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BACK TO THE PAST!

誰が為に鐘は鳴る1


投稿者名:核砂糖
投稿日時:06/ 8/24

「じゃぁ俺、行くわ。色々と世話になったな」
「うう〜・・・また来てくだされぇ〜・・・」
「泣くなシロ。それでも武士の子かっ!」


その日の朝早く。ありとあらゆる手段で引きとめようとする犬塚親子をやっとの事で説き伏せ、俺は人狼の里の外れで旅立つ準備をしていた。

別れを惜しんでくれるのか、べそをかくシロを、ギンの奴が父親らしく叱咤する。
だが父親の方も表面上だけは取り繕っているのだがだらりと力なく垂れ下がった尻尾のおかげで感情丸出しだった。
いかつい顔している割りには純な奴だなおい・・・。

そう言えば驚くべき事に、この男。この老け顔でなんと俺よりも年下なのだと言う。その事実が判明してからと言うもの、俺はこいつを呼び捨てするようになり、ついでに俺の事は親子共々下の名前で呼ぶようにと頼んだ。
自分で言っといてなんだがシマタダ・・・と言うのはどうも馴染めない。ヨコシマ、の面影が残るヨーコの方がしっくりくる。


「うう〜〜・・・ヨーコ殿、約束忘れないでくだされよ〜」
「分かってるって。心配するなよ」

約束、と言うのはもう一度出合った時に、まだ誰の弟子でもなかったら、シロを俺の弟子にしてやるという約束だった。
シロは、人の身でありながら高出力の霊波刀を操り、様態不明の術(文珠の事)で病を治し、相手が馬鹿だったとはいえザコだったとはいえ一撃で人狼を倒した俺に感服し、弟子入りを申し込んできたのだ。
しかしここで俺がこいつを弟子にとってしまうと、シロとこの時代の俺との関係・・・いや、それどころか数々の事象がどう変化するか全く分からない。
よって何度断ろうとも引き下がらないシロを、妥協しつつ何とか丸め込み、このような約束を取り付ける羽目になった。


ちなみにその時、俺にそんな約束を結ばせる事に成功し、大喜びしているシロを、見ている方が切なくなるぐらいのモノ欲しげな目線で見つめている犬塚ギンが居た訳で、
俺は仕方なく、中に文珠でも入れてやろうとギンに小さな巾着をもってくるように言った。
勝手に発動しては困るだろうとキーワードを固定しておこうと思い(何気にこんな事もできるのだ)、どんな文字を入れるか迷っているうちに、俺はある事を思いついた。

「おいギン。この巾着を決して開けず、そして肌身離さず持ってろよ?そうしたらきっとまた会えるだろうから」
「ほ、本当ですか?」

・・・ギンの奴が俺に好意を持っているのは何となく分かっていたから、こう言っておけば本当にこいつは巾着を肌身離さないだろう。
巾着の中身の文珠には蘇生系の文字を込めてある。これはいつか訪れるであろう妖刀八房事件への布石だ。
いくら今回は目を喪わずに済んでいるとはいえ八房は強力だ(犬飼はともかく)。なるたけ手を打っておいた方がいい。


話を戻そう。
ともかく旅立ちの準備が済んだ俺はシロたちに別れも告げたし(他の村人にも告げたがここでは省く)、時空の歪みに向けて歩を進めた。
しかし、そこを通り抜ける寸前、ふととある疑問が思い起こされた。

くるりと振り返り、俺は口を開く。
「なぁ、何で見ず知らずの俺にここまでしてくれたんだ?」

俺の知っているシロが、俺になにかとしてくれるのは分かる。でも、このシロと俺は赤の他人のはずなのに・・・


それはずっと前からの疑問だった。

問いに対し、シロは恥ずかしそうに口篭もる。
「えっと・・・それは・・・・その・・・」
「ん?なんだ?何言っても怒らなって」

己の背中でもじもじし始めるシロだったが、俺に急かされ、ついに口を割った。

「・・・実は、ヨーコ殿が拙者を助けてくれた時、覚えていないはずの母上が来てくれたのかと勘違いしてしまったのでござるよ。

父上はあまり似ていないと言うのでござるが、見れば見るほどシマタダ殿は拙者が考えていた母親像そっくりで・・・、


それで、シマタダ殿が破滅の道に進んでいると聞いて、何と言うかその・・・絶対に死なれたくないと思ったのでござるよ」

「は、母上って・・・」

「・・・!すみませぬ!・・・迷惑でござったろう?」

「いや、そーゆー訳じゃねぇが・・・。そんな事言われた事無くてさ」

思っても見なかったシロの台詞に、俺はぽりぽりと頬を掻く。
ソレはそうだろう。今まで一度だって人の親だったことも無いし、その上もしそう言われるとしてもその時は「母」の正反対に当たる言葉のはずだ。


何だかこっぱずかしくなって、俺は、「そっか、そっか・・・」とか何とか謎な事をつぶやきつつ、時空ゲートを抜けていった。






人狼の里の外れ。新たなる旅立ちを決意した俺は荷物(と言っても犬塚親子が包んでくれた干し肉と水だけなのだが)を持ち、時空のゆがみの中に飛び込んだ。










BACK TO THE PAST!
  ―第三部―
誰が為に鐘は鳴る1


















『GS資格試験、試合選手控え室』




―――10%だ。10%の力で勝負してやろう。せめてものハンデだ・・・!

