椎名作品二次創作小説投稿広場


BACK TO THE PAST!

其の二ってとこだ。


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/10/23




つぎの日のことだ

タータが目を覚ますと、

「うおっ!?」

ヨコシマが立ったまま眠っていた。
タータの驚きの声にヨコシマも目を覚ます。
「・・・ん?目が覚めたか」
・・・・・と言うか目を開ける。
目がすっかり覚めてしまったタータは、疑心暗鬼な顔をした。
「ヨコシマ・・・・そんなんで疲れ取れんのか?」
「ああ、気分爽快だ」

嘘だ!ぜってー嘘だ!!

タータは心の中で絶叫したがあえて声には出さなかった。
ジャングルの男は細かい事を気にしてはならなねぇのさ。知ってたか?

「ま、とにかくどうだ?調子は。傷もよくなってきたか?」
「ああ、肺を貫かれたのは辛かったが順調に回復しているみたいだ。一週間もすれば霊力も回復するだろうな」
タータは、ふーん。と呟きながら弓の手入れをはじめつつ聞いていた。

おいおい・・・肺に穴?と言う疑問が鎌首をもたげるが、あえて気にしない。

何故なら彼はジャングルの男だから。

「じゃぁ一週間ぐらい泊まっていけよ。ただし飯は少ないけど・・・」
彼はニカッと気持ちいい笑みを浮かべて言った。
「・・・助かるよ。何から何まですまねぇな」
「かっかっか!お互い様よ!
あっそうだ。この家だとそこの窓の下あたりが一番霊的に安定してるから霊力回復にいいぞ」
タータの専門的な言葉にヨコシマは意外そうな顔をする。
「タータ、お前霊的な事わかるのか?」
「ん?話してなかったか・・・」
タータは、こらいっけねぇ。と続けると弓を弄くる手を止め、マホイ村に付いて詳しく説明しだした。



どーれおまえさんにも話してやるか、マホイ村って言う村はな・・・。

ジャングルの奥地に位置するが、霊的にとても安定しており代々シャーマンなどの霊能者が暮らしている。
彼らは原始的な霊能力でひっそりと暮らしているが、わずかに取れる精霊石を売ったりして経済的にも結構やり手な民族でね。
村人はほぼ全員霊能力があり、その力を使って狩などを行なう。などなど・・・ってとこだな。


話を戻すぞ?


「というわけで俺は霊的な力を矢に加えてくれる弓を作ってるんだけど・・・」
タータは弓をいじる手を再開し・・・

ばちん!

「なかなかそうも上手くは行かない・・・」
弓は真っ二つに折れてしまった。

だーっと目と同じぐらいの幅の涙を流し、哀愁に暮れるタータを見かねたのか、ヨコシマは、ひょいと弓の材料と思われる木の枝の山から適当に一本抜き出した。

「どれ、一宿一飯の礼でもするか。それ貸してくれ」
そしてタータの持っている小刀を要求した。
「いいけど・・・流石に魔神さんでも初めてじゃ無理だって。それに飯も食わしてないって」
タータはしかめっ面で小刀を渡す。

しぱぱぱぱぱぱぱぱ!!

とたんに猛烈な勢いで小刀が移動し、大量の木屑がタータに降りかかる。もちろんタータは文句を言った。
「うわっ・・・何すん・・・」
しかしここまで言い終った時にはもうすでに、目の前には理解不能な幾何学模様が掘り込んである不思議な弓が鎮座していた。

「どーよ?」
魔神は心なしか得意げだったという。



「とにかく引いてみろ」
ヨコシマは上手く出来たのが嬉しかったのか、タータを急かしてきた。
「わ、わかったから急かすなよ」
「たぶん結構いい感じのはずだ。霊力ブースト系の魔方陣をいくつか掘り込んでやったし、トドメには俺の霊力も込めといた。もちろん自動回復。
さらには命中精度アップ耐久性アップ連射性アップの・・・」
「わかったわかった・・・」
タータはほおって置くといつまでもしゃべってそうなヨコシマを黙らせた。

なにせ相手は魔神だ。少なくともその辺のおばちゃんよりは手ごわそうだったからさ。

(そんな事言われてもこっちは自信なくすっつぅの!・・・まあとにかく引いてみっか・・・)

タータは天井に向けて軽く矢を放ってみた。
もちろん天井に射すつもりは無かったよ。


ところがねぇ・・・



バビュゥゥゥウウウウウゥゥゥゥゥンンンンン・・・・!!

