「じゃあ、お母さん。行ってくるわね」
「ええ。たまには連絡してね」
瑞穂は、母に見送られ、我が家を後にした。
瑞穂の母は、娘が見えなくなると家に向かう。途中で、神社を通り抜ける。
そして、電話への向かい、ダイヤルを回す。数回のコールの後、生憎と留守のようで、留守番電話に繋がった。少し微笑みメッセージを吹き込む。
「お久しぶりです。横島さん。娘が、そちらに向かいました。よろしくお願いします」
「じゃあ、美希ちゃんと英夫君は今日はここの除霊に行って来て。英夫君も修行から帰ってきて強くなったみたいだし」
修行から一ヶ月が経過していた。
「あ、私も行きます」
亜紀が言った。亜紀は玉藻のもとを離れひのめの事務所で修行を始めた。
「そうね、ひよっこ同士仲良く頑張んなさい」
さて、道中では会話が行われる。しかし、美希は無口であるので当然会話は英夫と亜紀のみで行われる。
「亜紀さんはGS免許を取る予定あるの?」
「さあ、まだ決めてないわね。しかし、今年の試は凄かったわね?その主役がここにいるんだから誇らしいわ」
といった、会話が繰り返されている。しかし、その後ろで不機嫌な顔の美希がついていることにはまったく気づかない英夫であった。
『はあ、2人っきりだったのにな』
東京駅に着いた瑞穂は、一台のタクシーを拾う。
「美神除霊事務所まで」
運転手は、元気よく答え、タクシーが走り出す。
「運命か」
もともと、直感は鋭かった。母に言わせると、それは巫女としては重要な力らしい。瑞穂自身もその力が嫌いなわけではない。そして、母の影響も受け、GSの修行も始めた。一通りの道具は使えるし、結界術には自信があった。
「ん?」
その時、何かの感覚が脳裏を駆け巡った。
「運転手さん。そこを右に」
「ここか?」
「そうですね。地図によればここにいるはずなんですが?」
その時、
「どうやらはめられたようよ?」
亜紀が前方を指差す。
「ほう、勘がいいな」
そこから一人の魔族が現れる。
「十二魔の一人、カプリコン」
「罠というわけですか?」
「少し違うな。お前たちがここに現れると聞いて待ち伏せただけだ。仲間が現れた時はおかしな結界のせいでやられたようだが、今回はそうはいかんぞ!」
手から魔力を放出する。魔力は一直線に英夫達に向かう。
「美希!結界だ」
「はい」
周りに結界を作り出す。結界に阻まれ魔力は消滅する。
「行くぞ!」
英夫が剣を構える。
「せい!」
と、切りかかる。カプリコンも応酬する。
「むう」
一進一退の攻防を繰り返す。しかし、英夫の様子がおかしい。
「何か体が重い」
英夫は異変を感じた。
「退いてください」
美希も異変に気づき、精霊石を飛ばす。レーザーがカプリコンを襲う。
「人間の力は所詮その程度か?」
余裕でかわしていく。
「く!こいつ最初にここを【魔】の力で汚染していたようよ」
亜紀がお札を投げつける。それもかわしていく。
「そうよ、ここは魔界と同じ雰囲気にしてある」
カプリコンが誇らしげに言う。
「ちぃ!これじゃあ私の力もフルに出せません」
美希が顔をしかめる。
「さすがに、やばいかしら・・・」
と、いった亜紀の声が聞こえた中、
「結」
周りから数本の光の柱が上がる。
「な、何?」
一瞬で雰囲気が一変する。英夫の血からが回復していく。逆にカプリコンの魔力が減少していく。
「これならいける!」
英夫が力をこめる。件に霊力が篭る。
「超加速!」
剣を一閃させた。カプリコンの腹をなぎる。そして、同じく霊力の回復した美希が叫ぶ。
「ヒデ離れてください!」
精霊石がカプリコンを囲む。そして、光の柱が昇って消滅した。
