横島忠夫は時々思い出して考える。
あれは本当に恋だったのだろうか、と。
振り返ってみれば、あの時二人の間には確かな絆があった。
それは事実だ。
だが、それは本当に恋だったのだろうか。
生まれたばかりの彼女が初めて優しくしてくれた異性に傾倒し、短い寿命と危機的状況ががその思いを情熱的なものにした。
自分は優柔不断がゆえにそのあまりの思いに応えざるをえず、男の本能的な欲望がそれを後押しした。
ただ、それだけの事ではなかったのだろうか。
まるで、ロミオとジュリエットの喜劇のように。
あれは本当に恋だったのだろうか。
しかし、それを知る機会は永遠に失われた。
それが事実だ。
◆ ◆ ◆
「美神さん。バイト辞めます」
高校の帰りに事務所に顔を出した横島は唐突にそう切り出した。
美神は午後のお茶を楽しみながら気怠げに「ああ、そう」と相槌を打つ。
「はい、辞めます。月納めまでだいぶあるので今月の給料は無しでいいです」
「ホントッ!? ラッキー」
現金な美神は金の話に瞬時に反応した。
「……て、辞めるって誰が!?」
横島は淡々と「俺です」と答える。
「何を?」
「この事務所のバイトをです」
「何で?」
「学校のほうに専念するためです」
美神はしばし押し黙り、わざとらしい苦笑いを浮かべた。
「そんな、今さら……」
いつものような冗談事にしたかった。
「いえ、今より遅らせると卒業できなくなります」
横島は取り合わない。
いつもの、いや、かつての優柔不断な様は全く見えない。
「なにも辞めなくたって、出勤日を土日祝日だけにしてもいいわよ」
美神は食い下がる。
何か決定的なことが起きているような気がする。
「大学進学も視野に入れるとバイトをしている余裕はありません。なにせ、成績がひどく悪い上に出席率その他もろもろで平常点もほとんど有りませんから」
冷たく突き放される。
「大学に行くつもりなの? それに、バイトしなかったら生活費や学費はどうする気なの? 貯金なんてしてないでしょ?」
「あくまで視野に入れておきたいだけです。可能性は多いほうがいいですから。お金のほうは大丈夫です。なんとかします」
「なんとかって……」
すこし青ざめた顔で横島をうかがう。
「ええ、なんとかします。非合法なことはしません。真っ当な手段で対価を得ます」
「どうやって?」
「教えられませんよ。取引相手は美神さんじゃありませんから」
取引相手。
その言葉だけで美神は大体の事情を察した。
「GSになるのは諦めるの……?」
横島は一瞬あっけに取られた顔をしたが、すぐに気を取り直して答えた。
「GSを目指したことはありません。いや、その場のノリと勢いで言ったり行動したことはありますけど、それだけです。もちろん可能性の一つには入れてますよ」
美神は気が付いた。
もはや、何を言っても無駄なことに。
「……ルシオラ……の……せい……?」
横島は急激に冷えていく己の血を意識した。
ルシオラのせい。
ルシオラの、せい。ときたか。
「関係ありません。問題は出席日数と成績です」
そうだ、関係ない。
たとえあの事件があろうが無かろうが迫られるはずの決断だ。
「そう……よね。ゴメンなさい……」
「いえ、かまいません。それじゃあ美神さん――」
「横島クン――」
「――お世話になりました」
横島忠夫は予感する。
二人の線が交わることはもう二度とないだろう事を。
SSなんて書くのは初めてです。
評判よかったら続けてみようと思います。
ここが悪いけど直して続けてみればって人もコメントくれると生きる希望が湧いてきます。
文章書くのなんて何年ぶりだろう?
無謀だったか…… (ダイバダッタ)
実質Bクラスですが、今後に期待してA評価で。 (脇役好き)
・・・・・”せい”
この一つの単語が大きいですねえ。
話としてはルシオラを異常なまでに神聖視していないのがいいです。
悲劇の主人公ぶってる横島とかも好きでないですし。
続き、凄く期待しています。頑張ってください。 (柿の種)
何時までもみんな仲良く(?)ってのも良いですが
地に足の着いた横島も読みたかったんです。 (ココ)
でも、そっかあルシオラの感情の起因って「吊り橋の恋」
って見方もあるんですね。なんか新鮮な解釈です。 (ぽんた)
「せい」ってなんかとっても嫌だなぁ。
続き&横島の周囲が気になります。
あの〜個人的に思うのですが〜
「?」を入れたほうがいいかなぁ〜と思ったのですけど…
>あれは本当に恋だったのだろうか、と。
>だが、それは本当に恋だったのだろうか。
>ただ、それだけの事ではなかったのだろうか。
>あれは本当に恋だったのだろうか。
↑この四つ。 (零紫 迅悟)
やや短いのが気に成りますが、導入部としては十分でしょう。
文末の「?」の使用については、文語体の文章ではむしろ使用しないのが普通とは思いますが、雰囲気によっては使うのもいいかもしれません。
ただし、「冒頭で横島が美神事務所を去る」という展開そのものはもはやパターンと言っても過言ではないほど使われていますから、ここから先が腕の見せ所ですね。期待します。 (はく)
見苦しいとは思いますが二重ハンドルは禁止なので、念のため書き添えます。 (はくはく)
吊り橋効果とかロミオとジュリエットとかはどっかの考察サイトに載っていました。
ぶっちゃけパクリです。
最初の方の文に?が無いのは書き手の迷いです。
文語体などという単語は初めて知りました。
小説の書き方サイトを見つつ書いてますが、難しいですね。
三点リーダーとか中線とか初めて知りました。
短い。短いですね。でも、これ書くのに4時間もかけました。
しかも、後半知恵熱出して朦朧としながら書きました。
おかけでなに考えて書いたのか覚えてません。
横島は予感とか勝手なこと言っているし、題名の「after day」も意味不明です。
自分としては日本語で「そしてその後」と書いたつもりだったんですが不思議です。 (ダイバダッタ)
と返されて気になったので調べてみましたところ、「文語体」は間違いでした。
大変失礼しました。
いわゆる現代文の文章というのは分類としてはすべて「口語体」になるんですね。
私事ですが勉強になりました。
前のコメントで言いたかったことは、要するに語尾の活用で明らかに疑問文だとわかる文に関しては、「?」を付けなければならないと言う訳ではないうことです。
但し、括弧の中の台詞等はその限りではないし、より判り易くするためにあえて「?」を付けるのは、それはそれで良いと思います。
そのあたりは作者の感覚とこだわり次第ですね。 (はくはく)
まあなんとなく分かりました。
つまり日本語は情緒性溢れる言語でアバウトだからそんなに気にすんなということですね。 (ダイバダッタ)