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蛇と林檎

さらばぬるき日々よ


投稿者名:まじょきち
投稿日時:07/ 4/25



「仕送りもすぐ消えてしまうし、どーしたもんかなー。」


横島忠夫は、そのへんにいる、ごく普通の高校二年生。
両親共に海外で仕事をしており、まーぶっちゃけ気楽な一人暮らしなワケで。
無軌道な浪費は若者の常でもあり。


「美人とお近づきになれる素敵なバイトでも・・・ん?出前ラーメン250円?!」


目の端に飛び込んだチラシのラーメンは、凶悪な魅力を持っていた。
薄く画面を曇らす湯気の向こうには背脂チャッチャ系のスープの油膜、煮込み半熟玉子、
白い長葱の刻みも眩しく、豪勢なチャーシューは写真でも判る柔らかさとジューシーさ。


「うおおおお、この値段でこの豪華さ!有り得ん、有り得んぞおおおおおおお!」


電話機に飛びつき、もどかしくも番号を速射する。
全国共通のまだるっこしい呼び出し音が永遠と思えるほど繰り返される。


「ああああ、早くしろ早くしろ、限定とか書いてないけど、売り切れる前につながれー!」


・・・・・・チャ!


『はい、とんとんとんとんとんとんティン軒』

「チラシのデラックススーパー出前ラーメン一丁!」

『はいまいどー。住所は?』

「東京都豊島区(個人情報保護法のため割愛)!早くしてねv」

『ありあとあしたー。』


カチャン。

「ふふふふふ、うははははは、あーっはっはっはっは!!」


前髪を左手で抱え、精神破綻も斯くやと言わんばかりに絶叫する高校生。
その目には感涙さえ滲んでいるから、嬉しさも推して知るべしである。


「牛丼よりも豪勢な食事なぞ何ヶ月ぶりだ?ふーんふふーんふーん♪」


鼻歌交じりに部屋を片付けだす。男の一人暮らしで部屋掃除とは少々奇特な感もある。
特に横島忠夫の人となりを知る賢明な読者諸氏にとっては一層だろう。
だが、部屋が常に汚いかというとそうではない。例えば超神合体ヨコシマン【その2】
の描写はソコソコ綺麗なのである。その秘密は食欲のなせる業だったのだ!
(まー、臨時アシのこい○たく辺りのミスかもとか言えなくは無いのだが・・・)


「まず見て味わい匂いで味わい、箸はまずネギに・・・・ああ、もうたまらーん!」


目をナルトにしながら身悶える我らが主人公。
グラビアや本は分類され本棚に並び、床のゴミは分類され二重に閉じて玄関先に。
靴は整然と並び下足置きに、流しの皿は綺麗にされ生ゴミは三重に閉じてやはり玄関。
床の布団は窓の手すりに干され畳は絞った雑巾で磨かれ玄関の外の洗濯機が唸りを上げる。

窓枠に洗濯物がならび髪をセットし身だしなみを整えた時点で横島は或る事に気がついた。


「・・・・・・・・・・らーめん、遅くね?」


甘美な妄想でテキパキと動いていたにしろ、流石に魔窟がシティホテル並みになるには
かなりの時間がかかるはず。そう、既に電話から1時間が過ぎようとしていた。


ぴぽぱぴぽぴぽぴぽぱ。

『はい、とんとんとん(以下略)軒』

「あの、注文した横島だけど、出前まだ?」

『あー、今出ましたのでお待ちください。』

「あそ、よろしくー^^」

かちゃん。


「ま、アレだけ豪華なら遅いのも納得!あのチャーシューの厚さときたら・・・」


妄想に走りながら『歓迎!』だの万国旗だのを部屋に飾りだす。
ティッシュで作った花だのチラシの紙で作ったチェーンだのを天井にセットしていく。
すでに部屋はちょっとした誕生日会の様相を呈してきた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ぴぽぱぴぽぱぽぴぽぱ。

