2003年6月19日(木)、20日(金)。 七尾旅人 ”エンゼルサミット2003初夏 〜天井座敷〜” @吉祥寺スターパインズカフェ 「行ってきました!」 ということで、久々の東京遠征を決めたライブ。ちゃんとしたワンマンは初めてだと思うので、どんな風になるか、興味津々。 場所は吉祥寺スターパインズカフェ。初めて行くハコだったんだけど、天井がすごく高く、1階と2階の両方から観れる、味のあるライブハウス。 ちなみに自分は2階の一番前のイスに着席。ステージ全体が見渡せて、とてもよかったです。 あっ、ステージ上はというと、これまた独特で。旅人くんが座るであろうイスは手の形をしたキュートなもの(MCによると私物だそう)。何やら用途がよく分からないホースみたいな楽器もあったり。うーん、さらに興味をそそられる。 それは、”天井座敷”っていう公演名にとても合った雰囲気。 編成は曲によって立ち代り入れ替わりする流動的なものだったけど、 基本的には、 弾き語り:七尾旅人 鍵盤:宇田隆 ドラム:鈴木健史 効果音、舞:ヴィーナス・フライ・トラップ + スペシャルゲスト。 さて、スペシャルゲストは誰だったか? それは以下を読むまでのお楽しみで。へへっ。 こっそりと登場した旅人くん。 サンプリングした(?)物音と弾き語りというシンプルな編成で、1曲目は「線路沿い花吹雪」。ポロポロとギターを爪弾いて、最初の一声が発せられた時に、いきなり感極まる。だって、歌声が柔らかすぎるんだもん! そんなふっと寄り添う声が広がっていって、 「あー、よかったなー。」 というものすごいしっくりした落ち着いた感触も体内に広がってく。というか、優し過ぎますぜ、ホント。何ていうか、歌が生き物みたいで。 ちっちぇーくて優しい生き物みたいで。 『マイクの位置が悪くて・・・。』 と、1回目を中断して最初からやり直したけど、それもほほえましかった。ギターは少々ミスっていたけど、そんなこともどーでもいい。曲が後半部に向かうに連れ、ゆっくりと上昇してく不思議でとっても柔らかい空気に飲み込まれたんだから。1曲目だけで、もうどっぷりとこの世界に浸りまくり。 続く「月の輪」は”銃口を下に向けてくれないか”って言葉が、印象に残りつつ、ふわふわと気持ちよくなってしまう。いや、気持ちいいんだけど、鋭くて鬼気迫るというか。一見反対の感覚が混ざり合う。これも(全曲に言えることなんだけど)、歌が際立ってたなぁ。どっちかというと小さい声で消え入りそうな歌い方なのに、恐ろしいくらいの存在感。 3曲目の「冷えた高み」では、前半トロトロとチルアウトしそうになりつつ、徐々にキーボードやドラムが入ってくる。音量が一気に大きくなり、全ての楽器がそろった時に、 「うっわー!」 って。何かね、幽体離脱しそうになった。ともかく、 「こんなの体験したことねーよっ!」 と言いたくなる空間でヤバかったです。音が飛び回って発光してるみたいで、キラキラしてて。自分の体が浮き上がりそうになる感じ。んで、驚きの後に感動。気持ちがぐらぐらすんのね。 次の「まぼろば」でもその雰囲気を引き継ぎつつ、パートは旅人くんがキーボード、宇田さんがアコギにマイナーチェンジ。空気公団の山崎さんとデュエットで、2人のほわーっとした歌が織り成す安心安心な時間のこの曲。けど、ステージに山崎さん本人はいなかったので、その部分は単に録音物を流しているだけなのかな?と思った。 ら、実はスペシャルゲストとしてステージ裏で実際に歌っていたということが後日判明。相変わらずのニクイ仕掛け。他にも、”僕はオルガンを蹴っ飛ばす”と歌うトコで、キーボードを蹴る素振りをしたりと、この辺の芸も細かくておもしろかった。 そして、1人だけで小型のアコーディオンを使っての「きんいろむぎばたけ」。 反復して小さくなったり大きくなったり行き来するアコーディオンの音に合わせて、話し掛けるように歌う。トロトロした空気感。ここで一旦誰もいなくなって、左端にイスがポツンと置かれる。 そしたら、スペシャルゲスト2人目の山本大さんが登場して、三味線を弾きまくる。ものすごい攻撃的な三味線で、色んなものが渦巻いてる妙な空気になったトコで、旅人くんとヴィーナスが登場。三味線と弾き語り、ヴィーナスの癖がある踊りが合わさって、時代感覚を忘れさせられる。いやぁ、何ともごちゃごちゃしてて妖艶。そのまま繋がっていった「ぎやまん」では、その雰囲気がさらに大きくなっていって。何かね、 「ここは城下町の路地裏?」 というよーな、空気ができあがって。「ぎやまん」のどこか寂しい感じというか、切なくて悲しい感じもしゅるしゅると表に出てくる、出てくる。 んで、また元のバンド編成に戻り、さっきまでとはガラッと雰囲気が変えて、「さいはて」。個人的にはこの曲が今回の1つ目の山場だったかも。前にTVで聴いたことはあったんだけど、淡々と徐々に徐々に波が広がっていくよーな透明な音達を実際に体験したら、すっげー震えた。特に、サビヘにつれてメロディが昇っていく部分とか!気が遠くなるというか、切なすぎるって!体内に音が染み込んで循環していく感覚なんね。やっぱり歌声も柔らかくて、余韻が残りまくって。しばらく、ボーっとしちゃったり。一時的に放心状態。 