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GS〜Next Generation Story〜

攫われた、美希


投稿者名:ja
投稿日時:05/ 9/23

「そう。良かったわね」
「良かったじゃないわよ」
 娘、瑞穂は久しぶりに里帰りをしていた。
「ふふふ。私も会ってみたいわね。横島さんの子供に。英夫君、ね」
 楽しそうな声だ。娘の声でわかる。きっと横島英夫は素敵な人なんだろう。
「ああ、そうそう。一つ聞きたいんだけど。封印の祠って確か、裏山にあったわよね」
「え、ええ。でも、どうしたの?」
 できるだけ狼狽を見せないように話す。
「え、うん。ちょっと気になっちゃって。だって、お父さんの家系はずっと、その祠にある【石】を守ってきたわけでしょう?その娘としては、見てみたいのよね」
 本当は、他の理由だが、母には言えない。
「じゃあ、行ってみるといいわ」
「そうする」
 瑞穂は立ち上がり、足早に姿を消した。
それから数分後。無意識に体が震え出す。いや、この感じは『恐怖』だ。
「だ、誰ですか?」
 思わず戸の方を見る。しかし、そこには誰もいない。
「この『霊気』は、まさか?!」
 慌てて、鳥居の方に駆け出す。

「お久しぶりね?おキヌさん」
 鳥居を挟んで一人の女性が立っていた。顔を布で覆っているので、素顔は見えない。
「ええ。確かにそうね」
 喉から必死に声を振り絞る。
「そう、警戒しないで。別にどうもしないわ。それに」
と、鳥居に触る。触れた瞬間電撃が走る。
「見事な結界ね。さすがは星井さん。おキヌさんの体を安定させると同時に、私のような存在を完璧に拒む」
 電撃の走った右手を見る。
「な、何が望みよ?」
「別に、ただ顔を見たくなってね。そろそろ、全てに答えが出るわ」
「貴方、いったいこれ以上何をするつもり?」
 警戒を緩めていない。
「あら?久しぶりに会ったのに、つれないわね。
 貴方が気に入らないのは、私が貴方を半死半生の身にしたうえ、そんな体にしたから?かつて、ヨコシマが貴方よりも私に惹かれたから?それとも」
と、顔を覆っていた布を外す。
「この、顔かしら?」
 おキヌはただ睨みつけていた。
「ふふふ。でもね、私は『あの女』ではないわよ。何度も言うけど。若干、似ているくらいでしょう」
 そして、再び布を顔に巻く。
「じゃあ、もう行くわ。久々に顔も見られたしね。あ、先ほどここを通ったの娘さん?彼女、祠の方に向かったみたいだけど、とんだ無駄足になりそうね。だって、あそこに封じられていたのは、ねえ?」
 ゆっくりと階段を下りていく。
「貴方、本当は何が望みなの?」
「そうね。聞く権利はあるわね。
 あの時、貴方とヨコシマに結ばれては困ったの。それが理由」
「じゃあ、何故私を殺さずに、中途半端に」
 その答えには答えず、女性は姿を消した。

「ふーん、やっぱり、ここのようね」
 気配で解る。夢で出てきた『アレ』が封じられていたのはここだろう。
「ここに、あったのね?」
 祭壇の上には既に何も置かれていない。
「何か、手がかりでもあれば、と思ったけど」
 中はひんやりとしている。この祠こそが、星井家が代々守りつづけている場所。そのために学んだのが、強力な結界術だ。
「ん?これは」
 祭壇の横に石碑が立てられている。かなり古い物らしく、文字は読めない。だが、読める文字があった。
「蛍?」
 そして、最後に石碑を作った人物の名前が書いてあった。
「伊達 望」