『とん(以下略)軒。』

「横島だけど、まだ?もう3時間も待ってるんだけど。」

『あー、はいはい、今出ました今出ました。』

「何だその態度は!こっちは・・・・」

がちゃ、つーつー・・・・・・


「むっきゃー!うまいラーメン作ってりゃ神様のつもりか!断固抗議してやる!」


ぴぽぱぴぽぱぽぴぽぱぱぽぴ。

『はい(略)。』

「てめー、いいかげんさっさとしろー!」

『は?何イキナリ怒鳴ってるのさ。』

「いきなりなもんかー!コッチはどれだけ待ちわびてると思ってるんだ!」

『・・・じゃ、今から行けばいいのかい?』

「まだ出てなかったのか!ムキー!今すぐ来い!いや、むしろ来てください!」

『どんな言い直しだよ・・・わかった行くよ。で、報酬は払えるんだろうね?』

「当り前だー!バカにするなー!じゃなきゃ呼ぶわけないだろー!」

『・・・道理だね。わかったよ。楽しみに待ってな。』

「コッチはずっと楽しみなんだよー!早くしろよな!」


ガッチャーン!

「うは、電話うっかり壊しちまった・・・・まぁ、流石にもう来るだろ」


その時、横島には天使のささやきが聞こえた。瞬間、彼の顔から険が消えた。
振り向くとソコには聖杯もかすむ程の神々しい白銀の箱を抱えた、天の使いが居た。


「おそくなりましたー!(ry)です!」
「その略し方違うけどもうどうでもいいー!まってたよー!ささ、ラーメン様をこちらに!」


アルバイトになってまだ日が浅い出前持ちの彼には、目の前の光景を見守るしかなかった。
同い年くらいの男がラーメン丼に話しかけているのである。
ただ、仕事も押してることもあり、次のステップを切り出した。


「で、御代ですけど・・・1980円になります。」

「へ?250円だろ?」

「はぁ?デラックススーパー出前ラーメンッスよね?」

「ああ、チラシに載ってるやつだよ!」

「おかしーなー、チラシよく見てもらえます?」


横島はテレビの上に鎮座ましましていたラーメン屋のチラシを出前の男に見せる。
出前の男は、自分の店のチラシの上に別のチラシが張り付いているのを見て、はがして捨てた。


『求人:美神令子除霊事務所。霊に興味が無い方でも出来る仕事です。時給250円から』

どうやら部屋の食べカスが偶然にもチラシ同士をくっつけていたらしい・・・・








「まいどありー♪」


月も半ばという時に食費の大半のつぎ込んでしまった。
求人チラシは有らんばかりの呪詛を込めて生ゴミ袋の中に放り込んだ。
時給とラーメンの値段がどう考えたっておかしいと呟きながら。

そして、想定外の8倍価格ラーメン。複雑な思いが交差する横島。


「くよくよしてもラーメンは伸びてしまうだけ!後悔する前に食う!それが食キング!」


意味不明な言葉を吐きつつも、箸を割り、今まさに食いつかんとする横島。
そこを覗き込む妙齢の美女。



「・・・・あのー、なんスか?」


よく見ればFはあろうかという巨乳にくびれた腰、背は横島よりも高い。
腰まであろうかという髪はごく薄くヴァイオレットが入っているホワイト。
そして、一番印象的な切れ長の金色の瞳が横島を品定めする。


