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BACK TO THE PAST!

仁義亡き戦い・劇闘編


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/ 4/ 7

かかって来いよ・・・返り討ちにしてやる・・・
横島は自分の道を阻む敵を睨みつけた。

辺りは・・・激しい雨に包まれていた。


「フンガァァアア!!」
いきなりタイガーが猛烈な体当たりをしかけてくる。

止められない事はないが、コイツと力比べをするのはいささか分が悪い。

と、冷静に分析する横島はタイガーの突進を僅かにかわし、足を払って転ばせる。
タイガーはいつものように頭をガリガリこすりながら泥を跳ね飛ばし、滑っていく。

タイガーは撃たれ強いから後回しだ!

こうして横島はタイガーを一時的に戦線離脱させた。
続いてグローリーを構え、ピートに向かって肉薄する。
が、雪ノ丞の長距離からの霊波砲に阻まれ、攻撃を与えられない。

先に雪ノ丞を倒すべきか・・・?

だが彼には魔装術がある。それを倒すのはやや難しいだろう。
一瞬の思案。
それにより横島に一瞬の隙が生まれてしまう。
相手としてはその絶好の機会を見逃すわけがない。
「ダンピ−ルフラッシュ!!」
「ぐっ・・・!」
その攻撃は射程こそ短いが広範囲に広がり、弾速も速い。至近距離の横島にはよけられるはずも無なかった。

まともに食らった横島は後ろ向きに吹き飛ぶ。
その進行方向には・・・タイガー!

「ぬおぉぉおお!!」
タイガーは顔をすりむき、鼻血をとどめなく流しながらも、泥だらけの体でまたもや猛烈なショルダータックルをぶちかました。
「ごふっ・・・」

さらに追い討ちをかけるように雪ノ丞の霊波砲が連続して打ち込まれる。

ドドドドドドン!!

横島は紙くずのように吹き飛ばされた後、どしゃりと音を立てて落下した。
びしゃびしゃと舞い上がった泥が降り注ぐ。




しばらくの間、ただ静かに雨が降る音が響いた。

キィン・・・

横島の手の中で文珠が輝く。込められた文字は『治癒』。
光が消え、全くの無傷の横島が立ち上がった。


「やるじゃん。おまえら、強くなったなぁ・・・」
横島は邪気の無い笑顔で言う。
いつもの、三人が知っている横島だった。
「でもよ・・・俺も負けられないんだ。この世界に、耐えられないんだ。おまえらに、耐えられねぇんだよ・・・」
泣き笑いのような表情。
雨に濡れ、びしょびしょになった顔は本当はもう泣いているのかもしれない。


「・・・本気で行くぜ」


横島の霊力が、爆発的に上がった。


対する三人は今までとは違う気配に身構える。

「そうそう、おまえらの立っている地面。な〜んだ?」

「なっ・・・」
「これは!」
「サイキックソーサー?!」

三人は、気づけば公園全体を覆うほどの大きさのサイキックソーサーの上に立っていた。

慌てて飛び上がろうとするがタイガーがワンテンポ遅れる!


「サイキック・クレイモア!!」

ドゴォォォオオオオオ!!!!

地面のサイキックソーサーが大爆発を起こし、火柱が上がった。
「グァアアーー!!」
「タイガー!!」
タイガーは火柱に巻き込まれ、動けないほどのダメージを負う。
一瞬、雨が吹き飛ばされ雨音が止み、またザ―ザ―と降り始めた。






本当の戦いが始まった。





横島は高く飛び上がりすぎてしまったピートを次なる標的に決める。
「はぁっ!!」
ハンドオブグローリーを両手に出現させ同時に伸ばし、その反動で空高く飛び上がった。
落下してくる雨粒を吹き飛ばしながらハイスピードで上昇してくる横島に、ピ−トとはド肝を突かれ、迎撃ができない。
「いきさらせぃ!!」
横島が怒鳴り声と共に横に凪いだグローリーをバンパイアミストでかわせたのは本当に紙一重だった。
「っ・・ど、どうだ!あなたの攻撃は効きませんよ。横島さん!」
ピートは苦し紛れにそう叫ぶ。
が、

「そうでもないさ」
と、横島がそう言った瞬間、グローリーが変形し、霧化したピートを包み込んだ。
「圧縮!」
グローリーが縮小し、中に閉じ込めたピートを押しつぶす。
「ぐぁあ!」
横島は、たまらず人の形をとってしまったピートを雨にぬれた地面へ叩きつけた。

ドシャァ!

