椎名作品二次創作小説投稿広場


GS〜Next Generation Story〜

永遠の………(中編)


投稿者名:ja
投稿日時:06/ 1/28

「これで、これでいいのよ」
 霊気の弾丸が幾重にも飛んでくる。それらをかわしながら呟く。
「これで、いいのよね、望?」
 頭に浮かぶのは、彼女の人生で最も至福の時を与えてくれた者。
「私、何度も貴方の所に行こうかと思った」
 彼女の望み。自らが生まれる未来の否定。そして、自分自身の消滅。
「でも、ダメね」
 輪廻。死んだ者の魂は、やがて新しい存在として生まれ変わる。もちろん、記憶等は全て消去される。だが、彼女の魂は特別だった。死してなお、彼女は同じ存在に生まれ変わらざるをえない。いや、むしろその霊力の高さに目をつけた神、魔族によってそれ相応の存在として生まれ変わるかもしれない。
【魂の牢獄】
 彼女はそこに迷い込みざるをえない。
「でもね、私見つけたの。どうしたらいいかを」
 目の前にいる圧倒的な存在を見つめる。
「彼も私と同じね。その巨大すぎる力。それを使い余している。巨大な力は不幸しか生まない」
 彼女も、英夫のこれまでの運命を見てきた。結局は同じだ。彼は幾度となく戦い続けるだろう。もし、この戦いが無事終わっても、また新たな敵と遭遇するだろう。いや、もしかしたら、神、魔族の長が望むように、新世界の王として君臨する。そういった存在になるかもしれない。そういった意味でも、彼も【魂の牢獄】に迷い込んだのかもしれない。
「でも、大丈夫よ」
 彼の望み。それはもしかしたら普通の人間かしたらくだらない事なのかもしれない。
 彼の本質は、誰よりも優しい人間。その一言に尽きるだろう。だが、強すぎる力を持ったが為に、いや、周りの環境が彼の運命を大きく変えていった。
「大丈夫。私が死して貴方の封印になってあげる」
 それが彼女の選んだ道だった。彼女の魂は永遠に英夫の封印となる。そのためには、全力の彼女の霊力を押さえ込むだけの強さがいる。そのために、彼には成長してもらわなければならなかった。彼女以上の存在に。
「大きくなったわね、英夫クン」
彼の封印となる。そのことによってもしかしたら、相殺されて彼女の魂自身が消滅するかもしれない。
「でも、いいの。私は消え去りたいの。この、世界から。魂ごと」
 彼女の力の源である【絶望】。それは、彼女自身のことなのかもしれない。

「力では圧倒的ですね。ヒデの勝利も時間の問題ですか」
 遥か上空でのできことだが、何とか感じ取れる。
「そうね」
 横を見るとノアが立っている。
「回復したのですか?」
「そうみたいね。どうやら、チャンネルが復活したみたい」
 その時、いや、一瞬で二人の後方に二つの新しい気配が生まれた。
「誰?」
 瑞穂と見たこともない男だった。いや、美希には不思議と感じ取れた。
「伊達 望さんですか?」
「伊達 美希さんですか?」
 二人は同時に口を開いた。
「どうして、ここに?」
「まあ、詳しい事はこの人に聞いて下さい」
 言うと、上空を見上げる。
「蛍」
 人間の全ての感情を合わせたような雰囲気で呟く。
 
「もう、すぐね?」
 もうすぐで、英夫の霊力が蛍自身の霊力を飲み込む。それで、終わりだ。それで、彼女は彼の封印となる。
「さあ、来なさい」
 だがその時、大きな霊気の弾丸が二人の間を通り抜けた。
「何だ?」
 下を見ると、一人の男が手をこちらに向けている。
「まさか!!」
 蛍は全力で下へと降りていった。
「な、何だ、何だ?」
 英夫もあわてて後を追う。

 地上に降り立つと先ほどの男と蛍が見つめ合っていた。
「望?」
「蛍」
 知り合いだろうか。だが、その男が伊達 望だと気付くまで、時間はかからなかった。横に立っている美希とよく似ていたからだ。
「どうして?」
「生き返ったんですよ」
 笑顔で応える。
「そう。良かった」
 蛍も笑顔で応える。
「私が、やったのよ。疲れた」
「そうなの。ありがとう」
 蛍が瑞穂に感謝の意を述べる。
「まあ、これで、エンディングか?」
 何かしっくりこないが、大団円だろう。伊達 望の復活によって、蛍には生きる理由ができた。そう思ってもいいだろう。英夫とて、自分の分身ともいえる彼女を消し去るのはかなりためらわれた。
























