『ザ・フラッシュ』:2023、アメリカ

朝、いつものカフェでいつものサンドウィッチを注文しようとしたバリー・アレンは、いつもの店員が休んでいると知って動揺した。彼はアルフレッド・ペニーワースからの電話で、ゴッサム総合病院で強盗事件が発生したことを知らされた。アルフレッドはバットマンが既に出動していること、スーパーマンは別の案件に当たっていてワンダーウーマンは電話が繋がらなかったことを説明した。バリーは不満を漏らしながらもフラッシュに変身し、現場へ急行した。
フラッシュが病院に到着すると、地面の一部が崩れて大きな穴が空いた。バットマンはフラッシュから連絡を受け、「ファルコーネの息子が死のウイルスを病院から盗み、拡散する気だ。阻止したが逃げられた」と説明した。彼はアル・ファルコーネを追っており、「病院は任せた」とフラッシュに告げた。フラッシュはアルフレッドから、水道管とガス管が破裂したことを知らされた。彼は「ジャスティス・リーグの雑用係で、気が付いたらバットマンの後始末」と愚痴をこぼしつつ、病院の崩壊を止めようとする。しかし建物が崩れて看護師と赤ん坊が落下したので、フラッシュは特殊能力を使って救助した。バットマンはアルを追い詰め、駆け付けたワンダーウーマンの協力でウイルスを回収できた。
バリーはカフェに戻り、注文した商品を受け取ってから出勤した。彼は上司のデヴィッド・シンに指示された案件の再調査を進言するが、「未解決が半年分も溜まってる。解決したら次へ進め」と相手にされなかった。デヴィッドはジョンソン事件の判決について取材を受け、まだバリーが分析中なのに「鑑識結果が事件解決の決め手になった」と発表した。バリーが同僚のパティー・スピヴォットやアルバート・デズモンドと話していると、大学時代の友人で記者になったアイリス・ウェストが気付いた。
アイリスはバリーに声を掛け、翌日に控えた上訴審の見通しについて質問された。バリーの父のヘンリーは、母のノラを殺した容疑で収監されていた。バリーはアイリスに、「父の無実を信じている」とだけ告げた。彼が帰宅すると、ブルース・ウェインから裁判のための物証が届いていた。それは画像処理されたスーパーの防犯映像で、そこにヘンリーらしき男性が映っていた。バリーは映像を確認するが、男性は下を向いているので顔が判別できなかった。
バリーは刑務所のヘンリーから電話を受け、防犯映像がアリバイにならないことを伝えた。彼はフラッシュに変身し、かつて家族3人で暮らしていた家を訪れた。事件の日、ヘンリーが帰宅すると胸をナイフで刺されたケイトが台所で倒れていた。バリーは父から救急車を呼ぶよう頼まれ、家を飛び出した。フラッシュに変身したまま夢中で走ったバリーは、昨日に戻っていることに気付いた。彼はブルースに会い、そのことを話して「過去に戻って過ちを正せる。母を救える。父も、貴方の両親も」と述べた。ブルースは「心の傷があるから今の我々がある。過去には使命がある。君が正すべきことは何も無い」と説くが、バリーは納得しなかった。
バリーは訪ねて来たアイリスと話している内、「父の外出中に母が殺された」という事実に着目した。トマト缶を買って来るよう頼まれた父が外出している間に、母は空き巣に殺されたのだ。そこで彼は「トマト缶が家にあれば、父は買い物に行かず、母は死なずに済んだ」と考え、過去に影響を与えることなく両親を救えるはずだと確信した。過去に戻ったバリーは、スーパーで買い物をしている母の買い物カゴにトマト缶を入れて去った。
バリーは元の時間に戻ろうとするが、途中で何者かに襲撃された。10年前の世界に飛び出した彼は、家族が平穏に暮らしていることを確認した。彼は18歳の自分に会って簡単に事情を説明しようとするが、能天気で軽薄な言動に苛立った。彼は今日が9月29日だと知り、30分後に能力を得ることを思い出した。バリーは18歳の自分をセントラル・シティーの鑑識センターへ連れて行き、当時の状況を再現して落雷を浴びさせた。しかし自身も落雷を浴びたバリーは、能力を失ってしまった。
18歳のバリーは特殊能力を得たと知り、興奮して調子に乗った基本から教え込もうとするバリーだが、ゾッドがスーパーマンを捜して地球に来たことを知る。彼は18歳の自分に、「ゾッドはワールド・エンジンで地球を改造しようと企んでる。スーパーマンが阻止したけど大勢が犠牲になった。あの時、僕は能力を得たばかりでスーツも試作段階で、何も出来なかった」と語る。メトロポリスでゾッドが破壊を開始した時、フラッシュは少年を救助したものの、その父親は救えなかった。
18歳のバリーは友人のゲイリー、ルームメイトのパティーと恋人のアルバートに、バリーを従兄だと紹介した。「ジャスティスリーグがいれば大惨事を未然に防げる」と考えたバりーは、ネットで情報を検索した。するとヴィクター・ストーンはサイボーグになっておらず、ワンダーウーマンはダイアナと別人のマジシャンだった。アーサー・カリーは生まれておらず、バリーは「自分が過去に戻ったせいで、ユニバースが壊れてメタヒューマンが存在しなくなった」と推測した。
ゲイリーたちの「正体は謎だがバットマンは存在する」という言葉を聞いたバリーは、18歳の自分を伴ってブルースの屋敷へ赴いた。そこにいたのは自分が知っているブルースとは全く別人で、すっかり年老いていた。しかし彼は間違いなく、その世界のブルース・ウェインだった。ブルースはバリーの話を聞き、「君は未来も過去も変えた。マルチバースは平行線のはずなのに、グチャグチャで予測不能だ。時空連続体を弄ぶなんて愚かだ」と述べた。バリーは協力を要請するが、ブルースは「もう隠居している」と断った。
バリーは18歳のバリーを引き連れて、屋敷の地下室に忍び込んだ。彼はブルースのコンピュータを拝借し、スーパーマンの情報を調べた。防犯カメラでブルースが見ていると気付いたバリーは、「両親は残念だった。僕は親を救う」と語り掛けた。いつの間にか眠り込んだ彼が目を覚ますと、ウェイン産業の極秘資料が置いてあった。資料を開いたバリーは、スーパーマンがシベリアの秘密軍事基地にいることを知った。ブルースはバットマンに変身し、バリーと18歳のバリーをロシアまで連れて行った。
バリーたちは基地に侵入し、宇宙から落下した球体を発見した。しかし球体に閉じ込められていたのはカル=エルではなく、カーラという若い女性だった。バリーたちは衰弱しているカーラを救助して基地からの脱出を図るが、警備隊に襲われた。日光を浴びたカーラは一時的に回復し、特殊能力で警備隊を蹴散らした。バリーたちは再び意識を失ったカーラを連れて、屋敷に戻った。目を覚ましたカーラは、自分がカル=エルの従妹だとバリーたちに話した。バリーはカーラに、「この世界に彼は辿り着いていない」と教えた。回復したカーラは、屋敷から飛び去った。バリーはブルースに「雷事故を再現して能力を取り戻し、ゾッドを倒す」と言い、協力を要請した…。

