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初恋…?

そのよん。(回想そのに)


投稿者名:hazuki
投稿日時:04/ 6/26

三人の目の前にいたのは、赤いランドセルを背負ったひとりの少女である。

年齢は横島たちと同じくらいだろうか?

ぱっちりとした目と白い肌。肩までで切りそろえられた漆黒の髪の印象的なかわいらしい少女だ。


「うん」

どないしたん?と首を傾げ夏子。

「なんや加賀か?」

確か帰り道加賀は、こっちやないよなあ?と銀一。

「たすかったあー」

ほっと大きな息をはき横島。

三者三様の反応である。

第一この少女は横島たちとは、クラスメイトではあるがそこまで仲が良くないのだ。

なので何故、ここにこの少女いる理由がわかり銀一は少しばかり複雑そうな表情になる。

横島にも、その少女がここに来た理由が分かるのだろう。

またかぁとひとり呟き、恨めしそうに銀一を見る。

夏子は何故かじっと横島の顔をみている。

そしてしばらく少女の言葉を待っていたが、一行に話す気配が無い。

全身をかちかちに強張らせて、何かに挑むように前を向いている。

何度も何度も声を出そう、口を開いているのにそれは言葉になるまえに口は閉じられる。

しばらく銀一のほうをみつつ少女の言葉を待っていた横島だったが、視界にはいった少女の様子に助け船を出す。


「加賀?どしたん?銀ちゃんに用か?」



はよいわんと日が暮れるで?

と言葉を促すと少女はぐっと唇をかみ締めたあと




「ううん……ちゃう、うち横島に用あるんや………」


それこそ先ほどの声よりも小さい声でそう言った少女の顔は、いつの間にか赤くそまっている西の空とと同じくらい赤く染まっていた。






「え、俺………?」

自分を指差し、心底不思議そうに横島。


こくんっと首を縦に振り少女。


横島の経験では、こういう場合用件があるのは銀一のほうである。

だが、目の前の少女は横島に用事があるといっている。

特にこの少女と大したことをした記憶も無い横島としては用事といわれてもなんの心当たりも無いのだが、相手側が用事がるというからにはあるのだろう。



「ん。ええよ。で用事ってなんや?」



少女は顔を真っ赤にさせたまま(それは夕日と重なって横島たちにはわからないのだが)体をがちがちにこわばらせている。



「あああああ………あのな、えっとそのな…………」

何度も、何度も、言い止り、言葉を繰り返すように少女。

少女は顔にはてなマークを浮かべている横島から、ちらっと夏子と銀一に視線をむける。

わずかな沈黙の時。


夏子は顔になんの表情も浮かべず、ただ右手が白くなるほど握り締めていた。

銀一はそんな夏子を見てすこし悲しそうに笑う。


「やっぱ銀ちゃんに用ちゃうんか?」


くりっとほかにやる事がなかったので、少女といっしょに視線を移しながら横島。

少女の視線の先には銀一と夏子がいる。

第一横島がこの少女──加賀由美と話した事といえば、今年のバレンタインの日に銀一にチョコを渡せずに教室にいた所を偶然見つけたので、加賀由美のチョコを銀一に渡してやった時くらいだ。


(加賀由美は、銀ちゃんが好きなんやよなあ)


そんな出来事を覚えているせいか、横島の頭には『加賀由美イコール銀ちゃんが好き』という構図がある。



「あのな……横島はうちの事どう思う」


だけども、そんなことを考えている横島の耳にはいってきたのは確かに自分に対する問いで。




「へ?」


まあ横島の心情からいって、まさか本当に自分に用事だとは思わなかったのだ。

この反応は仕方ないだろう。


何しろ加賀由美、銀一と夏子のほうを見ながら言っているのだから。


「おお大胆やなあ」

ほぼ予想してたであろう銀一は苦笑する。


夏子はじっと加賀由美からの視線を受けながら、それでもなにも言わない。





(どおって?)



んな事言われてもと、思いつつ口を開く。


「加賀由美。と思っとる」



「え?」

加賀由美って……それうちの名前なんじゃ………?

一瞬何を言われたのか、理解してなかったのだろう。

ほうけたような表情が、それを示している。


が、横島はそんな加賀由美の様子に気付かずに

「俺のクラスメイトで女子で加賀由美やと思っとる。」

当たり前の事を何緊張しながら聞いてるんやと、半ば呆れたように言った。



「………正真正銘のアホやわ」

頭を抑えながら銀一。

もっともである。


「………………」

夏子もすこし、いやかなり呆れた様子で横島をみていた。


「…いや、あんな……………」

確かに、そうだけども、そうだけども、とどうやら横島の言葉は加賀由美の気力を根こそぎ奪うものであったらしくがっくりと肩を落とす。。



「で用事ってなんや?」


なんにしてもさっさと帰りたいんやけどなあっと、横島は付け加える。

まさにとどめの一言である。


「鈍感。」

夏子は横島には聞こえない程度の、銀一には聞こえる程度の険の含んだ声でぼそりと呟く。

銀一にしてもそれは同感だったらしく、うんうんと複雑な表情で頷いた。



「きょ、今日はもういいわ………また今度な」

地面までめり込みそうなため息をひとつついたあと、加賀由美は力なくそう言う。

それはそうであろう。

この流れでまさかこう答えられるとは(いくら横島が鈍感といえども)想像すらしてなかったのだから。

しかもそれはわざと恍けている訳でもなく、まったくの天然である。

これで落ち込まなかったら嘘である。


それでも、また今度という辺りに根性を感じるが。


力なく笑うと、加賀由美は踵をかえした。









「変な奴やなあ?」

一体何をいいたかったんだ。

と首をかしげながら横島。


「……お前のほうが変や」

銀一は加賀由美のほうを見、かわいそうにと呟く。


「そうかあ?」

俺ふつーやん。

そう言って笑う。


「そーや。」

知らんってこわいよなあ。

そう言って銀一も笑う。


「んなことないと思うんやけど、なあ夏子。」


くりっと横島は同意を求めるようと、夏子のほうをみたら───






夏子が笑っていた。









いつもの高飛車な笑い方でもなく、先生たちの前で見せる優等生の笑みでもない。

いままで見たことの無いような、とても綺麗な顔で夏子は笑っていた。


夕日に照らされているその表情は、まるで知らないひとのようで───




「そおやな」




夏子は横島の言葉に、そう答える。









ばくんっっっ







その瞬間横島の心臓が、音をたてて飛び跳ねた。

まるで全身が心臓になったような錯覚にすら襲われる。


かあっと頬に血はが昇る。









(………な、なんやこれっ!!!)



な、なんか病気かっ!



ここでこう思う横島、かなりの天然である。


つづく


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