椎名作品二次創作小説投稿広場


BACK TO THE PAST!

生きるという事(前編)


投稿者名:核砂糖
投稿日時:05/ 1/ 1



季節は春である。

小説の更新具合がどうなろうとそう設定した以上春である。

通常の空間では新学年が始まり、中には入学式に心を躍らせるものもいるだろう。そして草木は茂り、花は咲き、爬虫類も冬眠から目を覚ます。


んで、横島たちが暮らすこの空間では、畑仕事に精を出す時期でもあった。
まあ別に魔術の応用によっていつでも好きなものが栽培可能だったのだが、やっぱり春のほうが気分的にも仕事がはかどる。

というわけで今日の畑当番の横島はクワを振りながら、畑を耕していた。
時々「俺って何やってんだろう?」という疑問が脳裏で暴れまくるが、家でゴロゴロしてシロの世話になるくらいなら仕事で何も考えなくするほうがずっといい。

これで逆転号潜入時代の例の黒い服&バイザーが無ければすがすがしい光景だが、残念ながらこの世界にはそれを咎める者はいない・・・。


横島が適当な面積を耕し、種と文珠(シロ作)を地面に埋めて一息ついていると、


ピピピ・・・


横島の腰に下がっているなにやら警報装置のようなものが小さな音を立てた。

「またか・・・」

横島はめんどくさそうに呟くと、カシャンとバイザーを下ろして侵入者の現在地を確認し、駆け出した。



さぁお互いの生命線(食料)をかけた戦いの始まりである。



「くそっ!もうばれたか。フェアリー部隊およびキメラ部隊、詰め込むだけ詰め込んだらさっさと逃げろ!!」
「し、しかし司令官・・・」
「早くせんか!ここで私とドワーフ部隊が食い止める!!
「・・・わかりました。御武運を」
「ふっ、案ずるな。私も伊達に森の突風の名を呼ばれてはいないわ!」

淡い緑色のローブを着たガキ・・・ではなく、原住民部隊総司令官風の精霊シルフはニヒルに笑い、渦巻く風を両手に集中させた。

その背後では略奪品(トマト、とうもろこし、かぼちゃ、きゅうりetc)をしっかりと抱えたフェアリーたち、キメラたちが一足先に森へと撤退を開始している。


・・・そしてついにこの野菜畑のガーディアン、横島が到着した。
「・・・・くぉらぁ!またてめぇらか!!人の畑を荒らすんじゃねぇ!!」

「そうは言ってもね・・・こっちだって生きるのに必死なんだ!!」
シルフ司令官の放った風の塊が走って迫る横島に向かって放たれる。
しかし、その程度の攻撃で彼がひるむはずも無い。よけるまでも無く腕ではじくと、そのまま直進してきた。
「くっ・・・化け物めが。ドワーフ部隊、ゴー!!」

「わー!!!」×沢山

シルフの掛け声と共に、身長50センチぐらいのおっさんたちが横島の足元にまとわり着く。はっきり言って・・・ウザい。
「・・・はいはい。帰った帰った」
横島が面倒くさそうに足を振り回すとそれらは当然遠心力に耐え切れずに空へと舞い上がっていった。

「くぅ・・・なんという奴・・・。まるで悪魔だぁぁああえおう○×△#&」
「そんなことを言う口はこの口か?あぁ?」
横島はすばやくシルフをとっ捕まえると、思わず負け惜しみを吐こうとするシルフの口に指を突っ込み、左右にび〜っと引っ張った。

しかし、相手の容姿がガキっぽいのもあるし、何より最近とある女性の性ですっかり丸くなってしまった彼ゆえに、それ以上の暴行は加えず、ただ子猫釣りの刑に処すだけだった。

「放せこら!」
じたばたと暴れて逃げ出そうとするシルフだったが首の後ろのところの服をしっかりと捕まれて(首が絞まらないように)つるされているため、脱出は不可能だった。
ばたばた暴れるシルフはそれとなくかわいらしかったが、畑の惨状を見るとなんとも可愛げのない生き物に見える。

「お前らなぁ・・・毎回毎回うちの畑荒らすのやめてくれないか?大体今まで森の中の物だけで生きてきたんだろ?」
横島は諭すようにそういって聞かせるが、シルフはふんと鼻であざ笑う。
「はっ、それができればとっくにそうしているさ!それができなくなったのは、お前らがここに畑なんか作ったせいだぞ!!」