「しかし、何だったんだ?今の?」
英夫が周りを見渡す。
「一瞬で、あれほどの力を」
その時、
「これからはもう少し気をつけることね。敵はどこからでも狙ってくるのよ」
一人の巫女姿の女性が近づいてきた。ショートカットで目つきが鋭い。美希が氷をイメージさせるならこの女性は抜き身の真剣を連想させる。
「ふむ」
瑞穂が持ってきた紹介状を読む。
「姉さんから話は聞いているわ。そう、あなたがあの人の娘さん」
と、顔を見る。
「お幾つかしら?」
「高校二年生です」
「英夫くんたちの一つ後輩ね」
と、英夫の方を見る。
「誰ですか?この娘?」
美希が尋ねる。
「姉さんや横島さん。英夫くんのお父さんね。と一緒にGSをしていたネクロマンサーの女の人の娘さんよ。今は引退して神社の経営をしていると聞いたけど。旧姓は確か、『氷室』だったかしら?」
と、瑞穂の方を見る。
「はい、そうです。母は星井おキヌ。旧姓は氷室おキヌです」
「まあ、そういうわけだから。今日から新メンバーが加わるわ。そこで、チーム替えを行います」
と、英夫、美希、亜紀、瑞穂の前に立つ。
「英夫君もこの仕事に慣れてきたことだし、美希と離しても大丈夫ね」
と、美希の方を見る。
「じゃあ、英夫君と瑞穂ちゃんがペアね。美希と亜紀がペア」
「え?」
「何で?」
驚きの声が美希と英夫から上がった。
「どうしてですか?私はヒデと・・・」
「敵は悪霊だけじゃなくなったの。今回のようなケースもまた起きないとは言い切れないわ。英夫君は完全な戦士タイプ。逆に瑞穂は後衛タイプ。美希と亜紀はどちらでもえきるでしょう。戦力的にいい組み合わせだと思うわよ。それとも、戦力的以外の理由があるの?」
「え、いいえ・・・」
美希は押し黙った。
「じゃあ、決まりね」
「待って下さい」
その時、瑞穂が口をはさむ。
「過去の記録を洗ったところ、英夫さんと美希さんのコンビはかなりのものです。それを解散してまで私と英夫さんを組ませるのはどうかと思いますが?」
「・・・そうね。正直英夫君と美希のコンビはなかなかよかったわ。色々な意味で」
「はあ?」
「いや、こっちの話。でも英夫くんの潜在能力はまだまだ深いわ。違った環境でも育ってほしいの。おわかり?」
「つまり、私は彼を強くするための土台ですか?」
「少し違うわね。言うならば【触媒】よ。そしてまた違った意味で楽しめそうだし」
「はあ?」
「まあ、そういうわけだから頑張んなさい。早速、七時から英夫君たちは働いてもらうわよ。美希と亜紀はデスクワークね」
瑞穂は英夫の前に立ち、右手を差し出す。
「よろしく。星井瑞穂です」
「ああ、横島英夫だ」
と、手を握り返す。
「え?よこしま?」
『………ちゃん』
『大丈夫です。…こ……さん。ルシオラさんの分まで、私があなたを………』
『………ちゃん!!』
大きな傷を追った少女を男が抱えている。
『その少女を傷つけたのはお前だよ。………まクン』
『カイン!!』
『君の甘さが、戦いに本気になれない甘さが、先の悪霊を討ち漏らし、その少女を傷つけたのだ』
『その子のことを頼んだよ、星井君』
『よ……さん?』
『君の力を持ってすれば、その子の魂と肉体のバランスを保つ事も可能だろう』
『……し…さん』
星井と呼ばれた男は悲しそうな顔をする。
『その子を、そんな体にしてしまったのは俺だ。もう、昔のようにはなれない。俺は、カインを討つ!!』
「もしもーし!」
ひのめの声で、二人が我に帰った。
「何、二人して目と目で通じ合ってんの?」
二人は慌てて手を離す。
「何だ?今の?」
英夫は頭に浮かんだ事を思い出す。しかし、不思議と思い出せない。その様子は、瑞穂とて同じようだ。
