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その光の先に

06-harder to breathe


投稿者名:カラス
投稿日時:06/ 8/26

「なっ?・・・どういうことですか!それは?」 

ピートが思わず声を挙げる。

「俺たちは足手まといだとでも言うのかよ!!」

と元々熱くなりやすいタイプの雪之丞がもうれつに抗議した。

「散々期待させてこれでござるか!?あんまりでござる!」

とはんば泣きそうな顔でシロが講義した。

「そう言うことではないのよ。」

まぁまぁ、と周りの講義を手で制しながら美智恵が言った。

「雪之丞君。あなた、さっき足手まといと言ったけどそれは大きな間違いよ。

むしろ、あなたたちに期待している。と言ったほうが正しいわ。」

雪之丞の方を向きながら、美知恵が力をこめて言った。

「なっ・・・!」

「順序が逆になってしまったわね。
では、これより、神魔両界の今後の対策について話します。」

その言葉に小竜姫が反応し再び席を立った。

「先ほどもいった通り、神魔界は引き続き調査を続けます。が、
それ以外にも、神界は積極的にこの事態の収拾に取り組んでいきます。
その一つとして、神界生粋の武闘派に直々による、ニュータントの討伐です。」

「な、そんなことをして大丈夫なのですか?」

と西条。

「地上にいる魔族を無やむやみに刺激する事態になりかねないわね。」

美神がボソッと呟いた。

「そのことについては心配ない。」

とワルキューレが答えた。

「人間を守護するのは神族の義務ですから。」

ジークが姉に続き説明する。

「ちゃんと魔界の最高指導者、及び四大魔王の許可の了承を得ているのね〜。」

とヒャクメ。

「ただし、期限付きなのね〜。」

「なるほど。そして、その期限とやらが“一ヶ月”ってワケ?」

エミが“わかったわよ”と言わんばかりの、クラスで一番早く問題が解き、あたりを優々と見回す時の小学生のような表情を顔に浮かべながら言った。

「お察しの通りです。エミさん。」

と小竜姫。

「ふん、なにさ偉そうに。そんなことみんな口に出していないだけでわかっていたわよ。」

と問題が解けて得意げになっている生徒を妬みつつ鼻であざける同じく小学生な美神。

「・・・で、わかっていただけたかしら?」

娘とその悪友の間に立ち込めつつある空気を敏感に察知しすかさず間を保つ美知恵。

「さっきも言ったけど、あたしは決してあなたたちを足手まといだとは思っていないわ。
あなたたちC班はいわば熱された、真っ赤になった鉄。
言うでしょ?“鉄は熱いうちに打て”って。
あなたたちは叩けば叩くほど、磨けば磨くほど鋭く輝くわ。」
 
そう言うと美智恵はチラッと横島の方を向いた。

(特に横島君、あなたはね。)

「・・・以上です。ここまでの説明の中で、意を唱える者はいますか?」

ぐるっと辺りを見渡す美知恵。しかし、誰も、何も言おうとはしなかった。みな一様に納得した様子で次の指示に備えていた。

その表情を見た美智恵もまた、全てを理解した様子でうっすらと微笑んだ。

「よろしい。

これもさっき言ったことと重なりますが、SEATは国連直属の組織です。
戦闘、研究、修行その他全て国連がサポート、及びその経費を負担しますので必要なことは遠慮なく言いなさい。

