「ヒデと同じよ。私も、サボり、かな?」
笑顔で話す。たまにしか見ないが、英夫は美希が笑った顔が好きだった。ちなみに、英夫の同級生からは、
『伊達の笑った顔?見たことないぞ』
と、反応が返ってくる。そして、
『今度写真を撮って来てくれ』
と、頼まれた事もある。残念だが、生憎とカメラは今持ってない。
『美希が笑った顔なんか眺めてどうするんだか?』
その友人の思考がよく解らない。
だが、もし英夫がカメラを持っていても写真を撮る事はなかっただろう。
「ヒデは、このままGSになるの?それとも、他にやりたいことがあるの?」
普段は丁寧語だが、時々普通に喋りかけてくる。まあ、どちらでもいいが、普通に話し掛けられると、昔を思い出して懐かしい気分にもなる。
「さあ、解らない。でもこれほどの力、ただ遊ばせておくわけには行かないみたいだな。俺は、戦い続ける。そうなるしか、ないのかな?
美希は?」
「私の願い?そうね」
丁度、事務所の前を一組の大学生らしきカップルが通り過ぎる。それを見て美希が微笑む。
「まあ、あんな感じかな?」
それは、精一杯の告白なのかもしれない。普通ならこれで通じるだろう。そして、今までのやり方ではダメだと悟った美希の、新たな試みだ。だが、
「そうか。大学生になりたいのか」
相手は普通ではなかった。
「………。ヒデは、ここから突き落とされても生きてられますか?」
その時、屋上の扉が開いた。
「あ、こんな所にいた!」
瑞穂が凄い剣幕で歩み寄ってくる。
「英夫さん。サボっていないで、仕事に行くわよ」
手を掴んで引っ張る。
「おい、ちょっと!!」
英夫は引きずられていく。そして、残された美希が小さく呟く。
「まあ、ヒデらしいわね」
先は長い。ゆっくりやりますか?だが、美希は忘れていた。そう考えているライバルが多い事を。
そして、その光景を遥か上空で一人の魔族が眺め、微笑んでいた。
「お世話になりました」
英夫と美希の前で二人の男女が頭を下げる。
「これからどうするんだ?」
「二人で」
と、蛍と望が目を合わせる。
「誰も知らない世界に行こうかと思います。そこで、幸せに暮らします」
「ああ、そうか」
どうでもいい、かのように英夫が答える。その足を思いっきり美希が踏みつける。
「うふふ」
その光景を見て、蛍が微笑む。
『対象的ねー、この二人と』
神族代表の立会人としてとして来ていたヒャクメが対象的な組み合わせを見比べる。
『でも正直、横島クンとおキヌちゃんが結ばれなかった時にはどうなるかと思ったけど、結ばれた場合にはこんな子が生まれていたのねー』
そして、生まれた子供、蛍によって未来は大きく変化した。
『でも、それによって横島クンと小竜姫に子供が生まれている。面白い物ねー』
ヒャクメが見ている中、望が英夫に近付き、右手を差し出す。
「黒霊石の後遺症で、しばらく霊力は使えないけど、最後に君にプレゼントを渡しておきますよ」
そう言うと、望の手から黒い霊気が英夫に移る。
「何だ?」
「ちょっとした、封印です。黒霊石に蛍を封印した応用ものでして、これで君の霊力はかなり安定的になるはずです」
一方、蛍は美希に近付く。
「お別れね?」
「そうですね」
そして、蛍は美希の耳に口を寄せる。
「少し積極性が足りないわね」
「え?」
呟き望に近付く。
「さあ、行きましょうか?」
声と共に周りも精霊石が囲む。
「言っておきますけど、今回は、最終的な特例なのねー」
「解っています。もう、二度と時間移動をすることはないでしょう。する必要はありませんから」
と、二人で見つめ合う。二人の首には『時の首飾り』がぶら下がっていた。英夫とノアが中世でカオスよりもらった時間移動補助のアクセサリーだ。二人はそれを使って、おそらくは遠い時代に飛ぶのだろう。
「それじゃあ、失礼します」
強烈な光と共に二人は消えた。
「しかし、何だな」
英夫が珍しく真剣な顔をしている。
「どうしました?」
「あの二人は言わば、もう一人の俺と美希、だよな?」
「まあ、そうなりますかね?」
「いや、見ていて思ったんだが」
「はい?」
「俺と美希も、もしかしたらあんな風に」
「え?」
真剣な眼差しに美希は動揺を隠しきれない。
『おお、ついに英夫クンの告白か?』
ヒャクメもさっさと天界に帰ればいいのに興味津々で見つめる。
「なっていたら、気持ち悪いよな?」
「は?」
間抜けな声を出す。
「あ、美希もやっぱりそう思うか」
「………」
『あらあら、大爆発ねー』
内心の笑みを隠しつつ空へと帰っていった。
「あ、そうだ」
と、突然手を叩く。
「何ですか?」
すると、英夫から意外な言葉が出た。
「美希。明日暇か?」
「は、まあ、明日は休みですけど?」
「いや、約束を果たそうと思ってな?」
と、封筒を見せる。
「デジャブーランドの入場券ですか?」
「まあ、今までのツケを払うという意味で、今回は俺の奢りだ」
意外過ぎる言葉だ。思わず、
「何か悪い物でも食べてしまいましたか?」
と、言ってしまう。
「失礼な。
あ、でも二人で行くのはつまらないから、他に誰か呼ぶか?瑞穂とか?」
「それはダメ!!」
思わず叫んでしまう。
「あ、ああ。解った。解った」
その剣幕に押されてしまう。
「いい?誰にも言ったらダメよ」
「はい」
何度も頷く。その時、
