椎名作品二次創作小説投稿広場


息子よ

3 目明し編


投稿者名:NOZA
投稿日時:09/ 1/30

横島は真っ白に凍りついたように見える。

「あ・・・・あの・・・ヨコシマ?」
自称蛍太は心配そうに横島の顔を覗き込んだ。何かマズイことを言っただろうか?

あまりの衝撃の告白が逆に横島に奇妙な冷静さを取り戻させた。

もーーーーーヤケだ!第一俺にはなーーーーんにもできない!ええ、できませんとも!!どーせ俺は三流ですよ!!敗北者ですよ!!捕虜状態ですよ!!哀れな卑しい犬っころですよ!!シリアスなんて似合いませんよ!!!

「・・・・・とにかく話してみろ。とりあえず信じるから。最初から。どんなことでもいい!!」

蛍太の顔が・・・・つまりはルシオラの顔がパッと明るくなった。事情を理解してくれたと思ったらしい。

「あのねあのねヨコシマ・・・・・私は間違いなくルシオラの転生体なの」

「べスパの集めた霊体の破片が高純度だったのか、ヨコシマの魂に残ってた霊基構造の純度が高かったのかわからないけど、ものすごく運良く私の魂が再形成されたのよ」

「・・・・ただそれで運を使い果たしちゃったらしくて・・・・・私、女の子ではなく男の子として生まれて来ちゃったの。サイコロを3個同時に投げてすべて1のゾロ目を出したんだけど、次にコイントスをやったら『表』が出ずに『裏』が出ちゃった・・・・そんな感じかしら?」

「これで女の子に生まれていたら何も問題は無かったんだけど・・・・もしこれが『神の配分』だなんて言うんだったら神族皆殺しにしてやりたいわ」

・・・・・問題ありすぎだろ。

「私は魂が回復して、同時に『記憶』も回復して生まれて来たの・・・・おきぬちゃんも生き返って幽霊だった頃の記憶がよみがえったでしょ?それと一緒」

「でも困ったことがあって・・・・・だってヨコシマはオトコノコにはまったく興味無いじゃない?・・・・・私は乙女ロード的な展開もいいかなーって思っていたんだけど」

・・・・・・乙女ロードってなんだ?

「もし子供の頃に私がルシオラの記憶を持っているとバレたら、ヨコシマとあの女は私の記憶を封印するに違いない・・・・そう思ったから私は記憶を持っていることを隠し通すことにしたの」

「つらかった・・・・本当につらかった・・・私は『蛍太』を全力で演じることにしたの。ヨコシマたちに絶対に悟られないように。だから、『蛍太』は元々実在しないの。私、ルシオラが演じていた架空のキャラクターなの」

・・・・じゃあ俺が抱き上げると泣き止んだのは

「もちろん私の意識があったから」
「小学校ではメスガキがニヤニヤ近づいてくるし欲しくも無いチョコレートなんて押し付けてくるし・・・・・キショク悪い」

スケベじゃ無かったのは最初から興味が無かったからか・・・・ああ、蛍太が初恋の子もいたんだろうなぁ・・・・初恋の思い出はどうか美しいままであって欲しい。

「でもそんなことはまぁ我慢できたわ。我慢できなかったのは私の目の前でヨコシマとあの女がイチャイチャしていたこと。意識を抑えこむのはべスパと戦った時より大変だったわよ!」

「私の霊能力のほとんどはヨコシマへの萌え感情とあの女への殺意を押さえ込み、その思念波が漏れ出さないために使われていたの。特にあの女は感が鋭いから」

・・・・・・・萌え感情・・・・・・・

「でもねでもねヨコシマ、悪いことばかりじゃなかったのよ・・・・ヨコシマは私をとてもとてもとても大切にしてくれた・・・・・もうねもうね、惚れ直しじゃなくて惚れの上塗りよ!惚れの輪島塗!!惚れのバウムクーヘン!!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・

「限界ギリギリまで霊能力使っても抑え切れないぐらい。興奮して鼻血出まくりよ!!」

・・・・・子供の頃よく鼻血出してたの、そんな理由?

「私は自分のために早くGSになりたかったんだけど・・・・当然小学生の頃は
ヨコシマもあの女もGS試験の受験を認めてくれそうになかったし・・・・まぁ私の夢のためには時期が早すぎたって事もあったので中学生になるまでひたすら待ったの」

「そして中学生になって研修してようやく念願のGS試験を受けることが出来たの・・・・ヨコシマが私の応援に来てくれて・・・・・嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくてほとんどの霊力を思念波を押さえ込むことに割かなきゃいけなくなってあんな無様な戦いをしちゃって・・・・・ああそれでもヨコシマは私に優しく『すごいな、偉いぞ』ってああもう嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて」

・・・・・・・わかった。嬉しかったのはわかったから。

「本当だったらGS試験会場ごと消し飛ばすことができたんだけど・・・・」

そうだ。おまえはなんでそんなにベラボーに強いんだ。ルシオラの魂だとしてもルシオラだってそんな馬鹿みたいに強くは無かったはずだ。

「『愛』の力よ!!これはまさしく私のヨコシマへの『愛のPOWER』!!!」

・・・・・・頼むから真面目に答えてくれ。

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜私はいたって真面目なのに・・・・じゃあ凄くつまらない事なんだけど・・・
私とヨコシマとあの女の魂の影響なのよ・・・・私はヨコシマとあの女の子供だからそれぞれの魂を受け継いでいるんだけど、私の魂は魔物のものだから完全に統合されてないの。そのせいでおかしな現象が起きちゃって・・・ヨコシマ、『霊力の完全同期連携』って覚えてる?」

