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GS〜Next Generation Story〜

『怒』と『哀』と(協奏曲)シンフォニー


投稿者名:ja
投稿日時:05/ 7/ 8

おい。何のつもりだ。ノア!」
 ノアの斬撃を英夫がかろうじて防ぐ。
「どうしたの。反撃してこないの。まあ、私はどっちでもいいけど」
 ノアの攻撃は強さを増していく。その全ての攻撃が必殺の威力を持っている。
「ぐ!」
 英夫が吹き飛ばされる。
「私たちはこうなるのが運命なのよ。私はその通りに生きているだけ。あなたはそれに逆らってどうするつもり。私に殺されるのがいいわけ」
「運命?知らないな。そんな事」
 剣を杖代わりにして立ち上がる。
「その運命に如何程の価値があるかは知らないけど、別にその通りに生きる義務はないんじゃないのか?」
 剣を前にして構える。
「そうね、英夫の言っている事は正しいわ。何も、例え自分の運命が確定的でもその通りに生きる必要は無い」
と。剣を下ろす。
「私の存在理由。
それは、貴方という巨大すぎる力に対して、対となる存在。力を持つ者。
私の運命。
それは、貴方と戦い続けて、そして貴方を………」
 目を伏せる。そして、自分の剣を見る。
「アシュタロス。知っている?」
 突然、かつて滅んだ魔族の名を口にする。英夫はゆっくりと首を縦に振る。
「その様子だと少しは知っているようね。かつて、貴方の父親を中心としたGSが倒した上級魔族。私はその記録を見て一つだけ彼との共通点を見つけた」
と、英夫の目を見る。
「彼は、最強クラスの魔神として強制的に存在し続けなければならない運命。しかし、彼は自らの滅びを望んでいた。そのため、彼は苦しみその答えがあの事件」
「………。よく解らないが?」
 英夫はキョトンとしている。
「そうね。貴方には少し難しい話ね。
 早い話が、彼はミスキャストだったのよ。そこが私との共通点。私は」
『貴方を……してしまったから』
「本来は、許されないのだけど」
と、微笑む。哀しい笑顔だ。そして、
「お喋りはここまでね。私は、運命の道標が向くままに進むことにするわ。例え、私の望みと逆の向きであろうと」
 その目の哀しみが増していく。
「さあ、続きをしましょうか」
と、剣を構える。瞬間、英夫の懐に滑り込む。強烈な一撃を英夫は辛うじて受け止める。
「だからって、俺はノアとは戦えない」
 英夫の頭に中世でのノアとの生活が思い出される。彼らは一月もの間共に生活をしていた。その時に幾度となく見た、その哀しい表情に隠された優しい笑みを。
「あなたは生きたくないの?それとも人を傷つけるくらいなら、自分が傷ついた方がいいわけ?」
 剣を振り下ろす。英夫は何とかそれを防ぐ。
「ゲイル達とは普通に戦えたのに、私が相手だと力の一部も使えないのかしら?」
英夫は後方に飛び、ノアが後を追う。
「一ついいことを教えてあげるわ。
 貴方の父親、横島忠夫。彼も貴方と同じ。心のどこかに敵に対する甘さが残っていた。そのせいで、大切な者を失いかけた。いえ、失ったといっても過言ではないわ。かつて、一番愛した人をね。今は貴方の友人の母親だけど」
 剣を振り下ろす。
「そこから、彼は変われた。良い意味でね。そして、トップクラスのGSに成長できた。貴方も変わりなさい」
『私を、倒すことで………』
 英夫が攻撃を受け止める。そして、
「この!」
 剣を横に凪ぎる。ノアはそれを避けようともしない。剣はノアに当たっただけだった。
「まさか、そんな攻撃で私を倒せるとでも?それとも単なるフェイクで私が退くとでも?」
 英夫はゆっくりと剣をひく。
「どうやら後者のようね。でもね」
 手から霊力の固まりを出し、英夫にぶつける。英夫は後方の岩に激突する。
「中世でも言ったわね。剣を持っているときは非情になれって。それは、相手が誰であれ同じ事よ」