「まあ、いいか。じゃあ二人とも、お仕事よろしくね」
ひのめは自分の席に向かった。
「姉さん」
後ろから優子が声をかける。
「半分遊んでない?」
「・・・何のことかしら?」
「あの2人を組ます意味よ」
「いいじゃない。もしかしたら子供同士が親が叶えられなかった悲恋を・・・」
「マンガの読みすぎよ」
「えーっと、ここを曲がって、ここか」
一つの廃墟ビルに到達した。
「あからさまだな」
英夫がビルを見上げる。瑞穂も横に立ち、見上げる。
「英夫さん。どうするの?結界を張る?」
結界術の用意を始める。
「ああ、張ってくれ」
瑞穂がお札を宙に撒く。
「結!」
一瞬で結界が張られる。
「凄いな?美希の精霊石みたいだ」
素直に感心する。
「感心しないの。それに美希さんの術はどっちかというと攻撃型、私のは守備型だから正反対よ」
「へー、良くわからんな」
瑞穂の説明に首を傾げる。
「あなた、GSでしょう?」
「GSだが除霊をはじめて一月だ」
と、威張る。
「え?うそ」
と、英夫の顔をマジマジと見る。
「ふーん。そうなんだ。まあいいわ。それよりさっさと除霊してきて頂戴。私は攻撃の技はさほど得意じゃないから」
「よし!」
英夫が剣を構え、気を込める。
「行くぞ!」
悪霊数体を一瞬で散らした。
「さすがね。霊力の強さは半端じゃないわ。これでまだ潜在能力があるなんて羨ましい限りね」
と、英夫を見るが、英夫が倒れている。
「ちょ、ちょっと!どうしたの?」
近くによる。
「は・・・」
口がわずかに動く。
「腹減った・・・」
「・・・・・・」
無言で蹴りを入れた。
「自動車で言うと・・・」
除霊からの帰路で瑞穂が言う。
「貴方は立派なエンジンを持っているわ。これからさらに進化する可能性のある立派なね。そのパワーに耐えられるだけのボディーも持ち合わせている。後はそれをコントロールするだけなの」
そこで、間を置く。
「しかし、肝心のガソリンが駄目のようね。今日、朝何食べたの?」
「か・・・」
「か?」
「金がなくて、食べてない」
「はあ?あんたバカ?それじゃあ駄目よ」
と、首を振る。
「いや、しかし仕事があるときは事務所で食わしてもらってるんだが・・・」
英夫が弁明する。
「それに、あまり料理できないし」
「仕方ないわね。私、貴方の学校に転校する予定だから昼くらいは何とかしてあげるわ」
その時、英夫の表情が一変する。
「何かがいる?」
「え?」
瑞穂もそちらを見る。
「ほお、さすがだな。成長しているじゃないか。嬉しいよ。英夫クン」
暗闇から、カインが現れた。
「カイン」
「ふ、抜き打ちテストに来たよ、英夫クン」
一瞬で間合いを詰める。英夫は伸び上がってくる剣を辛うじて受け止める。
「いいね、前よりは使えるようになっているじゃないか」
間合いを開ける。そして、剣を鞘に収める。
「とりあえずは及第点はあげられるな」
と、瑞穂の方を見る。
「ほう、新しいパートナーか。ん?」
と、顔を凝視する。
「そうか、お前あの女の娘か!」
驚きの声をあげる。
「これはいい。運命の悪戯だとすれば、運命とやらも面白い悪戯をする」
と、おかしそうに声を出す。
「お母さんを知っているの」
「ああ。知っているよ。もちろん、父上の方もな。そうか。横島の息子のパートナーは、あの女の娘か」
『今日こそ、ケリをつけようぜ、カイン』
カインの前に四人の男女が立ち並ぶ。
『ふ!』
カインの動きは全て、少女の心眼で見破られ、あらゆる攻撃を少年の結界術で防がれる。一人、髪の毛と瞳の色が違う男が隙を作り、そして、あのアシュタロスを倒した男の攻撃がカインを襲う。
