葬るようにと命じた。 ソウソウは水陸それぞれ5隊に分け5色の旗を持たせた。テイイクが、 「船を鎖でつなぐと揺れはしませぬが、火攻めに合うと防ぎようがございません。」 と言うと、ソウソウは笑って、 「火攻めには風が必要。西風と北風があっても、東風と南風が吹くはずがない。 敵陣は南岸故に火攻めはできぬではないか。」 と言った。一同は、 「丞相のご高見。われらのおよぶところではございませぬ。」 と言って一斉に平伏した。この時、ショウショクとチョウナンが前に出て先鋒を 願い出た。ソウソウは彼らがエンショウ配下の旧将で水上戦には慣れていないの で反対しつつも先鋒に出した。 魏が動いたことを知ったシュウユはカントウとシュウタイに迎え打たせた。シ ョウショクはカントウめがけて一斉に矢を射るが、彼は盾で受け止め槍でショウ ショクを突き殺した。シュウタイはチョウナンの舟に飛び移りチョウナンを水中 に斬って落とした。 シュウユは山頂より指揮していたが、カントウとシュウタイがブンペイと戦っ て深みにはまっていきそうになったのを見て銅鑼を鳴らして引き上げさせた。 突然、シュウユは、あっと一声叫んで真っ赤な血を吐いて倒れた。 さて、シュウユの命はどうなるか。それは次回で。
第四十九回 シュウユはすぐさま本陣にかつぎこまれ諸侯がこぞって見舞いに現れていた。 ショカツリョウはロシュクからシュウユの容態を聞いて、 「それならば私がその病、治してみせましょうぞ。」 と言って本陣に赴いた。 本陣ではシュウユが床にふせっており、ショカツリョウは人払いをして二人で 話をした。 「都督の病のもとは、火攻めを用いる計が万全なれど東風を欠くことでござろう。」 これにシュウユは仰天して、 「なんと恐ろしい男か。この上は実情を打ち明けてしまおう。」 と決めた。 「それがしの病はどのようにすればなおるでござろうか。」 と問うと、 「それがし非才ながら風を呼び雨を喚べます。七星壇を築きそこで法術にて三日 三晩東南の風を借り受けましょう。」 「三日三晩はおろか一夜でそれがしの計略は成功致します。」 「されば、十一月二十日甲子の日に風を祭り、二十二日にはやむようにいたしま しょう。」 これを聞いたシュウユは大いに喜んでさっそく準備にかかった。 かくてショカツリョウは七星壇で祈って風を呼んだ。が、未だ東南の風は起こ る気配がなかった。 シュウユは東南の風を待って待機していたが風が起こらず苛立ちも出てきたこ ろ、ふと風が西北に流れ、見る間に東南に変わった。 シュウユは愕然として 「あの男は法術も我が物にしておる。ここで禍根を断たねばならぬ。」 と言ってテイホウとジョセイにショカツリョウを捕らえに向かわせた。しかしシ ョカツリョウはチョウウンの迎えの舟で夏口に向かった後であった。二人はショ カツリョウを追うが、チョウウンが矢を放ってジョセイの舟の帆綱を射切ったの で失敗した。 シュウユはこの知らせを聞くが、取り合えず魏を破る事を先決にし兵を進めた。 一方、夏口に戻ったショカツリョウはソウソウの敗走路を読んで、チョウウン、 チョウヒ、リュウキにそれぞれ配置につかせた。カンウは何も命を与えられない のを不服に思い、 「以前の恩義でソウソウを見逃したりはしない。」 と誓紙をしたため、ショカツリョウもそこまで言うならと華容道の配置につかせ た。 カンウが出た後、リュウビは 「ああ言っても弟は見逃すだろう。」 と言った。ショカツリョウも 「ここで彼に義理を果たさせておけば良いでしょう。」 と答え、ともに樊口に出向いてシュウユの指揮ぶりを見に行った。 呉は東南風と共に行動を起こし、シュウユはサイカの首をはねてコウガイを先 鋒にして内応の目印である旗を掲げて船を出した。 