「計画通りには、行きませんか?」
「そうやな」
 倒れた英夫に、ノアが斬りかかり、それを何とかかわしている。
「横島英夫。彼にノアという女性魔族をぶつけ、その出会いの中彼女に惹かれていく。しかし、運命が邪魔をする。二人は戦わなければならない運命にあるのだから。彼は彼女を倒さなければならない。そして、最終的には彼は彼女を倒し、戦いの中成長する」
「ああ、当初の予定ではそうやったな」
 昔を思い出す。そう、この計画を思いついた頃を。
「私たちの見誤りは三つ。
 一つ目。彼の精神的な甘さ。例え、自分を殺そうとする相手であれ、自分が惹かれている女性を倒すことはできない。
 二つ目。彼女を倒さなければならないという『運命』を無視している。
 そして、三つ目は」
『横島英夫がノアにに惹かれるよりも、ノアの方が横島英夫に』
と、少し微笑む。
「ミスキャスト、だったかしらね」
「おい。やばいんじゃないのか」
 英夫が気を失ったようだ。
「ノアは戦いが進むにつれその哀しみが増し、強さも増す。でも、英夫は怒りの感情がまったく見受けられない。当然の結果です」
「そんな冷静な事を言ってどうする?もし、このままノアがあいつを殺してしまったら」
と、今にも止めに入りそうな勢いだ。
「………。やはり、きっかけが必要なようですね。彼には」
 そう言って手をかざす。

 その時、ノアの呪縛から一人だけが解き放たれた。そしてそのまま英夫の元に向かった。

「ヒデ!」
「やあ、美希」
 英夫は幼き日の夢を見ていた。
「何をしているの、ヒデ」
 二人は妙神山の庭で遊んでいた。
 英夫の周りにはたくさんの小鳥が集まっていた。
「何故か寄って来るんだ」
「ふふふ。それはね、みんな英夫が優しい人だって知っているからよ。動物にはそういった本能があるの」
 美希も近づく。
「うらやましいか?」
「そうね。うらやましいけど、私の夢はGSになること。プロのGSには時には非情になる心も必要なの」
と、遠くを見る。
「ふーん。だったら俺はなれないな。幽霊をやっつけるって何かかわいそうだ」
 すると、美希は英夫の方を見て、安心したような表情になる。
「あなたならそう言うと思っていた。でも、私が誰かにやられたら」
「それはないよ」
 即座に否定する。
「もしもよ。その時は、約束よ。私の代わりにその相手をやっつけてね」

 そこで英夫は目を覚ます。顔に何か液体が落ちたからだ。手にとってそれを見ると赤い血だった。自分の体を見るが目立った傷はない。
 顔を上げるとそこには英夫を庇い剣に貫かれた美希が立っていた。
「み、美希」
「ダメですね。ゲイルとの戦いで力が弱っていました。本来ならこんな攻撃、何ともないのですが」
 ノアが剣を抜き間合いを取る。
「美希………」
 美希は英夫の方を見て微笑む。
「ヒデ、しっかりしなさい。目の前の敵を倒さなければ、より大きな哀しみを生むことになることもあるの。そう。時には非情な心も必要なの」
 英夫の方に倒れ込む。
「覚えてる、小さい頃の約束」
「ああ」
「守ってくれる」
「ああ」
「良かった。でもね、私は優しいあなたが………」
 そこで、言葉が消える。
「あ、ああ!!美希ぃー!!」
 その時、叫びと共に硬質ガラスが砕ける音がした。

「封印が解けた」
「封印者である者の死によって、自動的に解かれたようです」
「問題はそれをコントロールできるかだ。前みたいに自我が飛んで獣化すればその時は、止めに入るぞ。いくらなんでもあれを暴走させておくわけにはいかないだろ」
「ええ。そうですね。でも、私はあの子を信じます。それが私たち二人の永遠ともいえる長年の夢なのですから」

「ぐぐ!!」
 英夫の雰囲気が一変する。以前同様、獣化していく。
「自我を飛ばすわけには行かない」
 徐々に獣化が収まっていく。そして、横目で美希を見る。
『非情だ。非情になるんだ。そのためだったら、俺は何にでもなる!!』

 英夫は周りを見渡す。誰もいない。
「あれ?ここは?」
 英夫には見覚えがあった。確か、以前にルシオラに会った場所だ。すると、奥に二人の人影が見える。近付くと以前と同様結界が砕ける。
「そうか。これを使えということか」
と、獣人の方に近付く。しかし、
『非情な心が欲しいか』
「え?」
『お主が求める非情な心が欲しいか?』
 声は獣人の隣の黒衣を纏った男の方から聞こえる。
『友を討った、かの魔族が憎いか?』
「ああ」
 その時には、英夫の心に変化が生まれていた。
「俺は、自分の甘さゆえ」
『恥じる事はない。お主はそういう人間だ』
 男がゆっくりと顔を起こす。そこには、英夫の顔があった。
『お主の心にないモノ。その『魂の欠片』が我々なのだ』
 英夫に近付く。
『目の前の魔族を倒す力が欲しいのだな?されば、憎め!!『憎悪』こそ我が力!!』