監督はアンディー・ムスキエティー、映画原案はジョン・フランシス・デイリー&ジョナサン・ゴールドスタイン&ジョビー・ハロルド、『ザ・フラッシュ』創作はハリー・ランパート&ガードナー・フォックス、バリー・アレン・ヴァージョンはロバート・カニガー&カーマイン・インファンティーノ、脚本はクリスティーナ・ホドソン、製作はバーバラ・ムスキエティー&マイケル・ディスコ、製作総指揮はトビー・エメリッヒ&ウォルター・ハマダ&ゲイレン・ベイスマン&マリアン・ジェンキンス、共同製作はマイケル・レーマン&リチャード・ミリッシュ、撮影はヘンリー・ブラハム、美術はポール・デンハム・オースターベリー、編集はジェイソン・バランティン&ポール・マシュリス、衣装はアレクサンドラ・バーン、視覚効果監修はジョン・“DJ”・デスジャーディン、視覚効果プロデューサーはワッツ・ケント、音楽はベンジャミン・ウォルフィッシュ、音楽監修はキム・バウム。
出演はエズラ・ミラー、サッシャ・カジェ、マイケル・シャノン、マイケル・キートン、ロン・リヴィングストン、マリベル・ベルドゥー、キアシー・クレモンズ、アンチュ・トラウェ、シアーシャ=モニカ・ジャクソン、ルディー・マンクーソ、ジェレミー・アイアンズ、テムエラ・モリソン、サンジーヴ・バスカー、ショーン・ロジャース、キーラン・ホジソン、ルーク・ブランドン・フィールド、イアン・ロー、カール・コリンズ、ルーカス・デサンジェ、ポッピー・シェパード、ニーナ・バーカー=フランシス、エヴァ・ハマダ、モーリス・チュン、フローレンス・ライト、バスティアン・フエンテス他。


