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GS〜Next Generation Story〜

時の旅人


投稿者名:ja
投稿日時:06/ 1/18

「あれ?ここは?」
 見渡した洞窟には見覚えがある。そう、一度だけここに訪れた事がある。他ならぬ、自分が死ぬ直前だ。
「えーっと、貴方は?確か?」
 目の前には少女が座り込んでいた。その後方には二人の男女もいる。
「伊達、望さんね?」
「はい。そうですが」
 少女は、こちらの顔を見て驚いている。
「驚いた。美希さんにそっくりね?」
「へ?誰ですか、それ?」
「………。まあ、話は道中にゆっくりと」
と、目の前に立つ。だが、望は見たこともない少女に親近感が沸いた。そして、後方の女性を見る。
「あれ、おキヌさん?」
「え、そうだけど?」
 相手も驚いている。いきなり名前を言い当てられたからだろうか。
「そう言えば、貴方は誰ですか?」
「私?私は星井 瑞穂。後ろにいるのが両親よ。て、言うか、さっき話したでしょうが。向こうの世界で」
「向こうの世界?それは何処ですか?」
「………。疲れる人。
 いい?貴方は昔ここに『横島 蛍』を封印した」
「昔、というか僕の感覚では、数分前ですが?」
「ああ、どっちでもいい!
 それから長い年月が経ったの。そして、貴方が封印した彼女が蘇り、色々と問題が起きているの。お解り?」
「そんな、蛍が?」
 完全に封印をしたはず。いや、もしかしたら最後の最後で………。
「と、言うわけで、貴方にもお手伝いをしてもらおうかと思って、こっちの世界にもう一度お越し願ったの。いい?」
「はい。だいたいの所は掴めました」
「良し。じゃあ、行くわよ」

「さて、用意はいいかしら?」
 蛍が剣を構える。
「ああ」
 英夫も構える。
「では、行きましょうか」
 二人の姿が消えた。

「さあ、見せてみろ!」
 頭の中の【魂の欠片】に言い聞かせる。
「俺自身の、本当の力を」
『やっと、その気になったか』
『さあ、行こうか』
 二つの声が聞こえ、英夫は自分自身の霊力の圧倒的な上昇に気付く。
「やってやる!」
 剣に霊力が篭る。
「行くぞ!」
 遥か上空に浮かび上がる。蛍もそれについてくる。
 英夫は剣を振り下ろす。蛍はそれを受け止めるが、勢いは止まらない。
『いい感じね』
 蛍はほくそ笑む。
『これで、私は………』

 気が付くと、真暗だった。自分は死んだはず。いや、何処かに封印されたのだろう。しかし、何故か自我があった。すると、何かが話しかけて来た。
「貴方は、誰ですか?」
 男の声だ。聞いた事がない。
「そこから、出たいですか?」

 戦闘は圧倒的な力を誇る英夫が押していた。
「思った以上ね、貴方は」
 数個の霊力の弾丸が飛んできた。辛うじて避けるのが精一杯だ。
「これで、カードは揃った」
 ゆっくりと印を結ぶ。