ではこれより、日本を守護する神族の討伐部隊、及びその立会人である魔族の穏健派が到着します。
五分後に施設入り口に集合。
では、解散!」

みなガタガタと席を立ち“伸び”をしたり首をコキコキ鳴らしたりして会議の緊迫した空気から開放されていった。

「・・・・・。」

横島をじっと見つめ何かを考えている雪之丞。

いや、今だけではない。ルシオラの名前が出たときも彼はずっと横島を見つめていた。

「な、なんだよ・・・。気色悪いな。」

野郎の熱烈な視線を本気で気持ちがり、嫌がる横島。そりゃそうだ。俺だって嫌だ。

そんなことはお構いなしにズカズカと横島の方へ歩み寄っていく雪之丞。

「・・・横島。ちょっとツラ貸せよ。」

そう言い、横島の肩に腕を引っ掛けてグイグイとドアの向こう、通路まで引っ張っていく。

「ちょ、ちょっと待て・・・いつからお前そんな趣味に・・・。
男に犯されるのはいやや〜〜!」

「んなわけねぇだろ!いいから、つべこべ言わずについて来い!」

そんなやり取りをしながら二人は自動ドアの向こうへと消えていった。



「・・・なんなんだよ。結局。」

と横島が問いかける。

「・・・。」

雪之丞は黙っている。以前その腕は横島の首に掛かったままだ。

「なんか話があったんだろ?」

雪之丞のその真剣な表情にもはや冗談を言う気もうせたらしく、いつになく真面目な対応をする横島。

「・・・・・お前・・・またなんかあったのか?いつものお前らしくないぜ。」

「なっ・・・!・・・・・。」

その言葉に驚く横島。が、次の瞬間には落ち着きを取り戻し、今度は下を向き黙りこくっている。

「・・・まぁ、言いたくないんだったら別にいいんだ。
お前が何を考え、悩んでいるのかはわからないが大体察しはつく。
けどな、忘れるなよ。

あのとき・・・お前が一番悩み、苦しんでたあのとき、俺はそこにいなかった。
けどな、次にお前が何か大切なものを護ろうとして戦うとき、
その隣には、俺がいる!」

「・・・・・!!」

「いや、俺だけじゃないな。ピートもタイガーも皆もだ。
忘れるなよ。」

雪之丞は横島の肩に回していた手を取り、そのまま横島の胸を一発ドスッと軽くどつき、施設の入り口へと向かった。


一人取り残され、下を向いている横島。

「・・・ったく・・・あのバトルマニアは・・・キザなことを平気で言いやがる。」

その表情はどこか笑っているようにも見えた。

「・・・さんきゅ。」

顔を上げ彼もまた、ゆっくりと歩き出した。




「・・・美神さん。横島さんに何かあったんですか?」

学校でもそして今も横島と雪之丞のやり取りをじっと見つめていたピートがぼそっともらした。

そこ言葉を聞いた美神はひどく驚いた。

美神だけではない。おキヌも、シロも、そしてタマモも同様の反応を示した。

「・・・・・どうして?」

自分では精一杯隠したつもりだろうがその言葉、その表情から彼女の動揺した様子が容易に感じ取ることができた。

「横島さんは精一杯悟られまいとしているようジャガノ〜わしらにはバレバレですノ〜。」

「なんたって、昨日今日の付き合いじゃありませんから。」

そういうピートとタイガーの顔は横島のことが心配そうだったがどこか誇らしげでもあった。

「そう・・・でも、横島君が隠したがっているのであれば、私たちは何も話せないわね。」

「いいんです。なにかがあって横島さんが苦しんでいる。
それだけがわかれば。」

「そうそう。
さて、そうとわかれば、なおのこと強くならねばノ〜。」

二人の爽やかなその表情に周りの空気は若干和やかなものになっていった。

「さて、
ではそろそろわれわれも向かいますか。」

ポンッと一回軽く手を叩き、穏やかな声でみんなを促す唐洲神父。

その言葉にみんなゾロゾロと移動して言った。


が、それに続かない人物が二人。

二人は何か思いつめたようにじっと一点を見つめて動こうとしなかった。

「どうしたの?おキヌちゃん。それにシロも、置いていくわよ。」

「あ、ごめんなさい。タマモちゃん。」

「言われなくてもすぐに行くでござる!」

そういいながら、二人も施設の入り口へと向かう集団の中に入っていった。



「さてと・・・。」

美智恵が腕時計の時刻を確認する。

「そろそろね・・・。」

「はて、そういえばここは確か結界が張ってあったんじゃないかの?」

カオスがまさにボケ老人。と言った間の抜けた声を挙げた。

「ええ。そうです。
この空間のみ一時的に結界を緩めてあります。」

と美智恵が答えた。

「魔族側の立会人って誰が来るんだ?」

と横島がワルキューレに向かって質問した。

「それは・・・いや、もう来られたようだ。」

そういいながらある一点を指差すワルキューレ。

みんなの視点がそこにくぎづけになる。

見ると、その空間だけちょうど陽炎のように歪んでいた。
その歪みは瞬くままに大きくなり。
やがて、はっきりと、大きく渦を巻き始めた。

その渦の中心から大きな、針のようにまっすぐ鋭い“角”が出てきた。
続いて、その角の持ち主、つまりは身体も渦の中から現れてきた。
それは大きな、翼をもったトカゲの様だった。その身体は灰色で、目は赤く血走っていた。