矢は予想をはるかに越えた勢いでロケットのごとく発射され、屋根をつきぬいた。






あっけに取られるタータの前で、笑みを浮かべる魔神様。


(だから自信なくすっつーの!!)




さて、時はすぎ。タータはヨコシマ特製の弓を担いで狩へ出かけていった。

いまだに早朝とも言える時間帯なので、空気は夜の湿り気を保っており、靴下などはかないジャングルの男の足がびしょびしょになる。


そしてよく磨かれた弓はまだ低い日の光を受けて不気味に鈍い光を照り返していた。

「・・・・俺なんかが使っていいのかなぁ」

タータは考え込んだ。
どう考えてもこの武器は自分の腕に余るものだった。
だがそういうことは胸の奥底に押し込み、勇ましくジャングルへと足を向ける。

・・・でも、

もし俺じゃなくてイアンとかが使っていたら・・・

「けっ!!」
彼はろくでもない考えを一蹴した。

何故こんなところでイアンがでてくる?

ちょっと年上だからって、ちょっと狩の腕が上だからって、ちょっと俺よりカッコイイからって、ちょっと俺よりもてるからって、ちょっと可愛い妹のリィがいるからって・・・・・




・・・・って完敗じゃん。

タータは頭をぶんぶんと振り回して思考回路を初期化した。特にリィの所を初期化した。

「へっ・・・・良く考えればイアンのろくでなしの事なんか気にするまでもないぜ」


んで、再びジャングルの奥地を目指そうとすると・・・・

「ほう・・・誰がろくでもないって?」

・・・世の中には本当に間が悪い時があるってもんだ。

そう、狩帰りのイアン様の登場さ!

しかも卑下た笑いを浮かべる不良Aと不良Bまで引き連れていらっしゃる!
(ちなみにAさんとBさんについては名前が残ってないんで仮にこう呼んでるんだが・・・)

「おぉ・・・噂をすれば影」
「ふざけた事言ってんじゃねぇよ」
不良A(仮名)がドスを効かせて言った。はっきり言って怖か無かったが、コイツの拳は結構痛い。
「で、もう一度言うが・・・誰がろくでなしだって?」
不良B(仮名)はAとい二人がかりで担いでいた獲物を降ろすと、タータの逃げ道をふさぐように移動した。
「別に・・・」
タータはそう呟くとイアンの目線を避けるように横を向いた。
「おい・・!」
Bはその動作がしゃくに障ったのか拳骨を作り、タータは身構えて身を硬くした。

「おいおい待てよ、その話はもういい」
しかし何故かBはイアンに止められた。
「イアンさん・・・でもコイツ」
Bは釈然としない顔をしていたが、
「おいタータ。お前ずいぶんいい弓持ってるな」
イアンがそう言うのを聞くと、さっきの卑下た笑みに戻った。

「こ、これは渡せねぇよ!」
タータは慌てて弓を後ろに隠す。

が、
「へぇ〜!確かにいい弓だ!」
後ろに回りこんでいたBにもぎ取られてしまった。
「か、返せ!」
もちろんタータはあわててBに飛びついたが、がら空きになったボディーにイイ物をもらっちまう。

どすっ!

「げぇ・・・」
思わず方膝をつく。
Bはそれを見てさも可笑しそうに笑った。
「ひゃはははは!相変らず弱ぇえな〜!」
Aも一緒になって笑い出す。
「しかも狩の腕も上がる気配無し。どうしたんでちゅかね〜タータちゃん」



腹が立った。

「ひゃははははは!」

心のそこから腹が立った。

「うわ・・・コイツ涙浮かべてやがる!」

何よりも・・・・・
ここまでされて何も出来ない自分自身に。


「こりゃコイツのパパとママが死んだ理由がわかるぜ!」

でも、・・・・何故だかタータ自身にも解らないが、あの魔神に出会ってからは・・・


少しだけ彼は変わっていた。


何故ならこんな彼でも


他人のためにならキレられたのさ。


「う・・・・・・ぉぉぉおおおおおおお!!!!!」




しかも今ちょうどタータにとって絶好の攻撃ポイントが目の前にあったからな。
へっへっへ。













キーーーーーーーーーンン!!!というのは比喩的表現。
(ぶちゃ!ってのが実際の音)



「おおおおおおお・・・・おおお・おお・・・・お・・お・・・・お・・・・」

哀れBは股間を押さえて倒れこんだってよ。まぁ男性諸君はわかるよなぁ・・・。


「て、てめぇ!」
すぐさまAの猛反撃が始まる。

タータはあっという間に殴り倒され、ぼこぼこにされた。

しかしながらも、


けっ・・・ざまぁみろ・・・・


拳の嵐の中、タータはまだそんな事を考えていた。

それに、いつものようにちょっとこずかれた時の痛みよりも、なぜか今ぼこぼこにされている時のほうが痛くないような気がした。



そして意識も朦朧としてきた時、殴る時以外のAの咆哮が聞こえた。

痛む体をもたげてあたりを見回すと、


「うわ!やめろ!!ぎゃ〜〜〜!!」
わんわんわんわんわんわんわん!!

