椎名作品二次創作小説投稿広場


小さな恋のメロディ

出会いという名の始まり


投稿者名:高森遊佐
投稿日時:06/ 2/28


この話は完全に蛇足です。
最早GS美神の二次創作とは言えない状態になっているかもしれません。
それでも良ければ目を通してやって下さい。








 自分以外誰もいない事務所に一人の少女がデスクに深く座り込み、目を瞑り何事か考えている。
自分以外いないと言っても普段から三人以上いる事は稀なのだが。
つまり少女と、そして少女の雇い主の二人以外は来客が無い限りこの空間に人間はいない。

「はぁ……」

小さく切なげな溜息を少女が漏らす。
少女の溜息の理由は自分の雇い主である。
少女は雇い主のことが好きだった。
雇い主は少女とは別の女性と結婚して二日程前に新婚旅行に出かけていた。
その事に異論はない。自ら二人が結婚するように優しすぎて臆病な雇い主の背中を押したのだから。
しかしやはり暫くは完全に立ち直ることは難しいようだ。
時間が解決してくれるかもしれないが、とりあえず今はまだ完全には立ち直れていない。

『所長、二人で幸せにならなかったら許さないんだからねっ』

雇い主が結婚を申し込んだあの日、二人に向けて言った言葉である。
今までは漠然とだが、できればいつか自分が雇い主の隣にいられればいいな、と思っていた。
そういえば自分はいつから雇い主の事が好きだったのだろうと考える。
考える時間だけはたっぷりとある。
仕事は雇い主が帰ってくるまで無いし、今日は土曜だ。多少帰るのが遅くなっても支障はない。

「初めて会った時はこんなに好きになるなんて思わなかったんだけどなぁ…」

クスっと笑い出会いの場面を思い出し始める。
最初に出会った時、雇い主の印象は可も無く、不可も無く…といったところだった。





 二年前のその日、少女はアルバイト先を探して街をぶらついていた。

「やっぱり時給も大切だけど、内容も重要よね」

そう一人ごちる少女は以前喫茶店でウェイトレスをしていた。
容姿は決して悪くなかった事もあり、彼女目当ての固定客もついていたが、毎日同じことの繰り返し、言い寄ってくる男は自分の顔しかみていないのが読めてしまった。
それ以外に大した不満があった訳ではないが、繰り返される日常に辟易としてしまっていたのだ。

「なんていうかこう、大変でも充実したバイトってないかなぁ」

実際問題世の中仕事に就いている人間で毎日が充実している者がどれだけいるのだろうか。
少なくとも多数派ではないだろうが、まだ少女は若かったしそれほど世の中に見切りをつけていたわけでもなかった。
ぶつぶつと呟きながら歩いていると、ふと見た小さなビルの入り口に張り紙をしている男が目に付いた。
その張り紙にはデカデカとアルバイト・正所員募集と書かれていた。
なんとなく興味を引かれそのビルのテナント看板を見ると横島忠夫除霊事務所とある。
除霊事務所。
簡単に言うとGSと呼ばれる特殊な技能を持った人間が悪霊を退治する仕事、その事務所である。
そんなところのアルバイトとはどんな事をするのだろう、気になった少女はビルの入り口に視線を戻すと既に男は事務所に入ってしまったようで見当たらなかった。

「資格とか無くてもできるのかな」

明らかに普通の仕事ではないその内容に興味を引かれた少女は一先ず張り紙に目を向けた。

 『アルバイト・正所員募集
  経験者優遇、未経験者も懇切丁寧にできる仕事から教えていきます。
  決して安全とは言えない仕事ですが一緒に世の中の平和を守りませんか?
  給与、出勤日数は相談の上決定します』

はっきり言って本気で求人する気があるのか疑わしい内容に唖然とする。
しかし少女は何故か気に入ってしまった。
未経験者でも大丈夫らしいし何より未知の仕事である。
話だけでも聞いてみようと少女はビルのドアを開き、中に入っていった。




「あのー、外の求人見たんですけどぉ…」

事務所の中はお世辞にも綺麗とは言えなかった。
そして先ほどの男は入り口から入って見える範囲にはいないようだった。
若干不安を覚えながらも少女は口にした。

「っと、はいはいはい今行きます、ちょっと待ってもらえますか」

事務所の奥から声がする。
何か作業をしていたのだろうか、ゴソゴソ音がしているがすぐに先ほど張り紙をしていたどこか間の抜けた顔をした男が現れた。

「いや、散らかってて恥ずかしいけど、まぁそこに座って下さい」

進められるままに来客用と思われるソファに腰をかける。
それを確認すると男もテーブルを挟んで向かいのソファに腰をかける。

「俺、じゃない私この事務所の所長の横島です。
 えーと、ココは除霊事務所、つまりGSの仕事だけど、それは大丈夫だよね」

男がどこか自己紹介と共に遠慮がちに聞いてくる。
目の前の少女がGSの助手を希望している、ということに純粋な驚きを感じたからだろう。

「はい。未経験でもいい、と書いてあったので」

少女は答えながらも男の様子を観察していた。
前のバイト、つまり喫茶店の面接の時、面接に当たった店長は明らかに少女の容姿をジロジロと値踏みするように眺めいた事を思い出したからだ。
その時は酷く傷ついたものだったが、制服の可愛さと時給に引かれて我慢をした。
しかし実際仕事に就いて接客をしていても、客として来る男達にも同じような目を向けられている事に軽いトラウマを抱えてしまった。
そんな事もあり今回も同じような事をされれば即座に出て行こうと思っていたのだ。