思い出してみれば、神魔戦争の終結以来、退屈の日々を送ってきた自分にとって、張り合いの日々を作ってくれたのはあの四人だった。
「ふふふ、面白い。そうだ。一つ君にアドバイスをあげよう」
と、英夫の方を見る。
「ゲイルの十二魔。奴らを倒したからといって油断はしないことだな。ゲイルは、そんな雑魚どもとははるかにレベルが違うのだからな」
そして、虚空に消えてった。
翌日の昼休み。英夫がパンでも買いに行こうかと席を立とうとした時、
「横島英夫はいる?」
瑞穂が制服姿で入ってきた。
「?」
英夫がそちらの方を見る。
「あ、いたいた」
英夫の方に瑞穂が歩み寄る。女子数人と弁当を食べようとしていた美希がそちらを見る。
「はい、これ!」
一つの包みを渡す。
「何、これ?」
包みを受け取り、中を見ると弁当箱が入っていた。
「え?」
「昨日言ったでしょう?何とかしてあげるって。心配しなくても怪しい材料は使っていないわ。田舎から送られてきた物だし」
と、教室を出ようとする。
「え、しかし・・・」
「一人分作るのも二人分作るのも手間は同じだから気にしなくていいよ。入れ物は仕事の時に返してくれればいいから、じゃあ遅れないでね」
台風のように去っていった。
「まあ、何か知らんが助かった」
英夫は席に座り、蓋をあけ、一口食べてみる。
「・・・うまい」
英夫が喜んでいる中、周りは何がなんだか解らず固まっていた。
一方、美希は黙々と箸を進めていた。しかし、自分の箸が逆になっていることには気づいていなかった。
「どうかしたの?」
除霊中、亜紀がボーっとしている美希に声をかけた。
「え?何がです?」
慌てて振り向く。
「何か今日様子が変よ?」
「何もありません。あるはずがありません。さあ、仕事しましょう」
と、向き直る。
「美希、とっくに終わっているわよ」
除霊は亜紀があっさり終わらせていた。
「・・・そういえばもう一組は大丈夫かしら?」
「え?」
美希が素っ頓狂な声を出す。
「英夫さんと瑞穂ちゃんのペアよ。確か、今日も出勤していたわね」
「え、ええ。そうですね」
相変わらず、声が上ずっている。
二人が帰ると英夫と瑞穂が帰っていた。
「ああ、お疲れ様」
ひのめが皆を迎えうける。
「ひのめさん。晩飯。腹減って」
英夫が訴える。今にも死にそうな顔だ。
「それがね・・・」
ひのめが申し訳なさそうに頭を下げる。
「ちょっと手違いで今日は無しなの」
「え?」
英夫の顔から光が消えた。
「た、楽しみにしていたのに」
英夫の唯一の栄養源が消えた。
「はぁ、あんたねぇ。仕方が無いわね」
瑞穂が提案する。
「特別に夕飯作ってあげるわ」
「え?本当か?」
英夫の顔は子供のようだ。そのおかしさにこらえながら瑞穂が答える。
「ええ。飢え死にされてもガソリン切れで働くなっても困るし」
やれやれといった表情だ。
「なら、私も行きましょう」
美希が手をあげる。
「じゃあ、私も行く。面白そうだし」
亜紀が続く。
「へ?俺の家そんなに広くはないぞ」
英夫がおずおず言うが、
「何か文句がありますか?」
美希がにらみを利かすと黙り込んだ。
「じゃあ、私からは差し入れを渡すね」
と、飲み物の瓶を渡す。何やら外国の言葉で書いてある。
「ね、姉さん、それ・・・」
喋ろうとする優子の口を押さえ込む。
「お疲れ様、また明日ね」
笑顔で送り出した。
英夫の部屋は1Kのアパートである。今そこに四人の男女が入り乱れている、
英夫の部屋は比較的きれいであった。
「ふーん、相変わらずですね」
美希が部屋を見渡す。何度か来た事があるが、変わり映えしない。
