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極楽人生

狐の墓参りor決意


投稿者名:BJL
投稿日時:05/ 5/26

 私は墓の前で手を合わせて目を瞑った。

 墓石に刻まれている名前は<横島忠夫・美神令子>であった。
 何度も何度も世界を救った英雄。
 世界最強のGS夫婦だ。
 だが、もう二人はこの世にいない。
 アシュタロス事件から十三年が経った後、新たな魔神が世界を破壊しようとしていた。

 それを阻止せんとアシュタロス戦の英雄が集まり戦った。
 勝ったのは人類側だ。
 だが、人類側も被害をこうむった。
 横島忠夫と美神令子の死だ。
 魔神と相打ちになって死んでしまった。
 知人・友人・親友・家族・神族・魔族。
 みんなが二人の葬式で泣いた。

 純真に泣く者。泣くのを必死で我慢する者。悪態をつきながら泣く者。目を覚ませと必死で叫ぶ者。影でこっそり泣く者。

 葬式の場は荒れに荒れた。
 いくら泣いても本人達は帰ってこない。
 そんな事は当たり前言われなくてもわかっている。
 だが、人々は泣いた。
 空も人々に呼応するように雨が降る。
 まるで、地球全体が二人の死を悲しむように雨が降る。

 横島と美神には三人の子供が居た。
 子供達や私とシロは美神令子の母―美神美智恵の家で暮らす事になった。
 それから、何年か経った日タマモはふらりと二人の墓参りに行く。

 黙とうを終え、ゆっくりとタマモは目を開いた。
 私はそのままの体勢で思いを巡らせた。

 私には昔の記憶は無い。
 だが、そんな事を気にしたことなど今までほとんど無かった。
 でも、やっぱり昔の私もこんな風に誰かの為に祈っていたのかな。
 愛した人を失った時に泣いたのかな。
 私がいくら思い出そうとしても記憶は甦らなかった。
 何故かそれがとても悲しい。
 今度転生したら今の私の記憶も消えてしまう。
 そんなのは嫌だ。私は今の自分が好きだ。
 そして、私の愛する人達の事を忘れるなんて考えられない。
 ・・・何時からだろう。
 私がこんなに弱くなってしまったのは。昔はこんな事は無かった。
 あの人達に出会い、私は変わってしまった。

 ポンっと頭を叩かれた。
 思いにふけり気配を全然読めなかった。
 不覚だ。
「やっぱりココに居たでござるか」
 声の主など見ずにも分かる。
「別に良いでしょ。私がドコに行こうとも」
「それはそうでござるな」
 シロの声の調子が何時もと少し違う。
 顔を見ようにも私からの位置では顔が見えなかった。
「・・・で、何しに来たの?ごはんはさっき食べたから、まだなはずだけど」
「別にようなどござらん。拙者はただ散歩がてらに寄っただけでござる」
 どうやら怒ったようだ。
「ふーん」
 しばし静寂が辺りを支配した。
 静寂に絶えられなかったのか、シロが口を開いた。
「たしか、今日でござったね」
「何が?美神さんと横島の命日はまだずっと先よ」
 私は墓石を見つめたまま答える。
「いいや、違うでござるよ」
「じゃあ、何よ」
「お主が横島先生達と出会った日でござろう?たしか、昨日がお主の誕生日であったし」
「・・・そういえば、そうだったわね」
 シロが何処でそんな情報を仕入れたのかは興味が無い。
 ただ、懐かしむように墓石を見る。