ピートは衝撃で意識を手放した。

「ピート!・・・だがおまえの努力は無駄にしないぜ!」
雪ノ丞が連続霊波砲を打ち出す。
「さすがのおまえも空じゃうまく動けねぇ!!」
そしてどこかで聞いたような台詞をのたまった。

「チィ!」
横島もここまでは予測できていなかったのか、僅かに慌てる。しかしいたって冷静に判断を下し、回避行動に出た。
「のびろ!」
横島の両グローリーが地面に突き刺さる。そして元の長さに戻す反動で一気に空中から地上へと降り立った。
当然の事ながら霊波砲は全てかわしてしまっている。




「・・・残るは、おまえだけだぜ?雪ノ丞」
横島はじろりと雪ノ丞を睨みつけた。

だが、一人きりになった雪ノ丞は大して慌てない。むしろ落ち着いていた。
そしてニヤリと好戦的な笑みを浮かべて見せた。
「くっくっく・・・もともと群れたり協力したりするのは苦手なんだ。もしかすると一人の方が強いかもしれないぜ?」
ジャリッと音を立てて構えをとる。
「GS試験の決着、付けさせてもらうぞ!」
「やれやれ、これだからバトルマニアてやつぁー・・・」
横島は言葉こそ柔らかいが気配だけは本気そのもの。


ザァザァと雨の降りつづける公園に、ピンとした空気があたりに張り詰める。

子供が楽しく遊ぶための施設で真剣勝負を繰り広げる。そのギャップがかえって緊張感を極限まで高めた。


くそっ・・・横島の奴いつの間にこんな力を手に入れた?

雪ノ丞は外は強気に見せていたが内心、非常に焦っていた。
自分のライバルであり、友であり、今は敵の横島はさっき地面に突き刺した両手のグローリーのもたれかかるようにして、全くの自然体でこちらを見つめている。
一見隙だらけのようだが、ぴんと張り詰めた空気と長年のカンが『それでも奴はどんな攻撃にも対応できる』と教えてくる。
今のところ雪ノ丞に打つ手は無かった。

・・・もっと、修行しとくんだったなぁ。

彼の脳裏に一瞬だが後悔の念がよぎった。

そもそも弓の奴が悪いんだよ。俺がもっと強くなりたいって言って妙神山行こうとしたのを止めやがってさ。
いや、確かにおまえの事は・・・好き・・・だよ。だけどよ〜ちょっとぐらい修行行くのはいいじゃんか。
しかもせっかく人が修行あきらめたのに毎日のように買い物やらなんやら付き合わせやがってさ〜しかも代金俺持ちだし。
おまえ俺の収入わかってる?そこいらのサラリーマンより低いんだぞ?まあ、最近は横島とかと一緒に仕事するから食うには困らないけどさ・・・。
つーかなんでブランド物ってそんなに高いんだよ!
たかが布キレやら鞄やらにン十万もつけんじゃねぇ!!



はっ、と雪ノ丞は正気に戻った。

あ、あぶねぇあぶねぇ・・・思考が飛んでたみてぇだ。

しかし横島は今の絶好の隙に気づかなかったのか、さっきと変わらず同じ格好のままこっちを見ていた。




グローリーも相変らず地面に突き刺さったままだった。



「・・っ!」
雪ノ丞は慌てて後ろに飛びのく、するとさっきまで自分が立っていたところからグローリーの切っ先が泥を吹き飛ばしつつ、盛大に突き出した。
さらに着地地点にもう一本。
「ウソだろ!?」
身をひねり何とかそれもかわす雪ノ丞。だがグローリーはしつこく追跡してくる
ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!
泥が、土が、雨粒が乱れ飛び雪ノ丞に降りかかる。
雪ノ丞は次々と突き出るグローリー翻弄されつつ何とか活路を見出そうとする。
すると彼の目線の端にけっこう必死になって両手のグローリーを操作する横島がうつる。
「そこだ!」
雪ノ丞の霊波砲が横島に向かって放たれた。
「うわっ!当ったらどうすんだよ!!」
横島は相変らず気のそがれるようなことを叫びつつ、ひらりと身をかわす。
「おまえが言うか、おまえが!!」
必死になって横島のグローリーから逃げる雪ノ丞が怒鳴り返す。
そしてニヤリと笑った。


「最初から当てる気なんてないさ」


横島がかわした霊波砲は横島のすぐ後ろの木に直撃する。
そして木はめきめきと音を立てて倒れ始めた。横島めがけて。
さすがの横島も予測不能のこの攻撃には対応できず、轟音を立てて迫り来る木に右足をはさまれる。
「ぐぉお!」
肉を削り取りながらも何とか足を引き抜く横島。
「しゃぁっ!!」
そこを雪ノ丞の切り裂くような前蹴りが捕らえた。
横島は吹き飛ばされ、背後にあった滑り台に激しく体をぶつける。
戦いが始まってから初めて横島に大きなダメージが入った。