 だが、終わりではなかった。


























「君が、横島英夫君ですか?」
「ん?ああ、そうだけど」
 望が英夫に近付く。
「なるほど。蛍に似ていますね。
蛍の計画では彼女自身が貴方の封印になる。まあ、簡単に言えば同等の存在でお互いを消滅させる。と、いった感じでしたね?」
「ええ。そうよ。でもダメだったわ。同じ存在なだけに、無理みたい」
「そうですか。でも、良かった。それでは、蛍自身が消えてしまいます。
 蛍が死して彼の力の封印になりえる?それは可能でしょう。なら」
 その笑顔が一瞬で崩れる。
「その逆もありだね?」
「え?」
「ごめん」
 一言呟くと、手を蛍に向ける。一瞬で蛍は気を失った。そして、そのまま寝かせる。
それに合わせて望の霊力が爆発的に上昇する。
「うわ!」
 英夫が後方に飛び下がる。それを見て、望は地面に手を当てる。
「黒霊石」
 その霊力が一気に上昇する。
「おい!いったい何の真似だ?」
「貴方に、直接的な恨みはないけど」
 手を握るとそこから黒い焔が湧き出て、剣の形になる。
「貴方を、蛍の霊力の封印に使わせてもらう」
 焔の剣で斬りかかる。
「あのな」
 英夫が剣で受け止める。
「ほう?さすがにやるね。でも、黒霊石の力はこんな物じゃない」
 出力が一気に上昇する。
「え?」
 英夫が徐々に押されていく。
「この!」
 英夫が負けじと力を入れるが、押し返せない。
「何だと?」
 今の力はほぼ100%に近い。それをもってしても押し返せない。
「蛍よりも強いか。でも、今の僕はこの地球の生命力を使っている。君に勝ち目はない」
 英夫が吹き飛ばされた。
「蛍が幸せに暮らせる世界。それを作るためなら、何にだってなる!」

 その光景は、他の見物者にもショックだった。
「そんな、ヒデが押されている?」
 今の英夫の霊力は、ノアと対峙した時よりも、いや、もしかしたらカインとの戦いの時よりも遥かに上だろう。それを、望の霊力が超えているのだ。
「どういうこと?」
「あの男の方が。できるようだな」
 横で横島忠夫が呟いた。
 
 そして、上空では二つの気配が生まれていた。
「あちゃ!もう、始まっていたか」
「少し、遅刻してしまいましたね?」
 デビルとマムだ。
「あの子がチャンネルを止めたりするから」
と、蛍を見る。
「でも、さすがにこれは不味いな」
 デビルが顔をしかめる。
「あの伊達 望とかいう奴。まさか、これほどとはな」
「あら?貴方らしくもなく、弱気ですね?」
「当たり前や。以前の横島 英夫。あれでさえ化物やと思った。そして、今の霊力はそれを上回っている。しかし、あの男はそれすらも上回っている」
「あらあら、私達の長年の計画がここでお終いですか?」
「横島 蛍によって封印されるのを阻止しようかと思ったけど、今の事態はそれよりも最悪やな」
「黒霊石。失われた力かと思いましたが、それを使いこなすなんて。しかも、生命力を他から補う」
「人間ちゅうんは、いざという時にとんでもない力を出しよる」
「横島 蛍への想い。これだけですのにね」
 若干、哀れんだ目で望を見る。
「さあ、最終決断の時ですね、横島 忠夫さん?」
「ああ。最後の扉を開くか?」

「ん?」
 横島は突然、後方に気配を感じた。何処かで感じたことがある気配だ。だが、その答えは一瞬で出た。
「カイン!!」
「え?」
 全員がそちらを見る。
「久しぶりだな、横島」
 だが、その視線は横島ではなく、遥かの英夫を見据えていた。
「ほう、あの男。あの状態の英夫クンを超えているとは。黒霊石。いつかはお手合わせ願いたいな」
 そして、その視線を横島に向ける。
「お前の息子の負けだ。霊力の差がありすぎる。
 もっとも、このままでは、だがな」
 意味あり気に呟く。

