「…いや〜、参った。今回ばかりは死ぬかと思った。」
とか言いつつ、美神の予想より早く、二分で復活してきた横島。
さすが、ピートも舌を巻く回復力の持ち主である。
テーブルに座る横島の隣に、気遣わしげな表情をした一人の少女がいた。
「横島…ホンマに大丈夫なん?」
「ん、ああ。これくらい、いつものことだから心配すんな、夏子。」
小川夏子。
横島と銀一の小学校時代の遊び仲間で、珍しく女子の中で仲の良かった少女だった。
「平気、平気!」とおどけて見せる横島に、ようやく安心したように笑う。
「せやけど、お前も東京に来とったんやなぁ。しかも、モデルやってるんやて?」
「うん。連絡…したかったんやけどな。うちも忙しかったし…驚いた?」
「ああ。そらもう、驚いたわ。」
頷く横島に、照れたように小さくはにかむ夏子。
若干、頬を赤らめてるところが可愛らしい。
「まさか、あの撥ねっかえりがモデルやっとるなんてな〜。時代の流れを感じるわ。」
「って、ちょう待ちぃ! どーゆー意味やの!?」
しみじみ語る横島に、すかさず的確な突っ込みが入る。
「そこは『綺麗になって驚いた』とか言うところやろ!?」
「アホか。そんなん素面で言える奴おったら、メッチャ恥ずかしいやんけ。」
「へっ?」
横島の言葉に、思わず間抜けな声を漏らしたのは、銀一だった。
慌てて『しまった』という顔で口を押さえるが、もう遅い。
「あれ? ちょっと、銀ちゃん。『へっ?』て何やのん? あれ? ひょっとして…?」
「え、ええやないか、別に!! 社交辞令やろ、社交辞令!!」
「えーッ! 今更、何言うてんの! からかってる違うかて思うくらい、言うとったくせにぃ!」
「そんなん、知らんわ!!」
やいやいと騒がしく、それでも楽しそうに話す三人。
それは、子供の頃に戻った錯覚を、彼らにもたらしていた。
懐かしい感触はとても居心地がよく─。
─ふと。
背中に冷たい空気を感じて、横島は硬直する。
訝しがる二人をよそに、ぎりぎりとぎこちなく振り返れば。
「…楽しそうね。」
半目で一言。
美神のこの一言がどれほどキッツイか。
横島の顔に、ぶわっと冷や汗が浮く。
もっとも美神だけでなく、おキヌやシロも似たような表情で睨んでいるわけで。
「あ、え〜と! 銀ちゃん…は知ってるから、こいつは小川夏子って言って、俺の友達ッス!」
やばい兆候と見た横島は、とってつけたように紹介を始めた。
折角回復したのに、また怪我をするわけにはいかない。
「夏子。こっちが…。」
「どうも。美神令子よ。」
にっこりと笑っているが、その声は刺々しい。
横島が思わず反射で、ビクゥッと頭を抱えたほどだ。
「え、えっと、それでこっちが…。」
「はじめまして。横島さんの同僚の、氷室キヌです。」
「お、おキヌちゃん…?」
健気にも紹介を続けようとする横島を遮って、おキヌが挨拶をする。
これも笑っているが、何だろう。何か凄く怖い笑顔だ。
「あ〜…でぇ、こっちがぁ…。」
「拙者、横島先生の弟子のシロと申します。」
こちらも笑顔で対応。
だが、先の二人と違い、こめかみの血管をひとつ隠しきれていなかったりする。
「って、シロ! 不機嫌そうにするな!!」
「ああっ! 何で拙者だけ!?」
答え。未熟者だから。
その後はタマモ、鈴女、ノースと滞りなく進み…。
「あと一人…あれ? アイツは?」
「お茶淹れてくるって。」
タマモの答えに「そっか。」と横島は頷く。
とりあえず、これで少しは雰囲気も和らぐかなと思ったのだが。
すっと、夏子が居ずまいを正して、美神らを見据える。
「どうも、初めまして。横島の『幼馴染』の小川夏子です。」
びきっと。
どこかで亀裂が走る音を、横島は確かに聞いた。
ゆらりと、美神らの視線がこちらを向く。
「…おさななじみぃ?」
「いやッ、幼馴染つっても小学生の時、たまたま家が近所だったからで…!!」
「そうや。せやから、帰りはよく一緒やったし、お泊りとかもしたもんな♪」
ガタガタッと、美神らが席を立つ。
すでに笑顔の仮面は、ない。
「お・と・ま・りぃ〜っ?」
「だッ、小学校低学年の話ですって!! 銀ちゃんだって一緒だったんスから!!」
横島の必死の視線を受け、こくこくと何度も頷く銀一。