あの令子と俺との『合体技』の基礎理論だろ?『波長がシンクロして共鳴すれば、理論的には相乗効果で数十〜数千倍のパワーが獲得できる』ってやつ。

「『令子と俺』ってのはものすごーーーーーく引っかかるけどその話はまた後で・・・・私の中の魂はヨコシマとあの女の魂が完全に統合されていないんだけど霊力の波長だけは揃っているの。つまり私は常に私単体で何の負荷も無く『合体技』を使用し続けているようなものなの。しかも3人分。名づけて『トリプルブースト』!」

お前の敵は反エスパー組織か?

「これがまたとんでもなく凄いパワーで・・・アシュタロス級?まぁヨコシマの為ならパワーはいくらあっても損は無いわ!」

・・・・・文珠はいったいどうやって体得したんだ?

「私はあなたの魂の一部も持っているもの・・・秘密にしていたけど子供の頃から文珠錬成はできたのよ。作り方は魂が知っているし。十分な霊力と技術を体得すれば文珠は誰にでも錬成できるのよ・・・・ヨコシマ、忘れたの?文珠はあなただけのオリジナル技では無いのよ?」

そうだった。他の使い手なんていなかったからまったく忘れていたが俺は文珠の使い方をワルキューレから教えてもらったんだ。少なくとも過去に使い手はいたはずだ・・・・となると再び他の文珠使いと出会う可能性もあると言うこか・・・・・それはあらゆる意味で最低最悪だ・・・・『模』が見抜かれていたのも、ルシオラの記憶を持っていたのなら納得できる。
『模』を使ったとき、使おうとして失敗したとき、そのどちらにもその場にルシオラはいた。
俺の手口を知っていたんだ。『文珠無効』ではその文珠さえ無効化されかねないパラドックスを孕む事になる。『縛』を有効化したまま『模』に対抗したわけか。

「そして私はGS資格を取り、いよいよ『夢』を実現するためにヨーロッパに行くことを決意したの」

《でもね・・・・他にも、どうしてもかなえたい夢があるんだ》
《夢?・・・・お父さんに教えてくれないのか?》

『夢』って・・・・・まさか・・・・・・・

「そう!!『神の配分』をひっくり返し、『女』に、『ルシオラ』に戻ることよ!!コインの『裏』が出たのなら、削り落として『表』に書き換えてしまえばいい!『運命』だなんて、たやすく受け入れてなんてやらないわ!!!」

横島は意識が遠のきかけるのを何とかこらえる。あの日の思い出がどんどん台無しになっていく。

「私は必要な費用を手に入れることにした。手っ取り早く欧州中央銀行を制圧しようかと思ったんだけど、それはさすがに目立ちすぎるし後でヨコシマに怒られるような気がしたので修行を兼ねて地道に仕事を請け負うことにしたの」

・・・・・・どんな仕事だ?

「報酬のそれなりに良い仕事よ。邪教集団に奪われた死海文書を取り返してくれとか、ラスプーチンって坊さんをふん捕まえてくれとか、シチリアのマフィアを半分壊滅してくれとかなんかそんな感じのモロモロの仕事」

・・・・・・・・そうですか

「それで結構な大金稼いだんだけど、手術を頼んだ黒マントの無免許医にほとんど持ってかれちゃって」

・・・・・・・その人、顔に傷が無かったか?

「ヨコシマ、知り合い?あの女よりガメツイ奴がいるなんて思わなかったわよ」

いや・・・・・その人は・・・・・・

「まぁでも手術の腕前は超超超一流で完璧『女』!完璧ルシオラ!!もう全然手術の跡とかわからないし本当に寸分違わず元通りなのよ。さすがふんだくられただけはあるわ・・・世の中凄い人もいるものねぇ・・・・見る?」

見せんでいい!見せんで!!

「・・・・・昔のヨコシマだったら凄かったのに・・・・ストイックなヨコシマもステキ・・・・・・」

ストイックとは関係無いから!!それよりピートはどうした!!なんでアイツはこんな重要なことを連絡してくれないんだ!!!

「あ、ピートさんにはヨコシマを驚かせたいから秘密にしておいて欲しいと頼んだのよ・・・・・・一族の人たち、大事ですよね。エリスちゃん、かわいいですよねーって。そうしたら快く」

横島には土下座して謝るピートの姿が思い浮かぶ・・・・いいんだよピート。一族の人たち、大事だよなぁ。エリスちゃんってピートの彼女なのかなぁ・・・・・

「そして今、ルシオラは帰ってきた!ヨコシマ!あなたの元に!!」

えいっ♪とばかりに『彼女』は横島に抱きつき頬をすりすりと擦り付けた。

美しい夕映えの空の下、2人の影は一つに重なるーーーーー

    【息子よ 3 目明し編/終 息子よ 4 完結編 に続く】


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