椎名作品二次創作小説投稿広場


復活

ただいま修行中!(中)


投稿者名:ETG
投稿日時:07/ 7/13

広い試合場に冥子と横島が対峙している。

冥子は型どおり頭に霊視のクビラ。ルシオラは無駄なので幻術は使っていない。

令子がルールをもう一度繰り返す。
「一本勝負。冥子は相手の式神を奪えない。横島クンは式神を出さずに攻撃できない」

この試合の趣旨からして、当然の処置だ。冥子の戦闘訓練も含まれてなければ、
後半は「式神以外を使えない」、という、より露骨なモノになったであろう。

いま令子の言った言葉にあわせて、理事長が無駄に多機能な結界のモードを切り替えてゆく。

「あと、言うまでもないけど『滅』とか使っちゃダメよ?」

これは結界のモードでは、さすがに操れない。
冥子といえど間違って『滅』なんて当てられると消えてしまう。

ルシオラとの連携で相手を弱らせ、文珠の複数利用でトドメ、というのが横島の最強コンボ。
かなり冥子有利なルールである。


「はじめ」


ビュムッ


「なっ!?!」

開始の合図と共に冥子の姿が消える。


どっごーん!!!


カンで飛び退いた横島の元位置で爆発が起こる。


「ひぃっ?」


ドムドムドムドムドム!!!

逃げまわる横島の後ろを爆発が追いかけてくる。
その襟首をルシオラがつかんで空中へ逃げるが、そこでも爆発。


「な、何が起こってるのでござるか!!」
移動に限れば超加速より早いメキラの瞬間移動。シロの目でも追い切れないのだ。

「クビラの視界を頼りに瞬間移動。そこで式神を出して全力攻撃をかけてるのよ。うまくいったようね」

ニヤリと令子が口元をゆがめる。簡単にご褒美をやる気は全くなさそうだ。
冥子は胸でも借りてるつもりなのか、一切手加減がない。

「除霊でもあんな攻撃は見たことがないわよ?!」

タマモが見るのは強力な式神を持つくせに、いつも現場では横島や令子に頼ってしまう姿である。
ちょっと怖いとオロオロして泣き叫ぶ所は横島とえらく変わらないのだがそこからが大違いなのだ。

結局他のメンバーが除霊してしまい、冥子は手を下したことがないのだ。
理由は言わずもがなである。
シロタマにとって、冥子は霊視、移動、後方からの攻撃担当(配置されるだけ)で今見ているような攻撃は全く見たことがない。

「怖くはないんで式神を必要最低限出して完全にコントロールできてるわ」

フミさんが持ってきてくれた、将几に座り込んでふんぞり返り、解説モード。
理事長は戦闘と霊波を注視している。

「ま、冥子に敵う天才なんてそうそう居ないわよ」
「ほへぇ〜〜〜〜っ?」

令子が言い切った、予想もしなかった高評価にちょっと惚けている。
まあ目の前で起こっていることを見れば納得せざるを得ない。

戦闘なら事務所最強の横島=ルシオラコンビが何も出来ずに逃げ回っている。
ソーサーもグローリーも出せない。
ソーサーはバサラに吸われ、グローリーはビカラにへし折られるのが関の山だ。
もちろん幻術もクビラの強力な霊視の前では無力だ。

冥子の近接攻撃力、スピードは令子の比ではないのだ。
重戦車の攻撃力、バイクの軽快さ、AWACSの目、戦闘機の飛行能力、etc.etc.をあわせ持つ天才GS、それが冥子なのだ。

欠点は、‘戦士の心はかけらも持たない’だけ。


しばらく、爆発との横島の追いかけっこが続く。

「でも・・・当たりませんよ? このままだと冥子さん霊力切れで負けちゃいますよ?」
心眼半眼で見ていたで見ていたおキヌが首をかしげる。
「あのコ、戦闘センスは無いからねー。でも冥子の霊力切れを心配しなきゃいけないのは横島クンの方よ」