「何って、アンタ自分で呼んだんじゃないか。失礼にも程がある召還主だね。」

「は?いや、俺、頼んでないっスけど・・・」


濃いルージュを引いたような唇が少し開きかけたが、すぐに閉じて胸元から紙を取り出す。
どうやら何かのカードらしい。


「名刺っスか。・・・・お助け傭兵事務所メドーサ?傭兵?おねーさんが?」

「呆れたね・・・何も知らないで召還したのかい?度胸があるねえ。」


その電話番号には見覚えがあった。03−XXXX−8414564。


「ん?たしかラーメン屋が・・・・・8414(ヤスイヨ)・・・あ。」

「うちは8414564(ヤスイヨコロシ)だよ。まさか、間違いだとか言うんじゃ・・・」


メドーサの背後に殺気の影が走る。そのオーラは竜とも蛇ともつかない凶悪なもの。
今まさに食われんとする横島の後ろには蛙のオーラが出ていた。


「ひー!カンニンしたってやー!大体3桁多い電話番号なんてあるかー!」

「堪忍で済むかー!ここまで来るのだってタダじゃ無いんだよ!」

「せやかて、金なんか無いし・・・貧乏が、貧乏が悪いんじゃー!!!」


手に刺又を持ち歩を進めるメドーサ。瞳は殺意で濁り、蛇特有の瞳孔の形に変化している。
へたり込みながら後ずさりする横島には恐怖と涙がその瞳に浮かんでいた。


ぐううううううう。

殺意の目がまんまるく広がり、頬に恥じらいの赤が薄く浮かぶ。



「・・・・ラーメン、少し食います?」

「・・・・(コクン)」


器用に箸を使いラーメンをすするメドーサ。たまスープに入る前髪にもお構いなしに。
あれよあれよという間にドンブリは底の龍の字が透け始め、一滴も残らずカラになった。


「ふー、久々にウマいもの食ったよ。・・・ん?」

「ああ、全部、全部くわれてもた・・・・今月の食費が・・・・」

「ん?腹が減ってるのかい?・・・じゃあなんでコレをくれたのさ?」

「いやー、まー、困った時はお互い様っていうか。」

「バカだね。困ってる同士で融通したってしょうがないだろうに。感謝はしてるけどさ。」


感謝の単語を聞いて横島の顔に意外そうな表情が浮かぶ。メドーサはそれを察知して
少々ばつが悪そうに視線をそらした。
ラーメンのどんぶりを部屋の脇に追いやり、細い腰と長い足がどっかりとあぐらを組んだ。

その瞬間、先ほどの名刺から軽快な電子音が響く。




「さて、無駄足になっちまったようだし、ここらが年貢の納め時の様だね。」

「年貢?」

「ああ、今度の召還に賭けてたんだけど、もう無理なのが確定したからね。」


そう言うと、さっきの名刺をメドーサが横島との間に置く。
角度がきちんと直角になっているあたり、彼女の律儀さが伺える。
そして、おもむろに中央部を押すと名刺から光が漏れ始めた。


「さて、面白い見ものが始まるから、食い物の代金の換わりによく見ときな。」


名刺の上に透け気味の部屋が現れる。横島が手を伸ばすとそこに感触はなく、
何かの映像だと、その時気がついた。


「立体映像?すげーなー、こんな小さな紙でこんなの出来るんだー。」

「よーく見ておきなよ?これから面白い劇が始まるからね。ふふふ。」


映像の部屋に男達が数人、流れ込んでくる。手に手に武器を携え、何かを探している様だ。
男達は昔の中国の兵士のような皮製の鎧を身にまとい、手には槍を持っている。
その後ろから、ショートカットに木製の髪飾りを左右につけたような少女が入ってくる。
こちらは鱗の張ってある、いわゆる鱗鎧に鱗の小手、ヘアバンドも鱗といういでたちだ。


『どう?メドーサは見つかった?』

『それがどこにも居りませぬ、小隆起様。』

『私は小竜姫です!誰の胸が小隆起だっつーの!』

『文字変換は我らのせいではありませぬー!!!』


ぼてくりまわされる手下の男達。



『メドーサ、出てきなさい!貴女はもう犯罪者なのよ!』



「メドーサ、このねーちゃんは誰?」

「ああ、小竜姫っていう、・・・・警察官僚みたいなもんかねえ?」

「へー、ミニスカでお馴染みの婦人警官かー!若く明るいミニスカポリスはエエのう・・・」


もんぺのようなズボンの小竜姫だが、横島の脳裏には婦人警官服の姿が浮かぶらしい。
その緩みきった笑顔に、ふっとメドーサの両眉の間が狭まった。
その後意地の悪い笑みを浮かべると、立体画面に顔を寄せていった。