わ〜わ〜!!




遠くから僅かに聞こえる喧騒は、ここはお前のいるべき所じゃない、と彼の耳に囁くようだった。

「ううちくしょう。無心・・・無心だ。余計な事を考えなければきっとなるようになる。
しっかし、もしもの事を考えるとやっぱり欲望も出てきたり・・・!」

老若男女問わず、それどころか「こいつは本当に人間か?」と問いたくなるような様々な者達が試合に先駆けて最後の精神統一を図っている中、
控え室の一番隅っこの目立ちにくいベンチの上で、横島忠夫は一人頭を抱えて悶々としていた。

そりゃそうだろう。実力は皆無ではあるが、彼は第一試合を突破したのだ。もしもう一度勝てればGS免許取得。バラ色の人生が待っている。
だが負けたら下手すりゃ死亡。良くても大怪我は免れない。相手によっては首と胴が泣き別れ・・・とか、緑色の泡となって消滅・・・とか、あべし!・・・とか、とんでもない目に会う可能性だってある。

「いや待てよ。そーいやこの試合はギブアップが認められてるんだったよな。そーだ、運良く今回もまた敵が自爆してくれそうな奴だったらそれで良し。そーじゃなかったらさっさとギブアップしてしまえばーのか!」

あっはっはっは〜〜〜な〜んだ簡単じゃぁ〜ん・・・と自己暗示をかけ始めた横島は、もうすぐ試合が始まるので席を立とうとした。ありえないぐらい足が震えて奇妙なステップを踏みながら。

するとそんな彼に声をかけるものが一人。
「よう。お前、美神除霊事務所の助手の横島って奴だろ?」

「・・・(すたすたすた)」

「おいコラちょっと待て・・・!無視すんなっつーの!!」
「やかましいっ!美形の、しかも第一試合突破するほどの美形の有力者の、美形野郎なんかと話したくないわぁ!!!
・・・そーか見下してるんやな?実力も美しさも自分に劣っとる哀れな男をあざ笑おうっちゅーんやなっ!?
ドチクショー!美形なんか嫌いやぁぁぁぁ!!」
「落ち着けアホがっ!」
「アウチッ!」

横島の言う通り、ストレスがピークに達して突然喚きだした横島に突っ込みを入れ、静かにさせたその男は・・・結構な美形だった。年は二十歳過ぎぐらいだろうか。Gパンに赤いTシャツ、黒い革ジャンがうぜぇほど似合っている。


(で、美形さんよ。俺に何か用?)「けっ、スカした顔しやがって・・・お前なんか次の試合で美神さんとでも当たって死んじまえ!」
「・・・本音と多々前が逆になってねぇか?・・・まぁいいか。
何、そう身構えるなよ。あんまし思いつめてるみたいだから、ちょっとアドバイスしてやろうと思っただけだ」
「・・・よけーなお世話じゃっ!」
「ホントにそうかよ。足が震えて今にも地面を削り取りそうだぞ」
「うるへー!!」
「そう邪険にするなよ。俺の見たところ・・・







お前は、強くなる」

「は?」

目の前のいけ好かない男から逃げ出す算段を立てていた横島は、突然そいつから飛び出した思いもよらぬ言葉にあっけに取られた。

「俺が強いって?何言ってやがる・・・第一試合だって運で切り抜けただけだぞ」
「運も実力のうち・・・って言うだろ?それに誰かから聞かなかったか?この業界において幸運は実力が呼び寄せるって・・・」

―――あのね、幸運を呼ぶのもGSの実力なんですって。

昨日の、気立ての良い幽霊少女の言葉が思い起こされる。

「お、俺が・・・」
横島は思わず自分の手の平を見つめた。

この手には、そんなもの凄い力が秘められているのだろーか・・・?信じられん、信じられんが本当にもしかしてもしかすると・・・

彼がネガティブな思考から、一挙にポジティブを通り越して怪しげな妄想に突入し始めた時、美形野郎が再び口を開いた。
「そうそう。そう言えばお前、随分といいアイテム着けてるじゃないか」
「はぁ?なんじゃそら。俺は知らんぞ?」
「おいおい・・・それじゃ宝の持ち腐れもいーとこじゃねぇか・・・。
お前のバンダナ・・・かなりの霊力を感じるぞ?」
「バンダナ・・・?「横島ぁぁぁぁァァァァァっっ!!!!!」ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」