令子が将几から立ち上がる。
「冥子!! 角へ追いつめるように! 先回りしながら動くのよ!」

声に応じて爆発がゴキブリ本体を狙うのではなく、逃げる鼻先を叩くような動きに変わる。

ドムドムドムドムドム!!!
「ひーっ!! 美神さ〜〜ん!! 俺に死ねと言うんですか!!」

結界内から悲痛な声が響く。涙鼻水垂れ流し。まだまだ余裕があるようだ。
令子からは適宜冥子に指示が飛ぶ。横島には一回も無し。

「メドーサやアシュタロス相手に逃げ切るんだから大したこと無いでしょ?」
「あんまりや〜〜〜〜〜!」

ドムドムドムドムドム!!!・・・・やっぱりカスリもしない。


「なんで先生が逃げ続けられるんでござるか? 拙者でも見えないのに?」
しばらく見ていたシロがカスリもしないので首をかしげる。

「あの横島クンよ? それにたぶんルシオラは見えてるわ。
 瞬間移動が終わってから式神出すまでに少しタイムラグがあるはずだから」

その辺にも全く不安を抱いてないのであろう。ごく当然とばかりに言い切る。
まだまだ序盤戦と言うことなのだろう。

「ルシオラさんは超加速に近い動きに対応できる視界を持ってるはずですもんね」
おキヌが頷いて付け加える。

肉眼ではまず捉えられない南極でのパピリオの動きを思い出したのだろう。


「そろそろ横島クンの反撃が出るわよ」

横島の動きが一瞬止まり、閃光。

「きゃん!!」
思わず目をつむった冥子に令子の声。

「冥子! 後ろへ飛ぶ!!」
同時にハンズオブグローリーが右から。

メキラに乗った冥子、飛び離れて霊視のクビラで警戒。

そこへ連続霊波砲とグローリーが襲いかかる。
今度は横座りでメキラの首っ玉にしがみついた冥子がスカートを押さえて逃げ回る。

「なにがどうなったでござる!!」
「ルシオラさんが目眩ましに光るのと同時に影を全部消しちゃったんで、式神を出し入れできなくなっちゃったのよ」
「なる。霊力温存が裏目に出たわけ」

シロタマにおキヌが解説。横で令子が頷いている。

   『当てれないわね』
   『クビラ+メキラだしな』

短距離とはいえ瞬間移動。進路予測は効かない。地球上で肉体があっても空気摩擦を無視できる。
ある意味超加速より始末が悪い。

それに下手に攻撃を当てると‘プッツン’一直線である。
当てるなら一気に意識を刈り取らねばならない。

横島とルシオラが魂内の相談で外への注意がそれたところに、
いきなり冥子が目の前に現れる。


「ルーちゃん、ごめんね〜〜〜」

ぺったんこ。


冥子、霊波妨害札を横島の額に貼り付ける。

「きゃぁあっ!!」
ルシオラフェードアウト。

「しまった!!」

札を横島が慌てて剥がすが、その間に十二神将出現。

「横島クン♪ 油断よ♪」
令子が子供のように手を叩く。

「美神さんの策でしょー!!」


どごおぉん!! 再び冥子の攻撃開始。


「ほうらほら言ってる間に逃げないと、死ぬわよ♪」

ドムドムドムドムドム!!!

再び出てきたルシオラが襟首つかんで逃げる。

「鬼〜〜〜〜っ!!」
「ほほほっ! 破魔札でないだけ感謝しなさい♪」

「横島クーン。対式神戦は術者を叩くのが基本よ〜〜〜〜」
理事長がアドバイスしてくれる。

ドムドムドムドムドム!!!

「この状態で出来るか〜〜〜〜ッ!!」
が、全く役に立たない。

   『アンチラとアジラを引っ込めないからさっきの手は使えないわ!!』
   『このまま冥子ちゃんの霊力が減ると‘プッツン’や〜〜〜〜!!!』

常套手段の相手の消耗待ちが、対冥子戦では致命傷になる。
霊力が切れかかるとアラ不思議。暴走して霊力∞。
ベスパでも出来ぬ、小竜姫でも龍化でする、巨大鉄筋マンションの更地化。

プッツンすれば影を消しといても式神を出しかねない。

GS試験でエミが負けたのも消耗待ちをしたからなのである。
それを見ていた令子は決勝戦では素手で近寄り、とまどう冥子をぽくっ、と昏倒させたのだ。


なんとか冥子ちゃんが余裕がある間に倒さねば!!

などと考えている間にも
ドムドムドムドムドム!!