折角の休日を、友人の通夜にされてはたまらない。
とりあえず、美神たちが席に着くのを見て、ほっと安堵する横島。
「そ〜、それで銀ちゃん! 遊びに行くんやったな?」
「あ、あ〜うん! そうや! そういうわけで、美神さん! 横っち、借りてってええ…です、か…?」
銀一の言葉は、最後の方は消え入るように小さかった。
横島の貼り付けたような笑顔も、見る間に引きつって歪んでいく。
美神がジト目で睨んだ。
横島は怯えた。
銀一はフリーズした。
「仕事、終わったけど…ダメッスか…?」
おそるおそる、横島は再度尋ねる。
美神の視線が一瞬、ちらりと夏子を見る。
気まずい沈黙が続き…。
「ふぅ…いいわよ、別に。楽しんでらっしゃい。」
「え? い、いいんですか?」
心底、意外そうな表情をする横島を、美神は軽く睨みつける。
「なかなか会えない友達なんでしょ? それを邪魔するほど、私も野暮じゃないわよ!」
そう言って「フン!」とそっぽを向いてしまう。
何となく、構って欲しいくせに意地を張る子供を思い浮かべてしまう横島。
おキヌたちもそう思ったか、苦笑を浮かべている。
「それじゃ、今日はこれでお先に失礼します。」
「あれ? もう出るのか?」
横島らが席を立とうとしたとき、刻真がトレイにカップを人数分用意して戻ってきた。
「ああ、悪いな。折角、用意してくれたのに。」
「いいさ。ところで、今日は夕飯どうする? 用意しておく?」
「外で食ってくるからいいよ。ほい、鍵。」
そう言って、刻真に部屋の鍵を投げ渡す横島。
軽く頷き返して、刻真もそれを受け取る。
「さて、それじゃ行こうぜ、二人とも─…って、夏子。どうした?」
気付けば、夏子がそんな横島と刻真のやりとりをじっと睨んでいる。
銀一も、目を丸くして驚いているようだった。
「横島…この女、なに?」
ぐさり、と。
夏子が呟いた一言は、そんな擬音が聞こえてきそうなほど、刻真の胸に刺さった。
思わず、カップを並べる手が震え、がちゃんと嫌な音がする。
「横っち…同棲とはやるなぁ〜。やっぱ、あのおじさんの子だけあるわ。」
ぐさぐさっ、と。
銀一の言葉に、さらに追い討ちをかけられる刻真。
完全に打ちのめされ、床に倒れふす。
そんな刻真の様子を見て、不思議そうにする夏子と銀一。
「ど、どないしたん?」
「いや、まあ…なんというか…。」
哀れを止める刻真の姿を気の毒そうに見やりながら、横島は困ったように頬をかいた。
読んでくれて、ホンマありがとうw
数年ぶりに横島と会う(おう)たんやけど、全然変わってへんなぁ、アイツ。
馬鹿なとこも、あけすけなとこもそのまんまやし…
…意外と身の回りの女に人気があんのも変わってへんねやもんな(怒
喜んで良いやら、悲しんで良いやら…
そうゆうたら、あの後で聞いたんやけど刻真って人、実は男やってんな。
うち、悪いこと言うてもうたわ。
せやけど、服装はともかく顔立ちがホンマ女の子やってんもん。
おまけにお茶まで用意してきよったから…普通は女の子の気配りやん?
え? いつもはおキヌちゃんがやってたん?
……うちを牽制しとったわけやな。やっぱ、あの辺がライバルか…。
ほな、うちはこれから横島んとこ行ってくるわ! また、次回も読んでなv (詠夢)
プレッシャーは感じることができてもその訳がわからない横島では泥沼化していくだけですからね。わかるようになったら親父のようになるのだろうか?
今回の刻真は気の毒でしたね。
あの伏線がこうも早く使われるとは思いませんでした。
たっぷりと笑わせていただきました。(笑)
それと夏子がモデルですか珍しい設定ですね。
見たことがあるのではだいたいは霊能関係が多かったですから。
夏子と銀一と横島の会話も良かったです。 (夜叉姫)
鈍い横島もいいですけど、そのうち大樹のように鋭い横島も書いてみたいなぁ。
刻真はこれからも、このネタでいじっていこうかと。
そのうち、おキヌちゃんたちから、ムリヤリ女装させられたり(笑
夏子モデル説は…なんだろう?
そんなイメージが強く浮かんだもので、特に深くは考えませんでしたね。
それにしても、銀一がタレント、夏子がモデルと…横島がますます比較されまくりそう(笑 (詠夢)