横島が、そーいや小龍姫様が竜気がどーのとか言ってたなぁ・・・。と記憶を掘り起こそうとしたその時、耳をつんざくような怒声と共に、霊力バリバリの神通昆が、風を切って振り下ろされた。彼の頭目掛けて。そして「ぱぐしゃぁ!」とかいう、決して有り得てはいけないような破壊的なSEが鳴り響いた。
周りの受験者が、何事かと顔を上げると、そこには夜叉・・・もとい仁王立ちする美神令子が、その弟子の首根っこを締め上げていた。


「なにグズグズしてんのよ!もう試合が始まるのよ!?
試合時間をすっぽかして失格になんてなったら事務所の恥になるでしょーが!!!


・・・はぁ?俺に実力?何言ってンのよ!!!そんなものあるわけないでしょ!
あんたはただ事務所の看板に泥を塗らない程度に頑張るだけでいいのよ!!


ほらっ!きびきび歩けっ!試合時間はもう過ぎてんのよ!!!」


彼女と彼は去っていった。
赤い筋を残して・・・。


突如現われた嵐のような女性に、控え室の選手達は皆固まっていた。そして彼女がいなくなるとおずおずと精神統一に戻った。
「GSにはなりたいけど、ああはなりたくねぇなぁ・・・」などと思いながら。


先ほど横島に話し掛けていた美形野郎は一人、
「う〜ん。余計だったかな・・・。
でもま、大丈夫だろう。たぶん」
と、ごちた。

















ほぼ原作どおりののっぴょんぴょーんなので省略。

















GS試験会場男子トイレにて、横島は狂喜していた。

それはそうだろう。何故なら彼は、本当にGS免許を取得してしまったのだ。
これさえあればもはや赤貧に困る事もなかろう。女の子にだってモテモテだ!
きっと公共機関だって割引がきいたりするに違いない。新幹線に格安で乗れたり、飛行機だって良い席取り放題なのだろう。
夢は加速的に広がる。

「そうだ悪霊退治した時の決めゼリフ・・・!今のうちに考えとこう。

『正義の捌きを受けるが良い!』

『極楽に送ってやるぜ!』
いやいや・・・!

『愛』!このフレーズは入れたいな。
しかももっとこー、燃える男のたくましさみたいなモノを・・・!」

テンションの上昇に伴いいつもより余計に妄想が拡がる横島。
その表情は天にも昇るような幸せが浮かび、足は今にもステップを踏みそうだ。


「・・・おぬし、浮かれるのはまだ早いぞ?」
一見危ない人になりかけていた横島に、何処からともなく声がかかる。

「なんだよバンダナ・・・。人がせっかく喜んでんのに水を刺すなっちゅーの!」
横島は、先ほどから踏み始めたボックスステップを止め、己の額に向かって話し掛けた。
・・・別に、試合の後遺症で彼の頭がイヤンな感じになってしまった訳ではない。彼のバンダナには小龍姫という竜神により、横島をサポートするべく生み出された人格が宿っているのだ。

「おぬし、この先の試験のルールを聞いておっただろう?
この先はギブアップは一切認められん。その上相手は二試合を勝ち抜いてきた強豪ばかりだ。しかも、メドーサの手の内の者に当たる可能性だってある。
下手をしなくても命を落とすやもしれんぞ?」

「うっ・・・確かに。でも、どうしても勝てそうじゃなかったら逃げちまえば・・・!」
「馬鹿者!ギブアップは認められないと言っておろーが!!!
しかもお前の上司・・・ここまで来たからには敵前逃亡は許すまい」


横島の脳裏に、何処かの激戦地で、戦車の上で高笑いする美神のイメージが浮かぶ。

―――敵前逃亡するようなチキン野郎は軍事裁判を待たずとも私自ら撃ち殺してくれるわー!!

―――ひぃぃぃぃぃっ!!!


「げ〜!どうすんだよドラ○もん!何とかしてくれ!!」
「おぬしが何とかするんじゃ!!!そして私はドラ○もんじゃない!!つーかドラ○もんってなんだっ!?