「どないせいというんじゃ〜〜〜〜〜!!」

鼻水涙で再び自分の足で逃げ回る。



ちなみに文中には書いてないがルシオラも光ったり、霊波砲撃ったりして最大限サポートしてます。
一番のサポートは事実上見えてない横島の目代わりです。



   『やっぱり使うしかないか〜〜〜』
横島の手の中で文珠が輝き始める。

ようやく出てきた横島の切り札に令子が念を押す。
「冥子! 横島クンに集中させちゃダメ!!」

文珠が発動し始めたのでルシオラは消費霊力を押さえて“目”と“誘導”に徹する。

(実戦なら文句なしで『滅』数発たたき込んで式神潰せばそのダメージで気を失うやろけどな〜〜〜。代わりに『眠』かな。
 文珠の絶対数が足らなさすぎやな〜〜〜。最低7鬼はつぶさんと冥子ちゃんに近寄れんしな〜〜〜。
 当てれるとも限らんってか、バサラに吸われて終わりやろな〜〜
 とにかく暴走から身を守るためには式神を全部押さえな。冥子ちゃん自身は弱いからな。

『捕』?『縛』? いや、これやと捕まえるか、縛るかしかできねーかも。2つ同時か。きついな〜〜。
『捕』『縛』? 十二神将全部押さえれるとは限らんな。数鬼でも漏らしたらシャレにならん!
『全』『捕』『縛』? 3文字なんてやったことねーぞ!! それに下手すりゃ、俺までつかまっちまう!!

えーいいっ、やけくそじゃ!! どーせやったこと無いなら、4文字『全』『鬼』『捕』『縛』!!)

考えのわかったルシオラが思わず思考に割り込む。
   『ヨコシマ!! それは無茶よ!!』
   『このままやとじり貧や!!』
   『私を引っ込められないのよ!?』
   『美神さんに貰った霊力全部突っ込んで操ってやる! こういう時でないと4文珠なんて無駄遣い試せん!!』
   『でも!!』 
   『たぶん操りきれんから、押さえれるのは一瞬や。その間に冥子ちゃんに麻酔頼む!』

スケベ以外は出し惜しみが身上の横島のこの言葉。
覚悟を知ったルシオラが沈黙し、4つの文珠が輝き始める。
もはや蛍状態で横島の頭に留まり、目に徹している。思考すら最低限に抑えているようだ。

「!! 4つの文珠を出してます!」
心眼を持つおキヌが報告する。

「うっわ〜っ! 賭に出たわね!」
令子が思わず再び立ち上がる。

「文珠2つ起動しました!」
おキヌも細かくも皆に報告しだす。
激しく動く横島の文珠の様子など、ヒャクメからがめた心眼を持つおキヌしか捉えられない。

文珠1つで約300マイト、単純計算で2つで600、4つで1200マイト。共鳴現象をおこすのでそれ以上だ。
魂の共鳴である合体のように、数十倍とか数百倍にはならないがうまくやれば十倍程度になる。

そのため、うまくやれば2つでもメドーサを押さえ込め、美智恵の最強攻撃をギリギリしのげる。

数が増えれば倍率も増え、幾何級数的にパワーと応用範囲が増えてゆく。
あくまでうまく操れれば、だが。


いつの間にやら理事長が霊波計を取り出し、霊圧モードにする。
「今〜〜〜、287、634」

起動した文珠そのものの霊圧に制御霊圧が加わってゆく。
文珠に一つずつ文字が浮かび上がり、共鳴を起こしてゆく。

『全』・・・『鬼』・・・・
2文字目が浮かんだところで、レンジを切り替える。


「3文字目、『捕』が浮かびました!」

跳ね上がった霊圧におキヌが叫び、
理事長が慌ててレンジをもう一つ上げる。

「すご・・・い・・霊圧ね」
「1000マイト超えたわ〜〜〜〜」
「冥子! 何でもいいから連続攻撃! 集中力を乱すのよ!」

文珠に集中している横島からは、まずカウンターを喰らうことはない。
令子の声と共に、冥子も出し惜しみ無しで襲いかかる頻度が増える。
いや、出し惜しみ無しは冥子の身上だ。


それが功を奏して3文字目がフェードアウト。
2文字の文珠も共鳴が切れ、霊波計を見るまでもなく霊圧がガクンと下がる。


クソ!! 何とか集中力を高めんと!
勝てば、ルシオラに服着せてやれるだけじゃねぇっ!
冥子ちゃんと美神さんが俺のもんになるんやっ!!