「立てぇ!横島ぁ!!」

衝撃で思わず膝をつく横島を無理やり立たせる雪ノ丞。
拳を振り上げ、全身全霊で怒鳴りつける。
「おまえには自分がしようとしていることが、どういうことに繋がるか分かってんのか!!」
バキィ!
目がさめるような右ストレート。
「俺がママに二度とあえなくなったと知った時味わった、あのどうしようもない、ひたすら後悔と悲しみの入り混じった感情にとらわれつづける、あの気持ちを、皆に味わせるつもりなのかよ!!」
バキィ!
空気を切り裂くアッパーカット。
「俺もおまえも・・・あの苦しさを、あの悲しみを、喪失感を身をもって知っているはずだ!もし、これらを承知で過去へ行こうっていうなら、俺はおまえを許さねぇ!!!」
雪ノ丞はよりいっそう横島の胸倉を掴む力を強くして叫んだ。
ざ――ざ――と、やけに雨音がはっきりと聞こえる。


今までされるがままで殴られつづけていた横島が小さく口を開いた。
「・・・手ぇはなせよ」
雪ノ丞は眉を吊り上げながらも横島を離し、数歩後ろに下がった。
いきなり離された横島は水浸しの地面に尻餅をつく。一度起き上がろうとしたが、めんどくさいのか途中で止め、座り込んだまま続きを始めた。
「確かに、おまえの言うことはもっともさ、雪ノ丞。だがな、知っているか?
自分のせいで!愛する人を殺してしまった時の気持ちを!!助けようとすれば助けられたかもしれない命を、救えなかった気持ちを!!そして彼女を生き返らせるチャンスを自らの手でつぶした気持ちを!!
そして、再び愛した女性から、ルシオラが生まれてくるという苦悩を!!!」
雨にぬれた顔がさらに濡れる。
「俺は・・・もう誰も愛せない・・・もう耐えられないんだ。この世界に、おまえ達に、この俺に・・・」
彼は泣いていた。それにすら気づかずに。
「だから俺は過去へ飛ぶ。邪魔をしないでくれ。もちろん俺が消えても悲しむ奴がいない用に細工はしてあるさ」
雪ノ丞は横島にかける言葉が見つからない。だが彼の中では『彼を止めろ!!』と言う声がビンビンに鳴り響いている。
「・・・でも俺もおまえを止めなければならない。どう考えてもおまえは間違っている・・・ような気がする。俺だってママが助けられるんなら助けたい。だがな、この世界の全てを捨て、みんなの前から永遠に消えることは間違ってる!」


雪ノ上の叫びをじっと聞いていた横島は、しばらくして重たげに腰を上げた。
ごきごきと首を回し、さも面倒くさげに頭をばりばりと掻く。
そしてまっすぐに友の目を見据え、口を開いた。
「互いの意見は完全に対立、交渉決裂だな。
ここは一つ賭けでもするか。ここに一つ文珠がある。つかえるのは後一回、込められた文字は『忘却』。俺たちの内、勝った方が相手の記憶を消せる。
俺が勝てばおまえら三人の俺に対する記憶を消し、俺はすぐに過去へと飛ぶ」
んで、おまえが勝てば俺のここんとこ2・3年の記憶を消してくれ、と横島は笑って言った。
「・・・分かった。その賭け、乗ったぜ」
雪ノ丞はニヤリと笑う。
「やっぱりおまえは俺の親友だよ」
横島もいつもの笑顔で笑った。

どしゃ降りの雨の中、穴ぼこだらけになり、木は倒れ、滑り台はひしゃげ、爆風にめちゃくちゃにされた公園で、親友同士の全力をかけた戦いが始まる。

一対一の真剣勝負。それゆえ決着は一瞬でつく。
「全力で行くぜ!!」
雪ノ丞の魔装術がめきめきと音を立てて変形する。
「これが、俺の出せる最大の力だ!」
そして腰の部分に突っ張りだした棒状のものを抜き放つ。
魔装術、それは鎧である。が、彼はその一般常識を振り切り、武器までもを作り出して見せたのだ。
細身の剣、魔装剣を携え、一直線に突っ込んでゆく雪ノ丞。
対する横島は両手に構えたグローリーを疾風のように伸ばしてきた。
・・・だが、よけられないほどじゃない!!
体をひねるようにして、鎧どころか肉までも削らせつつ、それでも何とかグローリーをかわしきる雪ノ丞。
「俺の、勝ちだ!」
魔装剣が横島に向かって振り下ろされた。

















その瞬間、横島の体は淡い光を放って掻き消えた。






――――蛍?






そして次の瞬間には横島が雪ノ丞の背中にサイキックソーサーを乗せた手のひらを押し付けていた。
「おまえと出会えて、親友と呼べてよかったよ」
雪ノ丞は何とか振りかえろうとしたが、遅すぎた。



「サイキック・インパクト!!」
指向性を持たせたゼロ距離からのサイキックソーサーの爆発を受け、雪ノ丞は吹き飛ばされる。



意識が途切れそうになる。


――――幻・・・・術・・・か・・・
そして最後に・・・そう、つぶやいた。





雨は、もはや本降りとなって、かけがえの無い友の記憶を失った三人を濡らし続けた。


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