「台所借りるよ」
瑞穂が台所で料理を作り出そうとする。しかし、
「私がやるわ」
亜紀が台所に向かった。
「え?」
「若者同士、たまにはゆっくり話したら」
瑞穂を追い出す。仕方なく瑞穂は英夫の近くに向かう。英夫はひのめからの差し入れの飲み物をグラスに入れていた。
「はい」
そのうちの一つを瑞穂に渡す。
「どうも」
瑞穂は受け取りながら英夫の顔を見た。と、同時に不思議な気分になった。何故、瑞穂は英夫の為にここまでしているのか自分自身にも解らない。しかし、彼の為に食事を作りに来たいと思った時は決して嫌々ではなかった。むしろ、何かを期待していたのかもしれない。もし、美希達が来なかったらと思うと不思議な気分であった。
「あ、亜紀さん。これどうぞ」
「あら、ありがとう」
と、笑顔で答えた。
『何か見たことある気がするんだがな』
と、一人の女性が思い浮かんだ。
『まさかな・・・』
決してその女性ではないことを確信した。彼女が持っていたその大いなる悲しみが亜紀にはまったく見られなかった。
『あいつは、今どこに』
始めて見たときから、英夫は彼女に何処か惹かれていた。
『違うな』
英夫が自己満足しているとき、
「あら?」
亜紀が声を上げる。
「どうしたの?」
「これ、お酒よ」
「え?」
気づいた時には遅かった。
「ヒデー!」
突然、美希が寄ってきた。
「ふふふふ」
やたら笑顔である。
「な、何か?」
たじろきながら答える。身に危険を覚える。
「私ねー・・・」
抱きつきながら声をかける。
「昔っから・・・」
その時、呼び鈴が鳴った。
「あ、誰か来た」
英夫が慌てて離れようとすると、
「どこ行くの?」
美希がへばりついている。
「何をしてるんです」
瑞穂が寄ってくる。英夫は、天の助けとばかりに叫ぶ。
「あ、助かった、ちょっと美希を頼む」
と、離れようとするが、
「なかなか、よく見るといい男よね」
瑞穂が英夫の顔を凝視する。
「え?」
「残念ね。せっかく二人きりになれると思ったのに」
腕を絡めてくる。
「あ、あの・・・」
「ちょっと、ヒデは私が昔から」
「あら?そんなの関係ないじゃない」
「な、何よ」
もはや普段の冷静さのかけらも無い二人であった。痺れを切らしたのか、呼び鈴をならした本人が入って来た。
「入るぞ、小僧」
入ってきたのはカオスであった。しかし、
「え、だれ?」
「ワシじゃ、カオスじゃ」
と、顔を指す。
「え?うそ」
明らかに別人だ。格好は同じだが、その顔に皺一つ無い。
「うそではない」
と、事情を話す。
「カインが」
「ああ、そういうことだ。そこで相談だがな」
英夫の目を見る。
「一緒に魔界へ行かんか?」
その目は自信に満ち溢れていた。
「魔界へ?」
「ああ。ゲイルとか言う奴を叩きのめしにな」
「ゲイルを?」
「魔族ごときの謀略に乗るのはつまらんが、若返ったことによって気が大きくなってな」
と、右手を見る。
「しかし、おぬしも忙しいようじゃから」
と、部屋を見る。中では美希と瑞穂が言いあいをしている。
「まあ、お主の父親もそんな感じじゃった」
と、遠い昔を思い出している。
「と、いうわけでな・・・」
ひのめの事務所でカオスが説明する。美希と瑞穂は頭を抑えている。二日酔いである。
「魔界へ行くことにした。お主たちも狙われて大変だったろう?」
と、全員の顔を見渡す。
「連れて行けるのはワシを含めて5人じゃ。早速、今夜にでも向かう。メンバーを選んでくれ」
「私は行きます」
美希が手を上げる。
「私も」
「ついでよ」
亜紀と瑞穂が手を上げる。
「あ、俺はやめ・・・」
ギン!