「何だ、この石は?」
 カインは忠実な部下、朱雀が持ってきた石を見る。
「【黒霊石】。精霊石の発展系です」
「なるほど、自らの生命力と引き換えに、我々魔族や、親族をも凌駕する力を手にするという、あれか。遥か昔、神話の時代にでも失われた力と思っていたが、まだあったのか?」
 人間界と魔界とのチャンネルが、一人の魔族の手で遮断されているため、暇つぶしに石を調べるのは丁度いいかもしれない。
 朱雀が去った後、ゆっくりと石を眺めていると声が聞こえた。
『ねえ』
 空耳かと思ったが、声は続く。
『ここから、出してくれない?』
 声は石から聞こえてきたようだ。テレパシーを受けている感じだ。
「何故だ?」
『うふふ。今、人間界では一人の魔族が暴走しているでしょう?』
「ああ。アシュタロスの奴がな。ふ、どうやら、自らの滅びを望んでいるらしい。奴は頭は切れるが、強さでは私の方が上だな。まあ、奴を倒せる者が現れたら、それも一興だろう」
 カインはより強い者との戦いを望み、それを生きがいに生きてきた。しかし、今や神魔間は融和の方向に向かっている。これでは、つまらない。すると、石はそれを見越したかのように話しかけて来た。
『ねえ、いい事を教えてあげましょうか。アシュタロスは滅びるわ。一人の人間の手によって』
「ははは!面白い事を言う。奴は上級クラスの魔族だぞ。チャンネルは遮断されているのに、誰が奴を倒すというのだ」
『人間よ。ただのGS』
「面白い!では、そのGSの活躍を見ようじゃないか」
 しかし、彼女は知っていた。アシュタロスが一人のGSによって倒されることも。そして、その男が、自分の父親であることも。
「なるほど。確かにアシュタロスは倒されたな。しかし、あの男」
『横島 忠夫』
「そうだ。まだ荒削りだが、いいセンスを持っている。だが、もう一押し足りないな。敵に情けをかけている。精神的な甘さだ」
 そこで、彼女は取引を持ちかける。
『ねえ、私をここから出してくれない?ここから出してくれたら、彼の甘さを取り除いてあげるわ』
「お前がか?ふ、面白い。退屈だと思っていたが、長く生きていると面白いこともあるものだな」
 手に霊力を込めると、石が砕け散る。そして、中から一人の女性が現れた。顔の半分を布で覆っていて、素顔は解らないが、どうでもいいことだ。
「名前くらいは、聞いておこうか?」
「タナトス。まあ、偽名よ」
 そして、彼女は横島忠夫に近付いた。親密な関係になるにはそう時間はかからなかった。

「さあ、それじゃあ、最後の戦いの始まりよ」
 印を解放する。蛍の霊力が極限まで上昇する。
「な、何だ?!」
 さすがに英夫もその霊力の上昇に驚く。
「別に驚く事はないでしょう?今の貴方と同じ事をするだけよ。私も持っているのよ。【魂の欠片】を」
 その力を引き出すのは圧倒的な【絶望】。
 蛍の心を【絶望】が染めていく。

 目の前で殺された母親。

 突きつけられた真実。父親を殺してしまった自分。

 全てを消し去ってしまった圧倒的な力の暴走。

 そして、ゆっくりと剣を下ろす。
「最後に、少しお話をしましょうか。一応、全てを話す約束だったし。まあ、前倒しだけど」
 英夫も剣を下ろした。
「私ね、父親を殺したの。私の世界の横島忠夫を」
「え?」
「勿論、覚えていないわ。だって私が小さい頃の話よ。貴方と同様私にも圧倒的な霊力が生まれながらに宿っていた。貴方にも封印がかけられていたでしょう?」
 覚えがある。そういえば、美希に譲渡される前は、両親が封印の鍵を持っていた。
「まあ、簡単に言うと、直接殺しはしていないけど、私の力を封印するには無理があったのね。暴走した私の力を命がけで封印した。だから、私が殺したも同然でしょう?
 その後は母一人子一人、全国を逃げるように転々としていた。理由もわからずにね。でも、理由を知って驚いたわ。まあ、大義名分は『GS横島忠夫死亡に関する重要参考人』だったけど、結局は私の力が望みだったみたいね。そして、知ってしまったの。私が父親を殺した真実」
 その目に哀しみが宿る。
「そして、母親も死んでしまった。私を捕まえにきたGSに殺されたの。目の前でね。今でも覚えているわ。最後の言葉。結局、守れなかったけどね。その後、しばらくは平和の時間を過ごした。私の人生の中でも最高に幸せだった。でも、ダメね。結局は悪夢にうなされる。それが現実になったのは、私の母を殺したGSを見た瞬間。
 それからは、貴方も解るでしょう。暴走した私は、その世界の全てを消し去っていった。結局、私を止めたのは一人の人間。『伊達 望』。私の世界の伊達 美希さん。こちらの世界では男性ではなく女性なのは、タイムパラドックスの影響でしょう。まあ、そのために彼も死んでしまった。でも、私はこうして蘇った。
 その後、こちらの世界では普通の時間が流れた。でもね、このままではいけなかったの。だって、普通に行けばまた私が生まれ、そして同じことが繰り返される。だから、止めたかったの。私が生まれる事を。そのために、私は父親の目の前で、母親を貫いた。勿論、死なない程度に手加減をして、二人が結ばれないように結界から出られないように細工もしたわ。そして、カインは横島忠夫に倒された。そう。これで、全てが片付いたはずだった。横島忠夫は、小竜姫と結ばれ、子供は女の子ではなく男の子。これで、『横島蛍』は生まれない。でも、後は貴方も知ってのように、その男の子には、『横島蛍』以上の力が宿っていて、そのために、数奇の運命を辿っていく。
 でも、これは私にとってもチャンスだった。私の最後の望みを叶える」
と、再び構える。
「さあ、ラストダンスよ」
 全力で霊力を放出する。英夫は剣で辛うじて弾く。
「いいわね。この力と互角以上に戦ってくれるなんて」
 彼女の目に狂いはなかった。彼こそが、自分自身の望みを叶えてくれる存在だ。
『共に、生きましょう』