「お胸がかなりの小隆起さま、アタシに何かようかい?」

『小隆起じゃありませんっ!どこですメドーサ!出てきなさい!』

「さて?ヒトんちに土足で上がるからには、ちゃんと理由があるんだろうね?」

『当たり前です!貴女は竜族危険人物ブラックリストに今日載ったのです!』

「はーん?一応罪状を聞いておこうか。」

『家賃滞納、天界電話料金滞納、エネルギー炉料金滞納、その他滞納10種!』



それを聞いた横島は頭を下にして転げていた。



「た、滞納で、ブラックリストでタイホ?聞いた事ねー!」

「ああ、天界じゃあそういうところシビアだからね。」

「て、テンカイ?あの、サ○ラ大戦の中ボスの?」

「それは天海だよ!天国とかの神様のいる世界ってことだよマッタク・・・」

『メドーサ、さては遠話ですね!それにもう一人の声が・・・共犯者?!』


立体映像の小竜姫が周囲の家具に剣で斬りつけながら叫ぶ。
華奢な腕からは想像もつかないほどの力が出るらしく、家具は次々と破壊される。


「はは、バレちゃしょうがない。(・・・・おい、アンタ名前は?)」

「(え?横島だけど。)」


メドーサは声を潜め傍らの少年に耳打ちする。
打たれた少年も、何故か釣られて声を潜めて返事。


「アタシはヨコシマと組んで仕事をする事にしたよ!アンタはそこで滞納犯でも取り締まってな!」

『ヨコシマ・・・って誰?』

「バーカ、教えるわけないだろ!気がついたときにはアンタは後悔するんだからね!」

『そんな日は来ません!いつかこの手で絶対に捕まえてみせます!』

「へー、そーかい。」


メドーサは名刺の一部分をそっと指で押した。立体映像から轟音が響く。
立体映像はちょうど四角く黒い煙に包まれていた。


「あはははは!どうだい小竜姫、アンタの隆起もちっとはヤケドで大きくなったかい?」

『メ、メドーサ!三界掻き分けても絶対!捕まえますからね!憶えておきなさい!』



それが最後の台詞となり、名刺は火に包まれ、白い灰と化した。
満足そうに目尻の笑い涙を小指で拭くメドーサは、ふと横島を見た。
血の気が引き口元の引きつった少年は、絞り出すように声を上げた。


「あの、俺、なぜ仲間だと・・・?」

「ああ、つい、ね。ま、冗談だったんだけど、小竜姫はマジメだから誤解されたかもねぇ。」

「ついだなんて!誤解だなんて!ひどい、あんまりよ!」

「マク■スごっこは若い子にはついていけないよヨコシマ。」


歳相応かどうかは謎だが、横島のボケにきっちりと突っ込むメドーサ。
ひざを抱え部屋の隅ですねるバンダナ少年に声をかけようと立ち上がった瞬間、
ふと、天井を見上げた。
歓迎の文字とお遊戯会のような飾りつけ。


「・・・何かパーティーでもするのかい?」

「ああ、久々のラーメンだったから、つい浮かれてね・・・ふふふ・・・半熟玉子」


悲しげな音楽を口ずさみながら膝を抱えて涙を流す少年に、メドーサは少々思案した。
横島は、不意に自分のあごに伸びる白く細い指を感じた。
導かれるように見上げると、そこにはメドーサの瞳があった。


(きれーやなー)


その瞳がぐんぐんと近付き、やがてふっと閉じられると、唇に柔らかい感覚。


「!!!!!!!!!!!!!!!」


細くて長い舌が口腔の中に入ると、ふと、林檎の味がした。
その後に、ラーメンの味。そして。


「な、なんら?あひゃまのなはにらーめんふぁ?!!!」
(な、なんだ?頭の中にラーメンが?!!!)