Aが大きな黒い犬に追いかけられていた。
腰巻のすそがボロボロなのは先ほど噛まれたからなのだろうか?

「うぎゃー!!」
Aは改めて噛まれた。


ちくしょー!おぼえてろ〜!などと伝説的な捨て台詞を吐きながらAが逃げ去ったあと、黒い犬はタータの近くまでテクテク歩みよってきた。


「よう、大丈夫か?」


・・・・・喋った?

タータは、自分の頭が殴られすぎでおかしくなったのかと思った。

それどころか本当はまだ殴られてたりして・・・

黒犬はそんなタータに笑いかけた。

・・・・いやいやいや、タータが変になったわけじゃなかったんだよ。本当に犬が笑ってたんだ。

と言ってもしょせんは犬なので、口の端をぐいっと上に引き上げただけだったが・・・
「タータ、俺だ俺」

見たところオレオレ詐欺でもない。しかもよく見ると胸のあたりに薬草がまいてある。
と言う事は・・・解るだろ?


「・・・ヨコシマ?」

わん!

黒い犬は一声鳴いて同意を示したんだとさ。






「へ〜すごいな。ヨコシマって変身なんかもできるんだ」
「一応魔神らしいからな・・・」

そして再び村はずれのタータの家のすぐ近くさ。

一人と一匹は並んで歩いていた。
人間と犬が会話するシーンは一般的ではなかったが、ここいらは人気が無いので気にする必要は無い。
ちなみにタータの右手には今日の獲物であるホロホロ鳥がぶら下がっている。
猟犬ヨコシマとのとの連携プレーの賜物さ。

「いいな〜。俺もやってみたいな。そういうの。そしたら便利だよな〜」

タータは手を頭の後ろで組みながら何気なく言った。

ヨコシマは一瞬立ち止まって
「・・・そうでもない。それにやれない事は無いけど・・、失う物の方が圧倒的に多い。
俺は、とても、とても大切なものを二三失った。」
「・・・ごめん」
タータはうつむいて返事を返した。


・・・ヨコシマって奴が・・・あ〜・・・・どんなヤツだか俺は知らん。だけど噂によればいい奴だったり、それこそ悪魔だったりするみたいだねぇ。
まぁこの話ではいい奴みたいだから一応偏見は無しに聞いてくれ。



「そういえば話は変わるが」
「何?」
何となく気まずい空気をわってヨコシマが切り出した。
「あいつはなんだったんだ?」
「あいつ?・・・ああ、イアン達ね」
タータはいやな顔をした。
「イアンはあの若さで村一番の狩の名手でけんかも強い。女の子にはもても手の奴さ」
「・・・いやなヤツだな」
「おお、解るか?!」
犬と少年がひしと抱き合う。

熱き友情の出来上がりだった。
「でも、とてもそうは見えなかったぜ?しかも俺に尻を噛まれてたし」
「ああ、おれの事を殴ってたヤツは不良A(仮名)。ただのイアンの子分さ」
「じゃあ・・・途中で見かけた奴がイアンなのか・・・?」
「途中?」
タータは眉を寄せた。

ふつうならイアンはいつも集団リンチに参加していたはずだが?

「ああ、何か『た、たまが・・・』とかうめいている奴を引きずって『自業自得だ愚か者め』とか言いながら村へ向かっていってたを見かけた」
「ふーん」
タータは意外な答えに少々疑問を抱いたが、深く考えるのはやめにした。

癪だからな。

「そういや傷はどうなんだ?」
ふとタータはヨコシマの傷について問いだした。
「ああ、霊気の密度が高かったからかな?もう出血も無いし、明日、発とうと思ってたところだ」
「そっか・・・」
タータは少し寂しそうに言った。
しかし、
「おいおい、魔神なんかかくまってる所が見つかったらただじゃ済まんぞ?もっと喜べよ」
と、笑われた。