「あー、こんな所にいた。ほら、二人とも」
瑞穂が英夫と美希を引っ張っていく。
「どうしたんですか?」
「そんなに慌てて」
「今日から、新しいバイトの人が入るって言ったでしょう?」
その顔合わせがあるのだ。
「ああ、そう言えば」
三人が事務所に到着すると、すでに挨拶が終わっていたのか、一人の女性が待っていた。
「あれ、どこかで見たことないか?」
「そう言えば、そうですね?」
「あれ、私も」
すると、ひのめが女性の横に立ちこちらを振り向かせる。確かに見たことがあった顔だ。
「こんにちは。氷堂 亜紀です」
「あ、ああ!!」
それは、魔族ノアが人間に変装した時の姿と名前だった。
「ノ、ノア?」
「ええ。そうよ」
三人は一斉にひのめを見る。
「どういう事ですか?」
「そのね」
大変言いにくそうだ。
「ほら、新しいバイトを雇おうと思って、表に張り紙を出していたでしょう?でもね、やっぱりもったいないかな?と思っていたら、彼女が来てね?」
「で?」
「バイト代、時給300円でもいいって、言うから。それに、実力も折り紙付きだし?」
「だからって、魔族を?!」
「あら?今は人間よ?」
そう言ってノア、いや亜紀は微笑んだ。
「まあ、そう言うことだから。よろしく、頼んだわよ。あ、私会議があるんだった」
誰と何の会議をするのか、ひのめは逃げるように去って行った。
「何のつもりだ?」
英夫は恐る恐る尋ねる。もちろん、剣を抜く体勢で。
「うふふ。少し、やってみたい事が出来てね?」
「何を?」
「そうね。あなたと一緒、かな?」
そう言って、美希を見る。
「あ、でも、いいところで会った」
英夫が自分の机から小さな箱を出す。
「これ、『時の首飾り』をあの二人に渡したから」
それは、小さな宝石が付いたネックレスだった。
「これを私に?」
「ああ。何かいつも着けていたから、気に入っている物なのに、悪いなと思って」
英夫は大きく勘違いをしていた。その首飾り自体を気に入っている訳ではなかったのだが………。
「そう。ありがたくいただくわ」
亜紀は笑顔でそれを受け取った。だが、箱の中には二つのネックレスが入っていた。
「でも、これ、二つ一組よ?」
「あ、そうなんだ?」
「知らなかったの?」
「あ、いや、実は、その。
ヒャクメさんに用意してもらったんで。中身は良く知らなかったんだ。じゃあ、二つともあげるよ」
すべてがヒャクメの計らいだ。多分、悪戯心も含まれている。実際に、それを眺めている二人の女性に若干の青筋が立っていた。
「そう。まあ、それでもいいわ」
亜紀はそれを自分に着ける。そして、もう一つを手に持ち、英夫に近付く。
「はい。貴方のよ?」
「え?」
「貴方の『時の首飾り』も渡してしまったでしょう。まあ、貴方にとってはどうでもいい物かもしれないけど、私が二つ持っていても仕方がないでしょう?」
そう言いながら英夫の首に手を回し着ける。
「また、お揃いね?」
と、笑いかける。
「あ、どうも」
何故か英夫は照れながら頭を下げる。
「英夫さん。仕事に行くわよ」
突然、瑞穂が英夫の手を引く。
「貴方は私のパートナーでしょうが。さっさと行くわよ」
「あ、おい!」
そのまま外に引きずられていく。
「おや、まあ。三つ巴は相変わらずなのねー?」
隣のビルからヒャクメがその様子を眺めていた。
「これは、面白いレースなのねー。横島クンの時以上なのねー。ね、小竜姫?」
隣では他ならぬ母親が、眺めている。
「まあ、誰が相応しいかは、ゆっくり決めさせてもらいましょうか」
「あ、そういえば。あの二人。横島 蛍と伊達 望の二人だけど。どうなったか知りたい?」
「遠い時代へ飛んだんでしょう?」
それは、報告を受けている。
「そうなの。それは問題ないんだけどね、実はね、あの二人が………」
それは、新たな事件を匂わせることだった。
「そう。それじゃあ、また別の未来が作られそうね。その二人のおかげで」
それは、また別のお話で。
実は、jaは二人組みなんです。知っていましたか?知っていたら凄いです。原案を作る人と、文章にする人で分業していました。原案を作っている人は、投稿後にこれを読むのですが、いつも文句を言っています。
さて、おまけで原案者が作り上げたのですが、登場させられなかった人物の紹介をしたいと思います。
六道レイ:。GS界ではその名を知らぬ者がいないほどの名家、六道家の一人娘である。
名前の由来は、あの人です。
彼女を表す単語は全てが彼女を絶賛していた。先祖代々伝わる圧倒的な霊力。それは式神を扱うのに必要な力であるが、彼女は式神を使わず、その霊力のみで他を圧倒していた。六道女学院を、かの美神令子をも上回る成績で卒業し、単身ヨーロッパへとGSの武者修行へと出た。その後、現地での活躍ぶりは凄まじく、若くしてGSの最高位の称号を得た。
また、彼女はその美貌も素晴らしく、多くのモデル雑誌のトップを飾り、数多くの男性に交際を申し込まれたが、その全てを拒否した事でも有名である。現在は、オカルトGメンの幹部になっている。現場では常にクールに振る舞い、全てにおいても完璧な女性である。
使いたかったのですが、使う場面が無い。というわけで、めでたくお蔵入りしました。本当は、彼女も英夫に、と行きたかったのですが。残念です。
では、気が向いたら別の機会にお会いしましょう。 (ja)