「そうなのか?」
確かに少しばかり森を開拓して作った畑ゆえに、心当たりはある。

「そうとも。お前たち強いものはいつもそうやって弱いものの都合も考えようとせず自分にとって都合のいい事しかしない」

「・・・」

「せっかく外界から閉ざされた空間に移り住んできたのに、今回だってそうだ。

お前たちが畑なんか作って、我々が労せず食料を確保できるような環境を作りやがって!!」

「・・・あ?」

「おかげで楽することを覚えてしまった我々は急激に野生の勘が鈍り、今までの苦労して生きてきた生活が馬鹿らしく感じるようになってしまった・・・。今までの生き方ができなくなってしまったのだよ。
それゆえ私は戦い続ける。我々が生きるために。
それに今回の戦闘は我々の勝ちだ。我々の目的はあくまでも食料の確保。例え指揮官の私を抑えたところで我々の目的は成功した。

さぁ私を殺すがいいさ。だが君という悪の元凶がいる限り、いずれ必ずや第二第三の私が現れるだろう・・・」


「・・・悪の元凶はてめーらのその腑抜けた精神だぁぁぁああああ!!!

久々に青筋をうかべた横島はシルフを振りかぶると、森の方角へ向かって全力投球した。



ドッゴォォォ・・・・・「我々だって楽したいんだぁぁぁ・・・・・!!!」



哀れシルフ君は音の壁にぶつかりながら見えなくなって行った。


「はぁ・・・はぁ・・・何だってんだ?」


・・・帰るか。


しかしその前には後始末をしなくてはならない。
滅茶苦茶に破られた畑の結界を見て、彼は苦笑い。
「この結界を破るのも相当難しいと思うんだがなぁ・・・」

彼は馬鹿どもに破られた畑の結界を元通りに張りなおすと、シロの待つ家へと足を向けた。




こんな具合で訳のわからん事が連続する・・・それがかつて魔神と呼ばれた男の現状だった。
しかし、ここに住んでいる以上、多少の不可解な出来事は覚悟しなければならない。なぜならこの空間は、遥昔に当時の大魔術師が己のノウハウをフルに活用して、世界中の秘境を切り取っては繋げて作り出したという異空間なのだ。
しかもその魔術師、その頃はなんとなく幻の希少動物の研究なんぞに興味を持っており、それらの生物を大量捕獲すると共にこの空間で住まわしたのだ。

・・・それゆえちょっと草むらに入ればツチノコを踏みつけ、山にはケロベロスが住み、縁側から米粒をまけば不死鳥が二三羽ついばみに来るという恐るべき空間が出来上がったのだ。


そんな常識を逸脱した空間を(しかも趣味でだ!)作り出した張本人こそが、いま横島達の家のちゃぶ台で昆布茶をすすっている・・・



「・・・ドクターカオス。何でここにいるんだ?」

「なんじゃい。人をのけ者扱いして・・・」
カオスは、眉をひそめてたった今玄関に着いた横島に目線を送った。
「あ、先生。今昼食を作ろうと思っていたところでござるよ」
そして台所からこちらに顔を出したシロの後ろには
「こんにちは・横島さん」
ちゃっかりとマリアまでいた。






「・・・ふ〜ん。それで、あんたらは俺の健康診断のためにここに来ていると?」
「そうじゃ。魂とは加工が難しい物質。治療においてもまた然り。その魂が不安定なお前は定期的に心霊治療を受けねばならぬ。まぁ今回は狼のお嬢ちゃんの怪我の回復具合も見ていくつもりじゃ」
カオスと横島はちゃぶ台を囲み、真剣な会話を交わしている。どちらかというと横島がカオスを攻めているようだ。

「おキヌさん・タマモさん・心配してました」
「そうでござるか・・・でもこの九年間貫き通した意地、変えるつもりはないでござるよ」
一方こちらはわりと平和な世間話。

「それはともかくカオス。尾行されてるなんて馬鹿はしてないよな・・・」
「大丈夫じゃ。お前さんが編み出した最強のジャミングを掛けてきた。しかも使った入り口は回収してわしの研究室に移動させておいた」

「皆さん『シロはヨコシマにやられた』と・言っていました」
「あははは・・・そういえば拙者がいなくなればそういう事になるでござろうなぁ・・・」

「その健康診断って言うのはいつやるんだ?」
「今すぐでいいぞ?だが結構時間がかかる・・・」

「たまには・帰ってみては?」
「いやー。そうしたら先生を世話する(見張る)人がいなくなるでござる」

「だからなぜ狼のお嬢ちゃんがやられた、という話になっているかというとな。お嬢ちゃんは『ヨコシマに会うために強くなる』という名目で修行をしていたんじゃが、それをみんなが『悪人ヨコシマに会って倒すために強くなる』という風にうまく誤解してくれていたんじゃ。それで・・・」
「おいおいまてまてドクターカオス。そんな話聞いてねぇよ。向こうの二人と話が混ざってるよ!」