そうそう、それともう一つ。この試合の前に話し掛けてきた男がいただろう。あやつには気をつけろ」
可笑しな事を言い出すバンダナに、横島は眉をひそめた。
「なんで?そうおっかなそうには見えんかったけど」
「・・・あの時の私は一種の冬眠状態にあった。例え一流の霊能者でも気付けるはずがなかったのだ。実際、美神令子でも私の存在には気付いていなかっただろう?」
「あ、ああ」
「それなのにあやつは私の存在を感じ取っていたようだ・・・。
おそらく只者ではない」
「そ、そうなんか・・・」

横島はあの時の美形野郎を思い出そうとした。しかし、思い出してみても別段凄そうな所は思いつかない。
ただうざったいだけである。

ふ〜ん。あんな優男がねぇ・・・。よくわかんない業界やなぁ・・・。


横島がそんな事を考えていると、突然ドアが荒々しく開け放たれた。

「ん?あいつ、横島とかいう奴じゃねぇですかい?」
「あらホント。雪ノ丞のお気に入りね」

トイレに入ってきたのは、「白龍」の刺繍の入った黒い胴着に身を包む、何だかお近付きになりたくないタイプの男二人だった。(特にでかい方はいろんな意味で)













ちょいと原作どおりに進んでおりますのでのっぴょんぴょーんでしばらくお待ちください。(さすがに原作をそのままトレースするのは辛いんですって!)













「いつも俺を見下しやがって!俺だってメドーサ様の・・・!!「陰念!!」!?しまっ・・・」

時間は飛び、陰念の失言シーンへと時は移った。

「あれ。いない・・・?」

思わずNGワードを口にしてしまったお茶目な陰念は、慌ててあたりを見渡すも、幸い横島はもはや逃亡済みで、最悪の事態は避けられたようであったかのように見えた。

「あ、危なかったな・・・。もうちょっとでえらい事になるとこだったぜ・・・」
自分で種をまいておいて、まるで自分のせいでないように額を拭う陰念。自己中ここに極まれり。
しかしいつものならこの辺で雪ノ丞か勘九郎の鉄拳制裁が入るのだが、何だか勘九郎の様子がおかしい。険しい顔でトイレの片隅を見つめている。


「・・・出てらっしゃい。何もこの場で争う気はないわ」

「あ〜。やっぱバレてる?」

「なっ!?他にまだいたのかっ!!」

カラカラカラ・・・・じゃばばばばばばばばば・・・・。

いかにも便所らしい効果音と共に、個室トイレの一つから一人の男が現われる。
その男がいかにもそれらしく笑うとキラリとその歯がきらめいた。
それは、一歩間違えば口の中が焼け爛れてしまうと言う、霊力の発光を利用した高度な技であるのだが、この場では誰もがただうざったくなるだけであった。

「くそっ、死ねっ!!」
「お止めっ!」
そいつの顔を見るや否や攻撃を加えようとする陰念を、勘九郎は摘み上げるようにして止めた。俗に言う「子猫吊り」だ。(ぞっとするほど似合っていないが)
釣り上げられた陰念は勘九郎に抗議を申し立てる。
「(何しやがる!早く何とかしないと俺達・・・)」
「(ここで暴れたら騒ぎがでかくなるでしょーが!!)」


「・・・用をたし終えた以上、トイレに篭る気にはなれねぇからな。俺はここで退散させてもらうぜ」
ぎゃぁぎゃぁと内輪揉めを始めた二人を尻目に、男・・・先ほど横島に話し掛けていた美形野郎はトイレを出て行く。もちろん手は洗ってだ。

「あ、待ちなさい!!」
「はっ、そんなに慌てるなよ。アレを聞いただけじゃ証拠にはならん。
それに俺は不正調査の人間じゃねぇからよ」

勘九郎の伸ばした手はむなしく空を掻き、トイレの扉は閉まってしまった。





「や、やっばぁ〜〜〜い!!」

トイレの中には、握りこぶしを口元に当てて叫ぶ勘九郎が残されて、

そしてそんな彼に気分を悪くした陰念がおもいっきり顔をしかめ、そして勘九郎におもいっきり殴られた。























まずい事になっていた。

何がまずいって?それは陰念の馬鹿が不用意にメドーサさまの名前を口走ってしまったのを、聞いていた者がいたのだ。
始め陰念は、ヨコシマとか言うちょっと素質のありそうな奴に、その名の通り因縁をつけていたのだが、やがて勝手にヒートアップしてあろう事かメドーサの名前を出してしまったのだ。運良く、それを口走った時、既にヨコシマは退散していたのだが、男子トイレの個室の一人にもう一人の男がいたのだそうだ。

即刻手を打たなければ計画は失敗する。下手をすると俺達の命も危ない。

あのメドーサとか言う奴は・・・必要とあればなんの躊躇いも無く部下を殺せる・・・。そう言う奴だ。



















「陰念・・・お前よくもやってくれたな・・・」
「し、しかたねぇだろ。つい言っちまったんだから」
「あんたねぇ・・・つい、で済む問題じゃないわよ?」

GS試験会場、その最も人気の無い片隅の一つ。そこに同じデザインの胴着に身を包んだ三人の男が身を寄せ合っていた。
・・・同じカッコでコソコソしているからといって、別にペアルックと言うわけでもないし、くそみそで「ウホッ」な怪しい関係と言うわけでもない。