「この!」
 英夫が剣を振るうが、あっさりと弾かれる。体術では向こうの方が上だ。そして、それ以上に霊力でも負けていた。
「負けている?俺の霊力が?」
 巨大すぎる力。あまり好きではない。だが、その力には自信があった。他を凌駕する圧倒的な力だからだ。だが、今はそれ以上の敵が現れた。
「俺の魂を封印に使う?させるかよ!」
 霊気の弾丸を数発放つが全てかわされる。
「無駄だよ」
 焔の剣を振るうと地面から火柱が昇る。英夫はまともに喰らってしまう。
「今の僕には、ほぼ無限の力がある。この地球に無限の生命力があるように」
 英夫がかろうじて立ち上がるのを見据えると、左手を前に出す。
「何度も言うけど、君には何の恨みもない。君自身がその力のせいで運命に翻弄されていることも知っている。でも、それ以上に僕は彼女を」
 焔の塊を作る。
「さあ、終わりにしよう」
 英夫に向けて放つ。大爆発が起こり、英夫は倒れた。

「まだ隠してあるんだろう?」
「………。何の事だか?」
「ふっ!まあ、隠していてもいいがな。だが、このままではお前の息子は死ぬぞ。これだけは、確かだ」
 その声に反応してか、横島の手に力が入る。
「妙だと思ったのだ。本来の彼は、人間と神族の混血だ。なら、そういった存在になるはず。皆は三つのチャクラに反応しすぎるため、その事を忘れているのかな?だが、彼は人間臭すぎる。いや、人間だといっても過言ではない。そうだろ?」
と確認を求める。
「言いたくないのなら、言ってやろう。
 【魂の欠片】。それは本来は存在しないはず。恐らくは、お前か小竜姫が生まれてまもなくに彼の魂を三つに裂いたのだろう?力の封印がしやすいように。でかすぎる力を封印するのは不可能だ。だが、それを三等分して個別に封印すれば、不可能ではない。
タナトスの世界の横島忠夫はその方法を取らずに封印をしようとし、失敗をしてその命を落としている。しかも、封印が中途半端だった。
 だが、こちらの世界ではそれに成功した。幼少の頃、彼が妙神山で育ったのも、封印の安定性の、確認の意味もあったのだろう?」
 まるで全てを見透かしたような声だ。
「そうだ。奴の【魂の欠片】は個別に意思を持っている。そうすることによって、安定性を図った。そして、二つの【魂の欠片】には個別にさらに封印を施した。横島 英夫はその封印を外しても安定するまでに強くなった。だが」
 望を見る。
「それ以上の存在が現れた。もっとも、黒霊石に必要な生命力を、地球から取るという裏技を使って、だが」
「何が、言いたい?」
「できるのだろう?お前には分割した魂を再び一つにすることが?」
「………」
「できない、わけではなさそうだな。ただ、やりたくない?」
「相変わらず、人の心を読むのが上手いな?」
「これでも読心術の使い手でね。
 さあ、どうする?」
 だが、
「できない。
 プラモデルと一緒だ。バラすのは簡単だ。だけど、組み立てるのは、それ以上に難しいんだ」
「あれだけ、上手くバラしてあるのに、か?」
「………」
「言いたくないのならば、言ってやろう。
 お前は怖いんだろう?いや、哀れんでいるのかな?自分の息子を?【魂の欠片】を再び一つにすれば、彼はこれまで以上に戦いに巻き込まれていく運命だ。もう二度とあの力を封印する手段はない。そして」
と、上空を見上げる。
「あの二人の思惑通りになるかもしれない。
 だが、いいのかな?このままでは、死ぬぞ」
 倒れた英夫はまったく動かない。
「そうよ」
 瑞穂が声を掛ける。
「何か手があるのなら、それで行きましょう!」
「瑞穂ちゃん」
「そうね」
 ノアが近付く。
「及ばずながら、手を貸すわ。彼には、色々と借りも出来たし」
「ダメなんだ。ただ巨大な力を手に入れるだけじゃないんだ。これをしてしまうと、英夫は人間ではなくなる。いや、本来の人間と神と混血でもない。まったく異なる存在になる。
 もしかしたら、突然この世界を消滅させるかもしれない」
「おじさん」
 美希が近付く。
「大丈夫です。ヒデは誰よりも強い。私は、信じます。ヒデはヒデです」
「美希ちゃん」
 