美希がにらむ。
「い、行こうかな」
「よし、ではその四人は今夜家に来てくれ。もちろん戦う用意をしてな」
横島は世界中で起きている魔族の侵略を止めるため飛び回っていた。今日は中東にきていた。
「・・・ここもか」
すでに荒らされた痕がある。
「神魔戦争か。カインもろくな事をしないな」
この戦争の始まりはそもそも自分にあった。アシュタロスの消滅によって力を失った魔族側に対し、神族側は強気になってきた。そして、カインら武闘派の謀略もあり今に至る。
「俺にもう少し力があれば」
自分の息子の状況も報告されている。いくら潜在能力が高いとはいえ、心配なのに代わりは無い。ゲイルの十二魔も5人は片付いたと報告は受けている。おそらく、ゲイルを倒したらしばらく魔族側も英夫には手を出さないだろう。しかし、強くなることによって今度はカインに狙われることになる。
「・・・息子より、今は自分か」
右の方の虚空を見る。
「誰だ?」
「おお、さすがは人間界最強のGS横島忠夫だな。気配は消したつもりなんだが」
一人の魔族が現れた。
「十二魔の一人、アクエリス」
「・・・」
構えを取る。右手に霊波刀を出し左手に文殊を握る。
「嬉しいね。息子より俺を狙ってくれるとは」
「ふん。人間界進行のためには、GSが邪魔なんでね」
と、魔力を放出しながら突っ込んできた。それを横にかわし刀で一斬りする。
「甘い甘い」
横島はラクに構える。
「終わり?」
その時、背中に衝撃を受けた。
「な、なに?」
そこにはもう一人の魔族が立っていた。
「スコーピオ」
「お前は強いと聞いてな、援軍を用意しといたんだ」
「そうそう」
「二対一はさすがにつらいか」
横島はこんな状況は何度と潜り抜けてきた。
「最後に勝つのは俺だよ」
文殊に【爆】を刻む。
「くらえ」
スコーピオに投げつける。あっさりとかわされる。その隙を突いてアクエリスが間を詰める。
「へへへ」
攻撃を横島はかわす。
「俺たちのコンビプレーは十二魔でもトップクラスだよ」
「そうですか」
と、女の声が響く。
「なら、私たちのコンビはそれ以上ですね」
アクエリスの後ろから剣が刺さる。
「ぶう!!お前は小竜姫?」
その場で崩れ落ちる。
「そういうこと」
その隙に横島はスコーピオのそばに飛ぶ。
「じゃあな」
文珠を炸裂させた。
「助かったよ」
「いえいえ」
と、剣を収める。
「それより、英夫です」
事情を話す。
「カオスのおっさんが?大丈夫なのか?」
あの人にはろくな思い出がない。
「それが、若返ったとかで。絶頂期の頃のあの人の凄さは有名です」
「いや、たいして性格は今と変わらなかった」
昔、中世の時代に会った若き日のカオスを思い出す。
「しかし、他に手がないのも事実だ。俺はまだやらなければならない事がある」
と、ポケットから小さな袋を出す。
「文珠が入っている。英夫に渡してくれ」
「ええ。がんばってね」
「用意は出来たか?」
カオスが見渡す。その時、虚空から一人の女性が現れた。
「小竜姫」
小竜姫はカオスに挨拶をする。
「ええ。私は行くことが出来ませんがよろしくお願いします」
横島から受け取った文珠を英夫に渡す。
「英夫。あなたの運命、自分で切り開くのよ」
「何それ?」
「そのうち解るわ」
と、離れる。
「では、行くぞ!!」
下の魔方陣が輝く。
「いざ、魔界へ!」
五人は魔界へと消えた。
横島と小竜姫の息子の英夫の今後の活躍にも期待できますし、横島達の昔も気になります。
これからも楽しく読ませていただきます。 (鷹巳)
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