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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter1.MAGICIAN 『魔法陣>>造魔』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 2/ 5



画面に映し出された魔法陣を見上げながら、美知恵は茫然と呟く。


「DDS(デジタル・デビル・サモン)プログラム…。」

「そう。そして、それは無意識レベルで発動している。今、この時も。」


刻真の呟きに、横島がはっとする。


「消せ、西条!! さっさと消すんだ!!」

「こ、このままじゃ、またあんなのが出てくるんじゃ…!」


おキヌらも青ざめた表情でうろたえている。

だが、刻真は落ち着いた様子で「無駄だよ。」と言い捨てる。


「それはただの絵に過ぎない。問題はその映像を焼き付けている俺たちの意識の方だ。」

「…つまり、この魔方陣自体が回路になっていて、人の無意識下のチャンネルを開いているのね。」


美神の確認に、刻真は頷く。

横島たちは疑問符を浮かべていたが、この際それは置いておく。


「チャンネルが繋がっている先は、人の普遍的無意識の世界。アクマはそこから喚び出されているんだ。」

「…対処法はないのね。」


美知恵の言葉に、これも頷く刻真。

すでに美知恵の言葉遣いが変わっているのだが、これが事実ならばという戦慄からだろう。


「ネットを流れて、世界中に伝播してしまっているから…しかも、ウィルスは増殖、進化する。」

「人の無意識化から除去しても、またすぐに感染するわけか。お手上げね。」


美神がぼやいたとき、横島が「あの〜…」と切り出してくる。


「途中…っつーか、もう全然わかんないんスけど…。」

「…すっっっごく分かり易く言うとね、アクマは私たち人間が、無意識に異世界から呼び出してるってことよ。」


呆れ顔の美神の説明に、ようやく横島も納得した…けど、また首を捻る。

どうも、上手く整理できなかったらしい。

とりあえず、もう放っておく事にして、美神は刻真へ向き直る。


「一体、誰がばら撒いてるの?」


これがウィルスプログラムなら、ワクチンプログラムを持つ製作者がいるかもしれない。

そいつを押さえればなんとかなると考えたのだが、刻真は「わからない。」と短く答えて俯く。


「気がついたときには、もう手遅れだった。俺が気付いたのは…偶然だった。それで調べてたら…。」

「さっきの奴らみたいなのに、追われることになった、と。」

「…安全なところを探して無我夢中だった。それで、ここに逃げ込んだんだ。」


「すまない。」と、謝罪の意を述べる刻真。

これ以上の情報は聞き出せないと判断し、美知恵は次の質問に移る。


「…それじゃあ、次は『あの子』のことを教えてくれるかしら?」


美知恵が目線で示した先には、車椅子で眠る『子供』がいた。





          ◆◇◆





話は少し前、エリゴールが倒された直後に戻る。

崩れ落ちていくエリゴールと、再び気を失う少年─刻真。


「ちょ、ちょっと…!」

「お、おい、君!!」


西条はとっさに刻真を支えながら、驚愕とともに見つめる。

彼を連れて戻ってみれば、状況は一転していていた。

犬塚君が槍に貫かれると思ったとき、唐突に彼が目を覚まし、自分を押しのけて─。

ふと、先ほどまで刻真の手にあった銃が消えていることに気付いたが、今はそれどころではない。

美神たちも駆け寄ってきて、彼の容態を案じていたとき。


「みっ、美神さん!!」

「何よ、ヒャクメ!」


美神が振り返ってみれば、ヒャクメが示す先でエリゴールの塵が、CGで逆再生したときのように集まっていく。

呆気にとられる美神たちの目の前で、それは一人の子供となり、小さく呻き声を漏らした。


「な、何が起こったの…?」


茫然とした呟きが、美神の口からこぼれた。




          ◆◇◆




そして今、その子供は車椅子に寝かされている。

その様子を見やってから、美知恵は再度問いかける。


「何故、この子はアクマになっていたの?」

「…召喚した位置だ。俺たちが無意識下で、自己の外に召喚するのに対し、この子は自己の内に召喚したんだ。」


結果、自意識が呼び込んだアクマの意識に飲み込まれ、融合する。

それを『造魔』と呼ぶと、刻真はそう皆に説明した。


「そう言えば…こいつ、ジオを使っていたヒホ。」


