だいたい「じじい」と呼ぶところからして怪しげであります。昔から語り伝えられた話なので、それなりの呼び方もありましょうが、それでも時代時代の呼び方に少しずつ変えられていくのが世の常というもの。
やはり、「じじい」と呼ばれるにはわけがあるはず‥‥。
まず、正直者とされるおじいさん(以下、正直じいさんという)は、かわいがっていた飼い犬が吠えるのを不審に思い、そこを掘ってみたところ小判がざくざく出てきたとのことであります。ざくざくです。正直じいさんは、そのような小判を掘り当てたにもかかわらず、奉行所に届けることもなく、相変わらず質素な暮らしを続けます。
しかし、花咲じじいの正体は、実はまだ解明されていないのです。これを怪しいと指摘する人は多くいます。
では、もう一度検証してみましょう。普通、老人がクワで掘り返すことができるくらいですから、比較的最近に埋められたものと思われ、しかも見つからないように念入りに埋めることができなかったのは、慌てて埋めたことを示唆しています。
そう、これは犯罪に関わっている可能性大です。
その上、小判を掘り当てたのを見つけた隣のおじいさんは、正直じいさんから借りたもの(最初は犬)により、ひどい目にあわされています。
この事実から導かれるのは、正直じいさん自身が犯罪に関わっていた可能性です。
しかし、この段階ではまだ、その小判を天からの授かり物として、大事に保管していた可能性も残されています。続きを見てみましょう。
その後、隣のおじいさんに殺された犬の埋められたところに育った柳の木で臼を作り、餅をついたら、またしても小判が出てきたとあります。
普通は、かわいいペットのお墓代わりの木を切ってしまうでしょうか?
尻尾を出したとはまさにこのこと。決定的です。まず、貧しい身でありながら餅をつくとは、当時としては贅沢なこと。
やはり小判は奉行所には届けられておらず、じいさんがネコババしていることが確定的となりました。また、正直じいさんは首尾良く小判を掘り出したものの、隠し場所に困っていました。
隣には小判を目撃した欲深い老家族が住んでいますので油断できません。それでも、隣人を消してしまうことがなかったのは、やはり奉行所沙汰になるのを恐れてのことなのです。
考えてみれば、木を切ったのは、犬が殺されたのは地面から気味の悪いものが大量に掘り出されたとされる、隣のおじいさんが掘った所です。普通、二度と近寄りたくないと思うことでありましょう。
隠すには絶好の場所。かなりの知能犯といえます。
そう、臼を作ったというのは、木を切ったと見せかけて隠した小判を持ち帰った時のことだったです。
ところが、木から小判を取り出すところを、またしても隣のおじいさんに目撃されます。正直じいさんは正直困りました。餅から小判が出てきたというのは、知能犯らしからぬ稚拙な方便ですが、それだけ慌てていたのでしょう。しかし、ここからが正直じいさんの本領発揮です
小判を抜き取った臼を隣のおじいさんに貸すと、犬が殺されたのと同様に壊されてしまうに違いありません。
その程度のことを知能犯の正直じいさんが見落とすはずはありません。かくして殺された犬の後の柳(臼)、臼の後の灰、というシナリオは完成し、何も知らない隣のおじいさんは、かわいそうに、殿様にお叱りを受けることとなりました。
灰を枯れ木にかけて花を咲かせるというのは、いくらなんでも物の例えであることは明らかです。
恐らく、秘密裏に開発された新型の肥料を小判の一部を使って手配したに違いありません。そのような重要な事実を知る正直じいさんの正体は、そう、新型肥料の開発マネージャーで、領主から支給される開発費をピンはねしていたのです。
定年が近くなり、ネコババした小判を持ち出す必要に迫られた正直じいさんは、ことを急ぐあまり小判の所有を隣のおじいさんに見つかってしまいますが、これを犬に責任転嫁し、あくまでもシラを切りとおしたのです。
しかも、最終的には領主の予算で開発された新型肥料を自分個人の手柄とするために、こともあろうかピンはねした小判を口封じの賄賂として、開発者に渡していたと考えられます。
現在の法律に照らしあわせてみると、隣のおじいさんを陥れた巧妙な罠は、法の網をくぐりぬけた見事な作戦といえますが、少なくとも、
という悪質な犯罪を重ねる重犯罪人だったのです。
- 業務上横領
- 贈賄
なお、正直じいさん(もはや正直じいさんではない)はおばあさんにも正体を隠し通していたということが確認されています。