「ふんふん、それで仕事の内容はなんとなくでもわかる?」

男は面接している方が逆に観察されている事に気付かない風に質問を重ねてくる。
その目はやはり少女をじっと見ていた。
しかし喫茶店の店長のような嫌な感じではなく、何か違うものを見ているようだった。

「えーと、幽霊を退治する仕事ですよね」

「まぁ簡単に言えばそんなもんだけど…」

至って簡潔な答えを返された男は苦笑交じりになるがそのまま更に質問を重ねる。

「それじゃ、一番重要な事だけど。お化けとか幽霊とかまぁそういったもの全般、大丈夫?」

なんと答えようか。
実を言えば極稀に霊らしきものを視たことはあった。
気分が高まっていたり興奮していたりすると視えることがあったのだ。
しかし視た事がある霊は大抵ふよふよとその辺を漂っているだけで、何の意思も感じられないものばかりだった。

「多分…、大丈夫だと思います」

正直悪霊というのがどんなものか分からなかったが、とりあえず視える事がある事を伝える。

「ふんふん、やっぱり視えるか」

予想外の事を言ってくる男に不思議な目を向けると男はちょっと慌てたように言ってくる。

「あぁ、いやGSって仕事は努力も大事だけど才能が無いとどうしようもないんだ。
 失礼かと思ったけど、君にその才能があるかどうか視てたんだ」

自分の方をじっと見ていたのはその為だったのかと納得し、又目の前の男が今までに出会った男達と違った事に更なる興味を持った。
男はそんな少女の心の中など分かる訳も無く、仕事の細かい説明をし出した。




「と、まぁこんな感じの仕事なんだけど…ココまで聞いてまだやる気はあるかい」

粗方の説明を終えて男が聞いてくる。
聞かれるまでもなかった。この仕事なら少なくとも毎日退屈はしないだろう。
充実した生活が送れるかどうかは分からないが期待はできる。
目の前の男にも興味が沸いたし。

「はい、是非やりたいです!」

はっきりと期待に満ちた声で言った。
こんなにわくわくするのはいつ以来だろう。

「…そうか。あぁそうだ一番重要な事を聞き忘れてた」

さっき一番重要なのは幽霊が大丈夫かという事だと言ったはずだが男は覚えていないらしい。
やはり顔の通りどこか抜けているらしいが何を聞かれるのかと軽く緊張する。

「家事、特に掃除とか得意?」

ズルっ
思わず軽くコケてしまった。が、家では手伝いをしている事もあり不得意ではない。少なくとも綺麗好きだと自分では思う。

「は、はい。まぁ…。それなりには」

「よし採用」

「えぇぇ、そんな即決ですかっ」

思わず突っ込んでしまった。

「こういうのは勢いが大事なんだっ。前のヤツが急に辞めちゃって大変だったんだよ!
 いやー助かったよ。まさかあの張り紙で来てくれる人がいるとはねぇ」

あの張り紙には書いた本人も疑問を挟む余地が十分にあったようだ。
それは兎も角、どうやら助手としての最初の仕事は事務所の掃除になりそうだ。
と、そこで気付いた疑問を恐る恐る口にする。

「あのー、ところで所員の方って、他には…」

「いないよ。今日から君が横島忠夫除霊事務所唯一の所員だ」

さも当然のように言ってくる男に軽く眩暈を覚えつつも最早なるようになれ、という諦めに似た観念で苦笑を浮かべる少女はしかしどこか楽しそうだった。





 デスクに両肘を付き手のひらに顎を乗せた格好で少女が懐かしそうに笑っている。
半ばなし崩し的に雇い主の助手となった日から、様々な出来事を二人で切り抜けてきた。
GSとしての腕は超一流なのにどこか抜けた、しかし優しく常に少女の事を気にかけてくれる雇い主を好きになるのは自然なことだった。
思えばあの最初の面接の時から恋が始まったのかもしれない。
ずっと雇い主の隣で一緒に歩み続けるという夢は叶わなかったが、本当に幸せそうな雇い主の顔を見れただけでよしとしよう。
結婚式で投げられたブーケは確保した。
絶対雇い主より幸せになってやるんだから。
そう新たな決意を滲ませる少女の横顔を夕陽が照らしていた。






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