 美希は夕暮れの道を一人、歩いていた。
「誰ですか?」
 空を見上げ尋ねる。そこには、何もない。しかし、
「おお、怖いですね。気配は全く消したつもりだったのですが」
 一人の女性が降りてきた。明らかに魔族である。
「私は魔王親衛隊の一人青龍。以後、お見知り置きを」
 一礼する。姿こそ、妖艶な美女だが、気配はあまりにも危険な感じがする。
「で、何の用ですか?」
「まあ、簡単に言いますと一緒に来ていただけないでしょうか?我が主、カイン様の元に」
「お断りです」
 きっぱりと言い放つ。
「そう言うと思いました。でも、あなたの意見とは関係なしに来ていただきます」
 ゆっくりと近づく。美希の周りに精霊石が回り出す。
「ふふふ。どうなさいました?」
 美希は攻撃を仕掛けられない。その間にも青龍は一歩ずつ近づく。
「行きなさい」
 精霊石が青龍を囲む。
「もらいました!!」
 光の柱が天に昇る。これで、大抵の魔族は消滅する。しかし、
「それだけですか?」
 何事もなかったかのように青龍は歩みを止めない。
「く!!」
 美希は魔装術に身を包む。そして、間を詰め攻めたてる。だが、それらの攻撃が全てかわされる。
しかし、その時美希は何か違和感を覚えた。
「ま、まさか!!あなたは!!」
「惜しかったですね。気づくのが。まあ、気づいたところでどうしようもありませんがね」

「美希が、誘拐された!」
 ひのめの事務所にGS達が集まっていた。
「いったい誰だ?」
「魔王親衛隊。カイン直属の魔族です」
 小竜姫が答える。
「ヒャクメの千里眼を持ってしても追い切れませんでした。それほどの高等魔族です」
「目的は?」
「解りません」
「僕が答えましょう」
 その時、窓際で声がした。全員がそちらを見る。先ほどまでは誰もいなかったはずだ。
「いつの間に?!」
 全員が気配すら感じられなかった。
「何者?」
「ああ、名乗り忘れたね。僕の名前は白虎。親衛隊の一人だよ」
 見た目は英夫と同じ少年風だが圧倒的なプレッシャーを与えている。
「彼女を誘拐したのは青龍。まあ、僕の同僚だね。目的はただ一つ」
と、英夫の方を見る。
「君だよ。君を誘い出すエサだよ。おっと、下手な真似はしない方がいい。僕の同僚が彼女をどうするか解らないよ?」
 全員が固まる。
「そうそう。それでいいんだ」
と、一つの珠を渡す。
「彼女はカイン様の居城にいる。その珠で来られるよ。ただし、その珠で移動できるのは二人までだ。その内、一人は横島英夫。もう一人は誰でもいいよ」
 皆が白虎の顔を見つめる。
「でも、そうだな。レベルが低い雑魚が来られても何の面白みがない。一つテストをしてあげよう。もし、今この場で僕を倒せたら彼女を返してあげるよ」
 余裕で全員を見渡す。
「でも、君はダメだ。君はそこを動いては」
と、英夫を見る。
「さあ、どうしたの?かかってこないの?」
 全員がそのプレッシャーに押されている。
「この野郎!!」
 その時、伊達が飛びかかる。
「ふう、残念」
 伊達の拳を無造作に掴む。
「君は、失格だね」
 腹に手をあてる。そして、
「はい」
 腹に風穴があいた。
「伊達ー!!」
 吹き飛んだ伊達に横島が近付き文殊で治療した。
「大丈夫だよ。殺しはしないから。今みたいにすぐに治療すればね。他はいないの?」
 その時、小竜姫が一瞬で間を詰めていた。
「油断しましたね?!」
 下から剣を振り上げる。しかし、
「残念だったね」
 剣は無造作につかみ取られていた。
「悪くはないんだけどね」
 そのまま、壁にたたきつける。
「もう、お終い?見たところ、小竜姫以上の使い手はいないようだし。じゃあ、僕は帰るから。くれぐれもレベルが低い人は来ないことを教えておくよ」
「おい」
 その時、英夫が声をかける。珍しく、声に若干の怒気が含まれている。
「美希は、無事なのか?」
「安心して。別に彼女に危害を加えるつもりはないから。カイン様はそういうお方さ。君が来てくれればすぐにでも解放するよ」
 そう言って、消えた。

「カインの奴め、やりおるわ」
 報告を聞き、デビルはほくそ笑む。その時、城が揺れた。
「何事や!!」
 立ち上がる。かなりの衝撃だ。
「それが」
 一人の部下が入って来る。
「奴が逃げました」
「なんやと?!瀕死の状態のはずやろ」
「それが、一瞬で回復をし、そのまま!」
「………。まさか、いつでも逃げ出せたけど、機会をねろとったんか?」
 デビルは再び腰掛ける。そして、邪悪な笑みを浮かべる。部下がその表情に恐怖を感じるほどの。
「まあええ。それも一興や」

