椎名作品二次創作小説投稿広場

BACK　TO　THE　PAST！

仁義無き戦い・直前編

「全く・・・いったい何だってんだ！？」
横島は数え切れないほど繰り返したその言葉を再び繰り返した。

今、彼は何処だか良く分らない山の中で地縛霊の大群と戦っていた。

山の中は見事な森林となっていた。虫や小動物が木々の間を飛び交い、時折聞こえる鳥達の声はひんやりとした森の空気に良く溶け込んでいった。
休暇などにはもう一度訪れてみたくなるような静かな森であったが、霊の大群に追われている時にのん気なことは考えていられなかった。
「何でだよ、割と楽な浮遊霊数体って聞いたぞ！！それともなんだ？日ごろの俺の行いが悪いってか？！」
横島は霊の大群の一部を除霊しつつ戦いやすそうな場所へと逃げ込んだ。

よし、ここいらで迎え撃つか・・・。

うっそうと生い茂る名も知らぬ草木を踏みしめ、横島は一人、敵の接近を肌で感じ取った。
　いやだ〜死にたくない〜。　死ねぇえええ！！×１００〜１２０（目測）
霊たちは例に漏れず意味不明の矛盾したことを叫びながら横島めがけて襲い掛かる。
「うぉ！！・・・ええい！こんちくしょうめぇ！」
初めて霊団の全貌を見た横島はあまりの悪霊の数に一瞬怯んだが、気を取り直して霊波刀を構えて迎え撃った。
「おらおらおらおらぁ！」

一振りで時には五体以上の霊を除霊する彼の姿は見るものを魅了するような華麗さもあり、何より彼の強さを示していた。
「おらおらおらぁ！！」

普通のＧＳが霊団の相手をする時は通常、かなり大掛かりなチームを組む。戦い方もまず強力な結界で雑魚霊を浄化、その上で結界で弱った親玉倒す、などという方法が一般的である。
霊団とはバラバラだった霊の集合体であるがゆえ、ちぎってもちぎってもなかなか倒せず下手をするとこちらがへばってしまう。ある意味そこいらの悪魔なんかよりもよっぽど厄介な相手なのだ。
それを直接叩くなんて愚な戦法でしかない。
しかし横島はそれを続けてきた。そして今も。

まあ、それしか出来ないとも言えるのだが。

木々の隙間から何本もの木漏れ日が射し、刃を振るう横島を神々しくも見せる。
その動きは達人から見ればまだまだ、と言うレベルではあるが、数え切れないほど経験してきた実戦から型にはまった剣技ではなく、彼特有の剣が生まれつつあった。

「おらおらおらぁ！」

彼の刃は悪霊どもを華麗になぎ払いつづける・・・・が、

「おらおら・・・・って多すぎるわぁ！」
やっぱり彼は何処までも横島なのだった。


霊は斬っても斬っても後から後からわいてくる。しかも横島が斬る数を上回る数でだ。
「ここで何が起こったんだ！！」ってなぐらいの霊の数だった。
気づけば横島は３００を超える数の霊に完全に囲まれていた。

一瞬で周りの状況を把握。一番霊の少ない場所へと逃げ込む。

「クソったれがぁ！」

手のひらの中で二つの文珠が発光する。
込められた言葉は『飛翔』そして『爆』。
ついでに最後の霊力をかき集めてサイキックソーサーも置き土産に数個発射する。

ドゴァアアォオォォォ・・・・。
ぎゃー！
うぎゃー！
イヤーン！（←親玉）

爆発に巻き込まれ、断末魔を上げる霊達。

「くは、くははは！どーだ、思い知ったかコンチクショー！！」
サイキックソーサーにより、いつもより威力の増した文珠の爆発が霊団を親玉ごと小気味いいほど綺麗に吹き飛ばすのを見て、上空に浮かぶ横島は壊れた笑いを浮かべた。