 一瞬、目映い光が輝く。そして、
「………」
 獣化していない英夫が立っていた。唯一違うところは、その目に心が宿っていないことだった。
「期待していたのに。どうやら、何も無いようね」
 ノアが目の前に立つ。
「さあ、どう出るのかしら?英夫」
 剣を持ち英夫につっこむ。英夫がそれを紙一重でかわしノアを横に蹴り飛ばす。空中で体勢を立て直し着地する。
「………死ね」
 冷たく言い放ち、ノアの間合いに一瞬で入る。
「え?」
 そのまま剣を振り下ろす。ノアは何とか防ぐが勢いに押され吹き飛ぶ。
「どういうこと?このパワーは?何より、あの性格」
 普段の英夫ならあり得ない攻撃だ。
 ノアは反転して、剣を振り下ろす。しかし、英夫はあっさりとその剣を掴む。
「消えろ」
 あまりにも冷たい声で言った。

「面白いな。どう見る?」
「どうやら、彼の中には『魂の欠片』が二つあるようですね。前回、ゲイルとの一戦で見せた獣人とは別に」
「それは、面白いな!!」
 興味深げに英夫達を見下ろす。
「さて、どないする?やっぱ計画通りには行かへんな。一方的や」
「そうですね。ノアの役目は、彼と戦い彼を育てる事。特に『魔』、『神』に比べてあまりにも静寂すぎる『人』の力を。しかし、私達が思っていたより遥かに、彼の力が強大すぎたようですね」
「あの、ノアでも太刀打ちできひんとはな。誕生した時には、魔族史上最強の力を与えたはずやのに」
 眼下では、英夫の攻撃を受けて、ノアが吹き飛ばされていた。
「計画では、このまま英夫がノアを殺すはずやが?」
と、横を見る。
「貴方には、もし彼がこのまま暴走したら、止められる自信はありますか?」
 真剣な眼差しだ。
「今なら可能や」
 その言葉の意味を理解する。
「伊達美希、そしてノア。この二人を失ってしまったら」
『残りは一人か』
「それでは、きついですね。まだ、育ってもいませんし」
と、ゆっくりと降下する。
「止めましょう。計画の多少の変更はやむをえません。あちらを頼みますよ」
と、英夫を指差す。
「そうやな。このままノアを倒されても後々面倒やし、彼の底力も見られたし」

 今の二人は一方的だった。一方的に英夫が押していた。
「まさか、ここまでとはね」
 倒れたノアに英夫がゆっくりと近づく。
『でも、最後にあなたに殺させるのが私の望み』
 ノアは英夫の方を見る。
「………死ね」
 英夫が剣を振るった瞬間。剣は間に入った何者かに止められた。
「ストップ。ここまで。勝負ありや!」
 その時、呪縛から解き放たれたみんなが駆けつける。
「そうですね。無駄な殺生は困ります」
 横の女性が言う。
「あ、あなた達は」
 小竜姫が驚く。英夫以外の皆もその覇気に戸惑う。
「見事や。我々のプレッシャーにも動じひんとはな」
「………誰だ?」
「おお、すまんすまん。俺はデビル。魔族の長をつとめとる」
「私はマム。神族の長です」
 男の方に続き、女の方が一礼する。
「それで?」
 無機質な声だ。
「ほう、これにも動じひんか。さすがやの」
「そこを退け。俺はそいつを殺す」
 目は、ノアの方に向けられる。
「まあまあ、どうやろここは見逃してもらえんやろか?」
「そこを退け。お前も死にたいのか?」
「せやな、できるんやったら、そうしてもらいたいけど」
 そうして、マムの方を見る。
「どうでしょう。交換条件というのは」
 英夫もマムの方を見る。その時、英夫の周りを精霊石が回る。
「やれやれ、非情になれとは言いましたが、ここまでとは思いませんでしたよ」
 美希が歩いてやってくる。
「その方の命と交換というのはいかがです」
 マムが微笑む。そして、ノアとともに二人は消えた。
「ヒデ、今は眠りなさい」
「美希………」
 鈴の音が響き英夫の力は封印された。
「でも私のために、ありがとう、ヒデ」
 倒れ込んだ英夫を美希が優しく抱き留めた。
 
「まったく、あと一歩遅かったら危なかったで」
「そうですね」
「目覚めさせるためとはいえ、無茶をする」
と、自分の剣を見る。
「どうなさいました?」
 すると、音もなく剣が砕け散った。
「あれは、本物の化け物や。いくら俺でも、あいつとはやりたくないな」
 その顔には、彼には珍しく恐怖が浮かんでいた。


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