「そうか。お越し願えそうか?朱雀?」
「はい、カイン様」
 イスの横で、跪いている。
「では、私も用意をしないとな」
と、剣を眺める。
「よろしいのですか?親衛隊の連中にたおされるかもしれませんよ?」
「ふ。それならば、私と戦う器ではなかったということだ。願わくは」
「彼らを打ち倒し、さらに力を増して欲しいと?」
「まあ、そういうことだ」
 自分の武器のメンテナンスが完璧だと思ったのか、剣を虚空に消した。
「では、彼らの私が案内人を勤めましょう。横島英夫には色々と教えてあげないといけないこともありますから」
と、立ち上がる。
「そうだな。彼の存在原因の根本は、お前だからな」
「………」
「気付いていなかったの思っているのか?あの『石』の封印を解いたのが、お前だと」
 目を細める。
「さあ?どうであれ、私はほんの小さなきっかけを作ったに過ぎませんよ」

「どうする?」
「行くしかない。美希を助けないと」
「問題は、誰が行くかだ。小竜姫の霊力でも太刀打ちできないとばれば、誰でも戦力にはならない」
 その言葉に全員が同意する。
「いえ、一つ方法があります」
 小竜姫が立ち上がる。
「ずっと、悩んでいたのですが、どうやら」
と、瑞穂を見る。
「決断の時ですね」
 瑞穂に近づく。
「あなたには、覚悟がありますか?」
「え?」
「あなたには、英夫とカインの居城に行く覚悟がありますか?」
「ええ、でも私では到底力には」
「いいえ、一つだけ手があります」
と、体の前で両手を合わせる。
「まさか、小竜姫?!」
「いいのです、忠夫さん。これは私の望みでもあるのですから」
「望み?」
「私は神族です。あなたが死んでも私は今と変わらぬ姿で生き続けなければならない。それならば、人間のように限りある命をあなたや、英夫と過ごしたいの」
 やがて、手の中に光の玉が生まれる。
「あなたに、私、小竜姫の全神通力を授けましょう。あなたの霊力は私を遙かに凌ぐはずです。その代わり、つらい戦いの中に巻き込まれていきます。よろしいですか?」
 瑞穂の目を見る。
「ええ」
「ふふふ。そっくりですね。母親と」
 光の玉は瑞穂に吸い込まれた。
「これで、私は神族でも何でもありません」
と、横島を見る。
「これからは、あなた同様私も老いていくのですね」
「ああ。それが人間だ」
 横島は笑う。
「さあ、行きなさい。英夫、くれぐれも気をつけて」
「ああ、母さん行って来る」
 英夫と瑞穂は光の中に消えていった。
「しっかりやれよ」
 横島が見送った時、携帯電話が鳴り響く。
「はい、え?おキヌちゃん。どうしたんだ。そんなに慌てた声で」
 そして、その用件を聞き、声が一気に跳ね上がる。
「何だって?!あいつが?!」

「ここが、カインの居城?」
 目の前には暗黒輝く城がそびえ立つ。
「行くぞ」
「ええ」
 城の門の前で二人の前に魔族戦士の群が立ちはだかる。
「まずは小手調べか?」
「ええ、そうです」
 横に一人の男が立っていた。明らかに魔族だ。
「私の名は朱雀。まあ、親衛隊の一人といえば解りますかな」
 そして、魔族の群を見る。
「我ら親衛隊の近衛隊です。あなたがたの力試しです。まあ、ゆっくりとその力を見せてもらいましょう」
「上等だ」
 英夫が剣を構える。
「待って」
 瑞穂が声をかける。
「私にやらせて」
 手に神通棍とお札を持っている。
「せっかくもらった力。どれほどの物か試させてもらうわ」
「ああ」
 瑞穂はゆっくりと歩き出す。
「いいのですか?あの魔族達はどれも強いですよ。並みの魔族ではありませんし」
「なら」
 英夫は瑞穂の方を見る。
「勝負はあったな」
 