ちゅるっとメドーサの舌が横島の中から抜けると、少し高潮した頬の上から斜め45度で
横島を誇らしげに睨んだ。


「・・・ふぅ、コレでも一応竜神だからね。精気を操る位はお手のモンさ。どう?」

「ああ、ラーメンの幸福な感じが体に広がっていく!うまい、うまいぞー!!!」

「だろ?ついついアタシが食べ尽くしたのもわかってくれたかい?」

「あああ、絶妙なスープとメンのハーモニー、・・・香水の匂い?」

「すまないね、多分アタシの髪の毛だ。もうちょっと上品に食べるんだったね。」

「うはは、ラーメンと一緒にメドーサも食べちゃった訳か俺!」


屈託なく破顔する横島だが、当のメドーサが顔中を朱に染めて頬に手を当てている。
さすがに少々気味悪く、恐る恐る声をかける。


「あのー、どーしたのかな?なんかセクハラな事言ったかな俺。」

「あの、その、アタシは、その、どんな味だい?」

「え?ああ、あの、なんかもう体の一部というか、元気になったというか。」


横島にはワケがわからなかった。
ついさっきまでラーメンで盛り上がっていた悪友のような存在が頬を染め恥じ入っている。
しかも別に腹が減っているわけでもないようだ。


「そういうこと平気な顔でいけしゃあしゃあと・・・恥を知れヨコシマ!」

「え?あ?ご、ごめん!あの、何か気に障るようなことでも・・・・」

「・・・・ちょっとここに座りな。」


神妙な顔で正座する横島と、中腰でそれを睨みつけるメドーサ。
ぱっと見れば教師と生徒のコントのように見えなくもなかった。

話の要点はこうだ。竜族魔族天族などに限らず、長寿の生命体は極端に増殖数が少ない。
生命体として強力すぎて、繁殖を起こせば世界のバランスがあっという間に崩れてしまう。
だが、知的生命の種に関してはどうしても愛情というものをオミットできない。
そこで、相手の核、すなわち相手の命と自分の命が合一になる事で愛を確認する。
半不死といわれる生命体であれば、避けられない愛情表現であるといえた。