爆風によって生まれた煙が晴れてから、横島はゆっくりと下降してきた。
「しんどかった・・・マジでしんどかった。美神さんのデストロイ・鬼コンボ・フルコースをまともに食らったときぐらいやばかった・・・」
ドサリと焼け野原に前のめりに倒れこみ、全身の力を抜く。
「うひー。もう力がはいんねぇ・・・文珠も残すところコイツ一個か、今襲われたらたまんねぇな」
横島はじっと手に平に包まれた文珠を見つめた。
それはいまだに『飛翔』の文字が浮かび上がっている普通とは違う文珠。

「なるべく使わないようにしてたんだけどな〜。また助けてもらっちまったよ。
・・・ルシオラ」

―双文珠―それはルシオラが彼に残した力の一つ。

通常の文珠とは違い、何回も使えるし、込められる文字も二文字とバリエーションは雲泥の差。いいとこずくめの不思議な道具。
横島なりに文珠に関する事については調べているのだが、双文珠に関係する文献は見つからなかった。ただ、自分で双文珠を調べて見たところ、使った後は勝手に大地、空気、自然の物、使用者などから霊力の供給を受け、自動的に充電する仕組みになっている・・・ということぐらいは分った。
ちなみに一度限界まで充電すれば５，６回ぐらいは使えるようだ。
カラになった場合は壊れるかどうかは、壊れるのが怖くて実験はしていない。

「はぁ、まあすぎたことはしょうがねぇな。とにかく今は・・・」

休む！！

と意気込み、彼はまぶたを閉じた。



彼が眠っているうちに彼の置かれた立場の整理をしよう。

今、彼はＧＳ見習いの助手ではあるが個人の仕事を受け持つというとても不思議な立場にある。
理由は簡単。彼が世界屈指のＧＳでありながらいつまでたっても見習いから卒業できないからだ。原因はこれまた単純、美神令子その人だ。
彼女からすれば元手ゼロでそこいらのアイテムの数倍の戦火を発揮する彼（正しくは文珠）を手放す気はさらさら無い。
よって見習いとして永久にこき使うためには独立させることはなんとしてでも阻止したいというわけだ。

しかしその悪事も２年ほどで彼女の母、オカＧの核、そして守銭奴大魔人美神令子に対抗しうる唯一の人物、美神美知恵によってあばかれるのだった。
令子が大魔人なら彼女は超魔王。決着は一晩でついた。

その時の様子を真近で見た西条と言う男性はこうコメントする。


「アレは人間技じゃないよ」


アレとは何なのか、そのことについては、彼は貝のように口を閉ざすのだった。


実際なら横島はこのまま独立して新たなるバラ色人生を歩めるはずだったのだが、ここで美知恵の小さな策略が存在した。

・・・娘と横島をくっつけちまおう。

前からそう思っていた彼女はその優秀な頭をひねり、凄まじいアイディアをたたき出した。
その案はどう見てもめちゃくちゃであったが美知恵の貫禄とアシュタロス戦役の功績から、恐ろしいことに特例中の特例として、ＧＳ協会の承認を受けてしまう。


こうして美神令子除霊事務所助手兼、フリーのＡランクＧＳ、横島忠夫が誕生したのだった。


んで、助手として働きつつ、ご指名の仕事で多額の報酬を受け取って暮らす彼だったのだが、ここの所何故かフリーＧＳとしての仕事がやけにキツイのであった。

昼夜を問わず毎日のように仕事が入り、休む間も無い。当然霊力は萎え、遂には文球一個作れない今の状況になってしまったのだった。新人にとってはありえない状況だった。
しかし新人であるがゆえ、信用に関わることから断るに断れない。


閑話休題・・・。




ピッ・・・ザザー・・・
『こちら熱血、こちら熱血。ターゲットは霊力、体力を使い切った。回復までは二・三日はかかる。いよいよ明日より作戦を決行できそうだ。どーぞ』

『こちらお蝶、こちらお蝶。了解した。では明日作戦を決行するでちゅ。熱血は自宅で休養。ベストコンディションで明日の作戦に参加する事。他の二人も同様にしてくだちゃい』


