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初恋…?

そのさん。(回想)


投稿者名:hazuki
投稿日時:04/ 6/18

今から時間を遡ること五年前───

その頃横島は、大阪の小学校に通っていた。

もちろん典型的なガキ大将で友人が多く、毎日日が暮れるまで遊んで暮らしていた。




きーんこーんかーんこーん。



「よこっちー」


御馴染みのチャイムの音と共に、ぺちゃんこに潰れたランドセルをからった少年こと横島がダッシュで教室から出ようとした瞬間に声がかかる。

横島の幼馴染であり、親友である銀一である。

この場合、他の人間(クラスメイト)なら無視するのであるが、相手は親友でもあり、クラスのアイドルな銀一である。


これで無視した日には、女子からは総スカンを食らい、銀一からは、拗ねられること間違いなしでだ。


ああもうっと、心の中で地団駄を踏みながらも振り返る。


それでも、急いでいるのは隠しようもなかったので、その場でたんたんと足踏みをしていたりするが。


「んーっなんやっ?」


その顔にはありありと、急いでいますっと書いてある。




「なあにいっとるんや?今日、よこっち掃除当番やろ?せんと怒られるで〜」


「いや、今日ちょっと用事あるんやっ」


ぱんっと、両手を合わせ横島。

が、しかし銀一も伊達に横島の友人をしているわけではない。


「駄目やっ。用事いうても、ゆうこさんとこやろ?」


にっこりと、クラスの女子を悩殺しそうな爽やかな笑顔で言う。


銀一の後ろからは、クラスの女子(銀一のシンパ)が『そーよそーよっ、掃除しなさいよっ』と喚いて来る。


どうやら、これは逃げられそうにない。

ここで逃げたら、明日の朝の会で怒られること間違いなしである。


げえっと、横島はおもいっきし顔を顰め何か言おうと思った瞬間───────







黒板けしが目の前と、いうか視界一杯に広がっていた。


ぱこんっ


と小気味いい音をたてて横島の顔にぶつかり派手な音をたてて、そのままあお向けに倒れむ。




「………」

「………」

「………」





しばしの沈黙。



そしてだっと黒板けしを投げた少女が教壇の上に駆け上がりその上で、声も高らかに宣言したのだ。


「あはははははっ、この夏子さまが学級副委員長をしているこの学級で、掃除をサボろうなんぞ35年と15日はやいでっ」


しかも高笑いつきである。



呆然。



きっとこのクラスでなければ、横島と夏子のやりとりを見慣れていなければ引いているだろうクラスメイトも、大分毒されているらしく拍手なんかしてたりする。

さしずめ『流石学級副委員長さま』とでも言ったかんじであろうか?




「っ!」


横島にしてはこれが楽しいわけはない。
なぜならば、この状況は夏子にしてやられた!ということを差すのだから。
ガキ大将のプライドがこのままで済ますわけはない。
黒板消しをつかむと同時に横に転がり、たんっと立ち上がる。


「そんなん、なんの関係もないやろっ!」


そしてその台詞と共に草野球で鍛えたであろうその肩を生かし、黒板消しを投げた。

夏子はその瞬間くるりと身体の向きを変え、あっさりと横島の投げた黒板消しを避けながら右手の人差し指を左右に振り



「あ・まーいっ」


とそんな行動は読めていたと言わんばかりに、にいっと唇を吊り上げ得意げに笑う。


「あまいのはどっちやっ!!!」

それはおとりやったんやと叫びながら横島が向かった先は、教壇の下つまりは夏子の下である。
ばっと腕を上に振り上げ、夏子のスカートを捲り上げたのだ。



「きゃああああああっ」
禁断の技(?)スカート捲りである。
こればっかりは、いかな夏子といえども真っ赤になりスカートを抑える事しかできない。

いやっほうっ!