「つまり、『エエ体しとったでグヘヘ』みたいなことを言ってしまったと。」

「まあ、そういう事になるね。まったく、びっくりしたよ!」

「いやー、エエ体なのは間違い無いんだが・・・困った人間の弱みに付け込むのはなー」

「・・・・律儀なもんだねぇ見かけによらず。まぁ、嫌いじゃないよそういうの。」


先ほどの恥じ入った仕草と違い、ふんわりとやさしく微笑む元竜神。
数瞬目を閉じる、再び見開く。切れ長の目に精気が甦っていた。


「さ、て!天界じゃお尋ね者、文無しになった責任を取ってもらおうかヨコシマ!」

「いい!?ラーメンでそれはチャラにしてはもらえない?!?!」

「するわけないだろ!アンタが間違電話さえしなきゃこんな事にはならなかったしね!」

「せやかて、ほら、電話しなくても結局依頼無しで破産でしょーが!!」

「・・・借金を返せるドデカイ依頼が来てたんだよ。それを振って来たんだからね!」

「へ?なんで?どーして断ったんスか?」


横島の言葉にハッとするメドーサ。少々考える素振をして、切れ長の目に鋭気を蓄え
横島の顔をまじまじと見る。


「アンタとの話でワクワクするようなコトだと、勘が囁いたんだけどね。うん。」

「そんな電話の声で勘違いされたのを俺のせいにされてもー!」

「だけど、依頼は無い、払いも出来ない、それじゃ契約ごとは許されないんだよ。」

「ひぃぃぃぃ、カンニンしたってやー!悪気は、悪気はなかったんやー!」


手にした刺又を無言で振る。横島の唯一の食卓であるコタツを幾重にも切り裂く。
メドーサの手元は横島の目には捉えられなかった。


「ひぃぃぃおたすけー!こんな所で女も知らず死ぬのはいやじゃぁぁぁぁ!!」


刺又の中央辺りの柄が割れる。何かがキラリとひかる。
横島は頭を抱えてその瞬間を過ごす。


「墨汁はあるかい?」

「それなら押入れの中のプラケースにぃぃ!」


ぺたぺたと音が響く。


「うん、我ながら達筆!」

「・・・・・・・・・・・・・・ほへ?俺、死んで無い?」


恐る恐る目を開ける横島に、満足げなメドーサの顔があった。
その手には・・・・


『女錫叉除霊事務所』


「・・・・・じょれいじむしょ?ゴーストスィーパーってやつ?」

「ま、モグリだけどね。金が無いし目立つ事出来ないし、こんなもんだろうさ。」

「まさか・・・ココで?」

「ああ♪責任とっておくれよ、ヨコシマ?」

「い、嫌じゃあああ!平和な高校生活に青林檎の様に甘酸っぱい思いをするんじゃー!」

「観念おし。ま、儲かってきたら家賃も払うから、それで好きにしたら良いだろ?」

「や、家賃収入!濡れ手で粟のウハウハ商売!いや、又貸しは大家さんがウルサイし・・・・」

「大丈夫さ。アタシもココに棲むんだから。同居人は又貸しにはならないだろ?」


いつの間にか賃貸借契約書を持ち条項に目を通しているメドーサ。
真剣な眼差しでその他の条項も確認していた。


「いや、しかしですよ?それはもしかすると同棲という奴になってしまいませんか?」

「大丈夫だよ。賃貸借契約書には同棲妻帯の禁止は書いて無いからね。」


横島は、改めてメドーサのことをまじまじと見た。格好こそ小竜姫に似たもんぺ姿に
胸元が強調されたカッティングと少々奇異だが、確実に美人のお姉さんである。


(もしかしたら、今の状況ってば、すっげー幸運なのでは・・・)


そんな横島の視線を見て、メドーサが不敵に笑いながら、すっくと立ち上がる。
白い指はまたもや横島のあごへ。


「家賃収入の心配してるね?ま、儲からなくっても精気だったらやれるし、安心おしよ。」


(おお、ここでついに、大人の階段登る君はまだシンデレラですか?はわわわわ!)


再びKiss。口腔に這いよる蛇から不思議な精気が流れ込んできた。
甘いような、それでいて酸味が強いような、筋の通った果肉の味。


「・・・・ふう。どうだい?これなら家賃の代わりくらいになるかい?」

「・・・・・・・・・・青林檎?」

「そうだよ。自分で青林檎がスキだって言ったじゃないか。アタシも林檎好きだしね。」

「いや、青林檎ってのは!・・・・・うん、こんな味だ。」

「あ、ほら、雨が降ってきたよ。布団が濡れちまうよ?早く取り込まないと!」

「・・・うん、こんな・・・こんな味も良いかも。」


ばたばたと布団を取り込むメドーサを呆然と見ながら、横島は思案していた。
ああ、蛇っぽいから林檎が好きなのかなーと。


「あー、もう、手伝わないんなら邪魔邪魔!そこで立ってな!」


布団が詰まれ、その上で腰を下ろすメドーサ。
なにやら布団をさわさわと擦っている。


「あーあ、手伝わないから濡れちゃったじゃないか。責任とってアンタはコレで寝なよ」

「メドーサは?」

「アタシはさっき押入れで布団を見つけたからね。押入れで寝かせてもらうよ。」


夜。
見慣れた天井に見慣れない横断幕。
押入れの戸は開き、そこには妙齢の蛇女。
雑踏の音も無いのに、なにやら、部屋がずいぶんと騒がしい気がした。


「おやすみ。」


横島の見た夢は、林檎をかじりラーメンをすするメドーサと自分の夢。
たいして濡れていない布団で、横島は幸せそうな寝顔をしていたという。



*************次*回*予*告***************

「ちゃーらーらちゃーらーらーじゃーん!
煮玉子、それは心の味。
焦がし葱、それは魂の香り。
久しぶりの暖かいラーメン。
次回蛇と林檎第二話「失われたCPUを求めて」
平成櫻に浪漫の嵐!
今は・・・俺だけで食べさせて欲しい。」

「そんなサク○大戦2サターン版風の次回予告なんて若い子には判んないよヨコシマ!」

「ちゃらっちゃらっちゃら!」

**************蛇*と*林*檎**************


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