『『『了解』』』


ザ・・・ピッ。


そよそよと吹くそよ風に前髪を撫でられながら、ぐーすか眠る横島。
だが！気持ちよさそうに眠る彼の知らないところで奴らは確実に動いているのだった！！





次の日

美神所霊事務所。今日もそこではおキヌがほほえましく周りに気を使い、令子が金の勘定をし、シロタマが元気にけんかをしていた。
今日も楽しく一日が始まった。

そこへ和やかな空気をぶち壊す人物がやってきたのはその直後であった。

「おはよ〜ございます・・・・」
生気の無い声が事務所の中に響いた。
いつものようにお茶を入れていたおキヌはその人のあまりの変わり様に言葉を失い。
シロとタマモはそれぞれ霊波刀と狐火を携えながら固まってしまった。
さらに滅多な事でも心を乱さない美神令子も彼の容姿にはさすがに驚きを隠せなかった。
「ど・・・どうしたの横島クン」
令子は恐る恐るゾンビのような足取りの横島へと声をかける。
「どーしたもこーしたも・・・」
と横島は巨大な目のクマをこすりながら言う。
「ここの所の仕事が異常に多くて・・・」
ゆらりゆらりとソファーに近づいていき、ドサリと倒れこむ。
「見ての通り霊力も体力ももう・・・」
そこまで言い切ると電池の切れた人形のように眠り始めた。
「・・・それじゃあ何のためにバイトに来たわけ？」
令子は呆れ顔でそう言うと横島の頭をばしばし叩いた。
「おい、コラ！起きろ！二億円級の仕事よ！！」
「むーん・・・しかも依頼主がみんな親父なんやー・・・」
横島は苦しげに頭を抱え込んで唸り声を上げた。
そのあまりの扱いにおキヌ達は顔をゆがめる。
「み、美神さん。あんまりですよ。滅多な事でも疲れない横島さんがここまで衰弱しているんですよ」
「そーでござる！先生が目の下にクマを作るなんて見た事無いでござる！」
美神はじろりと彼女らを睨み、何百回と繰り返した名台詞を言い放った。
「何言ってんのよ。コイツは私の下僕で殺生権は私にあるのよ！」

あんまりだ・・・

事務所のメンバーは横島の扱いの悪さにため息をついた。
この中では一番の古株であるおキヌは、美神の説得など無理であるとすぐに悟り、いそいそと横島に飲ませる栄養ドリンクを取りに行った。
シロは、大好きな師を助けたいが、美神の逆鱗になど触れたく無い。師を思う心と身の危険の板挟みになり結局何も出来ないでいた。
タマモはただ哀れな男に同情のまなざしを向けただけだった。

「と言うわけで、起きろ横島――！！」
しかし彼は一向に目を覚まさない。
令子のこめかみに青筋が浮かび、神通昆がじゃきりと構えられた時、タマモのクールな声が横島を救った。

「いくらなんでもこんな状態のヨコシマを連れて行ったら死んじゃうんじゃないの？」
令子のＯｎ青筋な顔がタマモに向けられる。

「・・・ねぇ人口幽霊一号」
――私に振らないでくださいよ。

作者にすら存在を忘れられかけていた人口幽霊一号が困った声を上げた。
――でも、もしオーナーが無理やり起こした場合は仕事に行く前に死亡なさるでしょうねぇ・・・。
ガスッと令子の神通昆が事務所（人口幽霊一号の寄り代）の床に突き刺さった。

――・・・ですよねぇシロさん。
「せ、拙者には荷が重いでござるよ」
シロは尻尾を股の間に挟みながら怯えた声を出した。

しばし今にも爆発しそうな極限の緊張が続いたが、意外にも今回折れたのは美神令子の方だった。
「・・・まあ確かに二人の言い分は分かるわ。このまま連れてっても足手まといなだけよ。
別に横島君の身を案じるとか、同情を寄せてるとかは全っっ・・・！然！！！！関係なくて、連れて行っても、じゃ・ま・に・な・る・か・ら（←ここ重要）仕方なく今日は横島クンを休ませて上げるわ・・・」
今の場面をビデオに撮れば絶対に後でプレミアがつくだろう。
「美神さん・・・」
ユンケルを一ダースほど用意して戻ってきたおキヌは、ほんのわずかだが存在する令子のやさしいところを垣間見たような気がして自然と微笑んだ。