「はい、だいたいの事情は解りました。そうですか、彼女が」
 望はとぼけた感じの答え方だが、最後の一言は低かった。
「そう。それで貴方にもご協力願おうと思ってね。何しろ、彼女を封印したのは貴方でしょう?」
「まあ、そうですが。あの時は命懸けでしたからね。まさに、黒霊石を使ったので、命を懸けてしまったのですが。ただ、彼女を止めたかっただけです」
 のほほんとした雰囲気だが、瑞穂はこの男の底がまったく掴めない。あの蛍を封印したのだ。おそらく、その霊力はとんでもないものだろう。喋り方にしても、美希のような丁寧口調だが、それは自分自身の実態を相手に知られないためだろう。
「そう言えば、貴方と彼女の関係は?」
「そうですね。彼女は全国を転々としていましたから、一年に一度会うくらいでしたね。でも、その時は楽しかったですね。それが、一番の楽しみでした。
 そして、彼女の母親が死んだ後、しばらくは一緒に暮らしていました。彼女の支えになればと、思いましてね。でも、結局はダメでした。彼女は死神『タナトス』として恐れられるようになった。そして、僕が封印をした。最後の最後で、彼女の望みに応えられましたよ」
 遠い目をしている。しかし、その表情はあまりにも暗い。
「ほう。面白い事を聞いた」
 突然、声がした。
「何者?」
 瑞穂が見渡すが、誰もいない。
「神、魔界とのチャンネルは閉じられているはず。いいね。チャンスだ」
 何もない空間から、一人の魔族が現れた。その魔族に瑞穂は見覚えがあった。
「おっと、そちらのお嬢さんは見覚えがあるな。覚えていないかな?」
「ジュダ!」
「覚えていてくれたか。それは、光栄だね」
 辺りを冷たい空気が覆う。
「気をつけて、何でもこいつは死者を甦らせる力があるみたいなの」
 横の望に注意を促す。
「死者を?でしたら、この方に生き返らせて貰えばよかったですね?そしたら、貴方もあんなに苦労をしなくてすんだのに」
「へ?」
 あまりにも、おかしな発言だ。
「ははは。こいつはいい!なるほど。冥界からおかしな干渉があったと思ったら、そちらの少年が蘇った。すると、なるほど。そちらのお嬢さんの文珠か」
「ええ、そうよ」
「だが、正解だよ。私に蘇らせられると、こんな風になる」
 あたりの土が盛り上がる。十数体の人型の物が這い出てきた。
「私は人間を甦らせるのは苦手でね。蘇っても、こうなる」
 人型は二人を見据えている。
「何か、気持ち悪いですね?見ていたら、気分が悪くなってきました」
 本当に、吐きそうな顔をしている。
「くくく!さあ、行け!」
 人型が二人に襲い掛かる。瑞穂にしてみたら、何てことはない攻撃だ。しかし、望の事を思い出しそちらを見る。
「わ!っと!」
 その攻撃をバランスを崩しながらも望は回避していた。
「ははは!いつまでもつかな?」
 人型の攻撃はそのスピードを増していくが、同様に変にバランスを崩しながらもかわしていく。
『偶然?必死?いや、それとも?』
 瑞穂はその動きに奇妙な感覚を覚える。
「おっと、それどころでは、なかったわね?」
 文珠を手に作り出す。そこに『浄』を刻む。
「じゃあ、そういうことで!」
 地面に叩きつけると人型は一気に消滅した。
「どう?今なら、見逃してあげるわよ?」
「面白い」
 すると、辺りから幾つかの光る物体がジュダの周りに集まる。
「何故、魔界とのチャンネルが閉じた状態で、私がこれほどまでに活動できると思う?」
 光る物体がジュダに吸収されていく。
「答えはこれだ。人間のいう霊魂とやらを力の糧にできるからだ」
 一気に霊力が上昇する。