一向はタータの家の入り口までたどり着いた。

「さて、これで丸焼きでも作るよ」
タータはホロホロ鳥(熱帯地方に生息。美味)を持ち上げて笑顔で言うと先に中へ入る。

そしてぴたりと足を止めた。

ヨコシマ(犬)もあとに続こうとして部屋に足を踏み入れたが、ぐいっと鼻っ柱を押さえつけられて止められる。


さて、なぜタータが立ち止まったか。
それは部屋の中に誰か居たからさ。
流石に大犯罪者をかくまっているなんてばれちまったら困るだろう?犯人隠匿で捕まっちまうからな。

「(やばいヨコシマ。中に人が居る)」
タータは声を潜めて言った。
「(それはまずい・・・。この位置なら確実に見られたな・・・・)」
「(・・・見られた以上生かしてはおけぬ。とか言うのは無いよな・・・)」
タータはすこ〜しばかり背筋に冷たいものを感じた。何せ、いま自分の真横に居る四本足の正体は、噂に名高い魔神様だからねぇ。
「(いや、この場合は俺が失せれば済む。それに犬を魔神だと思うヤツはそうはいないから大丈夫だ。・・・たぶん)」
「(そ、そうか)」
ほっと胸をなでおろすタータ。


「おぅい。タータ。帰ったか・・・」

そうしわがれた声を出したのは忘れちゃいけないさっきの謎の人物さ。

「ババ様?何でこんなところに」
タータは思いがけない事だったらしく、素っ頓狂な声を出した。

ちなみにババ様ってのは、当時なかなかのシャーマンだったばあさんらしくて、この村では尊敬されていた人物だ。

偉いばあさん。つまりババ様ってわけさ。

・・・・おっと又話がそれたな、

「大した用じゃない。ちょっと伝言を回してるのさ。ちなみにここが最後。・・・まったく、あのガキンチョども、面倒臭い所に家を建てるのう・・・」
「はぁ、すみません」
タータはついつい謝る。何故ならこのばあさんは偉いからだ。

そうそう、ここで出てくるガキンチョは、どうやらタータの両親の事らしいんだよ。
何歳だったんだろうな。あのばあさん。

「それで、伝言というのは何ですか?」
タータはぎこちない顔で質問する。なにせこのばあさんは偉いのだ。
「おお、そうだったのぅ。伝言の内容は『ヤン家族が娘を連れて逃げ出した。至急新たなニエを選ぶ』だ。確かに伝えたからな?」

ババ様は早速腰を上げてタータの家を出て行った。
タータはまたもや思いもかけないことに直面したかのように硬直していたが。
「あ、お送りしますババ様」
とババ様に駆け寄る。

しかしババ様は鬱陶しそうにそれを拒否した。
「ばか者。わたしゃそこまで衰えちゃ居ないよ!」
「す、すみません」
そして危なっかしい足取りで家の仕切りをまたぐ。そしてそのついでに入り口の所に座っている黒い犬を睨む。
「なんだ、コイツは」
「あははははは!ただのペットですよ!!」
タータは慌ててその場を取り繕おうと、犬の頭をべしべし叩く。
「・・・・・・・おい」
犬は不機嫌にボソリ。
「(バカァ〜!しゃべるなぁぁぁ〜!!)じゃ、じゃあ僕達はこの辺で・・・」
タータは犬の首根っこを掴んで家に引きずり込んだ。
ババ様はフンと鼻を鳴らすとヨチヨチと、やたらめったら羽飾りのついた杖を突きつつ歩み去って行った。

「感じの悪いばあさんだな」
その後姿を見ながら犬(ヨコシマ)が言った。
「な、何言ってんだよ。一応この村じゃ村長並に偉いんだぜ?」
タータが慌てた。
「確かに人間にしちゃ霊力は高い方だったな」
「あ〜・・・とにかく、そんなに馬鹿にしないでくれよ〜」
「解った解った・・・」
そう言って犬(ヨコシマ)はニヤッと笑っていたんだってさ。

でもよぅ・・・

「お〜〜〜〜い!タータ!!時にその犬の事だが」
突然ババ様が振り向いて大声を出したから二人、いや一人と一匹か?
とにかく彼らは飛び上がった!

「その犬・・・・いい犬だぞ〜!」

そして一人と一匹はしばらくバクバクする心臓を静めるのにてこずったんだって!




