新宿都庁の地下に、霊的災害対策本部はある。
エレベータから通路を進み、その先にある広大な地下空間へと入る。
見上げるほど大きな鳥居が立ち並び、そこかしこに霊的システムが張り巡らされている。
鳥居にあわせるように強固な結界が張られており、並大抵のことでは破られない。
有事以外で使用されることは稀だが、現在ここはオカルトGメンの管理下にあった。
オカルトGメン日本支部を任されている美神美知恵が、ここに召集をかけるということは。
「それなりに、何かある…ってことかしら?」
鳥居をくぐり、本部施設に向かいながら、美神令子は呟いた。
母、美知恵の電話からは、それほど切羽詰った感じはしなかったが、気をつけるに越したことはない。
施設入口まで来たとき、そこに一人の男が立っていた。
「やあ。来たね、令子ちゃん。」
「西条さん。」
ピシッとしたスーツに身を包んだ長身長髪の精悍な好男子。
オカルトGメンの中でもトップクラスの実力を持つ男、西条輝彦が片手をあげて出迎えた。
「何かあったの? ママは何も教えてくれなかったけど…。」
「うん…とりあえず来てくれ。先生も待っているから、そこで説明しよう。」
◆◇◆
「ああ…来たわね、令子。」
西条に案内されたのは、本部内の医務室だった。
ベッドの前で腕組みしていた美神美智恵が、こちらに気付いて声をかけてくる。
美神と基本的な顔立ちはそっくりだが、どこかより凛々しさを思わせる。
「どうしたの、ママ? 急に呼び出すなんて。」
「実は『彼』のことでね…ちょっと困ってるのよ。」
そう言って美智恵が目を向けた先には、ベッドで眠る少年の姿があった。
カチューシャで留めた、獅子の鬣(たてがみ)のようにはねた髪。
さらさらと流れる前髪から覗く面立ちは、高校生くらいの年齢であると窺わせる。
だが美神は、そのベッドの少年よりも、大きく澄んだ瞳で少年を覗き込む美女のほうに驚いた。
「ヒャクメ! あんたも呼ばれてたの?」
「…………。」
髪を左右に大きく撥ねさせ、全身をタイツのようなカラフルな服でつつみ、さらにマント。
奇抜なファッションに身を包む彼女は、こう見えても神族である。
全身にあるアクセサリーのような感覚器官を持つ、情報収集のプロなのだ。
多少、間が抜けてはいるが。
しかし、曲がりなりにも神様が呼ばれたということは相当のことなのだろうか?
「? ヒャクメ、どうしたの?」
ヒャクメは美神の問いかけにも気付かず、少年を凝視している。
その態度にちょっとカチンときたのか、美神がさらに語気を強めて呼ぶ。
「ちょっと! ヒャクメ!」
「……う………ッッキ――――ッ!!!」
ヒャクメは突然奇声を発すると、床に突っ伏した。
「ダメなのね〜!! 全然何も見えないッ!! やっぱり私は役立たずなのね〜!!!」
…どうやら、ぬけていることはコンプレックスになっているらしい。おまけに泣き出すし。
とても神様には見えない。
「ち、ちょっと、ちょっと、どうしたのよ?」
先程のヒャクメの奇声でひいていた美神も、ようやく我に返ったようだ。
とりあえず、ヒャクメを落ち着かせて事情を聞こうとする。
だが、ちょっと無理っぽい。
「実はね─。」
◆◇◆
美神は医務室内に備え付けられたテーブルで、美知恵から簡単な説明を受けた。
それによると、昨夜、西条が確保した少年が一向に目を覚まさないという。
そこで、少年の素性を調べるためにヒャクメに来てもらったのだが。
「ヒャクメの目でもわからなかったの?」
「何かジャミングみたいなものが働いていて、ぜんぜん見えないのねー。」
ようやく落ち着いたヒャクメがぼやく。
「本部の施設を使って検査をしてみて、人間であることは確かめたよ。」
西条が手元の書類を手渡しながら、そう述べた。
そこには、検査によって出た数値やら医学用語やらが並べられている。
「ただ、肉体にも霊的にも異常が見られないのに、彼は眠り続けている。」
「恐らくは精神的なものだと思うんだけれど…。」
美知恵が溜息をつく。
ようするに何も分からない、ということだ。
「横島君を呼んだのは、そのためなのね。」
「ええ。彼の文珠なら『読』むことだって可能でしょうから。」
もっとも、ヒャクメで無理だったのだから、それが通用するかはわからないが。
「でも、何で私まで呼ばれるの?」
「小竜姫もなのねー。」
「は?」
ヒャクメの口から出た意外な名前に、美神は眉根を寄せる。
「彼を覗いたとき、ほんの少しだけ出てきたイメージがあるのねー。……ぼやけてたけど。」
最後のほうで、ちょっと悔しそうに呟くヒャクメ。
「それが私と横島君と、小竜姫なの? でも、何で?」
「さあ? 結局、何一つ分からず、唯一わかったのはそれだけよ。」