「その代わり持っている文珠はすべていただくわ！！」

すて―――ん！
事務所の一同は一斉にずっこけた。

「おほほほ、幾つ持ってるかしら〜♪」
なんて言いながら横島のポケットをまさぐる令子の姿に、事務所のメンバーは、
嗚呼、やっぱり美神さんだな〜
と、諦めと、呆れと、どんな時でもペースを乱さない彼女にほんのちょっぴりの尊敬を感じた。

「あれ、何処にも無いわね・・・」
令子はほとんどのポケットを調べ終えたが、未だに文珠は一個も見つからなかった。
――何故なら今彼が持っているのは――
「あ、Ｇジャンの内側に隠しポケットが縫い付けてあるじゃない。ふん！横島の癖に生意気なことを・・・」
令子はそのポケットの中から文珠らしき珠を取り出そうとするが、勢いあまって取り落としてしまう。
それはコロコロと転がって行き、尻尾のある少女の足元で止まった。
「何でござるか？普通の文珠とはずいぶん違うような・・・」
「それは・・・」
「あっ！！」
　　　　　　　　――彼女にもらったあの文殊のみ――
令子とおキヌが同時に声を上げる。
「シロちゃん・・・それちょっと返してくれる？」
おキヌが悲しそうな顔でシロに向かって手を出す。
「え、い、いいでござるが・・・」
おキヌはその文珠、双文珠を受け取ると令子に渡した。
令子は無言でそれを横島のポケットに戻した。
いつもの美神令子を知っている者にとってそれは有り得ないことだった。
「み、美神どの、どうしたでござるか？」
「熱でもある？」
シロとタマモは令子が言い返してくる事を願ってそう言ったが、令子とおキヌは無言のままだった。
「それじゃあ、あの文珠・・・あの文珠は何なんでござるか。答えてくだされ！」
シロは自分の知らない師の顔にあせりと不安を感じ令子にすがりつく。が、令子は無言のまま彼女を引き剥がし、一言「仕事前にシャワーでも浴びてくるわ」と言って部屋を出て行ってしまった。
シロは満足な返答をもられえず、が〜っと頭をかきむしる。
「そうでござる！おキヌ殿も知っておるんでござろう？」
シロはおキヌに希望に満ちた顔を向けるが、またしても満足のいける返答はもらえないのだった。
「・・・こればっかりは私の口からも言えないの。ごめんなさい」
おキヌは顔を伏せる。
「しかし・・・！！」
「ええい黙りなさい馬鹿犬！！」
なおも詰め寄ろうとしたシロの首根っこをタマモが掴んだ。
何をするでござるか！という抗議の声があがるがタマモはそれを受け流し、じたばたと暴れる少女に語りかける。
「おキヌがそこまで言いたくない話っていうことは、コイツにとって相当つらい話だったんでしょ？」
ちらと横島を垣間見る。
「・・・いずれコイツから直接話してくれるのを待つべきって事。でしょおキヌ？」
おキヌはタマモが振った話にこくりと頷いた。
「でも・・・」
なおも不満げに言うシロにタマモは決め台詞を言い放つ。
「へぇ・・・話してもらえる自信ないんだ」
「そんなことはござらん！先生は絶対にいつか話してくれるでござる！！」
シロは憤慨してそう叫ぶが、
「じゃあおとなしく待つことね」
「ぐっ・・・！！」
タマモの止め台詞に轟沈した。


一方そのころバスルームでは。
令子が窓から顔を出して何かを待っていた。
「・・・来ないわね」

しばらくして急にあたふたと暴れだす。
「ってこれじゃあ私露出魔の変態じゃない！！いや、そうじゃなくて誘惑――とかそういうのも全然無くて・・・そう、仕事よ！あのままじゃアイツ役に立ってくれないし、文珠が無いとボロ儲けもできないから、し・か・た・な・く！！（←ここ強調）ちょこっとだけ霊力回復に付き合ってやろうかなーなんて・・・」
一人でバスルームできゃあきゃあ言っている様はちょっと微笑ましくもあった。

風邪を引かないといいが・・・。



後編に続く。