そんな状態になっていたら、またまた雰囲気をガラッと変えて、打ち込み+歌のみの1人ヴァージョンで「ヘヴンリィ・パンク・アダージョ」。これは去年のライブやイベントでも毎回披露してたと思うんだけど、以前よりトラックがパワーアップ!?打ち込みのリズムがより複雑になった気がするし、電子音自体が動物っぽく動き回るようになってて、かっちょよかったなぁ。何だか、音がオウテカみたいになってたというか。世界感超特殊な歌と詞の朗読が、不穏で変則的な電子音の上に乗るすごい一時。で、この曲での星型のステッキを振るパフォーマンス(振り付け)はお馴染みだったけど、本日は途中でそのステッキが壊れちゃって、、、。そのタイミングもおかしくて笑ってしまったんだけど、何事もなかったよーに、ゴソゴソと足元の袋の中から新しいステッキを取り出す様子は、相当お茶目でした。曲が終わり、深々とお辞儀をして去っていき、また誰もいなくなったトコで、今度は何やらスタッフの人がごそごそと機材の位置を移動し始めた。 「次は何か特別なことするのかな?」 と思っていたら、布に覆われた壁みたいなものが登場。パッと布がとられると、大きなガラスの板が出現(”幻ボード”という名称みたい)。 向こうには、耳につけるマイクを装備した旅人くん。その光景にお客さんからは、ついつい笑いがこぼれる。さらに、 『笑ってる場合じゃねーぞ♪いくらかかったと思ってんだー♪』 とのコメントで、場が和む。(どうやら、うん十万の費用がこの板によって飛んだらしい。しかも自腹らしい・笑。)おもむろにトラックが流れ出し。少し歌った後、ポケットからマジックを取り出して、幻ボードに絵を描きながら曲を進めていく。今まで誰もやっていないであろう斬新な演出。 「これって、さながら絵描き歌!!」 そんなかわいらしい演出とは裏腹に、曲自体はシリアスな童話っぽい世界観。 一通り絵が出来上がり、最後に照れながら『スキダ』って一言書いて、 『何で書いたか分かんないけど、書きたくなったんすよね。』 と言う旅人くんを、何だかとても誠実なパフォーマーだと思った。 そして、HP上で噂になっていた(?)新曲「れんげみたい」。これが今回の2つ目の山場!独特の空気を持ったひたすらキレイなメロディが大切に歌われて、バックの演奏も控えめながら的確で。特に島の民謡みたいな効果音(沖縄っぽい)と、歌が混ざる一瞬はマジで鳥肌もの。遠い過去にも遠い未来にも記憶が行けそうな音楽。めちゃくちゃ安心してんのに、唐突にドキドキもしてしまったり。そんな静かな興奮の内に、 『次で最後の曲になるんですけど。』 と、これまた新曲の「なんてとこかしら」。タメとキメの多い、跳ねたリズムの曲調で、とても軽快。ジャズっぽい質感もあったりして、1stの「男娼ネリ〜」が明るくなった感じもあり。丁度いい速さの気持ちいいリズムに乗りながら、旅人くんがおもちゃ(?)のラッパを吹きながら、穏やかに本編は終幕。 アンコールは予想以上に長くて、気付けば7曲もやってくれて。ただ、前半は内容的にはちょいグダグダだったかも、、、。 お客さんからリクエストを募って、1発目は「八月」。もうほんの一部でもこの歌が聴けるだけで最高だったんだけど、旅人くん、曲をほとんど覚えてなくて、ボロッボロ・・・。 続く、「天使がおりたつまえに」も歌詞を忘れまくりで、前にいた女の子から教えてもらってたり。バンドメンバーが戻ってきて、「息をのんで」「夜、光る。」と聴きたかった曲を連発するも、どこか歯車が噛み合わず。 しかし、次の「ウィッグビーチ」で少し盛り返し、「潜水バースディ」で無事に全部がかっちり噛み合い、サビに入っていく箇所でやっと、「これだよ!これこれ!」って。 んで、ラストは不思議な子守唄「おやすみタイニーズ」。 最後の最後にポロンッと弾いた小さなギターの音が、しばらく響いて、なかなか消えない。 『ありがとございました。』 って、ホントにわざわざ観に来てよかった! −−−−−−−−−−−−−−−−− 2日目は時間の関係か、「線路沿い花吹雪」を除いたラインナップの本編。あと、アンコールも3曲くらいとコンパクトに。この日は、CDに参加していた赤ちゃんのうーちゃんが実際に会場に来ていて、旅人くんが歌に反応して「だーだー。」と喋りだし呼応(?)するという、素敵な競演が観れただけで、満足。 ライブとしても、この日の方がプロフェッショナルなもんだったかなぁ、とか思う。演奏もよくなっていたし、演出の進行具合や見せ方もより効果的になっていた気がするんで。 けど、1日目の生々しくて、不器用だけど何だかとても優しいのが直に伝わってくる驚きに溢れた空気感もよかったので、一概に「こっちが!」とは言えないかも。ただ、個人的には1日目の方が好きでした。 そして、2日間観て強烈に思ったのは、 「この世界は七尾旅人にしか作れないだろーな。」 ということ。”天井座敷”というタイトルがぴったりな空想渦巻きまくりの一時。でも、めちゃくちゃ現実的でささやかな大切な一時でも同時にあるという。 「やっぱ、この世界は旅人くんにしか作れない!」 視覚と聴覚が自然にフル稼働する、いつまでも観ていたい色んな意味ですごいライブ。あの柔らかくて優しすぎる瞬間は絶対に忘れられません。 |