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不思議の国の横島

第1話  『はじまりは突然に』


投稿者名:KAZ23
投稿日時:03/11/ 5

不思議な事ってのは何処にでも転がっている。
俺の人生、不思議な事のオンパレードだ。
楽しい事、辛い事、色々とあったが……
今ではみな、それなりに良い思い出だと思う。
何の因果か……いや、本当に因果があったからか?
まあ、いい。
俺はゴーストスイーパーなんてやる事になっちまったものだから、不思議な出来事ってのには事欠かない人生を送ってきた。
そして、これもそんな不思議な事の1つ。
いつもの事だけど、でもいつもとは違う不思議な出来事。
俺はあの日、不思議の国に迷い込んだ。

………………










―― バリバリバリバリッ! ――

真っ黒な夜空に、無数の白き閃光が走る。

「くっ!なんて雷よっ?!」
「くふははっ!やるじゃねぇかよ、人間!」

そこは人里から離れた山の奥。

「じょーーーだんじゃないわっ!?こんなに強いなんて聞いてないわよーーーっ!!」
「美神さーーんっ!今はんな事言っとる場合じゃ無いっすよーーーっ!!」

―― ドゴーーーンッ!! ――

盛大に大地が爆ぜる。

「うぎゃーーっ!!こ、こらアカン!洒落で済まん?!」
「ふはははーーーっ!これもかわすのか?面白いぞ、ヌシら。なんだったか……確か“ごーすとすいぱぁ”とか言ったか?頑張るな。ワシを相手にしてこれだけやれた奴もそうはいねぇぞ…」

対峙するは2人組の人間と、白き面の大きな獣。
獣と言っても…それは人間が一般的に知っている獣とは大きく異なる体躯を持つ。
異形の獣だ。
隈取をしたような面には嬉々とした表情を浮かべ、長いたてがみは意思を持つ如く逆巻きうねる。
何よりその獣は人語を操り空を飛び、更には雷を操った。
ソレはありえない存在。だが、それでもソレは存在する。
だから人はこのような獣を、畏怖の念を込めてこう呼んでいた。

―― 妖怪 ――

だが、彼らもまたこの世界の正当な住人である事を、多くの人間は知らない。

「じゃが、今度のはどうだ?」

そう言って白き獣は右手を天に突き上げる。

「かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「なによっ!?この馬鹿みたいにでっかい妖気はっ!?」

その強大な力に惹かれるようにして、バチバチと雷光を発する黒雲が、視界を埋め尽くさんばかりに集まってきた。

「やばいっ!!横島クン!アノ雷雲はやばすぎよっ!!逃げ…逃げましょ…」
「そんな事言ったって!逃げ道なんて何処にも無いっすよーーっ?!空一面が雷雲の塊じゃないっすかーーっ!!」

わたわたと慌てふためく男女。
女の名前は美神令子といい、男の名前は横島忠夫という。
2人は、幽霊やら妖怪やらの退治を専門とする人種だ。
現代ではそんな職業と、そんな職業に就く人間をゴーストスイーパーと呼ぶ。

「くはっはっはっはーーー!!喰らってふっ飛べ!!」
「うぎゃーーー!!?文珠っ!!文珠――――っ!!!」

両手を空にかざして横島は叫ぶ。

―― バリバリバリバリバリバリ!!ドゴッ!ドゴン!!ドゴゴゴゴーーーーーーンッッ!!! ――

『避』『雷』

2人の眼前に、四方八方から迫りくる雷の群れ。一辺の光も差さぬ闇夜が、一面真っ白に染め上げられた。
だが、それらは横島と美神の周囲で弾かれ逸れる。横島の両手にはそれぞれ『避』『雷』の文字が書かれた文珠が発現していた。

「まーたその玉っころかよ?フン……じゃが耐えられるか?ワシの全力は天井知らずだぜ?!」
「よ、横島クン頑張って!!」

―― ドゴン!ドゴン!ドゴゴン!ゴガガン!! ――

「きっ!きっつ、うがが…う、嘘!?押されて、や、やばっ!?もう持たない……」

『避雷」の文珠で逸らされた雷は、地面と言わず木と言わず…周囲にあるものを次々に削っていく。だがしかし、次から次へと襲い来る雷は、あっと言う間に横島の霊力と体力を奪い取って行き……

