椎名作品二次創作小説投稿広場


混沌と少年

1.その日暮らしの魔王


投稿者名:なまこ
投稿日時:06/ 8/28


 横島忠夫は勤労学生である。

 
 俺は念願の日本にやってきた。
 向学心もあり(ナルニアの教育水準は最低である) 体力面も問題なし(そりゃ学校教育の体育など本場の戦闘に比べれば、だ)しかも

帰国子女というそのままいけば人気者間違い無しな状況で高校生活をスタートした。
 したはずなんだけどなぁ……なんで女の敵とか言われて吊るし上げを食らっているんだろーか。
 いや、はじめて見る「じょしこーせー」に興奮しすぎてつい羽目を外したというのも事実なのだが。
 とにかく俺の高校生活は男どもからは勇者と祭り上げられ、女子からは絶対零度の視線で見られるといった形でスタートした。
 おかしい。何でこんなことになったんだろう?


 それはともかく、今切実なのは金だった。
 家賃は出して貰えるといっても築ウン十年のボロアパート。風呂はもちろん銭湯だし、日々の食費もままならない。
 折角日本に来たとゆーのに飢え死にだけはごめんである。
 と、ゆーわけで横島忠夫はゲリラと戦う戦士から、バイトを三つも掛け持ちする勤労学生へとクラスチェンジを遂げたのであった。


 そんな感じで一年と三ヶ月。
 特に変な事件に巻き込まれることもなく、さらにバイトを一つ増やし高校二年生へとクラスチェンジした俺はそれなりに余裕のある生活

を送っていた。
 なんといっても秘訣は自炊である。ついでにいうと金が無くてもそこらのカエルやヘビを食って暮らすくらいは余裕だ。
 それにしても、
「平和だなー」
少々日常に物足りなさを感じるのも仕方ないか。
「まぁ、死にかけるよりはましか。……さ、バイト行くか」
今日は日雇いの工事現場のバイトだ。


「おー、横島。今日も頑張れよ」
「横島ー、そこのコンクリ12番へ運んでくれ!」
「了解ッス、おやっさん」
コンクリの詰まった袋を二つ担いで移動する。これくらいの体力はあるんだがそのせいで小型重機扱いを受けているのもどうしたものか。
「ま、気に入られてるってことなんだけど……よっ、と」
「よーし、一旦休憩にするかぁ!」
現場監督――おやっさんの威勢のいい声が響く。
 俺も仕事の手を休めておやっさんのもとへと向かう。休憩時間は皆で飯を食う――それがこの現場の慣わしだ。
「横島、遅いぞー」
「へーい、すんません」
軽口を叩きながら到着。と、そこには見知らぬ人が二人いた。
 一人は貧弱そーな爺さん、もう一人は華奢な女の子だ。
「皆、よく聞いてくれ。今日から一緒に仕事をすることになったカオスさんとマリアさんだ」
「へ?」
バイト? 爺さんと女の子だぞ? 到底力仕事が出来るようには見えないんだが――
「む、よろしく頼む」
「よろしく・お願い・します」
「因みにマリアさんは『あんどろいど』っつーもんだそうだ」
「そう、何を隠そうこのマリアはかつて『ヨーロッパの魔王』と言われたこのわしが作り上げた最高傑作じゃ!」


 たしかにマリアは凄かった。鉄材を軽々と一人で運ぶさまはもはやシュールですらあった。
 が、カオスの爺さんの方は人並み以下にしか役にたたんかった。


 仕事が終わった後、俺は「腰が……」とか呻いている爺さんに話しかけた。
 目的はもちろん、
「なぁ、カオスの爺さん。その、マリアってあんたが作ったんだよな?」
「イエス・横島・さん」
「なんじゃ、小僧。おぬし錬金術にでも興味があるのか?」
「いや、そうじゃなく……あ、その錬金術とかいうのを学べばマリアみたいなのを作れるのか?」
マリア。そう、マリアはアンドロイドであるという点を除いて見れば美少女だ。
 流石に仕事中に飛びつくなんて失態はやらなかったが――メイドロボは男のロマンなのだ。
「あー、そうじゃのぅ。まぁ、わしほどの頭脳があれば可能じゃろうが……ときに小僧よ、おぬし霊能力とかそーいったもんを持っとった

りは?」
話が変な方向に向かってきたな……いや、これもメイドロボのためだ。真面目に答えよう。
「いや、全然。オカルトっぽいのにかかわったといえば――――ナルニアで死体の兵士に銃撃されたくらいか?」
うん、あれは怖かった。目がうつろでふらふらと近寄ってくるんだからなぁ……
「そーかそーか。ではおぬし、わしから錬金術を学んでみんか? 今なら月謝50万で懇切丁寧におしえてやるぞ!」
「ふざけんなっ! 誰が得体も知れんもんに50万もだすかいっ!」
いくらメイドロボのためとはいえ、50万もの金はない。
「むぅ、これでむこう一年は家賃の心配をせんでいいと思ったんじゃが……30万! これでどうじゃ?」
「因みに・もう・三ヶ月家賃を・払ってません」
……どんな生活してるんだ、こいつら。いや、まぁこの際カオスの爺さんはどうでもいい。マリアがそんな極貧生活を送っているのは人と

して良心が……もちろん下心も無くはないが。
「仕方ないな……5000円!」
「安すぎるわ! ヨーロッパの魔王をなんと心得る!? ええぃ、10万でどーだ」
「じゅーぶん高いわいっ! 貧乏学生にそんな金あるかい! 7000!」
「なかなか強情な小僧だな。5万!」
「8000!」
「3万!」
 ・
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 ・
 
 こーして俺は稀代の錬金術師だったらしい自称・魔王から錬金術を月1万2800円で習うことになった。

 ………………あれ?