  ヨコシマ。服だけのためにここましてくれるなんて・・・・。いつまでも一緒よ!
  いつか元に戻ったら身も心も捧げるわ!!。

  きゃーん! すご〜〜い! 冥子、もう暴走しても止めてもらえるのね〜〜〜〜。
  冥子の運命の人なんだわ〜〜〜〜。何でもして〜〜〜!

  横島クン! 4つも文珠一気に操るなんて・・・・。心配させないでよっ。
  でも、信じてたわっ。いつでも最後は何とかしてくれるもんね!
  今まで心を鬼にしてきつく当たってたの。もう私より強いから忠夫さんって甘えさせてね!!
  うううん、お金なんてあなたのために貯めてたのよ! もう働かなくてもいいのよ!! 

うおおおお―――――――ぉぉぉぉっっ!!
美人の嫁さんに囲まれた退廃的な生活は目前じゃ〜〜〜〜!!

ハーレムや!! ハーレムの夢がかなうんや!!
やらいでか〜〜〜〜!! 


再び高まる霊圧。
『全』『鬼』『捕』『縛』文珠に4つの文字が入り共鳴し出す。

結界の外では息をのんで言葉もない。令子ですら一言も発しない。


ぐぉぉぉおおん!!
バリバリバリ!!


冥子のサンチラとアンチラの複合至近攻撃。
電撃が意識を現実に戻らせ『捕』がフェードアウト。

霊圧が急減。

もっと楽しいことを!! もっと具体的に!!
目を血走らせた横島が妄想を燃え上がらせる。

   横島くぅん。冥子の裸きれい? めいこ、年の割には子供っぽいから〜〜〜〜。
   美神さん、ホラ、ヨコシマの前ではもっと素直にならないと!!
   だって〜〜〜恥ずかしいのよ〜〜〜!! 私、初めてなのよ!!
   ダメよ!! 冥子さん、一緒に剥いちゃいましょ!!
   
再び4つの文字が入り共鳴し出すが、アンチラの耳が頬をかすめ今度は『鬼』の文字がフェードアウト。


いかん!! このままでは!!
そうだ! 想像だけだからいかんのだ!!
報酬は危険と引き替え! 虎穴に入らずんば虎児を得ず!


横島、頬を伝う血を拭いもせずに令子が見える位置へと移動。
真正面に冥子が出現するも動かずに、2人を見据える。


「先生!! すごい目つきでござる!!」
「あれが横島の真剣な顔なのね!!」
(あれは妄想全開ね。どうせ冥子と私を裸にむいてんでしょ)
(この状態でよく妄想できますねー 何考えてるんだろ?)

素直に感心するシロタマとは違い、令子とおキヌはつきあいが長いので横島の思考パターンは手に取るようにわかる。

   令子ちゃん〜〜〜、かわいい〜〜〜。暴れないで〜〜〜。
   美神さん、覚悟決めましょ。往生際が悪いわよ!
   だって、だって!!

   冥子さん! そっちの足もって! 縛っちゃうから。それから一枚ずつ脱がせちゃいましょ。
   ヨコシマ、今から脱がすから、そこでよーく見といてねっ。

   お願い止めて〜〜〜!!
   
   ああっ、美神さんがサンチラで大の字に縛られて・・・・・、黒のシルクがぁっ! 白いフトモモにっ!!
   冥子ちゃん!! アンチラで一枚ずつ切るんだ。その下から夢にまで見た黒《ピー!!・ピー!!》 らみがぁ!


おっしゃあああっ!! 良い手応え!! ああっもうすぐこれが現実うぅっ!!


