Introduction to the Philosophy of Space and Time
Lee Smolin, The Trouble with Physics, 2006 の邦訳『迷走する物理学 』(ランダムハウス講談社、2007)
昨年末に出た翻訳、リー・スモーリン『迷走する物理学』(原著は2006)、大変面白い警告の書だ。何に対する警告?最近の物理学、超ひも理論の動向を少し知っている人ならすぐわかるように、欧米や日本の物理学界を支配している観のある超ひも理論研究者たちや、それを容認している物理学、科学界に対する警告だ。こうした危惧は、わたしだけでなく、欧米の科学哲学界では、十年以上前からささやかれてきた。つい最近、わたし自身も、この分野ではベストセラーを「排出」する、いわゆる「高次元理論」に対する「毒舌論文」を発表したばかりである。それはともかく、スモーリン自身も、しばらくは超ひも理論の分野で研究した経験のある人なので、その言い分には説得力が感じられる。要するに、「超ひも理論は完成一歩前だ」なんぞという大ボラにだまされてはならず、超ひもなんぞは究極理論の候補ではあり得ないといえる根拠がたくさんあるということ。こうした状況で、いま望まれているのは、論文を多産する「職人」科学者ではなく、物事を基礎からじっくり考え、新しい道を指し示す「予見者」タイプの科学者なのだ、ということ。こういった主要な趣旨に加え、量子重力では特殊相対性の手直しが不可避だという第三部も必読部分だ。
Last modified Apr. 20, 2008. (c) S. Uchii