初めて見るがすぐにわかった。

“ドラゴン”だ。

「ええっと・・・こちらのドラゴン様が四大魔王様ですか?人かと思ってた。」

と軽く引きつった笑いを浮かべながら横島が言う。

「バカモノ!そのドラゴンに跨っているお方がそうだ!」

ジークが声を荒げながら手で方角を示す。指は決して指さない。

馬鹿でかいドラゴンから視線を外してジークが示した方を見ると、そこには漆黒の西洋風の甲冑に身を包んだ初老の男がいた。

「紹介しよう。この方が四大魔王であり、実質穏健派の代表であられる、アスモデウス様だ。」

とワルキューレが言った。

アスモデウスは跨っていた竜からおり、ゆっくりと威厳に満ちた足取りで美智子の元へやってきた。
 
「お初にお目にかかります。あなたがこの施設の代表、美智恵さんですな。」

そういいながら手を差し出し握手を求める。その動作は気品に満ちて、見るもの優雅ささえ感じさせるほどだった。悪魔のジェントルマン。

「はじめまして。美神美知恵です。」

そう言いながら手を取り、軽く握手した。

「先日はアシュタロスが多大なご迷惑をおかけして・・・そのことについては大変遺憾に思っております。
・・・哀れな男ですよ、あいつは。
昔からよく知ってましてね。あいつと私の関係は先輩、後輩のそれに近いものでした。

純粋なやつでしたよ・・・ますっぐで・・・それが・・・・。」

そこで言葉を切り、あさっての方角を向いて目を凝らし始めた。

「おっとそこんなことをしているうちに、神族の討伐隊が到着したようですな。」

アスモデウスの目線の先にさっきと同じ渦ができていた。


ザッザッザッ・・・。


渦の中から、アスモデウスのそれとは対照的な白銀の甲冑に身を包んだ若い、流れるような金髪のミドルヘアーの男を先頭に同じ鎧を着た数十人の男女が出てきた。ざっと見たところ10代らしき女性からから明らかにご老人と呼ぶべき男性まで、その年齢は様々であったが、共通していることがひとつあった。

全員、背中に羽が生えている。

その中の一人、先ほど先導して出てきたあの金髪の線の細い若者がキビキビとした、アスモデウスとは対照的な足取りで彼もまた、美智恵の元へ向かった。

カッ、っと乾いた音をたて、かかとをそろえその場で敬礼した。

「始めまして。天使隊アークエンジェル、天使隊隊長 ミカエルです。」

「美神美知恵です。こちらこそ、現時点より一ヶ月間、よろしくお願いします。」

と美智恵も敬礼で返した。

「お任せください。」

「もちろん、全国各地の寺院の神々も自分の土地、及びその周辺を護衛しますが、
天使隊の皆さんは全世界を回って、土地神がカバーしきれない地帯をパトロールします。」

と小竜姫が説明した。

「お、忘れるところだった。」

ポン、と手を叩きアスモデウスが言った。

「ミカエル君、君の兄上ルシファーから伝言だよ。
“とっととくたばれ。”
だそうだ。」

それを聞いたミカエルは少し眉を顰め、めんどくさそうにため息を吐いた。

「“どういたしましてクソ兄貴。”
とお伝えください。」

「おいおい、私を挟んで兄弟げんかはしないでおくれよ。」

と言い、アスモデウスは快活に、声を挙げて笑った。

「(・・・あの人、何言ってるんすか?)」

と横島が声を潜め美神に尋ねた。

「(何言ってんのあんた!サタンの右腕であり始まりの天使であるルシファーともっとも神に近い天使、ミカエルは兄弟で至極仲が悪いってのは聖書にも載ってる超有名な話でしょ!マジで少しは勉強しなさい!)」

「横島さん?」

「は、はひぃ!?ごめんなさい!!」

密談の途中にいきなり声をかけられて横島はまるでエビのように反り返った。

怒られると思ったのだろう。横島は今自分に声をかけた人物が誰であるかもわかっていないのに反射的に謝り、その少しあとから声の主は誰だったのだろう?と探し始めた。

「やっぱり。あなたが横島さんね。」

声の方を向くと、数十人はいる天使隊の最前列でクスクスと含み笑いをしているロングヘアーの美しい女性がいた。

その女性は他の天使同様甲冑に身を包んでいて、その顔と髪は新雪のように白かった。

髪留めの代わりにゆりの花を左側頭部に一本刺していて、そのため、右側の髪はそのまま眉のほんの上まで垂れているのに、左側は垂れても、耳に掛かってもいず、美しいおでこと耳が見えていた。