「それだけ?それで、勝てるとでも?」
と、手に力を込めるが、文珠が発生しない。
「え?」
「気が付いていなかったのか?自分自身の霊力の減少に?」
『霊力を使いすぎたか』
 望の蘇生にかなりの霊力を使ったようだ。
「さて、ではゆっくりと」
 しかし、その二人の間に望が入り込む。
「ん?何だ?」
「いや、ね」
 望は相変わらずの雰囲気だ。
「ジュダさん、でしたっけ?」
 口調も相変わらずだ。
「あの、先ほど『チャンス』とおっしゃいましたが、何のチャンスなのですかね?」
「ああ、その事か」
 ジュダが得意気に話し出す。
「私は霊魂を力の糧にしていると言ったな?だが、その力は死者の生前の力に比例する。感じるだろう?遠い地で激突している二つの力。おそらくは、どちらかが滅びる。おそらくは、あの女の方だな。私は、その力を手に入れる」
「なるほど。つまりは、貴方はその死んだ人の霊魂を利用する、と?」
「まあ、そう言うことだな」
 不気味に笑う。
「そうですか。では、残念ですが」
 雰囲気が一変する。ジュダも驚きを隠せない。恐らくは、その表情も変わっただろう。
「消えてもらいましょうか」
 合わせて霊力も上昇していく。
「ほ、ほう。た、多少は…腕に、覚えがあるようだな?」
 腕が変形して斧の形になる。
「この力に、勝てるとでも思っているのか」
 そのまま無造作に振り下ろす。だが、斧はそのまま地面に激突した。
「???」
 望はその場所を動いていない。
「何を、どうした?」
 続けざまに、何度も斬りかかるが、全て当たらない。
『かわしているんだわ。それも、最小限の動きで全て紙一重の間合いで』
 瑞穂は身震いを起す。完全な状態の自分にもあれほどの芸当ができるとは思えない。単純な霊力の強さだけでは瑞穂の方が上かもしれないが、戦闘能力では遥かに負けている。
『この人、相当できる』
 そして、望がジュダの手を掴む。
「!」
 力を込めると、その腕が爆散した。
「不思議な技を使うな」
 一瞬で腕を再生させる。
「どうやら、貴方を倒すにはその力の源を断たないといけないようですね?」
 懐をあさる。そして、瑞穂の方を見る。
「精霊石、持っていませんか?」
「え、ないわよ」
 どうやら、美希同様に精霊石で辺りを浄化しようと考えたようだ。
「ふふふ。驚いたぞ。まさか、お前もあの娘同様に精霊石を使えるようだな」
 ジュダは先日の戦いで、美希の精霊石に苦戦を強いられていたのを思い出したのだろう。
「なら、仕方がありませんか。この術は多少疲れるのですが」
と、地面に手を当てる。
「何をしている?」
「簡単なことですよ。
 普段我々が使っている精霊石は、地面から掘り起こされた原石を、結晶化したものです。つまりは、原石の段階の精霊石はどこにでもあります」
 手から霊力が発せられ、辺りの地面が蒼く輝く。
「まさか!」
 地面から数本の光が伸び、ジュダを取り囲む。
「お別れです」
 その光にジュダは飲み込まれていった。
「少し苦労しましたが」
 口調はそうだが、瑞穂には余裕の表情に見えた。
「何、今の?」
「最初の腕を吹き飛ばしたのが、相手の体に自分の霊力を入れ、内部から破壊する技です。地中の精霊石を使ったのはその応用です。地面に僕の霊力を入れ、地中の精霊石と反応をさせたのです」
 口で言うのは簡単だが、並みの術者では絶対に不可能な芸当だ。
「………。先に行っていてください。すぐに追いつきます」
「え?」
「あそこに木が見えるでしょう?そこで、待っていて下さい。蛍の所にすぐに行く方法を思いつきましたので。それの用意をします」
「え、ええ」
 瑞穂は先に歩き出した。
