椎名作品二次創作小説投稿広場


第三の試練!

〜策略・決着・ひどい女!〜


投稿者名:ヨコシマン
投稿日時:03/12/11

『オノレ!タガガ人間ノ分際デ!!』

 蛇は怒っていた。この結界内において自分の体に傷をつける者が存在するとは思っていなかった。しかも、よりにもよってこんな薄汚い人間如きに。
 そして同時に驚いてもいた。自分が眠っていた三百年の間に、人間どもがこれほど強力な武器を作っていようとは!
 だが、それらの感情をはるかに凌駕するモノが蛇の中に渦巻いていた。

 それは、『屈辱』である。

 『狩られる立場の者』が『狩る立場の者』に手傷を負わせる。その上あまつさえこちらを『狩る』とまで言い出すなど、言語道断。それは八百年もの長き時を生き、人間を狩り続けた彼にとって屈辱以外の何者でもない。

『最早、遊ビハココマデダ!ソロソロ汝等ヲ殺メテ喰ラウトシヨウゾ!!・・・マズハ女、貴様カラダ!!』

 蛇が吼えた。それだけで敵を殺せる程の霊圧を周囲に叩きつけながら。




「美神さん!危ない!」
「来るんじゃない! さっき言った通りに動きなさい!」

 大蛇の猛攻をギリギリ紙一重でかわし続ける美神を、何とかフォローしようと近づいた横島に向かって美神が叫ぶ。

「い、いや、でも・・・!」

 それでも横島は反論しようと何か言いかけたが、美神の表情がそれを拒んだ。

――― 信じてるわよ、横島クン。だから、貴方も私を信じなさい ―――

 言葉など無くても伝わる気持ち。横島は確かにそれを受け取った。
 無言で頷くと、横島は連続攻撃を繰り出す大蛇の側面に回りこみ、両手の文珠に念を込め始めた。
 しかし大蛇もその動きを見逃しはしない。美神を攻撃しつつ、その巨大な尾で横島の動きを牽制する。
 その牽制を必死にかわし、目的のポイントに滑り込む横島。
 一つ目の文珠を足元に埋め込み、すぐに反対側に回り込もうとした、その時。

「あうっ!!」

 小さな悲鳴。その方向に振り向いた横島の目に、左腕から流れる鮮血を押さえる美神の姿が映る。
 怒れる大蛇の牙が、防御に徹していた美神の体をようやく捉え始めつつあった。

「み、美神・・・!」

 横島は言いかけた言葉を飲み込んだ。今、自分のすべき事は美神のフォローではない。それに、彼女の眼光はまだ死んではいない。大丈夫だ。横島は自分にそう言い聞かせる。
 くそっ! 横島は顔をしかめ、歯を食いしばりながら目的のポイントへ走りだした。

(それで良いのよ・・・!横島クン!)

 休むことなく襲い掛かる大蛇の攻撃をどうにか受け流しながら、美神は横島の方をチラリと見やる。
 弟子の内面的な成長を目の当たりにして、美神は素直に嬉しさを覚える。


 大蛇の猛攻はとどまる事を知らない。すでに左手に続いて、右足の太腿の外側を軽く抉られている。
 防御に徹していた美神の華麗な身のこなしも、最早見る影も無くなってしまった。

(防御だけなら何とかなると思ったんだけど・・・、甘かった・・・!)

 荒い息を吐きながら足を止め、美神は大蛇を睨みつけた。
 見れば大蛇も、今まさに止めを刺さんと、その大きな頭を持ち上げタイミングを計っている。

「この・・・!」

 美神が苦し紛れに悪態をつこうと口を開いた次の瞬間、横島の声が響く。

「OKです!!美神さん!!」

 横島の声に反応して、大蛇から美神の命を絶つべく、止めの一撃が放たれた。動きの鈍くなった美神へ向かって、矢のように大蛇の顎が襲い掛かる。
 美神はその攻撃をかわそうとせず、まるで観念したかのように動かなかった。

「よくやったわ!横島クン!精霊石よ、ヤツの動きを止めて!!」

 迫り来る大蛇の牙をギリギリまで引き付けておいて、美神が叫ぶ。
 その声と同時に彼女のネックレスとイヤリングがまばゆく輝き、大蛇の目の前で弾け飛ぶ。
 どんな魔物にもダメージを与えるGSの切り札、それが精霊石。それは、たとえかの大蛇であっても例外ではない。

『グアッ!?オノレ、精霊石カ!』

 突然の衝撃に動きが止まり、大蛇は苦痛に顔を歪める。
 そんな大蛇の右側面で何らかの準備を終えたらしい横島が、仁王立ちで不敵な笑みを浮かべて言い放つ。

「ふははははは! いくぜ! この蛇野郎!!俺の名は・・・愛と正義の使者、伝説の文珠使い、
 『スーパーグレートゴーストスイーパー』略して『SGGS』横島忠・・・アイタッ!」
「どーでもいーからとっととやんなさい!!!」

 スコーン、と良い音を立てて、美神の投げつけたパンプスが横島の側頭部にヒットする。

「えーやんけ!たまの見せ場くらい!大目に見てくださいよ!」

 横島は涙目で反論しつつ、その手に持った文珠を地面に埋め込み発動させた。
 同時に大蛇を挟んで反対側に埋め込んだ文珠も発動を開始する。

 その文珠二つの文字は『陥』と『没』

 突然、大蛇の足元にある大地が轟音と共に円形に崩れ落ち、大蛇は地面もろともその大穴に落下した。
 白き蛇が言葉にならない声を上げながら、穴の底から空を見上げると、人間の女がさも楽しそうにこちらを覗いているのが見えた。

