主題 『法曹養成制度改革は他山の石か』
T はじめに
「より身近で、速くて、頼りがいのある司法へ」を謳い文句にした司法制度改革が着実に進展しつつある。「司法制度改革推進法」が公布されて2週間後に同 法が施行され、さらに推進本部員がすべての国務大臣から構成されたことからも司法制度改革がいかに喫緊の重要課題であるかが窺い知れる。三権分立こそ近代 自由主義国家存立の根幹たる所以であろう。
さて、総理大臣の諮問機関である司法制度改革審議会(「審議会」と呼ぶ)の最終意見書(平成13年6月12日公表、「意見書」と呼ぶ)において改革の三本柱として下記の提言がなされた。
第1の柱 国民の期待に応える司法制度の構築
◎2年内の判決など裁判の充実・迅速化
◎国際的通用力のある司法制度
◎民事法律扶助制度の充実、その他
第2の柱 司法制度を支える法曹の在り方の改革
◎平成22年に新司法試験の年間合格者3000人体制
◎法科大学院(通称:ロースクール)を基幹とする法曹養成制度の創設、 その他
第3の柱 国民的基盤の確立
◎裁判員制度の導入
◎わかりやすい法律・裁判制度の整備と司法の情報公開の推進
本稿では隣接士業としての弁護士輩出にも直接関わる内容であることから、第2の柱に論点を絞ってその動向について概観してみたい。
U ロースクール制度のあらまし
1 ロースクール構想の背景
ロースクール創設については意見書のV・第2で具体的な方向性が示された。その冒頭で従来の司法試験という「点」のみによる選抜から、教育・試験・修習 を有機的に連携させた「プロセス」による養成を重視する制度への変革と、その中核機関としてのロースクール構想が提言された。
ある識者によると、ロースクール誕生の背景について次の6点に集約されている。すなわち、@法曹人口大幅増加の要求(規制緩和の推進と自由経済競争社会 への対応)、A大学政策(大学院の方向性に関する文部科学省の政策)、B大学運営の事情(少子化対策と法学教育の空洞化是正策)、C法曹一元化への基盤整 備、D司法修習制度への批判(C・Dは弁護士会からの論点で司法修習からロースクールへのシフトが主眼)、E現行司法試験制度への批判(点からプロセスへ の転換)である。
2 ロースクールと新司法試験
新司法試験の受験資格がロースクール修了者に限定されているのがポイントである。同じ専門職大学院でもアカウンティングスクールが新公認会計士試験の一部 科目免除の要件に過ぎないのと大きく異なっている。畢竟、新司法試験についてはロースクールにおける教育内容との関連性が強調されている(法科大学院の教 育と司法試験等との連携等に関する法律1条)。他方、受験回数制限について現行制度下では日弁連の大反対により殆ど禁断領域であったのに対して、新制度下 では修了後5年以内に3回までと制限されたのも特記される(新司法試験法4条)。
3 ロースクールの仕組み
@ 意義
ロースクールは専ら法曹養成のために設置された専門職大学院で、志望者の目的も明確である。なお、学科名称は各大学により異なるが「法務研究科」ないしは「司法研究科」と呼ばれ、所定の年限を修了すると「法務博士」の称号が授与される。
A 修業年限
意見書では標準年限を3年、短縮型を2年と提言していたが、最終的に法学既習者(必要とされる法学の知識を有する者)は2年、法学未習者(今まで法律を学習したことのない者)は3年となった。
B 入学者選抜方法
ロースクール入試は、大別して2段階からなり、第1段階が大学入試センターまたは日弁連法務研究財団が実施する「適性試験」、第2段階が各ロースクール が実施する独自試験である。適性試験は法律知識ではなく推論・分析力、読解・表現力など法曹に必要な適性が試され、どちらの適性試験を受けるかは各ロース クールの指定による。
次にロースクールの独自試験については法学既習者と法学未習者別に、それぞれ第1次(書類選考)と第2次(筆記試験)がある。第1次では適性試験の得点 や学部時代の成績、さらに英語能力等を総合的に勘案して審査され、第2次の既習者コースでは基本六法および行政法に関する筆記試験、未習者コースでは長文 読解・小論文試験が要求されている。
C カリキュラム
中央教育審議会の中間報告「法科大学院の設置基準等について」(平成14年4月18日)では、授業科目の種類としてa法律基本科目群(基本六法および行政 法)、b実務基礎科目群(法曹倫理・要件事実論・リーガルクリニック・模擬裁判など)、c基礎法学・隣接科目群(基礎法学・外国法・政治学・法と経済学な ど)、d展開・先端科目群(労働法・経済法・税法・知的財産法・国際取引法・環境法など)の4グループを提言しており、各ロースクールはこれに準拠してい る。
V 歩み始めたロースクール
今年(平成16年)4月、全国で68校のロースクールが開校し、5767人の1期生が誕生した。また社会人入学者には医師・薬剤師をはじめ、弁理士・税理士・公認会計士など多様な専門職業家を含むと発表されていた。
巷間過酷と洩れ聞くロースクールの課程を修了すると、再来年(平成18年)5月の第1回新司法試験から受験資格が認められる。当初70〜75%程度と噂さ れた合格率も事実上30%前後になるとの試算もあるが、それでも「人間味にあふれた信頼できる法曹が身近に存在し、『国民の社会生活上の医師』として、わ かりやすい言葉で国民一人ひとりの社会生活や健全な経済活動をサポートする・・・。」(第5回司法制度改革推進本部顧問会議)とする理念の実現を期待した い。
他方、平成13年6月の税理士法改正で租税事件に関して訴訟代理人たる弁護士とともに裁判所への出廷・陳述権が税理士に付与された。基より弁護士には税理 士業務が付与されており(弁護士法3条2項)、今後両者の相互交流の機会は増えるだろう。いろんな意味で今回の法曹養成制度改革は他山の石(注)だと考える。
W あとがき
8月の第一日曜日、京阪神にある私立4大学(KKDR)の共催で「法科大学院講演会」が実施された。私も少なからず関心と必要性を感じて会場へ 足を運んだ。講演会第2部で大学別に各ロースクールの優位性を比較アピールされたのも興味深かったが、とりわけ印象に残ったのは4大学の担当責任者が口を 揃えて強調された問い掛けであった。
「皆さんはどんな弁護士(法曹)になりたくてロースクールを目指すのですか?」
注釈
(注)本稿では「自分の人格を磨く助けとなる他人の言行」の意として用 いている。また文中の傍点はすべて筆者による。
《参考文献》
椛島裕之「ロースクールはどんな法曹をつくるのか」ダイヤモンド・セレクト8月号