Logic Seminar

Which is right?

プロタゴラス vs エウアトルス


以下の題材は、わたしの『推理と分析』(放送大学教育振興会、1992)、p. 14より。

ギリシアの有名なソフィスト、プロタゴラスについて、次のような訴訟の話が伝えられている。出典は、The Attic Nights of Aulus Gellius, Bk. V.x., Loeb Classical Library. 論理学初心者の諸君は、この話の論理的困惑を、きちんと分析して解明できますか?

プロタゴラスは名高いソフィストで、弁論術などを人に教えて生計を立てていた。彼はあるときアウアトルスという弁護士をめざす生徒を教えた。その授業料は、半分を最初にもらい、「残りの半分はエウアトルスが最初の訴訟に勝てば支 払ってもらう、負けた場合には免除する」という約束であった。ところが、授業が終わってしばらく経つのに、エウアトルスはいっこうに訴訟を取りあげる様子 がなく、授業料も払わない。とうとう業を煮やしたプロタゴラスは「授業料を払え」と彼を訴え、その裁判でつぎのように論じた。

(1) 「もしエウアトルスがこの裁判に勝ったなら、彼はわたしとの約束によって授業料を払う義務があります(これが彼の最初の訴訟になりますから)。他方、彼が この裁判に負けたとしたなら、そのときは判決により授業料を支払う義務が生じます。したがって、いずれにせよ彼は授業料を支払わなければならない」

ところが、プロタゴラスの授業で弁論術のウデを上げたエウアトルスも負けずにつぎのように論じたのである。

(2) 「もしプロタゴラスがこの裁判に勝ったなら、わたしは最初の訴訟で負けたことになるのだから、プロタゴラスとの約束により授業料支払いを免除されるはずで す。他方、彼がこの裁判に負けたとしたなら、そのときは判決により彼の請求は退けられ、わたしには支払いの義務がありません。したがって、いずれにせよわ たしに支払いの義務はないのです」

さて、どちらもなかなか説得的な議論なのだが、いったいどちらが正しいのだろうか。話を簡単にするため、約束は守られなければならないと前提し、さらに、この裁判がエウアトルスの最初の裁判であるという事実にも問題はないと見なす。

諸君の判定やいかに?


Last modified April 9, 2002. (c) Soshichi Uchii