「DCエクステンデッド・ユニバース」(DCEU)の第13作。
監督は『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』のアンディー・ムスキエティー。
脚本は『バンブルビー』『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』のクリスティーナ・ホドソン。エズラ・ミラーがザ・フラッシュを演じるのは、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』『スーサイド・スクワッド』『ジャスティス・リーグ』に続いて4作目。
バリーをエズラ・ミラー、カーラをサッシャ・カジェ、ゾッドをマイケル・シャノン、マルチバースのブルースをマイケル・キートン、ヘンリーをロン・リヴィングストン、ノラをマリベル・ベルドゥー、アイリスをキアシー・クレモンズが演じている。
アンクレジットだが、元の世界のブルース役でベン・アフレック、アース97のブルース役でジョージ・クルーニー、ワンダーウーマン役でガル・ガドット、アーサー・カリー役でジェイソン・モモアが演じている。

約2億ドルを投入した大作映画だが興行的に失敗し、DCエクステンデッド・ユニバースは終了となった。
後にDCユニバースの計画には組み込まれることになったが、監督のアンディー・ムスキエティー自身も失敗に終わったことを認めている。
この映画がコケた理由は色々とあるが、その1つに「エズラ・ミラーが悪い」ってことが挙げられる。
演技が悪いとか、そういうことではない。
本当の意味で、とても悪い奴なのだ。

ちょっと調べれば簡単に情報が出て来るけど、とにかくエズラ・ミラーはシャレにならないような犯罪を繰り返して来た醜悪な人間なのだ。
そんな奴がスーパーヒーローとか、悪い冗談にしても程がある。
そりゃあ起用が決まった時点でも、撮影している時点でも、スタッフは全く知らなかった事実だから、仕方が無いことではあるのよ。でも、そこを「映画と私生活は別だから」ってことで完全に切り分けて鑑賞するのは難しい。
なので、そのせいで観賞を避けたり、評価が下がったりという影響は少なくなかったんじゃないかと。

病院が崩壊すると、フラッシュは瓦礫を踏み台にしてジャンプしながら看護師と赤ん坊を救助する。この際、「ものすごいスビードなので、落下する物体がスローモーションに見える」という演出が施されている。
これは1発目だからいいけど、何度も見せられて同じように楽しめるモノではない。
実はフラッシュの特殊能力って、それだけで1本の長編映画を作るには、ちょっと厳しいトコがあんのよね。
彼は超高速で行動できるけど、それって悪党に直接的なダメージを与える力じゃないしね。

だからフラッシュって救助活動や誰かのサポートには向いているけど、悪党を倒すための戦いになると、1人だけでは苦しい部分もある。
そういうこともあってのことなのか、のっけからフラッシュの活躍を描くだけでなく、犯人を追い掛けるバットマンの活躍と並行で見せる形になっている。
しかも、それだけで留まらず、ワンダーウーマンまで登場させる。
その後も他のスーパーヒーローのネタを絡ませながら、話を進めていく形になっている。

根本的なことを言っちゃうと、そもそもフラッシュの単独主演映画が、ここまで後回しになっている時点で失敗なんだよね。
フラッシュの初登場は、DCエクステンディッド・ユニバース第2作の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』。
その後、『スーサイド・スクワッド』と『ジャスティス・リーグ』にも登場しており、『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』では扱いが大きくなっている。
ザック・スナイダーカットは置いておくとして、今回でシリーズ4作目の登場になるのだ。

でも本来ならば、他の作品へのゲスト出演よりも前にフラッシュの主演作を公開しておくべきなのよ。
そりゃあ色々と事情はあるんだろうけど、「既にフラッシュがスーパーヒーローとして活動している」というトコから始める映画になっている時点で厳しいのよ。
そうじゃなくて「誕生編」の映画なら、前半は「ヒーロー以前のバリー・アレン」を描くことが出来る。
そして「スーパーヒーローとしての自覚が芽生える」「能力を使いこなすようになる」という成長を描くために時間を使い、「フラッシュとしての本格的な活躍」を後半まで取っておくことも出来る。

「もう皆さんフラッシュのことは良くご存知ですよね」という前提で、話を進めている。
バリーが出勤するシーンでも、それがどこなのか、彼が何の仕事をしているのかを説明することは無い。
時間を逆戻りしたことについてブルースが「ポザーノフの時みたいに?」と尋ね、バリーが「あの時は一瞬だった。今回は一日だ」と答えるシーンがあるが、「ポザーノフ」が何なのかは教えてくれない。
『ジャスティス・リーグ』で登場した場所ではあるが、そんなの熱烈なファンじゃないと覚えてねえってばよ。