閑話休題・・・。




「ほれ、上着を脱いでこの器具をつけろ」
数分後、カオスの手によって横島の健康診断はスタートした。
怪しげな器具が、横島に手渡される。が、彼は動こうとしない。
「・・・」
「どうした?早くせんか」
「・・・その前に後ろの二人を追い出してくれ」
横島の後ろにはマリアとシロが熱い目線を送り続けていた。

「「おかまいなく」」
「かまうわ!・・・とりあえず飯でも作っててくれ。そこにいられると気になってしょうがない・・・」
二人はしぶしぶという感じで台所へと向かう。



横島が診断中、台所にて。

土壁に、木の柱と古風な田舎の家風なつくりではあるが、完備されたシステムキッチンは(横島により)良く磨かれてきらきらと昼下がりの日光を照り返し、あたりをよりいっそう明るくする。小奇麗に片付けられた台所中は、入る者を何となく幸せな気分にさせてくれるかのようだった。

「さて、おいしいご飯でも作るでござる」
シロは張り切って台所へと立った。しかしその肩に手が置かれる。いや「置かれる」と言うには少しばかり生ぬるい置き方だった。
しいて言うならこう・・・鷲掴み?
「たまには・マリア・作ります・シロさんは・休んでてください」
「あははは。そんな事してもらわなくて大丈夫でござるよ。マリア殿こそ休んでいてくだされ」

ぐぎぎぎ・・・

何故かそんなヘヴィーな音を立てながらマリアの手を『笑顔で』のけながら言うシロ。

「いえ・働かず者食うべからず・私も・手伝います」←無表情

「そうでござるか・・・それじゃあお言葉に甘えて・・・」←笑顔

『目が笑ってない・・・目が笑ってないよ!!』もし健康診断中のある男がこの光景を見たらまずこう言うだろう。
一見とても日常的かつほのぼのとした光景であったが、彼女らの目を見れば、そんな楽観的な思考など吹き飛ぶはずだ。
お互いの瞳は言葉とは裏腹に、岩おも砕かんという切実さで意思がにじみ出ていた。目は口ほどにものを言う。などと昔の人はよく言ったものであるが、それとは桁が五桁は違う。


「この野菜・きざんで置きます」(目:今までやってきたんだから少しは権利を譲れ)
「はい。助かるでござるよ。では拙者はこっちの野菜を・・・」(目:ダメ。ぜっっったいヤダ)


「・・・・」
「・・・・」



おもむろにマリアが取り出した(というよりは手から生やした)るは、刃渡り30センチはあろうかというギミックナイフ。ヴヴヴ・・・とかすかに振動を続けているのは最新の超振動技術を取り入れ、類まれなる切れ味を生み出している証拠である。

それを横目でちらと垣間見た見たシロは、こちらもおもむろに妖刀十牙房を引っ張り出す。ぎらりと鈍く光を反射するソレは今日も血に飢えていた。
しかしその刃が本日の獲物「大根」にあてがわれると急速にその光沢は薄れてゆく。
まるで「おいおいお嬢ちゃん。俺は仮にも妖刀だぜ?それを高々料理のためにしかも大根切るのに使おうってのかい?」とでも講義しているかのようだった。
だが・・・


   ゾワリ!


その直後に当てられた妖刀の物とはまた異質な妖気によって、本来の輝きを取り戻す。

・・・しかし心なしか刀が震えているように見えるのは気のせいだろうか。



ともかく準備は整った。さぁ、レッツクッキング!


二人とも刃物の扱いはなれたもので、台所ならではの軽快なあの音が隣の部屋の横島たちまで聞こえてくる。


とんとんとんとん・・・。←シロ

とととととととと・・・。←マリア


たたたたたたたたたたたたた・・・・・。←シロ

だーーーーーーーーーーーっ・・・・・。←マリア


だんだんだんだんだんだん!!!←シロ

ずががががががががががが!!!←マリア


「うおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!」

「ギガスラッシャー・スタンバイ」



横島とカオスは次第に聞こえ始める爆音を聞き、「少なくともまな板は全滅だな」「そーだな」と小さく呟いた。


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