美知恵が肩をすくめる。
小竜姫はそうそう妙神山を離れるわけにはいかないので、ヒャクメが代理も兼ねているという。
「とりあえず横島君待ちってことか…。」
美神はほうっと息を吐くと、テーブルに顔を伏せた。
沈黙。
「…令子。あなた、横島君とは何か進展したの?」
「なっ…!? 何言ってんのよ、ママ!!」
突然の爆弾発言が沈黙をぶち壊す。
美神は顔を真っ赤にしてがばっと跳ね起き、西条も明らかに顔が強張っている。
そこに。
「う〜ん。あまり進展してるとは言い難いのねー。」
ヒャクメがしたり顔で口を挟んできた。
その顔は笑っており、完全に面白がっている。
「ま、でもいろいろアプローチを仕掛けてるだけ、だいぶ進歩したのねー。」
びしっと。
西条のこめかみがさらに引きつり、美神はさらに赤面して軽いパニックになっている。
「ヒャクメ!! あんた、覗いてたの!? …じゃなくて、私はそんなつもり全く無いわよ!!」
その後は、まくし立てる様に美神が弁明を始めた。
曰く。
やれ、貧しい食生活が憐れだからと、食事に誘った。
やれ、たまたま暇そうだったからと、ショッピングに連れ出した。
などなど、本気で弁明する気があるのだろうかという弁明が飛び出す。
その度、西条のこめかみの青筋が一つ、また一つと増えていったのは言うまでもない。
「…もうちょっと素直になりなさいよ。」
「な、何がよ!?」
呆れながらも忠告する美知恵だったが、なおも意地を張る娘を見て、さらに呆れてしまった。
「私としては、ひのめも生まれたことだし、そろそろ孫を見てみたいんだけど…。」
「何を言っているんですかっ!! あなたは自分の娘を、あんな外道に差し出すつもりですか!?」
美知恵の発言に、既に限界に来ていた西条がとうとうキレた。
彼が自分の師である美知恵に反抗するとは、相当きていたのだろう。
「こうなったら、いっそ横島君を指名手配して、オカルトGメンの兵力で亡き者に…!!」
ブツブツと呟く西条の目は、完全にイッてしまっている。
男の嫉妬も、ここまでくれば立派ですらある。
「ちょっと西条さん、落ち着いて…!?」
美神が西条をなだめようと立ち上がった瞬間、全員の顔に緊張が走る。
「えっっ!? 何!? 何、何っ!?」
…訂正。
ヒャクメを除いた全員の顔に緊張が走る。
「アンタ、本当に神様!? 何で気付かないのよ!?」
「ヒャクメ様、こちらに隠れて!! すぐに敵の捕捉をお願いします!」
呆れながらも臨戦態勢に入る美神親子と、先ほどまでの壊れ具合が嘘のような西条。
そこに流れる緊張感に、ヒャクメが慌てて索敵に入る。
「って何これ!?」
その時、ヒャクメの感覚は、本部を取り巻くいくつもの異様な気配を捉えていた。
そのうちの一つが、自分たちのすぐ傍まで来ている。
「く、来るのねーッ!!」
ヒャクメの叫びとほぼ同時に、壁を突き破ってそれは現れた。
今回の、あとがき担当の西条だ。
さて、今回は悪魔は出てこなかったので、霊的災害対策本部の現状を教えようと思う。
アシュタロス事件の際、作戦本部として使用されていた霊的災害対策本部(霊災本部)だが、依然Gメンの管理下に置かれている。
その理由としてもっとも大きいのが、日本国政府に霊的機関が存在しないということだ。
正確には形としてしか残っておらず、運営はほとんどされていないという意味だ。もちろん、それも非公式だが。
都庁移転の際の工事完成遅延も、そのために遅れたといってもいい。
オカルト知識を持つ人材の不足や、政府のオカルトに対する認識が甘くなっていたのが原因だ。
アシュタロス事件以降、その認識が改まったとはいえ、再度発足させるには時間も資金も足りない。
よって、ICPOの傘下であるオカルトGメンが管理を任された、というわけだ。
当然、責任者はアシュタロス事件を担当した先生…美神美知恵監理官に一任された。
…さて、堅苦しい話はここまでにして。
何で、あの作者が書くと、僕は三枚目みたいな役柄になるんだ!?
おかしい! 絶対におかしい!!
僕はGSキャラを代表する、「頼れるお兄さん」「イケてる美男子」のはずだ!!
なのに、何でこんな嫉妬にイッちゃうような人物に書かれないといk(作者権限により強制終了) (詠夢)
なんだか本編以上にあとがきの方が好きになりそうです。 (ウィークリー)
西条に任せると、愚痴っぽくなりそうなので(笑
ウィークリー 様:
コメント有難うございます。
あとがき、書いてて楽しいです。
どうも、本編の方がシリアス気味なもので、逆噴射みたいなものですね(笑
ギャグを書かないと、気がすまないらしいですね、私。
…しかし、本編より面白くなったら、本末転倒だろう、私…(汗 (詠夢)