長岡式バックロードの魅力に惹かれて自作する人は多いですが、発表済みの作品のコピーから一歩踏み出して、自分だけの設計で作ろうとすると、結構迷うことがあります。
設計法については、「こんなスピーカー見たことない 設計術(1)」に、いい加減に設計すれば良いのだということが詳しく書かれた絶妙な解説がありますが、実際のところ決めにくい数値もあります。
つまり、いい加減に作っても良いとは言っても、どの程度いい加減で良いのか、目安とされる値からずれるとどのくらい影響があるのか、経験のない人が読むと疑問だらけの解説に映り、ここで跳べない人はあきらめてしまいます。
そんなわけで、私の考える長岡式のバックロード設計法のフレキシブルさ加減と、いい加減さの適用範囲について書いてみます。
このページは、自分なりの経験や考察、理論に基づき考察のできる人には向きません。
これからバックロードを自分で設計してみようという人の参考になれば幸いです。
ある意味で危険なページを書いているのは自覚していますが、著者本人が亡くなっている以上は質問のしようもなく、メールで来る質問もこの手の内容が多いので、情報源のひとつとして残しておこうと考えました。
下記注意事項をよく読んでから、先をお読みください。
(注意)
本ページの記載内容は、長岡氏の著書を読んだ上で迷った時の参考とするために、私個人が設計するときに解釈したことを紹介したものであり、オリジナルの著書の内容を要約したものではなく、本人や関係者の確認を取った説明でもありません。
したがって、計算式や設定方法の記載も、このページを読む人が長岡氏の著書をよく読んでいることを前提に、大幅に端折ってます。
必ず、長岡氏オリジナルの著書を読んだ上でご覧ください。
長岡式の概要
(1) S0=Sd×1/5Q0(目安)
(2) 0.5〜0.9の範囲で適当に選ぶ手もある。
勝手に補足
磁気回路が強力でQ0(Qts)の低いドライバの場合、スロート面積を大きく設定するという公式です。
Q0が低く時期回路の強力なドライバの場合、強力に空気をドライブできるので、スロート面積を大きくしてホーンからの音圧を稼げる、と解釈できます。
製作記事の中には、低域を欲張ってスロート面積を大きく取りすぎると締まりのない低音になるとの記載があります。私の解釈と注意点
ここでいうスロート面積は、ホーンサイズと読み替えても良いと思います。
低音の量を稼ぐためにスロート面積だけを大きくしても効果は上がりません。スロート面積に応じてホーン全体(箱全体)を拡大する必要があります。
逆に、スロートを細くしても、ホーンが長く開口部が大きければ、低音の量はある程度稼げます。
そういう意味で、全体の大きさや開口面積が決まっている場合には、「0.5〜0.9の範囲で適当に選んでよい」となるのでしょう。
実際、箱が出来上がってからスロートに端材を詰めてスロート面積を調整しても、低音の量感にはあまり効きません。(質には効きます。)
スロートを細くすると気流抵抗が問題になるという見方もありますが、具体的には、音圧が高い時ほどロスが大きくなるリミッターとして働き、低い周波数ほど効率が落ちると思われます。
それがどの程度気にすべきものかは、音量にもよるので、一概には言えません。
長岡式の概要
(1) 10×S0(cm2)/V0(liter)=ドライバとホーンのクロスオーバー周波数(Hz)
(2) 0.07a2〜0.3a2(a:実効振動板半径(cm))を逸脱しない範囲勝手に補足
公式からもわかるように、スロート面積との組み合わせで、ホーンの有効周波数域を決めるのに使われています。
つまり、空気室はローパスフィルターとして働き、クロスを低くとり過ぎるとホーンの意味が薄れ、高くとり過ぎるとボーカルにかぶって良くないとされています。
推奨値が明記されているわけではないので作例からピックアップしてみると、150〜250Hz程度にとられるケースが多いようです。