文字の入った4つの文珠が次々と共鳴し、霊圧が急激に跳ね上がってゆく。
しかし動きが停まったので、冥子も横島を影の真心に捉えた。

十二神将が囲むように現れる。

文珠、発動。

霊波計の針が最大レンジで振り切れ、膨大な光に結界内が包まれる。

「やった〜〜〜!! この手応え!! 大成功や〜〜〜っ!! ハーレムや〜〜〜っ!!!!!」

ばっちり共鳴した手応えに、周りの式神には目もくれずに驚喜乱舞する横島。
どうせ敷き紙、いや式神どもは次の瞬間には無力化されるのだ。


「どっちが早い!?」
「わかりません。ほぼ同時!」



状況がわからずきょとんとする冥子。
周りがなにかたよりない。
常に共にあったものが無くなってしまった寂寥感。
いつも自由に動いていた手足が全く動かないような気がする。

「ん?」「ふえ?」

横島もおもわず上から覗き込むが足下に転がっているのは式神ではない。



『全』『裸』『緊』『縛』



光の中で生まれたままの冥子が大の字、少年誌では描けないようカッコで地面に縛り付けらている。
いわゆるガリバー縛りというヤツだ。ただし全裸。

もろに全身が網膜に入ってくる。華奢な肩、血管が透けるような白い肌、
かわいらしくもつんと上を向いた薄桃色のチチ、
閉じることのかなわぬフトモモだけでなく、その付け根の丘 《ピー!!!!・ピー!!!!》 みから、青年誌でもモザイクな・・・


「な、!!??!!」


どぶ〜〜〜っ!!
鼻血を噴いて仰向け大の字に倒れる横島。

「わ、我が人生に悔い無ぁ〜〜〜〜し!!」
「ふえぇぇぇ〜〜〜ん!! 横島クンのバカ〜〜〜!! もうお嫁に行けない〜〜〜〜」


ドッゴオオオォォオオオオッッッン!!


13の式神の攻撃が横島を襲い、土煙、電撃、火炎、斬撃、霊波砲の爆発が結界を埋め尽くす。


「いったい何が起こったでござるか!!」
「こ、これ冥子さんの攻撃? 横島の文珠の暴走?」
シロタマが見たことのない惨状に真っ青。

「あーあ。やっぱりこーなったか」 令子は額に手を当てている。
「もー、あの子ったら、負けたからって暴走しちゃって〜〜〜〜」
理事長も苦笑しているのだが、その顔は喜んでいるとしか思えない。

「!!!!!!!」

嘆いたり喜んだり心配したりしている外野の中でおキヌだけが怒りでぷるぷる震えている。
心眼ですべてが見えていたのだ。

「今、式神奪って止めるから〜〜〜〜〜〜」
のほほんと結界に近寄った理事長の袖をおキヌが引く。

「もう少しほっときましょう!」
「文珠の効果も切れて冥子さんは無事よ。どこでも煩悩全開にするバカにはいいお仕置きよ」

約束の麻酔をせずに結界から出てきたルシオラも同調する。
文珠の効果は切れ、今の冥子は服も着ているし自由に動ける。

その間にも結界の中はどんどんえぐれてゆく。

ルシオラから‘横島妄想ダイジェスト’や‘冥子裸で緊縛’を聞いて理事長も井桁を数個浮かべている。
令子は肩をすくめ、シロタマも呆れ果てたようだ。


結界の内側が赤い霧に染まり始めた。




「じゃあ、ほっといて休憩にしましょうか〜〜〜〜」

フミさんに野点の準備を命じる。

しばらくして柔らかな杉苔の絨毯の上。
緋毛氈でしゅんしゅん鉄瓶が音をたて始める。


「みんな、お薄でいいわよね〜〜〜」


――――――どごーん! 助けて〜〜〜!!――――――


後ろから無粋な音。まだ叫ぶ余裕があるらしい。
眉をひそめて令子が心底イヤそうに振り向く。


「おばさま、結界の防音、ONにしてよろしいわよね?」


さやさやさや〜〜〜。
静かになった庭をさわやかな風が楓を奏でる。

皆が動くと座る衣擦れの音も


カコーン


さすが六道家の庭。しし脅しの音も別格だ。

亭主の理事長がさらさらとお薄を優雅にたててゆく。
「どうぞ〜〜〜」

「結構なお点前で」
令子が慣れた手つきで茶碗を回す。

シロも堂にいったものだが、この季節とシュチエーションに生足放り出しに半袖Tシャツはおかしい。

おキヌはこないだならったばかりの作法を気にしてかちこちになり、

タマモはにが〜〜〜とか舌を出している。

ルシオラは興味深げに道具を見ている。


「すっかり秋ね――――」


はらり、と血の色の楓の葉が2、3枚。


「俗世から離れると心が洗われるわねー」


カコーン


to be continued


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