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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter2.HIGHPRIESTESS 『疾走>>鉄塔』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 4/25


夕暮れに街が染まる中、道行く車の間を縫うように疾走していく。

交通法など知ったことかと言わんばかりの速度と運転。

乗っている者の焦りの表れだろうか。

だが、それでも銀一は尚も速くと願い続けた。

もっと。もっと速く。一刻も早く、夏子のところまで。

それが伝わったのか、もしくは横島もそう感じているからか。

二人が乗るバイクはさらに加速すると、信号を無視して交差点へと飛び込んでいく。

バイクに憑依している人工幽霊壱号の警告と、大量のクラクションとブレーキ音。

恐怖はない。ただ焦りだけがある。

西の空へと沈み行く夕日が、まるでカウントダウンのように思えた。

速く。もっと。もっと速く。

ひたすらに願いながら、銀一の脳裏に浮かぶ思い出があった─。




          ◆◇◆




小学校の屋上で、銀一は彼女を呼び出した。


「宮尾。何やの、話って…?」


銀一が振り返ると、そこには不思議そうな顔をした夏子が立っていた。

いつも、何をするにも三人は一緒で、こんな風に二人きりになることは珍しい。

ましてや、今の自分は笑ってしまいそうなくらい真剣な表情をしているんだろうから。

銀一は意を決して、口を開く。


「…引っ越す前にどうしても伝えたくてな。俺…お前が、夏子が好きやねん。」


夏子はほんのわずかに目を見開いて、それから少しだけ寂しそうに微笑んだ。


「…ごめん。」

「!…そうか…。」


銀一は手すりをつかんでうな垂れる。

フラれた。

夏子が隣に来てもう一度「ごめん。」と言ってくれたが、銀一は首を振った。

告白した以上、こうなる可能性だってあった。

その覚悟をした上で伝えたのだから。

夏子は校庭を眺めながら、言葉を続ける。


「気持ちは嬉しいけど…うち、横島が好きやねん。」


その言葉に、銀一は少なからざる驚きをもって夏子を振り返る。

と同時に、複雑なものを含んだ納得もしていた。

横島の長所も欠点も、親友の自分がよく知っている。

だからこそ、夏子が横島に惹かれた理由はすぐにわかってしまう。

だが、それでも胸のうちに広がる黒い感情は消せない。

親友への、醜い嫉妬と自尊心。

そんな自分の感情を疎ましく思いながら、納得しろと言い聞かせる。


「クラスの中じゃ、けっこーライバル多いけどね。」


そう言った夏子の顔は少し淋しそうで。

三人はずっと『友達』として付き合っていたのだ。

今更、横島は自分を『女の子』として見てくれるだろうか。

そんな不安があるのだろう。

そう感じた銀一は、硬いものを飲み込むように自分の感情を押し殺すと、笑顔の仮面をつける。


「…まあ、頑張りや! なんせ、俺をフッたんや。絶対、二人で幸せにならなアカン!」


精一杯の励ましで、精一杯の強がりだった。

でも、強がってよかった。

自分の言葉に、弾けるように笑う夏子の笑顔を見て、心からそう思った。




          ◆◇◆




今も、夏子は横島だけを見てる。

そして自分は─?

横島の操るバイクに掴まりながら、銀一は今一度、自らに向けて問いかける。

夏子も横島も、自分では力及ばないような状況の中にいる。

こうして、しっかり掴まっていなければ、すぐにでも振り落とされそうな状況の中に。

それでも自分は。

そうだ。それでも自分は、夏子が好きだ。

だから、追いかけている。

何も出来ないのだとしても、それでも夏子の元に行きたい。

速く。もっと。もっと速く。

ビル群の合間に、赤い尖塔が見えてきた。







          ◆◇◆







気まずい空気が、車内に満ちていた。

最初の方こそ、ノースが刻真に状況を聞いていたが、今では不安げに口をつぐんでいる。

運転席の美神も、助手席のおキヌも、心持ち沈んだ表情をしている。

シロは先ほどから、何かを言おうと口を開きかけ、それをやめるといったことを繰り返している。

恐らく、自分と同じことを考えているんだろう、とタマモは思った。

美神とおキヌ。二人に聞きたいことはいくつもあった。

何故、横島の向かう先が分かるのか。

そこに何があるのか。…いや、何があったのか。

どうして、自分たちには話そうとしないのか。

墓標と言っていたが、それは誰のものなのか…。

シロが何度目かの逡巡をしたとき、タマモは小さく舌打ちして自ら聞きだそうと身を乗り出した。

だが、ふいにその手を掴まれる。

振り返ると、片手に鈴女を横たえた刻真が、首を横に振ってきた。

タマモは、刻真に身を寄せると、美神らに聞こえぬよう小声で話しかける。


「何で邪魔するの?」

「…話してくれないからって無理に聞き出すのか?」

「だって…何もわからない状態でついて行っても、役に立てないわよ?」

「違うね。自分たちだけ蚊帳の外でいるのが嫌なんだろ。」

「うッ…。」


図星だった。

刻真はやれやれといった感じで、苦笑を浮かべる。


「とりあえず、今はそっとしておこう。そのうち、話してくれるさ。」

「…そのうちって何時よ?」

「さあな…悲しいことを話すのは辛いから。」


その言葉に、ふと引っかかりを覚える。

刻真のそれは、憶測を語るものではないように思えた。

事情を知っている…?


「ねえ、刻真。ひょっとして…─。」

「おキヌちゃん。ちょっといいかな?」


タマモの言葉を遮って、刻真は助手席に声をかける。

わざとらしいタイミングだと、タマモは半目になって刻真を睨む。

それに気付かず、あるいは気付かないフリをして、刻真は身を乗り出していく。


「何ですか、刻真さん?」

「ちょっと悪いけど、鈴女を頼めるかな? 俺、ヒーリングは出来ないから…。」

「あ、はい。わかりました。」


おキヌは、刻真の手から鈴女を優しく受け取ると、胸元に抱き寄せる。

包まれた両の手のひらに、癒しの気配を持つ霊気が集まっていく。

それを席に戻って満足げに見やる刻真は、それ以上問い詰めても何も答えそうになかった。

仕方なくタマモは窓の外、夕日に赤く燃える東京タワーへと視線を移した。





          ◆◇◆





夕暮れ時の東京タワーは、さらに赤みを増し、まさに燃えているようだった。

横島はその姿を眩しそうに見上げる。

半年前の出来事が、フラッシュバックのように脳裏に瞬く。

視線を下ろしてみるが、周囲には人気がなく、自分たちの他は誰もいない。

夏子の姿も見当たらないということは。


「上か…。」


再び横島は、目前の鉄塔を見上げる。

遥か上空。展望台の上に人影が見えたような気がした。


「…行く…しかないか。」


横島の掌に、霊気が凝縮して宝玉の形を成していく。

主を運ぶために。


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