椎名作品二次創作小説投稿広場


BACK TO THE PAST!

幕切れ


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/12/ 9


タータはジャングルの中を駆け抜けた。

所々に村の若者が倒れているのが見える。
しかし、今はかまっている場合では無い。なんとしてでも弓を手に入れ、この『矢』を糞忌々しい化け物に当てなければならないのだ。

「くそっ・・・弓、弓は何処だ?」

夜目を効かせて周りを探すも、何故だかまともな弓は一本も見当たらない。

今まで戦っていた若者たちなら弓の一本や二本持っていそうだが、どれも壊れていて使い物にならなかった。

そんな状況にイライラし始めたタータは周りへの注意も怠り始めていた。


ギョロロロロロロロ!!

「げっ、もうこんなに近くにいたのか」

彼は精霊龍がもうすぐそこまで迫っていた事に気づかなかったのだ。
不幸中の幸いで、あちらはまだこっちに気づいていない。逃げ切れる。

タータがくるりとユーターンしようとした時、精霊龍がくるりとこちらを向いた。

タータがびくりと飛び上がる。
しかし、彼(龍)の目はタータではなく、何か別なものに向けられているようだった。

そしてその正体はすぐにわかった。


ガサガサと草の茂みが蠢き、誰かが飛び出してくる。精霊龍はそれを見て激怒したように、吼えた。

「・・・イアン!」
タータが驚いた声を出した。
「馬鹿!隠れろ!!」
イアンは怒った声を出し、タータを茂みに突き飛ばして自分も飛び込む。
「なにすん・・・」
タータがそこまで言ったとき、さっきまで自分がいた所に火柱が立ったのを見た。
「すっご・・・」

イアンはそんな彼をいつものように見下しながら言う。
「あいつはああいう風に吼えた後、火を吐くんだ。
それよりお前、『矢』は?」
「・・・あるよ」
タータはボソリ。
助けて貰ったのはいいのだが、その相手が史上最大の天敵だという事がどうしても素直に喜べないようだ。
「とっととよこしな!」
なので、タータはイアンの態度に腹を立て、負けじと言い返す。
はっきり言って今のタータは数日前の彼とは大分変わっていたのだ。・・・いい意味だけでもないかもしれないが。
「何だよその言い草は。こっちだって命がけで取ってきたんだぞ!もうちょっと言い方ってもんがあるだろ!!」
「何だと?こっちだって命がけだ!貴様が洞窟の中で魔神と遊んでいるうちにどれだけ苦労していたと思ってんだ!さっさと矢をよこせ!!」
「いやだ!!お前みたいな奴に渡すぐらいなら自分で射るよ!」
「てめえみたいな下手くそにできるわけねぇ!!」
「お前が持ってるヨコシマが作った弓ならできるさ!」
「わがままなんか言ってる場合か?!」

イアンはイライラしながら手を突き出すが、タータはその手から逃れるようにあとずさった。

「この糞ガキ・・・なんでリィはこんなのの事が・・・」
「はぁ?な、な、な・・・なんだよそれ、まさかリィが・・・」
タータは可哀想なぐらい明らかに動揺した。

「ああそうだとも!俺の妹ともあろう者がてめえなんか気にかけてるんだよ!!クソッ!
気にいらねぇったらありゃしねぇな!!!!
それと気安くリィなんて言うんじゃねぇチビ!!」(イアンの身長は188cm)
「それじゃ今まで何かと俺に当ってたのは全部八つ当たりだって言うのか!?」
「さあな!!ただてめえが気に食わないだけだ!」
「へっ!!このシスコン野郎が!!!」
「黙れ!!」
「そっちこそ弓よこせよシスコン!」
「ぶっ殺すぞ!」

二人の罵り合いは次第にヒートアップし、周りの状況なんて見えなくなり始めていた。
まぁ、普段やられ放題だったタータからすれば、初めてつかんだ敵方の弱点だ。食いつかないはずが無い。

だが、彼らは忘れてはいけない存在まで忘れていたのだ。


ぎゃおおおおおおんん!!!


精霊龍は、今まで無視されていたのを怒っているのか、いきなりボディプレスをしかけてきた。

もし喰らったら、人間などひとたまりもない。孫悟飯のじっちゃんよろしくあっという間にぺちゃんこだ。

「ちぃ!」
「げっ!?」
突然の事にびびる二人。だがここはキャリアの差か。イアンはとっさにヨコシマの弓をつっかえ棒のように地面に突き立て、タータを引っ張り込みながら自分もその付近にもぐりこむ。

ズーーーーン・・・・・

「うわ・・・ほんとに止まっちゃったよ・・・」
弓は立派につっかえ棒の役割を果たし、とんでもない質量の物体を見事支えて見せた。
タータが驚くのも無理は無い。とっさの機転を働かせたイアンまで信じられないような目で弓を見ていた。しかし、

ぴき・・・

「くっ、やっぱり無理か!」
弓に亀裂が入り、ついに真っ二つに折れる。
二人は慌てて精霊龍の下から離脱した。


ずーーん・・・

改めて地響きが鳴り響き、木々がへし折れる音が辺りを支配した。




「あいたたた・・・」
タータは砂煙がはれると共に、痛む体を起こした。
「ヨコシマの弓がなくなっちまった・・・」
コレが無い限りタータには矢を射ても当らない。残念だがイアンにやらせるしか無さそうだ。
「くっそ・・・おい、イアン。何処だ?しょうがないからお前が矢を・・・」
彼は近くの茂みの中でイアンを見つけ、そして絶句した。