高らかに勝利宣言をするかのように、ガッツポーズをする横島。

黒板消しで真っ白になった顔は、とてもとても嬉しそうだ。

が、それはほんの数秒の勝利でしかなくその後夏子から、黄金の右ストレートをくらい再び床に倒れこむことになるのだが。






「てーか普通女なのにあそこまでするかぁ」

とは、下校途中いまだ痛む右ほおを触りながら横島。

銀一は肩をすくめながら、『まあ、よこっちと夏子やしなあ』と笑う。

「なんや、掃除をちゃんとせえへん横島がわるいんやろ?」

夏子はきっぱしと断言する。

結局横島は夏子からぶちのめされた挙句に、掃除をきちっとするはめになったのだ。

しかも女子全員からのブーイングのおまけつきで。

掃除している間『スカートまくり魔人』というありがたくない称号までいただいてしまったのだ。

太陽は西側の空に傾きゆっくりと青から、オレンジ色へとかわっていく時間。

いつもよりも少しだけ遅めの下校。

三人の影もいつも見るのよりも少しだけ長い。

横島は、はあっと特大のため息をつくと、恨めしそうに夏子見ながら言った。


「第一夏子があかんっ」


「なにが?」
「なにがや」

ちなみにこれは夏子と銀一の台詞である。

別に夏子の行動のどこにもおかしい点はない。

掃除をさぼろうとしたクラスメイトを止めるのはごく当たり前の行為である(方法はすこしばかりおかしいが)。

銀一がそう疑問を口にすると、横島は唇を尖らせこういったのだ。



「だって他の奴らが掃除サボっても黒板消しぶつけへんやんっ。学級委員のくせに差別すんなやっ」


もっともである。
横島にしてみれば他のクラスメイトならば注意だけで済まされることなのに、自分だけここまで徹底的にぶちのめされることを不満に思っても仕方が無い。

まあ徹底的にやられる原因のほとんどは、横島の行動によるもので、そこに気の回らないのも横島らしいと言えばらしいのかもしれない。


「だって横島やんっ」

夏子もその言葉に眉を寄せ唇を尖らせ応戦する

夏子にしてはその言葉で充分だったのだが、横島にしてわかるはずもなく


「なんやそれ?」

益々口を尖らせいった。


「わからへんならええ」

ふいっと顔をそむけ夏子。


「ったく今日はゆうねえが見たかったミニ四駆の本見せてくれるいうたのに………ああもうこんな遅くなってもうて、今日ゆうねえの所いくって銀ちゃんも夏子もしっとたっろーが」


頭をかかえ、横島は独り呟く。


(……今からいってゆうねえに本みせてもらって………母ちゃんにおこられるなあ)





「なあ銀ちゃん、明日の日直ってうちと横島だよね」

はっと今思い出したらしく、首を傾げ夏子。

「そーやったなあ」

「じゃあ明日うちと横島少し早く学校に行くけど銀ちゃんどうする?」

「ええよ。俺も早く行くからちゃんと呼びに来てな」

「オッケー」

ぶつぶつとなにやら呟いている横島を無視して会話をする銀一と夏子。


横島は二人の会話に加わることなく、ひとり『ゆうねえ』の家に行くべき、かいかざるべきか頭をかかえていた。

今日見せて貰う本は千円近くするもので、小学生(特に横島)の小遣いでは購入するのが苦しいのだ。

立ち読みしようにも、輪ゴムでしっかりと止められており、見ることの叶わなかったものである。

それを見れるのならばみたい。

一分でも一秒でも早く見たい。

しかし母親が「今日は早く帰ってくるように。」と言っていた。

脳裏の浮かぶのは、母親の箒をもって笑う姿である。

普通に考えて微笑ましい姿のはずなのだが、横島にとってそれは恐怖の象徴でしかありないのだ。



(どないしよう・・?)

もし、母親のいいつけを破ったら………。

世にも恐ろしい折檻が待っているであろう。

だけども見れるものならみたいっ!


「横島?」

「………」

「横島?どないしたん?」


横島が恐ろしい想像に顔色をなくしていると、流石におかしく感じたのだろうか?

銀一が横島の肩をニ・三度揺さぶり声をかける


「え?」


「なんや顔が真っ青やで?」

大丈夫かと銀一。


「ああ、大丈夫やで」

と、横島。
まさか、母親からうける折檻を想像して青くなってましたとは言えない。


「ホンマに大丈夫か?」

ひょいっと夏子も心配そうに横島の顔をのぞきこむ。



「……大丈夫やて…ほんのすこし夏子からもらった右ストレートが痛むだけや」

実際、顔色がかわったのはそのせいではないのだが、笑おうとしてほおが痛かったのも事実なので少しだけ茶化していったら──




「え?」


いつもの威勢のいい罵詈雑言ではなく、気弱な、驚いたような、たったそれだけの声が落ちた。



思わずその声に顔をあげて夏子をみると。


眉を寄せぎゅっと唇をかみ締めて

そう、まるで

まるで泣き出す直前のような表情で横島をみている。




「ど、どしたんっ!?」

慌てたように銀一。


「なんでもあれへん」

それでも力ない声で夏子。
先ほどまでの、威勢のよさも力強さもない。


「なんでもあらへんって!?」

なんでもないような声じゃあらへんっと銀一。


横島も、思わずいつもの自信満々の表情な夏子とは違いすぎる表情を浮かべるその肩をつかみ。

「そうやっ!いつもなにがあっても俺を完膚なきまでに高笑いを浮かべながら叩きのめす夏子が泣きそうやなんて!天変地異の前触れとか言われても信じられないぞっ!」

それこそ滅多に珍獣でも見たとでもいいたげである。


「いや……それはちょっと………」

違うだろと心のなかでつっこみを入れる銀一。




「へえ………天変地異?」



横島の台詞の数秒後。
ためたように呟かれた言葉に、なにやら感じたのはきっと銀一だけではなかったはずだ(笑)。

目の前の夏子には先ほどまでの泣きそうな表情はすっかり消えており代わりに恐ろしいまでの笑顔、ある意味横島がとても見慣れている笑顔がそこにあったのだ。


「あほやなあ………」

顔を右手で抑える銀一。


「夏子?」

研ぎすまれた本能でなにやら危険を感じた横島が肩から手を外し、数歩あとずさる。

が、夏子は笑みは崩さぬまま、その数歩分進む。


そしてこの後いつもの夏子の怒声と横島の悲鳴によってありふれて穏やかな日常の一コマがここで展開されるはずだったのだが──





「あの………」



このか細い声に邪魔されることになる。


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