 魔族の残骸の上に瑞穂は無傷で立っていた。
「まさか、これほどとはね」
 瑞穂は英夫の元に返ってきた。
「どう?私にこの城に入る資格はある?」
「お見事です。さあ、どうぞ」
 朱雀が先頭を歩き場内に入っていく。
「これから、5つのステージに挑んでもらいます」
 歩きながら話す。
「それぞれのステージで我々親衛隊と戦っていただきます。最終ステージはカイン様です。別に一人で戦おうが、何人戦おうが、援軍を呼んでもかまいません。しかし、それだけではつまらないのでそれぞれのステージごとに景品を用意してあります。最終ステージをクリアすれば元の世界に帰れます。よろしいですね」
「ゲーム感覚ね?」
「ええ。それの方が面白いでしょう」
 三人は無言で歩いていく。すると、朱雀が口を開いた。
「まさか、貴方達が出会っているとは、思いもしませんでした」
「え?」
「あの『二人』の子供が、こうして出会っているとはね」
 意味ありげな発言だ。
「あなた、知っているの?」
「ええ。貴方が知りえないことまでも、ね?」
「知りえないこと?」
「そうですね。貴方が知っている事は、おそらくはそちらの彼と貴方の中に存在する、横島忠夫、星井おキヌ。それぞれのDNAが見せた記憶の欠片です。彼ら二人と、あの『悪霊』。いえ、正しくは『タナトス』ですが。そう。貴方が知りうる事ができるのは、その彼らの間に起こった事実だけ。でもね、その原因までは解らないでしょう?何故、あの『石』の封印が解けたのか、何故、あの『タナトス』は蘇ったのか?そして、『タナトス』とは何者なのか?」
「まさか!貴方が?!」
「まあ、それは、おいおい。そんな事より」
 一つの広場に到着した。
「第一ステージは」
と、広場の中央を見る。大男が立っている。
「親衛隊の一人玄武です。そして、景品は」
 部屋の片隅を指さす。そこにクリスタルに閉じこめられ眠っている美希の姿があった。
「なるほど。解った」
 英夫が剣を抜く。
「そうそう、一つアドバイスをあげましょう。我々親衛隊はそれぞれ特殊能力を持っています。もちろん彼、玄武も。二人で戦うことをお勧めしますよ」
「何だと?」
「そうね」
 瑞穂がお札を持つ。
「それの方が効率的よ。あっちがいいって言ってんだからそうしましょう」
「ああ、そうするか」
 剣を構える。
「私が結界で敵を封じる。あなたは攻撃に集中する。オーケー?」
「おお」

 英夫の剣が閃き玄武に襲いかかる。玄武はそれをよけようともしない。
「何?」
 鈍い音がして剣が止まる。
「我の特殊能力、それは」
 英夫が間を取り、再び斬りかかる。またもや鈍い音がして玄武の体の前で止まる。
「我は念じた場所に防御結界を張ることができる。主の剣はおろか、たとえ我らの長でも貫くことはできん」
 その時、瑞穂が印を結ぶ。
「だったら、これならどう?」
 下から結界の柱が昇る。
「今よ。動きは封じた」
 英夫がその隙に斬りかかる。
「悪くはない」
 しかし、英夫の剣は玄武には届かない。
「どういうこと?」
「主の結界術も見事だ。しかし、我は印を結ばずとも瞬時に結界を作ることができる。例えばこんな風にな」
 瑞穂の周りを結界が囲む。
「く!」
 急いで印を結び結界を消す。
「我の結界術に勝る者はおらぬ」
 英夫が瑞穂の元に駆け寄る。
「どうだ?同業者は?」
「私よりは結界術では遙かに上ね。英夫さん。適当にやっといてちょうだい。その間に、私が策を練るわ」
「おお。何か美希みたいことを言うな」
「美希さん?………。そうね。あの人を助けるのが目標ね」
 英夫が玄武の元へ飛ぶ。
「へい。そっちから攻撃は無しか?」
「面白いことを言う。では!!参る!!」
 英夫が今までいた場所に結界ができる。
「おっと!!」
 次々と追ってくる結界を英夫がかわす。
「これならどうだ?カウンター」
 霊気の弾丸を英夫が放つ。
「ふん!」
 それをあっさりとかわす。
 その隙に英夫が間を詰め剣で斬りかかる。しかし、結界で防がれる。再び英夫が間を取る。
「どうだ?」
「なるほど。読めたわ」
「何が?」
「まずさっきの霊気の弾丸であなたが攻撃をする。私が続いて大技を放つわ」
「それで。おそらく結界で防がれる」
「その隙にあなたは間合いをつめ一気に剣で攻撃を繰り返す。以上よ」
「以上って?」
「それで、エンドよ」
「結界で防がれたら?」
「それがヤツの欠点。結界は一度に大量には張れないみたい。さっきの応酬でそれが解ったの。さあ、行きなさい」
「よし!!」
 英夫の手から霊気の弾丸が無数に飛び出す。
「ふん」
 それらを全て結界で防ぐ。
「どうした?こんな物か?」
「そこ!!
 瑞穂の放った無数の光の矢が玄武に襲いかかる。
「おお!!」
 それも巨大な結界で防ぎきる。
「もらった!!」
 上空から英夫が斬りかかる。
「ぬん!」
 玄武も自らの剣で防ぐ。
「やるな。確かに我は結界を一度に大量には張れない。主と女の攻撃で結界を飽和状態にした上で剣での攻撃。見事だ。しかし、我の近距離での戦闘力は知らなかったようだな」
「いいえ。それも計算済み」
 瑞穂が至近距離に立っていた。
「ふふふ。主の近距離での戦闘能力は我の前では皆無に近いのだぞ?」
「ええ。私は肉弾戦は専門じゃないわ。でもね、こういうこともできたりするの」
 手に小さな珠を握り玄武に押し当てる。
「英夫さん。離れて」
 英夫が飛び去る。
「何を?」
 そ珠には『滅』の文字が刻まれている。
「まさか、文珠か?」
「さよなら、魔族さん」
 玄武の姿が薄れて、消えていった。