「・・・残念だが、そいつは無理だな」
イアンの利き腕の指が、ありえない方向へ曲がっていた。


「お前が、やるんだ」
イアンは苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。

イアンは硬直したように立ち尽くすタータに、予備として持っていたいつも自分が使っていた方の弓を放ってよこす。
良く使い込まれたその弓は、手の油がまんべんなく染み込んで、驚くような握りやすさを誇っており、イアンの実力と、図りきれないほどの努力を象徴していた。

「いま村全体の運命はお前の手の中にある。・・・絶対に外すなよ?」
タータは重々しいイアンの声がなにやら遠いものに感じた。

「む・・・無理だ・・・」
重くのしかかるプレッシャーに、思わず弱音を吐く彼に、イアンは厳しく叱咤する。
「・・・ふざけるな!俺の命も、お前の命も、リィの命も・・・全てがお前に託されてるんだぞ!貴様は当てなきゃいけない。奴を倒さなきゃいけねぇんだよ!!



さぁ・・・来るぞ!!!構えろ!!!」


ぐぉぉぉおおおおおお!!!

精霊龍が再び空に舞い上がり、こちらに鎌首を向けてきた。

「う・・・うわっ・・・」
「何だそのへなちょこな構えは!?もっと腕をまっすぐに伸ばせ!しっかりと標的を見ろ!」

龍はしばらく空中で静止していたが、一旦距離を取ると、ついに大口を開けて一直線に飛び込んできた。

ギョロロロロロロロ!!

地を揺るがす大音響が、龍の、血のように真っ赤な口の中から発せられ、タータのなけなしの勇気を吹き飛ばしそうになる。が、そのたびにイアンの容赦の無い怒鳴り声が彼の意識を引き止めていた。

「く、来るよ!」
「まだ撃つなよ・・・もっと引き付けろ。貴様の腕じゃまだあたらねぇ・・・。
おい、矢じりが落ちてきてるぞ!しっかりしろ!!例え腕が引きちぎれてもその姿勢をくずすんじゃねぇ!」

龍の口から鈍い光がほとばしり始める。

炎だ。

「イアン!!!」
「馬鹿やろう!!気ぃ乱すな!!炎がどうした!こっちは焼け死んでも奴を倒さなけりゃいけないんだ!!」

巨大の炎の帯が、タータたちめがけて発射され、全てを焼きつくさんと彼らの目の前まで迫りくる。





「今だ・・・・放て!!」



その言葉が聞こえていたか聞こえていないか、タータはほぼ無意識に矢を放っていた。



ギュォォォォォォッッッ!!!!


彼の弓から発射された矢は空気を裂き、炎をかき消し、一筋の流星のごとく空間を切り裂いた。


そして、ついに精霊龍の上あごの内側に命中して・・・・・突き抜けた!




ぎゃぁああああああああああああああああん!!!!



耳が遠のくような断末魔の声が鳴り響き・・・その後巨大な質量が地面にぶつかる音が聞こえ、沈黙が辺りを支配した。
「へ・・・・へへ・・・やったぜ。イアン?」
いまだに足の感覚が無いタータは薄っぺらい笑みを浮かべてイアンの方に振り返る。
「・・・」
「なんだよ。自分だって気絶してんじゃん」
タータは彼を助け起こそうと弓をおき、歩み寄っていく。













ギョロロロロロロロ!!!!




「い、生きてる!?」

彼が振り向いた時には、龍は立ち上がり、口からボタボタと絶え間なく流しながら、しかし目だけはタータたちに向けていた。

そしてその口からは、最後の力、とばかりに特大の炎の塊が見え隠れしていた。


今まさに、炎が、発射され・・・・・





キーーーーーン・・・・ドッゴォォォォオオオオオオオオンッッ!!!

ギョルゥゥァァアアアアアアアア!!!!




だがその前に、龍は吹き飛んだ。



突然何処からとも無く巨大な岩の塊が風を切って飛来し、精霊龍を吹き飛ばしたのだ。


「へ?」

タータには、理解不能な出来事であった・・・・。




どうにせよ。もう精霊龍はくたばったようだった。










そして、一つの黒い影がふらふらと夜闇に消えていったのを見た者は、誰もいない。








・・・・一週間後。





タータは朝日の光に目を覚まし、かといって起き上がる気もせずゴロゴロしていた。







そう言えば。あいつがいなくなってから。もう一週間だ。
過ごした時間は少しだったけど。いろいろなものをえられたと思う。

今となってはあいつがいたという証拠もはやこのナタだけだ。
めちゃくちゃ切れ味がいいので重宝している。
そのうち家宝にでもしようと思う。

そういやアイツの事を探しに『ヨコシマ対策本部』とか言う神族やら悪魔やらオカGやらがわんさかやってきて、光の洞窟の瓦礫の山を徹底捜索したらしいけど、結局みつからなかったらしい。
・・・お約束といえばお約束だ。



ちなみに精霊龍に叩き付けられた謎の岩の事は・・・・まあ誰にでも想像がつくことが真実にちがいない。


たぶん、俺たちがボケっとしているのを尻目に、『前よりも後ろに気をはるんだ・・・』とか言っていたんだろう。






『ヨコシマ対策本部』の連中によると、あいつはもう死んでるかもしれない。っていう結論に達した見たいだけどそれだけは無いと思う。



「くぉらぁ!!出て来いタータ!狩に行くぞ!!」

・・・物思いにふけっている彼の耳に、聞きたくも無い声が窓から聞こえてきた。
寝床から起き上がり、窓から覗くと、向こうの方にイアンとリィが並んで立っている。


「いま行くよ!!」




タータはよく出来たお手製の弓を掴むと、早朝の朝日の中に飛び込んでいった。


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