「さて、隠れん坊はこれくらいにしませんか?ジュダさん」
 遠い虚空を眺める。
「ふ、気付いたか?」
 ジュダがゆっくりと姿を現す。
「折角、見逃してやろうと思ったがな」
「いえいえ、滅相もございません」
 再び、ジュダの周りに霊魂が集まる。
「なるほど、この世に死者のいる限り、不死身ですか?」
「まあ、そう言うことだな」
 望は、瑞穂の方を見ている。
「そろそろ、いいですかね」
 地面に手を当てる。
「また、それか?」
 辺りを警戒する。
「いえ、まさか。先ほどので疲れたので、今回のは別ので行きます。苦労するんですよ。手加減するのが」
「何だと!」
「貴方はこのまま生かしておくわけには行きませんので、自分の手でとどめをさせる状態にしたかったのですよ。そして、できればその姿を」
と、瑞穂の方を見る。
「あまり、他人にお見せできません」
 地中の精霊石が反応してところどころが蒼く輝く。
「まあ、十分でしょう」
 そして、色が蒼から白に変わっていく。
「精霊王の力か?」
「まあ、それでもいいのですがね」
 やがて、色が白から黒へと変わる。
「黒霊石。まあ、貴方にはもったいない技ですし、こちらは生命力を削られるのですが、貴方との戦いでいいヒントを得ましたので、そのお礼の意味も込めまして」
 すると、辺りの草木が枯れていく。
「要は、足りない分は分けてもらえばいいのです。この地球の生命力はほぼ無限に近いのですから」
 それに伴い一気に霊力が上昇する。
「あ、ああ!」
 それは、かつてに感じた事がないほどの圧倒的な力だった。
 一瞬でジュダは吹き飛んだ。
「何だ?」
 望はゆっくりと近付いてくる。
「まだまだ」
 霊魂を取り込もうとする。だが、
「回復が追いつかない?」
「どうやら、一定量しか回復できないようだな」
 目の前に望が立つ。
「ん、ああ!」
 ジュダは驚きを隠せない。それは、望の目があまりにも冷たかったからだ。
『何だ、こいつ!』
 先ほどとはまるで違う。そこから発せられる霊気はあまりにも冷たい。そして、感じるのは圧倒的な恐怖。
「い、行け!!」
 地面から人型を数十体出す。それが一斉に望に飛び掛る。
 だが、それも一瞬だった。地面から黒い焔が沸きあがり、全てを一瞬で蒸発させた。
「無駄だ」
 これほどまでの霊力は高等魔族にすらいない。
「わ、解った!あの力を手にするのは諦めよう」
「それで?その言葉を僕が信じるとでも?」
 全く別の人間になったかのようだ。
「残念だけど、僕はそんなに甘くない」
『最愛の人ですら、この手で』
 過去を思い出す。だが、それも一瞬だった。
「僕は、彼女を守るためなら、何にでもなる」
 無造作に片手でジュダを掴み持ち上げる。
「彷徨え!未来永劫、黒い焔の中を」
 ジュダが黒く燃え上がる。後には、何も残っていなかった。

「あ、どうしていたの?」
「いや、これを取っていまして」
 手の中の精霊石を見せる。
「掘っていたら時間がかかりまして。
 今からやるのは瞬間移動です。特定の場所でしか使えないんですが。まあ、かなりの霊力を使いますが、昔やったことがあるんです」
 石を二人の周りに撒く。
「そう。じゃあ、行きましょうか?」
 瑞穂が笑顔で話し掛ける。それを見て、望の表情が固まる。
「貴方のお母さんが、おキヌさんですよね?」
「そうだけど?」
「いえ,似ているな、と思っただけですよ」
『貴方と蛍が』
 石が輝きを増す。
「さあ、行きますよ」


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