「うわさ道理の人ね。」

とニコ、と横島に微笑んだ。

「・・・・!!」

その瞬間、横島の中で何かのスイッチが入った。

「おじょうさ〜ん!!」

その可憐な女性の元へ突っ込んでいく横島。その姿、いやむしろ気迫は獲物の見つけた時のライオンのそれだった。

「本当にうわさ道理かどうか、これから二人っきりで確認し・・・いぃいぃい!」

そのまま、女性の胸元にクリア・トウ・ランドする矢先、顔に無数の剣先が向けられ、やむなく急ブレーキする横島。着陸中止。

「無礼者!四大天使が一人、ガブリエル様に向かって何をするか!」

横島に剣を向けた天使の一人が叫んだ!

「す、すいませう。」

顔にをめいいっぱい溜め込んだ冷や汗と引きつった笑いを浮かばせながら横島が今にも消えそうな声で言った。

「かまいませんよ。けど本当に、うわさ道理の人。」

とガブリエルは横島とはまた違ったはんばあきれながら顔を引きつらせ、笑った。

その声にみな一斉に剣を納める。

ただ、一人の男を除いて。

「・・・・・。」

「サキエル、もういいでしょ。ほら、あなたも剣を納めて。」

ガブリエルにサキエルと呼ばれた男は金髪のショートヘアーに、がっちりした感じの顔をしていて、それと無口とが合い重なって無骨な印象を周りに与えていた。

「・・・・・。」

ゆっくりと剣を収めるサキエル。しかし、その視線はなおも横島をじっと捉え続けていた。

ちなみにそのとき周りの人物は「あぁ、またか。」と言った様子であきれながら横島を見つめるか、もしくは関わりたくない一心で意識的に目を合わさないようにしていた。

(な、なんだこいつ?ほんとに天使か?)

と思った横島だがさすがにもう一度剣先を突きつけられたらたまらないので黙っていた。

無言で見つめあう二人。その気まずい沈黙を破ったのはなんと意外にもアスモデウスだった。

「おぉ!サキエル君じゃないかね!元気にしてたかね?」

その言葉に反応し、ようやく横島から視線をはずし、

「・・・お久しぶりです。」

とアスモデウスの方を向き一礼した。

「かれとは長い付き合いでね。
デタントが立案されたときに彼を神界の上層部が私の元へ使わせたのがきっかけでした。
死の天使である彼はその後もちょくちょく、事あるごとに大使として私の元へ来てくれましたよ。」

と快活に周りに説明するその様はサキエルの無骨さのせいでより際立ち、どっちが天使でどっちが悪魔なのか一瞬忘れるほどだった。

「・・・ま、自己紹介はこのくらいにしといて。」

ミカエルが不機嫌な様子で呟いた。どうやら横島たちにペースを乱されたのが原因のようだ。

「そろそろ我々は任務に着きます。」

右手をさっと上げ天使全員にハンドサインを送り、天使たちもまたコクリと頷き翼を大きく広げた。幾重もの天使がいっせいにその純白の翼を広げるさまはどこか幻想的で壮大だった。

「では、また会いましょう。」

まばゆい光が彼らを包む。

「横島さんも。また。」

とガブリエルが言い終わるや否や天使の一団の纏う光はさらに大きく、眩しくなり、その後消えていった。

後には透き通るような羽がいくつも宙を舞っていた。

「さて、それでは、私も。またお会いしましょう。
機会があればね。」

竜に跨りながらアスモデウスが手をあげ周りをぐるっと見渡しながら挨拶した。
その様子はまるで十九世紀ロシアの社交人の様だった。

その後再びうねり始めた漆黒の渦の中に身を投じ、彼もまた、消えていった。



「・・・さてと。」

ふぅ、と肩の力を抜く美智恵。

「これにより、本会議は終了します。各班、速やかに任務へと移るように。
では、解散!」




その夜、その夜は月のない真っ暗な夜だった。

その黒の海の中、カラスの鳴き声がやけに響いた。


「なあ、タマモ?もう寝たでござるか?」

事務所の屋根裏部屋。
そこに並んだ二つのベッド。

そこに横たわっている、二つの影。

「・・・寝た。」

「起きているではござらんか!」

「うっさいわね。で、なんの様なの?」

「・・・・・拙者、もっと強く成りたいでござる。」

「・・・なれば?」

「ただ強くなるだけじゃだめなんでござる。
もっと、・・・うまくは言えないが、もっと、もっと強く。」

「で?」

「そのために、どうしても行かなければならない所があるのでござる。」

「行けば?」

「そこに・・・おぬしも一緒に・・・」

「いいわよ。」

「え?」

予想外にも、あまりにもすんなり通ったので驚き、タマモの方を向くシロ。

タマモは静かにまっすぐにシロの目を見据えていた。

「あたしも行けばいいんでしょ?」

「い、いやそうでござるが・・・。」

(もっと渋ると思ったのに・・・。)