「お見事です」
 拍手とともに声が響く。
「そちらの女性の方がまさか文珠使いとはね、おどろきです」
「別に、小竜姫様の神通力の記憶の中にあったのよ」
「なるほど。どうやら受け継いだのは神通力だけではなく、彼女が見てきた様々なGS達の特殊能力も含んでいたのですね。これは楽しみだ。しかし、偶然の確率で誕生したとはいえ、子供たちは見事なコンビネーションですね」
 またしても、意味ありげな事を言う。
「貴方、何か言いたそうね」
「そうですね。まあ、第一ステージを通過したオマケに少しだけ教えてあげましょう。
 横島忠夫と氷室おキヌ。彼らが結ばれ、その子供、『蛍』。彼女が生まれるのが誰もが予測しえた未来。聞いた事ありませんか?未来は変えられないと。それは、例え神族、魔族の王でも不可能な事です」
「それで?」
「そこに、本来なら存在しない存在。その『存在』が、一枚かんでいたら?そう。ほんの小さなきっかけを作ったら?例えば、あの『石』の封印を偶然に装って解いていたら?」
 そして、美希が閉じこめられているクリスタルに近付く。
「続きは、またいずれ。
それよりも、約束です。お返しします」
 クリスタルが砕け美希の体が倒れる。
「美希!!」
 英夫が近寄り抱え込む。しかし、
「息をしていない?」
「そうそう、言い忘れました。このステージの景品は彼女の肉体です。魂は次のステージです」
「何だと!!」
「あしからずご了承下さい。次のステージに勝てばいいんですから」
と、言って先を歩き出す。
「さあ。ついてきて下さい」
 英夫は美希の体を抱きかかえ歩き出す。

「玄武はやられたか。いいぞ。それでこそ、だ」
 カインは誰もいない部屋で呟く。
「あと、三人か。辿り着いてくれるといいのだがな」
 その時、音もなく誰かが入ってきた。
「タナトスか?」
 それは、質問と言うよりも、確認だった。
「お久しぶりね、カイン」
 そう。おキヌの前に現れたあの女性だ。相変わらず、顔を布で覆っている。
「顔を隠す必要はないだろう?」
「まあ、見せてもいいんだけどね。
 それよりも、良かったわね」
 空間に英夫達の姿が浮かぶ。
「戦いたかったんでしょう?より、強いものと?」
「ああ。そのために、お前をあの『石』から出したんだ。しかし、今さらながら、お前は何者だ?『タナトス』というのも、偽名だろう?そして、お前が『悪霊』だというのも」
「そうね」
と、空間の英夫の顔を見る。
「貴方には、結構お世話になったから。少しだけ教えてあげましょう。
 私の目的は、『彼』よ」
「横島英夫が?」
「別に、マムやデビルのように新世界の王にしたいわけでもないし、貴方のように、強い者と戦いたいわけではない。いえ、全ては偶然よ」
「ふ、なおさら解らないな」
「知る必要はないわね。ここで、貴方に彼が殺されても、それもよし。でもね、私は彼が貴方以上だと信じている。そのために、彼が成長しきるまで、私は姿を消したんだから」
「なるほど、今がその時だと?」