「あらあら、大丈夫〜? でもね、こーんなもんじゃ済まないのよ。ホ〜ラ♪」

 美神はポケットからヘソクリ文珠を二つ取り出すと、両手に持って念をこめる。
 そしておもむろに落とし穴の上辺りに文珠を軽く放り投げた。
 美神が文珠に込めた言葉、それは・・・

 『塩』と『酸』



『ギュウオワァァァァァァァァァ!!!!!』

 絶叫、そして怒号。それも無理も無いことだろう、なぜなら穴の上空から大量の酸がシャワーのように降り注いだのだから。
 大蛇は穴の中で暴れまわり、そのたびにバシャバシャと水飛沫の上がる音が聞こえる。同時に肉の腐食するなんともいえない悪臭。

『オノレ!!!オノレーーーーーーー!!!!!』

 穴から聞こえる怨嗟の叫びが森中にこだまする。

「ああっ!これよ!この声が聞きたかったのよ!!オーホホホホ!あー気持ちイイ!!」

 体の奥から湧き上がる快感に身をよじりながら、美神は心底嬉しそうだ。

「・・・どうでもいいけど、アンタ・・・俺の文珠何個ヘソクリしてんだ・・・?」

 横島は疲れきった表情で、誰とは無しにボソリと呟いた。


『ガアァァァァァーーーーーーー』

 雄叫びと共に大蛇の巨体が穴から飛び出す。渾身の力を込めて、体全体でジャンプしたのだ。
 着地と同時に大地に体を擦り付けて、付着した酸を払い落とす。

「ゲッ!出てきやがった!」
「慌てないの、横島クン。ホラ。」

 そう言うと美神は一枚の札を取り出し、大蛇目掛けて放った。今度は空中でかき消される事無く、そのまま大蛇に炸裂する。
 強力な酸によって溶かされた鱗は、その効果を再び発揮する事は無かった。
 大蛇は小さく苦痛の声を上げ、それでも何とか攻撃の態勢を整える。だが、傍から見ても明らかに以前の力強さを感じなくなってしまっていた。

『ナゼダ!?カ弱イ人間如キガ・・・我ヲ狩ルト言ウノカァ!』
「これで決着よ!今まで散々やってくれたけど・・・それももう終わり。極楽に・・・行かせてあげるわ!!」

 素早く横島が装備の中からありったけの破魔札を手渡す。
 受け取る美神はその破魔札を全て使い切る勢いで乱射し始めた。美神令子必殺奥義、その名も「赤字覚悟の破魔札乱れうち」発動。

「あああっ!赤字!完っ璧に赤字よ!どーやって回収しようかしら?」
「命あってのモノダネじゃないですか!」

 いつもの掛け合い。二人は勝利を確信していた。

 強烈な破魔札の弾幕に包まれて、大蛇は激痛に身をよじる。視界が怒りと恐怖で赤く染まり、思考回路を焼きつかせる。
 大蛇は力を振り絞って頭を高く持ち上げ、美神のいるであろう場所に目掛けて渾身の一撃を振り下ろした。

――― オノレ!・・・オノレ!!コノ一撃デ・・・殺ス! ―――

 叩きつけるような殺気を放ち、大蛇の顎が獲物目掛けて信じられない速度で飛んでゆく。
 だが、大蛇の必殺の攻撃はむなしく空を切る。大蛇はその瞬間、まるでスローモーションのようにゆっくりと時間が流れるように感じた。
 コマ送りの時間の中、視線を空に向けた大蛇の金の眸に、華麗に宙を舞う亜麻色の髪の女が映し出される。
 その女はゆっくりと大蛇に向かって落ちてきた。

「くらえ!」

 美神は大蛇の捨て身の一撃を読んでいた。痛む右足を堪えて横島を踏み台に飛び上がり、神通棍を構えて落下する。
 下に向けて構えた神通棍の先には、大蛇の金色に光る眸。

 ズン、と何とも言えない感触が神通棍から両手に伝わる。美神の一撃は大蛇の左目を貫いていた。

『ギイシャァーーーーーー!!!』

 左目の激痛に思わず叫ぶ。大蛇の意識は麻のように乱れ、次の行動を起こす事が出来なかった。
 美神はその一瞬を見逃さない。

「最大霊波放射!」

 美神は体内に残るありったけの霊力を神通棍に注ぎ込んだ。彼女から発せられる大量の霊波が大蛇の体内を駆け巡る。
 どうやら、勝利の女神は美神達に微笑んだようだ。



 どれだけの時間が経ったのだろうか、美神はふらつきながら大蛇から神通棍を引き抜くと、その生死を確認する。

「間違いないわ、死んでる。」

 ふう、とため息を一つ、そして横島の方へ歩き出す。忘れていた右足の傷が急に痛み出し、不覚にも地面に膝をついた。
 慌てて横島が駆け寄る。

「美神さん!大丈夫っすか?」
「大丈夫・・・って言いたいとこだけど、ちょっとムリみたい。ねぇ横島クン・・・肩、貸してくんない?」

 ようやく緊張感から解き放たれたからであろうか、美神の笑顔はとても無防備で可愛らしく、横島の心をいとも簡単に鷲掴みにした。

(・・・チクショー!たまにこういう顔すっから、・・・やめられねぇーんだよなぁ!)

 横島は無言で空を見上げ、心の中で叫ぶ。

(今までの酷い扱いもこの笑顔で全部帳消しだよなぁ。ひでぇ女だ!)

 横島は思わず苦笑いをした。結局自分はこの女に惚れているんだ、と。

 いつの間にか、森は静寂を取り戻し、見上げた空は青く澄み渡っていた。


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