「さ、これでお終い。とっとと寝かせてよね。
明日は早いんでしょ。」

そういって寝返りを打ち、反対の方を向くタマモ。

「・・・・・。」

その背中をじっと見据えるシロ。

やがて、
ふっと笑みを零し、
彼女もまた、
夢の世界へと落ちていった。




(なにかが足りんのジャ。何かが。)

自分の部屋で一心不乱に本を読んでいるタイガー。
机の左右に積み木の様に積まれた本の背表紙には、ESPやら超能力やらそんな言葉が刻まれていた。

「・・・ふぅ。」

ばたんと本を閉じ、眉間を押さえる。どうやら、この本にも彼が求めた答えはなかったようだ。

「・・・。」

今まで読んでいた本を閉じ、机の左に積まれた山をさらに高くし、右手の山を低くする。

疲れきった様子で、パラパラとページをめくるタイガー。

「・・・ん?」

タイガーの手の動きが止まり、開かれたページに釘付けになる。

見る見るうちに目の輝きが増すタイガー。

「こ、これジャー!!ワシが求めとったんはこれなんジャー!」

その本のタイトルは「催眠術の神秘」





「主よ・・・。」

悲痛な顔つきでひざを突き、手と手の指を絡ませて握り、神の祭壇に祈りをささげるピート。

「・・・どうしたんだい?こんな遅くに。」

唐洲神父が寝巻き姿で歩みよりながら声をかけた。

「・・・先生こそ、どうしたんですか?」

「いやなに、ちょっとコーヒーが飲みたくなってね。」

そういいながら手に持ったマグカップを軽く目線の位置まで上げる。

「・・・・・。」

「・・・・・。」

しばし、二人の指定は無言で祭壇に高く掲げられた十字架を見つめていた。

「・・・ピート君。私がカトリックから破門された話はしたかな?」

その回答に頬を綻ばせながら弟子を見つめる唐洲。

「私もそう思うよ。我ながらね。」

そう言い、自嘲気味に笑った。

そうしてもう一度愛弟子の目をじっと見つめる。

「・・・大切なことは行為ではない。」

「え?」

「信仰は心でするものなのだよ。心でね。

主の教えは、すなわち「愛」だ。

愛する人のため、何かをする。

それこそが本当の信仰ではいかと私は思うよ。

たとえその行為が神に背くような行為だとしてもね。

矛盾しているようだが、信仰とは本来そうあるべきなのではないだろうか・・・。」

「・・・・!!」

その言葉に驚くピート。
その言葉こそ、自分が今主に問いかけていた“答え”だったから。

その中、穏やかな様子でコーヒーをすする唐洲。

「おや?冷めてしまったな。まぁ、夏だからちょうどいいか。

じゃ、おやすみ。」

そう言い、自らの寝室へと戻っていった。

「・・・・・ありがとうございます。」

だれもいない礼拝堂にピートの言葉が響いていった。





「わたしは・・・。」

おキヌはベッドのなか身を起こして窓の向こうを見つめていた。

都会のそらには星がない。その代わり地上に眩いほど星が輝いている。

「わたしは、負けない。

誰よりも。

あなたにも。」

彼女の決意は誰の耳にも届かなかった。
彼女以外には。





朝、はるか東から顔を出す太陽。

朝日は夕日と同じようにほんの一瞬だけ輝く。が、その色は悲しい、燃えるような朱ではない。
その黄金色の光は希望の象徴。



旅立ちのとき。


美神事務所の執務室におかれた書置き。


都庁行きの切符。


遊園地のチケット。


「エミさん。」

「なぁに?ピート。こんなに朝早くに・・・あ、もしかしてデートのお申込みなワケ?
だったら今すぐ・・・」

「僕に、黒魔術を教えてください。」

「!」


小笠原事務所で交わされる会話。


そして・・・

「久しぶりだな横島。いつ以来だ右の。」

「さぁのう左の。」

「よう、鬼門。」


妙神寺の門前にいる青年。


「よし、んじゃやるか。」



旅立ちのとき。


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