「美希、高校どうするんだ?」
「高校ですか?」
 中学生の頃。帰り道で英夫が尋ねる。
「やっぱり六道女学院か?GSになるならあそこがベストだな」
「………。行って欲しいですか?」
「はあ、何言ってるんだ。お前の進路だろ?それは、俺は地元の高校だから別々になれば会う機会は減って寂しい気もするがな?」
「そうですね」
 そう言って少し俯く。
「GSになるのは私の夢ですから、六道女学院に行く方が、いいかもしれませんね」
 英夫の横を歩く。
「でも、GSになる事以上にもっと大事な夢もあるんです。それを叶えるためには………」
「へー、そんな夢があったんだ。てっきりGS以外には興味が無いと思っていたのに」
「何故、そうなるんですか?」
「見たまんま。『私はGSになるために忙しいんです。あなたなんかと付き合っている暇はありません』なんて言うものだから、鈴木のやつ泣いていたぞ」
 鈴木は英夫の友人で、美希に交際を申し込んでいた。
「まあ、それもはずれではありませんね」
 美希が歩くスピードを上げる。
「ああ、そういえばお前のもう一つの夢って何だ?オリンピックにでも出たいのか?」
「もっと、普通の夢です。まあ、それの下準備ですかね」
「下準備?そんなに時間がかかるのか?」
「ええ。今でも準備中ですよ?」
「そんなに準備が必要なのか?その夢って?」
「ええ。何しろ今までの準備はあまり役に立っていないようですからね。なかなか難しいです」
「そうなのか。で、何なんだ。その夢って?」
 美希は黙って歩き出し、そして急に振り返る。
「内緒!」
 満面の少女の笑みで答えた。

「さあ、着きました。ここが第二ステージです」
 部屋の中央に白虎が立っている。
「彼はお知り合いでしょう」
 英夫が美希を地面におろす。
「彼女の事ならお任せ下さい。私が責任を持ってお守りします。あなたがたは白虎を倒す事だけをお考え下さい」
 二人は中央に進む。
「へー、君が来たんだ。どうやら小竜姫の神通力を受け継いで劇的にパワーアップしたようだけど、僕の相手が務まるかな?」
「それは、やってみないとわからないでしょう」
 瑞穂が手のお札を投げつける。爆音とともに煙が舞う。
「いいね、強い強い」
 白虎の横を剣が通り抜ける。
「なるほど。コンビネーションというわけか?玄武がやられるはずだ。でもね、あいつは僕たちの中では最弱なんだ。彼とは一緒にしない方がいいよ」
「そっちこそな」
 英夫の斬激が白虎を捕らえる。
「………。なるほど。怒りを力の源にしているというのは本当らしいね。見た目とは全然違う。玄武戦よりも霊力が上がっている。君の望みはあれかな?」
 そこに、水晶があった。
「彼女の魂だよ。僕に勝てたらあげる」
 間合いを取る。
「でもね、残念ながら君たちは僕には勝てないんだ」
 二人を見渡す。
「だって、君たちはもう」
 その時、英夫の体に衝撃が走りはじき飛ばされた。同時に瑞穂も吹き飛ぶ。
「な、何をした?」
 白虎はその場を動いていない。
「どうしたの?」
 不思議そうに立っている。
「この!!」
 英夫が斬りかかる。白虎はよけようともせず立っている。しかし、吹き飛んだのは英夫の方だった。
「これなら、どう?」
 瑞穂が文珠を構える。しかし、
「へー、いい物持っているね」
 いつの間にか、白虎の手に文珠が握られている。
「でも、こんなのつまらないでしょう」
 そのまま握りつぶす。
「いつの間に」
 またも、見えない衝撃で二人が吹き飛ぶ。
「残念だったね。でも、僕にこの力を使わせたんだから。立派だよ」
 そして、
「じゃあね」
 一瞬だった。一瞬で白虎は英夫の左側の壁に激突していた。
「な、何だ?」
 それには白虎も驚いている。左の額からは血も出ている。
「まったく、この程度の相手に苦労しているの」
 英夫の横に一人の魔族が立つ。
「そんな事ではダメね」
 透き通るような声の女魔族。ノアだった。


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