だか、今の彼らはとてつもないピンチを迎えていた。



「ちくしょう、あのヨコシマとか言う奴のせいだ。あいつさえいなけりゃ・・・」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。どう見ても絡んでたのはあんたでしょーが」
「だがせめてもの救いだな・・・。結局そのヨコシマとか言う奴には聞かれなかったんだろう?
あいつは美神除霊事務所の人間だ。会場からの注目度が高い上に、こっちを探っている節があるからな」
傷だらけチンピラの陰念、2m近い大オカマ勘九郎、そしてチビバトルマニアの雪ノ丞は肩を寄せ合い、今後の方針を相談していた。
一歩間違えば下手すりゃあの世逝き。みんな真面目に相談中だった。

「さっきメドーサ様から指令が着たわ。やっぱ消すしかないわね」
さも当然のようにそう口走る勘九郎。雪ノ丞は嫌悪の表情を浮かべた。
「ちっ・・・。気にいらねぇな」
「しょーがねーだろ。
・・・雪ノ丞、おめービビッてんのか?」
「てめぇ・・・喧嘩売ってるのか?」
にらみ合う雪ノ丞と陰念。今にも殴り合いに発展しそうだった。実際霊力による衝突が起きており、パリパリと放電現象が起き始めている。
しかしすかさず勘九郎が二人の尻に手を伸ばし、甘い囁きで二人を仲裁する。
「あ〜らまた問題起こす気?
そう言う悪い子には・・・お仕置きしてあげようかしら?」

雪ノ丞と陰念はすぐさま和解した。・・・必死に尻をガードしながら。


「で、どうする?誰が手を下すんだ?」
「そうねぇ・・・相手の様子から見ると特に目立った能力があるわけじゃないし陰念でも十分いけると思うわ」
勘九郎の言葉に、陰念は性懲りもなく感情を高ぶらせるが、
「そりゃどういうことだ!?・・・・・・いえ、ナンデモアリマセン」
勘九郎が笑顔で、左手に作った輪っかに、右手で作った棒を出し入れさせる動作をしたのを見て大人しくなる。


「でもやるのは雪ノ丞、あんたよ」
「はぁっ!?何で俺なんだよ!」
「あたしも陰念もこの後試合なのよ。あんたはたった今終わった所でしょ」
「だからってイヤだね。俺は強くなる為にメドーサに付く事にしたんだ。人殺しになるためじゃねぇよ」
「あんたねぇ・・・」
「くっくっく・・・。なんだ、やっぱり怖いのかよ雪ノ丞!これだからマザコン野郎は・・・」
「陰念!てめぇ!!!」

ぎゃぁぎゃぁ・・・!

またもや騒ぎ出す三人組。
しかし今度はそんな彼らを戒めるべく忍び寄ってきた存在があった。


「・・・馬鹿なヘマをやったとか聞いたから、人が何とか小龍姫の隙を見て様子を見に着てやったっていうのに。


―――何をやっているんだい、お前達?」


まるで氷・・・いや、凍て付く鉄塊の如く冷たく固い声が響いた。


「メ、メドーサ様・・・」

いち早く硬直から覚めた勘九郎が地面に跪き、他の二人も慌ててそれに続く。

「まったく。ただでさえドジを踏んでるというのに、これ以上見苦しい真似をさらすんじゃないよ!」

「は、すみません・・・」
普段反抗的な陰念も、この女の前ではまるで子供のようだった。

「あんたたちはさっさと試合会場へお行き。遅刻で失格になったなんて聞いた日にゃぁ生まれてきた事を後悔させてやるわよ」
「「はいぃっ!」」
この上なく不機嫌そうな、魔性の瞳に睨まれて、勘九郎と陰念は我先にとこの場から退散した。


「それと雪ノ丞。さっきも言われた通り目撃者の始末はお前がつけるんだよ」
「お、俺は・・・」
「へぇ・・・・・・・・・・




―――あたしのいうことが聞けないってのかい?」

再び目線にチカラを込めるメドーサ。
しかし今度は怒りでなく、ちょうど絶体絶命の獲物を前にした猛獣のような・・・残虐な遊び心を秘めた目線だった。

その目に見入られた雪ノ丞は全身の血が止まってしまったような感覚に捕らわれる。

(ああ、そう言えばこいつは・・・)

そして思い出す、この魔族の名前をもつ北欧神話の怪物を。






「・・・・いえ。そんな事は、ありません」

「しっかりやるんだよ」

メドーサは、青い顔でそう呟いた雪ノ丞を見て満足すると、ニヤリと笑って踵を返した。
















「おいおい。なんなんだよこんな所に呼び出して・・・」






こいつは・・・馬鹿じゃないのか?