「成功か?」
「ええ。そうみたいですね」
 ここは、妙神山の一室。ベッドには、まだ生まれて間もない赤ん坊が寝ている。他ならぬ二人の子供だ。
「しかし、よくこんな荒業思いついたな?」
 横島は座り込む。霊力が極端に減少してしまった。それほどに、この封印には力を費やされた。
「魂を三つに分ける。そして、それぞれに強力な封印を掛ける」
「そうでもしなければ」
 小竜姫はさすがに座り込みはしなかったが、疲労は隠し切れない。
「この子は、飲み込まれてしまう。その力に」
 数日前に我が子を産んだ時に解った。その圧倒的な霊力を。それは、あまりにも一人の子供が背負うには大きすぎる力だった。だから、こんな荒業を成す事に踏み切った。
「これで、いい。少し大きくなるまでは、妙神山で育てよう。その方が安定するだろう。
 あ、そう言えば名前をつけていなかったな」
「いえ」
 小竜姫が首を振る。
「名前は決めています。
 『英夫』。英雄の『英』と忠夫さんから一字を取りました」
「『英夫』か。皮肉な名前かもな。その力をただ使えば、英雄にでも何にでもなれる」
「いえ、そうではありません。
 この子には、普通に育って欲しいのです。普通に生きて、英雄になれればそれこそ最高の人生じゃありませんか?」
 その時、電話が鳴った。
「もしもし」
『よう、俺だ』
 電話の主は伊達雪乃丞だった。
『息子は元気か?』
「ん、ああ」
 力を封印したことは内緒にしておく。おそらく、一生明かす事はないだろう。
『そうか。良かったな。
 こっちは女の子だった。男なら、GSに育て上げようかと思ったが。お前の所はどうするんだ?』
「GSか」
 恐らくは、封印した霊力を使わずとも一流のGSには十分になれるだろう。
「まあ、それはその時にでも考えるさ」
『そうか。ああ、ウチの娘な、『美希』って名前にしようかと思うんだ。男なら『望』にしようかと思っていたんだがな。
 どうだ、今度見せにいってやろうか?』
「そうだな」
と、ベッドの我が子を見る。
「どうせしばらくは妙神山暮らしだ。友達はいた方がいいだろう」

『美希ちゃん。君がいなければ英夫は普通には育たなかったな。感謝している』
 もしかしたら、英夫の事を一番解っているのは彼女なのかもしれない。
そして、瑞穂とノアを見る。
『おキヌちゃん。君の子供は君によく似て優しい子だよ。少し、星井クンにも似ているかな?』
 自分と運命を別ちあった人の娘。それが英夫の手助けとなっている。
『英夫と対の存在として生まれ、英夫と戦い、そして、英夫を育てる為だけに生きてきたノア。彼女も、英夫の運命に巻き込まれなければ、ただ、英夫と』
 そして、一つの決断をする。
『英夫にも三人の女性が関わる。占いの通りか。この子達なら………』
文珠を出す。
「さっきも言ったけど、プラモデルと一緒だ。組み立てるには、接着剤がいる。それを今から作る。
 方法は簡単だ。英夫のチャクラと同じ【人】【神】【魔】。この三つの霊力を全く同じ強さで合成すればいい。幸いにも、
【人】美希
【神】瑞穂
【魔】ノア
 三つのチャクラを持つ者がいる。後は、解るね?」
「ええ」
「やってみます」
「まあ、できるといいわね」
 三人が文珠に力を込める。

「どうだ、お前の息子は?」
「順調に育っているよ」
 英夫が生まれてから数年が経過した。
「しかし、英夫にも友達ができて良かったよ」
 生まれてから妙神山で様子を見ていたが、特に問題は発生していない。これなら、普通に人間界で育てても問題はないだろう。
 だが、その中で一つだけ心配だったのは、友人関係だろう。この妙神山に英夫と同年代の子供など、いるはずもなかった。だが、それを伊達美希という友達ができたことで、解消された。


今までの評価: コメント:

この作品へのコメントに対するレスがあればどうぞ:

トップに戻る | サブタイトル一覧へ
Copyright(c) by 溶解ほたりぃHG
saturnus@kcn.ne.jp