ノースが、ぽつりと呟く。


「ジオ?」

「電撃系の魔法ヒホ。エリゴールは火炎系なんかが得意だから、本当はジオを使えないはずヒホ。」

「造魔は、そういう他と違う特異な点を持つことがある。そのせいだろう。」


横島の脳裏に、エリゴールの体から放たれた紫電が浮かび、なるほどと納得する。

子供を見る刻真の目はひどく優しく哀しげで、どこか詫びるようでもあった。


「あの姿はきっと、この子の願望なんだ。物語の騎士に憬れる、小さな子供の夢…。」

「倒しちまったけど…平気なのか?」

「…特に問題はないはずだ。ただ…再び造魔化しないとも限らない。」


横島はとりあえず、ほっと胸をなでおろす。

命に別状がないなら、それでいい。

そこから後の問題は、自分が考えたってどうしようもない。


「この子の様なケースは多いの?」


美知恵の疑問に、刻真は「いや」と首を横に振る。


「むしろ極めて少ない。意識して自分の中に召喚するか、よっぽど強いエゴでもない限りこんなことには…。」

「さっき…主君とか言ってたわね。ひょっとして、そいつがこの子を造魔に変えたんじゃ…。」

「そんな! こんな小さな子に、そんな…ひどい!」


美神の推測に、おキヌは怒りを顕わにする。

何の目的があろうとも、小さな子をそんなものに変えて、争いの直中に放り込むなど許せなかった。

震えるおキヌを宥めるように、美神がその肩に優しく手を置く。


「…とにかく、ヒャクメも横島君もいるんだし、そいつの情報をこの子から─。」






「そうはいかない。」






美神の言葉を遮り、唐突にくぐもった声が響いた。

次の瞬間、少年の真横の空間に、いきなり黒い『穴』が開く。

その穴から現れたのは、黒いフードと鏡のような仮面をまとった、異様な人影。


「我が友人の悲願の為、それを許すわけにはいかんな。」


くぐもった声で、その人物は言う。

横島の目が驚愕に見開かれる。


「お前…あの時の…!!」

「また会ったな、繋ぎの少年。そして…お初にお目にかかる、結末の少年よ。」


結末の少年。

そう呼びかけられたのは、刻真だ。

いつの間にか、その手に異様な漆黒の銃が握られ、仮面の人物に向けられている。


「誰だ、お前は…!!」

「先ほど貴様たちが話していた、この子供の主君の友人だよ。」


ぎりぎりと軋むような敵意を孕む刻真の声にも、仮面の人物は愉快げに答える。


「そいつがDDSプログラムなんて代物をばら撒いてんのね!!」

「動くな!!」


美神たちも、仮面の人物を取り囲むような位置に立つ。

だが、男は意に介した様子もなく、車椅子に手をかけると、それをゆっくりと空間の穴に押し出した。

まるで溶け込むように、車椅子が消える。


「この…!!」

「落ち着きたまえ。」


美神たちが飛びかかろうとした瞬間、くぐもった声とともに言い知れぬ圧迫感が、彼らを襲った。

それは物理的な圧力をともない、美神らを床に押し付ける。


「がァ…ッ!!」

「時が来れば、貴様たちにも存分に舞ってもらう。我が友人のために、な。」


その声には、あからさまな侮蔑が込められている。

だが。

ぴくりと何かに反応して、仮面の人物はそちらを見る。

美神たちも、何かに気付いた。

禍々しい気配を持った、何かに。


「ほう…このプレッシャーの中で、まだ立ち上がろうとするか。」


さも愉快気な台詞は、徐々にだが立ち上がり始めていた、刻真に向けられたものだ。

獣のように歯を剥いて、刻真はゆっくりと立ち上がる。

まず、腕で。

膝を立て、這い上がるように。

低い姿勢から、地の底から響くような唸り声が流れ出る。


「逃がす…ものか…ッ!!」


その声は、この圧力に耐えようとしているというより、自分の何かを抑えているように聞こえた。

不吉な響きを持つ声に、美神たちでさえ表情を強張らせる。

それまで俯いていた視線が振り上げられ、その凶眼が仮面の人物を射抜いたその時。


「…いいのか? 結末の少年。」


びくっ、と。

仮面の人物の言葉に、刻真の動きが止まる。

表情さえ、さきほどまでの迫力が嘘のように、どこか怯えたようなものに変わる。

そして、再び刻真の体は床に押し付けられた。


「ぐぁッ…!!」

「そう焦らずとも、いずれ我が友人と貴様は相見えよう。貴様が、追い続けるのなら。」


悔しげな刻真の視線を背中で受け止め、仮面の人物は哄笑しながら穴の中へと消えていった。


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