GS試験会場の片隅の、最も人気のない一角で、俺は目の前に佇む能天気そうな優男を前にして思った。

ここは先ほど、白龍界の人間が秘密会議を開いていた場所だ。人目もなく、ちょっとやそっと騒いだぐらいじゃ誰も気にしない。
まさに邪魔者を消すにはうってつけな場所である。




口ぶりからしてこいつは俺達がメドーサ様の関係者だって理解したようだったと聞いていた。それならば、その関係者から人気のないところに呼び出されたら一体どういうことに巻き込まれるかぐらい想像つくだろう!!





人殺しなんかしたくないし、殺人計画を立てるのが嫌だった雪ノ丞は、とりあえず絶対にばれるようなやり方を取ろうとしたらしい。





・・・いや、俺だって今から殺そうとしている相手を、それを相手に悟られてるっぽいのに呼び出そうとするなんつーアホみたいな計画を立てて居るっていう自覚はあるし、もしかしたらこいつは俺があまりにもマヌケな作戦を立てたもんだから、「まさかこれで殺す気じゃないだろう」ってたかをくくって出てきたのかもしれない。





でもだからって・・・普通のこのこ敵の誘いに乗るかぁ!?




雪ノ丞はもの凄く困った目線を目の前の男に投げかける。
・・・ちょっと泣きが入っていた。









いや、そんな事はどうでもいいか・・・。

今大事なのはこいつを完全に始末する事だけだ。

・・・そら人殺しなんて好きじゃねぇ。だが、そうしないと俺の身が危うい。強くなると誓った、ママとの約束が守れなくなる。

それだけは避けなければならない。
この男には悪いが・・・仕方あるまい。



雪ノ丞は素早く右手に霊力を集中。「なぁおい。何黙ってんだよ」とか言いつつ歩み寄ってきた男の胸倉目掛けて全力で叩きつける。


・・・自惚れかも知れんがかなりの高出力だ。並の霊力者だって不意打ちで喰らったら致死量モノだったろう。


俺の目の前の男の顔は驚愕にゆがみ、そして・・・・










・・・・・崩れ落ちない?!





雪ノ丞の拳は、その男の手の平で完全に止められていた。





「お前・・・今、本気で俺の事殺そうとしたのか?」
男は未だに信じられない、と言う顔のまま、呆然とこちらを見つめている。

・・・おいおい、どうやら俺の拳はあいつにとって不意打ちだったみたいじぇねぇか。それでも完全に止めるなんてこいつ・・・何者だよ!


「ちぃっ!少しはやるみてぇだな!」

雪ノ丞は内心の動揺を隠しつつ、ぱっと間合いを取った。
この男、今までの試合では実力を隠していやがったな。
見つからないように速やかに・・・ってな感じで何とかなる相手じゃない!!


(少し目立つが・・・仕方ねぇ)


雪ノ丞は必殺の威力を込めた霊波砲を何発も打ち込んだ。これは避けるしかあるまい。



そして回避行動で体制を崩した所をやってやる!!



対峙する男は、俺が本気で殺す気でかかっているのが分かってきたのか、先ほどののほほんとした表情とは完全に打って変わり、鋭利な刃物を思わせるモノへと変貌していた。戦いを知る者の目だ。


・・・さぁどう来る?という俺の目線にさらされながらそいつは、霊波砲の嵐の中に突っ込んで来た!
やけくそにでもなりやがったのか!?と、一瞬考えたがそれは違った。
奴は俺の霊波砲を完全に見切っていやがった。
降り注ぐ霊気の塊の間を縫うようにして、奴は俺に肉薄して来る。



慌てて雪ノ丞がカウンターを狙うももう遅い。気付いたときには彼は、床に叩きつけられていた。


「・・・何やってんだよお前。お前はそんな奴じゃないだろ!!」


床と強制的にキスさせられていた雪ノ丞の頭上から、そんな声が聞こえてきた。
絶望的なまでの戦力差に呆然としていた雪ノ丞だったが、その言葉に再び心に火が灯される。
ダメージがでかくて、身体はうつぶせのまま動かせる状態じゃなかったが。



何だこいつ・・・俺の事なんか知らないくせに、好き勝手言いやがって!!



「好きで、やってるわけじゃ、ねぇ・・・・!!!