 二人の少女と一人の青年が、墓の前に立つ二人の女性を見つける。
「あ、いたいた!!
 おーい、タマモ姉、シロ姉。凧上げしようぜ凧上げ!!」
 青年が元気な声で言った。
「いやよ、やっぱりカルタよね!!」
 一番年上っぽい女の子が決め付けるように言う。
「えー、副笑いが良いよー」
 一番幼い少女がだだをこねて言う。
「ハー」
「やれやれ」
 私とシロは同時に溜め息を吐いた。
「仕方ない行くでござるか」
「そうね、後が面倒だしね」
 二人は諦めの表情をかもし出し、すくっと立ち上がった。
 そして、シロは墓石を見据える。
「美神殿、横島先生。
 ご子息はあのように元気でござる。だから、暖かく見守ってあげて下さいでござる」
 シロは墓石に深深と頭を下げた。
 私はシロを見た。
「な、何でござるか。
 何が可笑しいでござるか?」
 どうやら私は無意識に笑っていたらしい。
「別にー」
「白状するでござるよ」
 シロが詰め寄ってくる。
「そんなに言って欲しいの?」
 私は自分の顔に邪悪な笑みが浮かばせる。
 シロはそれを見て、少し足を退いた。
「い、いや、やっぱり良いでご――」
「えー、何々聞かせてー!?」
 子供達がワラワラとシロと私に近づく。
「葬式でのシロの泣き顔を思い出したのよ」
「へー、どんなだった?」
「こ、こら止めるでござる」
 必死で私の口を塞ごうとするが、子供達がはばむ為に近づけない。
「それがね、笑っちゃうのよ」
「や、やめてぇぇぇぇぇ!!」
 シロの絶叫が辺りを響かせた。

 あの時のシロは尋常な泣き方ではなかった。
 だが、今では笑っていられる。
 たぶん乗り越えたんだろう。
 そんなシロが羨ましい。
 負けてられない・・・っか。
 それに、私が死ななければいいのよ。
 何せ私は大妖怪金毛白面九尾の妖狐。
 何年、何十年、何百年でも生きられるわ。
 もし、もしも私の愛する者を傷つける奴らが居たら私は私の命に代えても守る。
 満足できる死なら私は受け入れるだろう。
 そうでなければ絶対に生き延びてやる。
 絶対後悔をして死んでやるもんか。

 一度だけお礼を言おうとした。
 私を助けてくれたことに。
 でも、言えなかった。
 忙しすぎて話す時なんてなかったから。
 いつでも言えると思った。
 あの時は本当にそう思っていた。
 でも、でも言えなかった。
 「ありがとう」
 たった一言。
 言うのに一秒もかからない。
 でも、もう二度と言うことは出来ない。
 死んでしまった人に言葉は届かない。
 その場にお礼を言う相手が居ないなら言っても仕方がない。
 言ったとしても私の気が納まらない。
 私は後悔した。
 胸が締め付けられ、頭ガンガンして痛かった。
 もう、あんな思いは嫌だ。
 それを救ってくれたのは目の前に居る少年少女達だ。
 私なんかよりも辛いはずなのに、私の手を取ってくれた。
 私はその時思った。
 この子達を幸せにする。
 それが、私が考える唯一のお礼だ。
 自己満足かもしれない。
 そんな風に考えるなんて私らしくないかもしれない。
 やっぱり私は弱くなった。
 守るものを持ってしまったから。

「「「ハハハハっ!!」」」
 三人の少年少女が笑った。
 どこか嬉しそうにも見える。
 私は次の言葉を無意識に言う。
「でねー・・・」
「そこから先は言っちゃあいけないでござるぅぅぅぅ」
 
 
 でも、後悔はしない。
 それが、私の人生だから。
 昔の記憶なんてもうどうだっていい。
 私は私だ。
 昔の私がどうかなんて知る時が有ればその時に知ればいい。
 今はこの子達の将来と、私を愛してくれる人の事だけを考えよう。

 そういえば、明日は真友くんとデートの予定だったけ。
 どうしよう明日もこの子達がこの調子なら楽しいデートなんて出来ない。
 そういえば、真友くんが大切な話が有るって言ってたわね。
 絶対に行かなくちゃあ。
 うーん。どうしよう。

 歩道が笑いと悲鳴の混じる場所となった。
 まるで歩く公害だ。
 だが、楽しく話す五人を止める事が出来るのはこの場には居ない。

 横島忠夫と美神令子の墓石に暖かい風が吹く。
 草や木もその暖かい風に煽られた。
 クスッ
 どこからか笑い声が聞こえた。

 私は振り返った。
「・・・気のせい・・・?」
「どうしたの?」
「ううん。何でもない。
 でねー。シロってば・・・」
「も、もう許してぇぇぇぇ」
 泣きながら訴えてくるシロを無視し、私は話を続ける。


―――END―――


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