・・・だがな、実はこのばあさん。黒犬の正体なんてとっくに見破ってたって話なんだ。
でもこのばあさんはあえて気づかない振りをしていたらしい。
だもんで

「この男なら・・・悪魔の力ならもしや・・・・」

とこのばあさんが呟いた事に気づいたヤツは、その時一人もいなかったのさ。




さて、ババ様も帰って心臓を落ち着かせて、そんでもって家でゴロゴロしたあと、しりとりを三回ほどするうちに、あたりはすっかり夜だった。

タータとヨコシマ(人型に戻ってる)は二人でホロホロ鳥の丸焼きをほおばっていた。
「結構美味いな・・・」
「まあね。結構いい獲物だよ」

むしゃむしゃむしゃ・・・

ヨコシマはタータよりも少しだけ早く焼き鳥の切れ端を食い終わってその骨を咥えていたが、ふと思い出したかのように、いや違うな、始めからいつ切り出すのかを狙っていたのかのように、ポツリと話し出した。

「なぁ・・・ニエって言うのはやっぱり・・・」
肉に齧りついていたタータもぴたりと止まった。

「・・・恥ずかしい話しだしできれば話したくなかったけど、ここまで知った以上は話した方がいいよな・・・」
タータはそう言うと肉を皿代わりの葉っぱの上に戻し、ぼそぼそと語り始めた。
「話したくないんなら無理しなくてもいいが?」
ヨコシマはそう言ったが、
「いや、何か今度は話したくなったんだ」
彼は話を再開した。


・・・さてと、ここでお前さん達にも教えなきゃなんねぇな。マホイ村の秘密って奴を。

と言ってもまぁそこまで複雑な秘密なんかじゃない。
もう解ってるとは思うが・・・


そう、この村では生贄の儀式が行なわれていたのさ。

なんとこの村の連中は、一匹の巨大な怪物に、数年に一回。生きた人間を食わせているのだよ!

それも生贄はまだ若い女限定さ。なんとも勿体無い事だ。

しかしながらいくらジャングルの奥地の秘境だからって、実際に効果があるかどうかもわからない怪しい呪術に人の命を捧げたりなんかしない。

じゃあ何のためにしてるかって?・・・ちがう。化け物を暴れさせない為とかじゃない。

へへへ・・・
そりゃぁ・・・・・金だよ。


もう前にこの村で精霊石が取れるって話はしたよな。ポイントはそこだ。

怪物の名前は「精霊龍様」とか呼ばれててなぁ。その名の通り精霊石の鉱脈、しかも決して人間が入れないような所に住んでいる魔法生物さ。
かつて精霊石採掘を夢見た魔法使いが作り出してそれが逃げ出したという噂だが、何でこんな生物がこの世に居るのかということは、本当の所まではわからない。

まあ村人達にとっちゃあただ一つだけ解れば十分だ。
つまり、生贄を捧げれば精霊龍様は精霊石を恵んでくださると言う事さ!

霊能力を持つマホイ族の人間は魔法生物にとっちゃあご馳走だからなぁ。


始めはただの事故だった。
ある日ある女が地面に開いた穴に落ち、精霊龍様に一飲みにされた。

村人は嘆き悲しんだが・・・その女の代わりに穴から飛び出した数個の石っころの価値が解ったとたん、それも一変した。


・・・文明化しつつある社会の中で、原始的な生活を営むマホイ村。
地球温暖化、森林伐採などの環境破壊で制限されつつあるその生活にはいつか限界が訪れる。

そんな時ウラ技として使われたのがこの生贄大作戦さ!


かくして村は一人の女の犠牲だけで生き延びられるようになったのだよ!



・・・だが、人間って奴ぁーお調子者でねぇ。村人達はだんだんと味を占め始めた。

簡単に手に入るようになった「文明」という巨大な力。
村人はすっかりそれらに酔っちまったのさ。


女一人の命と、村全体を潤す巨万の富。



この村の大人たちは、愚かにも後者を選択しちまったのさ・・・。


村人は皆「自分の所の娘じゃないからいいや」などと軽い事を考えていた。
そしてある日突然自分の娘が生贄になることがきまるわけよ。

そこになってはじめて自分たちの自己中心的な愚かさに気づくがもう遅い。

んで他のみんなに生贄の愚かさを説くんだが、返される言葉はさっきまで自分が喋っていた言葉さ「村全体のためには仕方が無い」。


皮肉な話しだねぇ。




しかも今回は・・・


「・・・その生贄に選ばれた人たちが家族で夜逃げしちゃったんだ」
タータはまるで葬式帰りみたいな顔をして、長い説明を終えた。


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