だけど・・・こうするしかなかったんだ。

始めはこんな仕事を突きつけられたらとっととオサラバする気だったさ・・・。
奴らに追っかけられても、その内返り討ちにするぐらい強くなって何とかするつもりだった。

けど・・・そんなのただの幻想だった!
あのメドーサの前に立った時、分かっちまったんだよ!!
・・・勝てるわけがねぇ。人間が魔族に勝てるわけないんだってよ!!!」



その声は、自分でも信じられないほど弱弱しかった・・・。



でも、しょーがねーだろ・・・?
ずっと信じていたモノ・・・追い求めていたモノがただの幻想だってはっきり解かっちまったんだからよ・・・。



俺はみっともなく地べたに這いつくばったまま、悔しさに歯を食いしばった。
もしかしたら涙まで出ていたかもしれない。
そうしたら、一度全てをぶちまけたせいか、急に思い出してきた。
例えこの命ここで尽きようとも、罪もない人間を手にかけたらそれこそ・・・ママへの誓いは果たせないだろうって。


(へっ・・・ざまぁねぇな。こんなんじゃ天国のママに顔向けできねぇじゃねぇか)


もしかしたら・・・いや、絶対、この殺しは失敗して良かったのだ。例え返り討ちで殺されようとも、このまま闇の道をどこまでも突き進むよりずっとましだったに違いない。
この優男に感謝しねぇとな・・・。最後の最後で、俺をまっこうな道に引き戻してくれたんだ。







だから、俺は・・・素直にこう言えたんだろう。


「・・・お前の勝ちだ。そして俺はお前を殺そうとした・・・・・ならやる事は一つだろう?

殺せ」




雪ノ丞は全てを受け入れて目を瞑る・・・。
だが、この優男は、そんな彼を見下ろしながら、さも呆れたようなため息をついた。


「なんだ。お前・・・そんな事で悩んでやがったのかよ」


そして小柄(←認めたくない事実なんだが)とはいえ、鍛えたおかげで結構な重量がある俺の身体を、ひょいと子供でも引き起こすように立ち上がらせると、両方の肩をがしりと掴み、





「心配するな。お前は絶対に強くなる。

メドーサなんかよりも、ずっとだ」







と、朗らかに言い放った。



思いもよらない展開に、俺はその時多分、ハナタレ小僧みたいにぼけっとそいつの顔を見つめていたと思う。



・・・だが、誰だってそうなるだろうと俺は断言する。

いや、別にそいつにかけられた言葉が予想外の感激を生んだ為って訳だけじゃねぇんだ。


だってよう、今までの優男の外見がなんつーか「剥がれて」?んでその下から別の顔が出てきてたんだ。

しかも・・・








「う・・・美しい。ママに似ている・・・」








高い身長、そして流れるような黒髪、ビシッと筋の通ったいなせな性格に、思わず雪ノ丞はそう口に出した。


「あ゙?」


雪ノ丞の呟きが聞こえたらしいそいつは、これまたなれた感じで男勝りに声を漏らし、今自分がどういう状況かを理解したようだった。



「うおぉぉっ!?エクトプラズマスーツが破れてる!!

激しい戦闘にも耐えられますっていう特別製なのに!?


てっめぇ!よくもやりやがったな!!!高いんだぞ、コレ!!」


・・・おそらく、原因は俺の霊波砲をかいくぐった時の余波だろーな。


「ったく・・・。せっかく男としてデビューしようと思ってたのに、夢の美形フェイスででモテモテライフを満喫しようと思ったのに・・・


ちくしょぉぉぉっ!!!早速バレてしもうたやないかぁーーー!!」


(・・・何の事だ?)

理解不能なシャウトに置いて行かれるユッキー。

「・・・ちっ。まぁしゃーないか。



おい、雪ノ丞!そう言うわけでお前はメドーサと手を切れ。解かったな?

あ、ついでに唐巣神父ってやつがこの会場にいるだろうからその人に事のあらましを話してくれるとありがたい。
そうすりゃきっと、メドーサと手を切った後の事もイロイロと面倒見てくれるだろうよ。」


『そう言う訳でってどういう訳やねん!!』ってな突っ込みを入れる間もなく、そいつは「あ〜ちくしょぅ・・・次の試合どうしよう」とかなんとか呟きつつ、試合会場の方へと歩き始めてしまった。
雪ノ丞は慌てて引き止める。



「ま、待て!

確かにお前は強い・・・一度は俺にも勝った!


今更おこがましいって感じもするが・・・俺達にはこういう技もある!」

雪ノ丞は魔装術を展開し、そいつの目の前に立ちふさがった。

「しかも勘九郎って奴は俺達とは桁違いの魔装術の使い手だ!