「み、美神さん…もうげ、限界。これ以上、持たな……かあぁぁ!!!」
「が、頑張って横島くん!!私の霊力も使って!!」

美神は横島の肩に両手を乗せ、自分の霊力を横島に送り込む。

「本当にてぇしたもんだ、ヌシら。ワシの全力を堪えるのか…くくく、面白い!面白いぞ人間!」
「あ、ありがと。お褒めついでにこの辺で手打ちにしない?こっちも引くからアンタも引いてくれたら嬉しいんだけど?」

すでに限界に近い美神は、それでも顔にだけは余裕を見せながら妖怪に交渉を持ちかける。

「なんでぇ?そっちから売って来た喧嘩だろうが?なら……最後までやって行けや!」
「あ、アンタがこんなに強いなんて知らなかったのよ!私たちじゃ手に余る…」

2人と1匹の周りには未だ雷達が、まるで生き物のように駆け巡っていた。そんな中で美神と獣は会話をする。

「ふん!バーカもんが……ワシを誰じゃと思っておった?ワシこそが最強の妖…」
「はいっ!御見それいたしました。御免なさい!流石!貴方こそ最強です。私たちじゃあとてもかないませんでした。御免なさい、御免なさい!」

愛想笑いを浮かべながら、ヘコヘコと頭を下げる美神。

「いやあ、流石!伝説の大妖怪、長飛丸様っ!!」

長飛丸……そう呼ばれて、妖怪の左目がわずかにつり上がる。
今までは本当に嬉しそうな顔をしていたのに、このときだけは何か複雑な…嫌そうな顔を見せた。
そして、ゆっくりと口を開き、大妖怪は言葉を紡ぐ。

「ふん。女……ワシを長飛丸と呼ぶな。ワシの名は…」
「がぁぁぁぁーーーーっ!!もうアカーーーン!!」

と、そこで横島は力尽きた。
文珠が割れ、押し留まっていた雷が一斉に2人に襲い掛かる。

「ちょ!?嘘…」
「美神さっ…」

―― ドッ!!ガーーーーーーーンッッ!!! ――

突き刺さる雷の群れ、響き渡る爆音、舞い上がる粉塵!
明らかに地形が変わるほどの衝撃を受けた美神と横島は……

………………









「はっ?!」
「あれ?どうかしましたか、美神さん?」

―― おキヌちゃん? ――

ここって……事務所?!どう言う事……確か今…
私はさっきまでの事を思い出そうとする。依頼、富士の樹海、妖怪退治、長飛丸、雷、壊れた文珠、横島クン…

「そうだ!?横島クン?!」
「えっ?横島さんはさっき帰りましたけど…」

キョトンとするおキヌちゃん。

―― アレ? ――

落ち着きなさい、私!
私は今の状況を考える。

「そういえば…明日のお仕事の、長飛丸ってどんな妖怪なんですか?」

「え?」

―― 明日? ――

おキヌちゃんの言ったこの一言が、急速に私の脳の働きを活発にさせた。
長飛丸を対峙しに行くのは明日?違うっ!!
私は今、戦っていたわ!あの馬鹿みたく強い長飛丸と!そして、雷の直撃を……

―― 雷? ――

「あっ!」
「え?な、なんですか美神さん?」

判った!

―― 時間移動 ――

偶然だけど、長飛丸の雷のエネルギーで時間移動してしまったんだわ。外は夜…ってことは、丁度1日分の時間を戻ったって事か。

「おキヌちゃん!横島クンはさっき帰ったのね?」
「え……はい。でも、美神さんだって横島さんが帰られる所見てました……よね?」

とりあえず、横島クンが無事なのか確認しないと。

―― バダン! ――

「み、美神さんっ!!」

私がそんな事を考えていると、思いっきり焦った風に横島クンが事務所に飛び込んできた。

「アレ?どうしたんですか横島さん?」

おキヌちゃんがびっくりして問いかける。
私も平然としてはいられない。
確認しなければ、彼が私の知る横島クンなのかどうか……

「横島クン!さっきのこと、ちゃんと覚えてる!?」
「あ、ハイ、美神さん!じゃあ、美神さんも……」

ふう、良かった。どうやら横島クンも無事に飛んでこれたみたい。

「どうやら、私の時間移動の能力が働いちゃったらしいわね……」

本当はもう使えない事になってるはずなんだけど、何かの拍子でリミッターが外れたのかしら?
何にしても、助かったわ。あれは本当にヤバかった。

「あ、やっぱりそうだったんですかね?俺もそうかなーって思って、急いで事務所に来たんすよ。」
「あの…美神さんも横島さんも、いったい何の話をしてるんですか?」

おキヌちゃんにはなんの話しだか分かっていないようだ。まあ、あの場にいなかったんだから当然なんだけど。

「ああ、おキヌちゃんにもちゃんと説明するから…でもちょっと待ってて。頭の中きちんと整理して落ち着きたいからさ。」
「そうっすね。俺はまだ心臓バクバク言ってますよ。」