フラッシュの能力を得た時のことも、こっちが詳しく知っているのを前提にして、18歳のバリーに再現させるシーンを描いている。
ゾッドが来たことを知ったバリーは「あの時は何も出来なかった」と話すが、申し訳程度の回想が入るだけ。
「その過去は詳しく知っている」ということを前提にしているわけだ。
2014年からTVシリーズ『THE FLASH/フラッシュ』が放送されているので、「それを見ていれば大体のことは分かるでしょ」ってことなのか。

フラッシュの話を真ん中ストレートで描くだけだはキツいってのは、製作サイドも何となく感じていたのかもしれない。
ってなわけで、「過去を改変したせいでユニバースがグチャグチャになって」というマルチバースの要素を使った内容にしてある。
そして現在のバリーと18歳のバリーを関わらせることで、ちょっと違った角度から「フラッシュ誕生編」も描いている。
ただ、18歳のバリーがあまりにお調子者でウッヒョーな性格なので、なんか嫌な感じになってんのよね。

そういう軽薄なキャラをメインに変えて、コメディーの匂いを強くしようってのを狙っているんだろう。
だけど、現在のバリーは殺された母と罪を着せられた父を救うために行動しているわけで。
そういうシリアスな話をやっている中で18歳のバリーが絡んで来ると、お気楽モードが場違いにしか思えないのよ。
あと、18歳のバリーが能力を得ると同時に現在のバリーが能力を失っている理由については、本人も全く疑問を抱いたり調べたりする様子が無いし、何の説明もせずに済ませちゃうのよね。

バリーは雷事故を再現して能力を取り戻そうとする時、ブルースから「能力があれば別の時間軸や別の世界にも行ける。なぜ、この世界を救おうとする?」と質問されると「母が生きてる世界だから。母を救うために戻った」と答える。
だけど過去の経験から、自分が能力を取り戻しただけじゃゾッドに勝てないのは分かっているはず。本人が18歳のバリーに語っていたように、ジャスティス・リーグがいないと大惨事を未然に防ぐのは困難なのだ。
それを考えると、バリーは能力を取り戻してゾッドと戦うことよりも、「どうすればジャスティス・リーグが存在する世界に戻せるか」という方法を考えた方が良くないか。
あと、この世界で母を救っても、自分の世界で母を救えるわけじゃないんだけど、そういうことは全く念頭に無い様子なのも引っ掛かるし。

結局、バリーは能力を取り戻し、18歳の自分と共にフラッシュ2名、バットマン、スーパーガール(カーラ)の計4名でゾッド軍団と戦う。
しかし完全ネタバレだが、全く歯が立たずにバットマンとスーパーガールが死ぬ。するとフラッシュ2名は過去へ遡って再戦するが、結果は同じ。
何度か繰り返したバリーは、絶対にバットマンとスーパーガールの死が避けられないと気付く。
納得せずに繰り返す18歳の自分を止めようとしたバリーは、自分を襲撃した敵と再会する。そして彼は、それが未来へ行った過去の自分だと知る。
過去のバリーは、永遠のループを作ろうと企んでいたのだ。

結局、今回のフラッシュって無自覚ではあるけど、酷い自作自演、もしくは変なマッチポンブみたいなことをやっているだけなんだよね。
そしてフラッシュがやったことと言えば、マルチバースを狂わせて「バットマンとスーパーガールが必ず殺されてゾッドに崩壊させられる世界」を生み出しただけなのだ。
「世界をヴィランから救う話」としてスケールを広げておいて、「どう頑張っても救えませんでした」という結論で片付けるって、どういうつもりなんだよ。

フラッシュってゾッドとの戦いは「勝てない」ってことで諦めているので、クライマックスでは全く活躍できていないんだよね。
全ての構造を破壊していたのは自分だと気付いて、遅ればせながらテメエのケツを拭こうとするだけなのだ。
しかも、せめて悪党と化した過去の自分は倒すのかと思ったら、それも無いのよ。過去のバリーは18歳の自分を殺してしまい、勝手に消滅するのだ。
そしてキッチリとケツを拭くことも出来ず、締まりの悪い結末になっている。
なんちゅうアンチ・クライマックスだよ。

(観賞日:2025年8月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会