しかも向こうにはメドーサもいる・・・。俺が失敗したって知ったら又次の手を打ってくるに違いない。

悪い事は言わねぇ、早く逃げた方がいい」


その時雪ノ丞は、本気でそいつの事を心配していた。

別にママに似ているからって訳じゃない。自分を立ちなおさせてくれた礼を兼ねて、なんとかそいつを逃がしてやりたかった。


だが、何となく想像はついていたんだが、やっぱりそいつは雪ノ丞の言う事なんぞどこ吹く風で、

「心配するな。まぁ何とかなるさ」

と、いいながらニヤリと笑う。


しかも

「魔装術か・・・そーいややった事なかったな・・・。

こんな感じか?」



そいつは俺の目の前でさも当然のように魔装のヨロイを纏って見せた。
どことなく陰陽師あたりを思わせる魔装術を見つめ、
「う〜む・・・。動きずれぇな。この技は俺にゃ合わんか・・・」
と呟いた。


(し、信じられねぇ・・・)

俺は目の前の光景に自分の目を疑った。
魔装術って技が悪魔と契約しないと使えないって言われている所以は、その危険さから「悪魔のようなヤツ」でないと教えてくれない事から来ている。つまり、そいつは魔装術の方法なんか知らないはずだったんだ。
知らなかったのなら少し見ただけで技を真似するような神業の持ち主。
逆に知っていたとしても、こいつはかなりの修羅の道を潜り抜けてきた戦士だってことだ。


(それなのにこいつ・・・)


唖然としている雪ノ丞を見つめて少し笑い、そいつは去っていった。


一人残された俺は決心する。

何をって?決まってるだろう。メドーサと手を切る事だよ。


なぜかと問われたら俺はこう答えよう。「俺はメドーサよりもずっと強くてカッコイイ人を見つけたんだ」ってな!















「あ〜やばいな〜どうしよっかな〜・・・」

舞台ははまたもやGS試験会場男子トイレ。
そこの個室の中では、もう皆さんお気付きの通り麗しい女性、ヨーコシマタダこと、未来の世界からやってきた横島忠夫。つまり俺が頭を抱えていた。



まずは何故俺が男装していたかから説明せねばなるまい。

人郎の村を出て、思考回路のシリアスが解除され、イロイロな回路がびゅんびゅん回り始めた俺は、いかにして逆行ライフを楽しむかを模索するようになっていた。そしてその一環として「頼れるナイスガイとしてデビュー→モテモテに」と言う計画があったわけだ。
しかしそれには問題が一つあった。能力的にはモテモテの基準を十分に満たしていたと思われる俺だったが、不幸な事に、その身体は女のものだったのだ。このままでは計画通りにならんどころか男に惚れられるとか言うおぞましい結果を招きかねない。

そんなわけで「何てことしてくれまんねん・・・」と、己の体に眠る今亡き恋人と妹に泣きを入れていた俺は泣く泣くこの計画を諦めようとした。が、その時気付いた。
この業界、大抵の事は何でもありであるとっ!


そして厄珍堂にてエクトプラズマスーツを手に入れるに至ったのだった。
ちなみにそのときの代金をどうしたかについては・・・今はいいな。




まぁとにかくそんな訳で、只今シマタダヨーコはほぼ原形を留めていないエクトプラズマスーツを見て、絶望的なため息をつくのであった訳で。


「・・・もーこーなったらアレしかねぇか」

こいつは最後の手段・・・使いたくない、使いたくないが使わん事にはエライ事(試合放棄で失格)になってしまふ・・・。どうしたものか。

右手の中のビー球のような感触。俺はごくりとつばを飲み込んだ。

「ええい!やったらぁ!」

声と同時に個室の中は光に包まれた。
ヨーコの全身が七色に輝き、そうそれは、魔法少女の変身シーンによく似ている。










バキボキゴキゴキっ!!「ぬぉぉぉおおおおおおっうあああっっ!!??」





・・・だが、魔法少女の変身にはこんな、人間をロードローラーで伸しているような悪夢のようなBGMなんか流れない。

それは文珠による変身の副作用だった。
かつてイロイロと変身させられた事もある俺だったが、文珠による変身は一味違うようで、この用に根本的なものが違うものに化けようとすると、無理やり肉体を変形させる痛みが全身に駆け巡るらしいのだ。
痛み止めに文珠を使うことも考えられるが、ぽんぽん量産でいたあのころとは違うので、それではあまりにも勿体無い。


「ち、ちくしょう・・・アシュの野郎に化けたときは何ともなかったのに・・・・」


一通り悶絶し終えた俺は、フラフラと試合会場に向かって行った・・・。





もしかしたらこの痛みは、あの姉妹の嫉妬のせいだったりして。
とか思いながら。





う〜む。ちょっかい出しすぎたのがいかんのかな。
でもよぉ、涙が出るほど懐かしいかつての仲間や、俺の予想をはるかに上回る情けなさの過去の自分なんか目の前にしちゃぁ、なんかしたくなるのは当然だろ?


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