ソウソウはコウガイが内通してやってきたものを思っていたが、乗っている兵 糧船が兵糧を積んでいるはずなのに軽々と浮かんでいることに気付いた。しかし、 時遅くコウガイの船は火を上げて突入してきた。ソウソウの船はしっかりとつな ぎ止めてあるので散開できず、炎は風にあおられて一気に燃え広がった。 ソウソウはチョウリョウに守られて逃げ出したが、コウガイに見つかり襲いか かられる。しかし、チョウリョウが矢をつがえてコウガイを狙った。コウガイは 肩先を矢にさされもんどりをうって水中に落ちた。 さて、コウガイの命は。それは次回で。
第五十回 チョウリョウはコウガイを矢で射落とし、ソウソウを助けて岸に上がった。コ ウガイはカントウの船に助けられた。 カンネイはサイチュウに命じてソウソウの陣中深く案内させると、彼を斬り殺 した。そして火をかけて陣を焼き払った。 ソウソウはこの火の海を百余騎で落ち延びた。火の海を出るとリョモウやリョ ウトウに待ち伏せされるもチョウリョウとジョコウに食い止めさせて難を逃れた。 そして山を背に陣を布いていたバエン、チョウガイと落ち合い彼らに警護させて さらに兵を退いた。しかし、前からカンネイに襲われ、バエンとチョウガイは討 ち取られた。 その後、ソウソウはチョウコウとも合流し、ふと立ち止まると笑って、 「シュウユもショカツリョウも謀を知らぬ男よ。わしならこの場所に兵を伏せて おくわ。」 と言った。とたんにチョウウンの軍勢が現れ、慌ててジョコウとチョウコウにチ ョウウンに当たらせ落ち延びた。 やがて豪雨になり、兵馬ともに疲れはててきたので休息をとったが、またして もソウソウは笑って、 「やはりシュウユもショカツリョウも謀を知らぬ男よ。わしならこの場所に兵を 伏せて疲れた兵を襲うわ。」 と言った。とたんにチョウヒの軍勢が現れ、慌ててキョチョ、チョウリョウ、ジ ョコウを当たらせて落ち延びていった。 チョウヒを振り切って死にものぐるいで馬を走らせるが、途中で立ち止まって またしてもソウソウは笑って、 「やはりシュウユもショカツリョウも謀を知らぬ男よ。わしならこの場所に兵を 伏せて疲れた兵を襲うわ。」 と言った。とたんにカンウの軍勢が現れ、応戦するも疲れ切った兵馬では役に立 たず、ソウソウは覚悟を決めた。そこにテイイクが、 「カンウは義に厚い将でございます。以前に丞相には恩を受けております故、こ の場は説得して難を逃れましょう。」 と進言した。カンウはソウソウと話すうちに以前の恩義を思い兵を退かせてソウ ソウを通した。さらに、後を追ってきたチョウリョウも旧知の情から通してしま った。 ソウソウが難を逃れて走り去った時には27騎しか残っていなかった。そして、 南郡に近づいたときソウジンに迎えられた。ソウソウは 「カクカが生きておればこのような無様な負けはしなかったものを。」 と泣いた。 翌日、ソウソウは荊州をソウジンに任せて許都に戻った。 カンウはソウソウを見逃した後軍勢を率いて戻ってきたが、誰も捕らえられず に戻ってきたので、酒宴でも何も言わずに座っていた。そして酒を注がれても黙 って座っていた。ショカツリョウが、 「それがしどもが将軍をお出迎えせなんだことをご不満に思ってらっしゃるので しょうか。」 と言って、左右を顧み、 「そなた達、何故早々に知らせなかったのか。」 すると、カンウは、 「それがしお詫びのため死を覚悟して参った。」 するとショカツリョウが、 「ソウソウは華容道に来なかったのですか。」 「いや来ましたが、それがしが仕損じました。」 「すると昔の恩義を感じてわざと見逃したのですな。誓紙がある以上、軍律によ る処分は免れませぬぞ。」 と言うなり、首を打てと命じた。 さて、カンウの命はいかに。それは次回で。