 で、授業一回目。バイト帰りに俺の家で飯を貪り食った爺さんはおもむろに口を開いた。(ちなみにマリアは充電中)
「ものは相談じゃが、授業料に追加で飯っちゅーのはまかりならんか?」
俺はふと台所に目をやった。3合炊いた飯が一食でからである。俺も1合くらいは食ったけどな。
「おかわりは一杯までと言う制限つきなら、いいか」
だがそれ以上に喉を詰まらせてまで飯をかきこむ爺さんの姿に、同情してしまったのが間違いか。
「小僧、なかなかいいやつじゃの。さて、腹も一週間ぶりに満たされたことだし授業開始といくか」
「りょーかい。あ、先生とか師匠とか呼んだほうがいいか?」
「その口調で呼ばれてもな……今まで道理でよいぞ」
「分かったよ、爺さん。で、なにから教えてくれるんだ?」
いきなりマリアの作り方は教えて貰えんだろうし。そもそも頭がついていけるのか。
「うむ、その前に一つ質問じゃ。以前死体の兵士に銃撃されたと言っておったが、そのときどうやって対処した?」
う、いやな記憶を……たしか、あの時は――――


 咽るほどの血の匂いの中、俺は一人歩いていた。おそらくゲリラと軍の戦いがあって間もないんだろう。しばらく呆然としてから帰る途中だったことを思い出して歩き出したんだ。
 すると茂みからゲリラらしい少女が出てきて、
『貴様、ここでなにをしている!』
と、銃を突きつけてきたんだ。
 ま、これがなんちゅーか中々の美少女でな。
『おじょーさん、俺と一緒にめくるめく愛の世界にいきませんかっ!?』
『なにを言ってるんだお前は!』
『ちょっ、本気で撃つなよ!』
とかまぁ日常的なやり取りをしてたわけだ。
 ま、俺も彼女も油断していたと言うか周囲に気を張ってなかったんでな。運が悪かったとしか言いようがないんだが、倒れていた兵士の死体が数体起き上がって、こっちに向けて発砲してきたんだ。
 俺は当たる寸前で何とか回避。でも彼女のほうは肩口に一発もらっちまってね。
『だ、大丈夫か?』
『致命傷じゃない。それよりなんだ、こいつらは』
『俺だってしらねぇよ。死体が動くなんてな』
で、思い当たったんだ。死体といっても元が人間な以上、足の腱とか筋肉を動かすのに必要なところを攻撃すればいいんじゃないかってな。
 俺はすぐにそのことを彼女に伝え、親父から貰ったナイフ片手に奮闘したよ。
『いける! これなら――――』
『なんだ、お前、なかなか頼りになるじゃないか』
で、ばっさばっさと敵を切り倒して恙無く戦闘は終了。


「って感じだったんだが」
ま、その後にまだ手だけ動いた死体が彼女を撃って殺したと言う話もあるんだけどな。そこまでは俺も話したくない。
「ほぅ、そーかそーか。…………素質は十分と言うことか。なかなかいい拾い物をしたかもしれんの」
「あ、悪い。聞いてなかった」
「いや、大したことはいっとらん。それでだな、わしが何故こんなことを聞いたのかとゆーと」
興味本位じゃないのか?
「錬金術には科学技術とオカルトの技術、その両方が必要だからじゃ。今の話を聞く限り小僧、お前さんには霊能の素質がある!」
「へー、俺にそんなもんが……ちょっと待て! え、霊能ってあの美神令子みたいなGSの霊能力か!?」
生まれてこの方幽霊すら見たことはないんだが(動く死体除く)本当に俺にそんな能力が……
「ああ、このわしの見立てじゃ、まず間違いないじゃろう。と、言うわけで知識面はわしが教える。しかし、わしはまだこの国で正式なGSではないのでな、弟子を取ることはできん」
つまりなんだ、俺は素質はあるけどそれを育てる人がいないってことか。期待させといてそりゃないだろ。
「なのでわしの知り合いに頼んでみよう。それでいいか?」
感情をアップダウンさせすぎて少々前後不覚になっていた俺は、迷わずその話に乗った。否、乗ってしまった。


 日本に勉強しにきただけなのに、なにが悲しゅーてオカルトの勉強せなあかんねん。
 その事実に気がついたのは、3時間後。カオスの爺さんが帰った後のことだった。
 


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