晩年のD-5xシリーズや、点音源バックロードは200Hz前後にとられています。私の解釈と注意点
ボーカル帯域は女性でも150Hz、男性なら80Hzくらいまで普通に出ますので、これを避けてホーンの動作帯域を設定するのは無理です。
クロスオーバー周波数の絶対値にこだわるのは意味ないと割り切った方が良いでしょう。
また、実測してみるとわかりますが、この公式はクロスオーバー周波数を予測するという観点では誤差が大きく、数値自体にはこだらわない方が良いです。
単位のことは忘れて指数と考え、公式から導かれる値が200前後になるように設定するのが吉です。
空気室形状には注意が必要です。
長岡公式では、単純化のために空気室容積で整理されていますが、ローパスフィルターという観点で考えるなら、空気室の断面積とスロート断面積の比の方が重要です。
これは、スロート面積と同じ断面積の細長い(どこから空気室か明確でない)空気室がローパスフィルターとして機能するかどうかを考えればイメージしやすいでしょう。
つまり、クロスオーバー周波数の公式は、長岡式の作例と相似形の空気室形状を採用する場合にのみ適用可能といえます。
もっとも、バスレフでも同じ容積に同じポートでも箱の形が変われば特性も変わりますから、一般的なことを言っているだけなんですが。
とにもかくにも、スムーズにスロートにつながる空気室などの全く異なる空気室形状とする場合、公式適用には注意が必要です。
目安として、空気室断面積/スロート断面積は、D-5xシリーズでは約2、スワンに代表される点音源型では約3程度となっていますので、これを逸脱しない範囲で、容積の公式から導かれる値が200前後となるように設定すれば、ある程度は寸法も絞り込まれるでしょう。
シミュレーションや測定の結果と聴感での確認に基づいて具体的な目標値を設定するのがベターではありますが、実践的には、大き目の空気室で作っておいて、後で端材を入れて調整するというのが手軽です。
長岡式の概要
(1)推奨値なし
(2)プロットしたときにきれいな広がり形状が良い勝手に補足
設計術(1)には、広がり率とフレアカットオフの関係が書かれていますが、どのあたりに設定すると良いかは書かれていません。
箱のサイズに制約がある以上、ホーンの長さとの兼ね合いで決まってしまうので、書きようがないともいえます。
作例を調べて見ると、15〜20Hzが多いようです。逆に言うと、代表的な作例で採用されている2.5m前後のホーンを常識的なサイズと板取に収めようとすると、フレアカットオフは15〜20Hzになる、とも言えそうです。
広がり率を入口から出口まで一定とすることは難しく、長岡氏の作例でも、晩年のD-シリーズは非常に小さな広がり率で、出口だけが大きく広がる形状となっていました。
私の解釈と注意点
フレアカットオフだけでなく、低域の再生限界はホーン長に制限されます。
フレアカットオフで決まる下限もホーン長で決まる下限も同じにとることができれば、設計として無駄がないような気もしますが、箱は巨大になります。
したがって、極論すると、フレアカットオフは結果的に決まるものと考えるべきで、どの値にしようとか悩む必要はありません。
長岡式の概要
(1) 1〜5mが基本
(2) 2.0〜2.5mが無難勝手に補足
人気のシリーズに関していえば、ホーン長については、2〜3mの比較的狭い範囲に収まっています。
私の解釈と注意点
大きさに直結するパラメータなので、答はありません。
ホーン長の定義については、音道の中心を結ぶ線か一方の辺をなぞるのか、あるいは最短距離か、折り曲げの測り方はどうかなど、いろいろ考えられますが、ここでは勝手に中心を通る線と決めます。
成功例に倣うのであれば、自分で勝手に定義して設計例を整理、自分の設計も同じ方法で比較すれば良いのです。
別ページに長岡氏の設計例における低域の再生限界を、わかる範囲でパラメータ一覧といっしょにまとめておきます。