私もまだドキドキしてる。
偶然、時間移動出来なかったら…

「……ゾッとするわね。」

私は椅子に腰を落ち着かせて一息つく。

「フウ……おキヌちゃん、お茶入れてもらえる?」
「あ、ハイ。じゃあちょっと待ってて下さい。」

のどがカラカラに渇いてる。

「ま、なんにせよ、明日の依頼は絶対キャンセルね……」

あんな強さは反則だわ!絶対、絶対、もう二度と関わらないわよ!?

………………










「ハッ!?」

あれ?今、俺!?

「なんだ?アレ?俺、今……アッ?!」

そうだ!俺、今、美神さんと一緒に長飛丸ってやつと戦ってて……

「俺……生きてるのか?」

右手を見て、左手を見て…ある、ちゃんと動く。
足は……両方有る、こっちも動く。

「生きてる……のか?」

ホッとする。でも…

「どうなったんだ?」

あの時、俺は信じられないような雷の渦に飲み込まれて、確か直撃だったような?
いや、流石にアレが直撃してたら生きてる死んでる言う以前の問題だろ?

「アレ喰らってたら、消し炭も残らず消滅してたんじゃねえのか?」

―― ブルブルブルブル ――

うわ!今になって足が震えてきた!やべっ!立ってられねぇ!

―― ドスッ ――

俺は足の震えに耐え切れずに尻餅を付いてしまう。すると、眼前には一面の星空が見えた。

「そう言えば、ココって…」

俺は周りを見回そうとして…

―― ヒュウッ ――

「風?」

生ぬるい風が俺の頬を撫でる。そして、独特の匂いが鼻を突いた。

―― ザザァーーーーッ ――

「……海?いや、船?」

目が慣れてきた。俺がいた場所、そこは…

「船だ……しかも、客船…」

見回した俺の目に入ってきた景色は、かなり大きな船。こういったブルジョワジーな乗り物にはあまり縁が無いんで詳しくは分からないけど、これって十分アレだろ?

「豪華客船ってやつじゃねえのか、この船って?」
「おや?こんな時間にどうされました?」
「?!」

と、突然俺は後ろから声を掛けられた。振り向くと、そこにはどう見ても船乗りって格好をした白いあごひげのおっさんが立っている。いや、こちらに向かって歩いて来てた。

「あ、えっと…俺……アレ?」

―― なんだ、コレ!? ――

それは突然、俺の頭に浮かんでくる。俺は目の前の見知らぬ人物を知っていた。

「せ…船長……だよな?アレ?俺……アレ?」
「おやおや、どうされましたかな?流石に1ヶ月も船の上にいたのでお疲れになりましたか?」

いや、これはそういう事じゃ無い。

「いや、そういうんじゃ……」
「しかし、あと3時間ですよ。もう直ぐで東京に着きますからな。」

違う!
なんだ、今の?!
俺はどうなったんだ?
待て待て!落ち着け俺!!

「まずは深呼吸だ!スーハースーハースーハースーハー…」
「横島さん?」

思い出せ!俺は誰だ?

―― 横島忠夫、20歳、GS、 ――

うん。これは大丈夫。

―― 俺は南米で修行してて、そんで修行が一段落から日本に帰る事にして、ある事情でこの船に乗って、目の前にいるのはこの船の船長で、もうじき東京に着く所 ――

「なんだと?!」
「うわっ!?ど、どうされましたか?」

なんだそれ?!違うぞ!俺の記憶は違う!

―― 俺はずっと美神さんの所で助手してて、ようやく見習いから脱出して、そんでもってさっきまで美神さんと一緒に長飛丸と戦っていて ――

そうだよ!
俺はずっと東京から離れてない!そして今、東京に帰る所だ!

「!!?」

なんだよ、俺!?
なんなんだよ、俺は……

「俺は……」

俺は……

「…………俺は誰だ?」

俺が考えられたのはそこまで。その呟きを残し、俺の意識は再び夜の闇に溶けて行く。


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